第9話 肩書きの多い副部長さま
イッシュ地方・ヒウンシティ・ポケモンセンター
「ったく、副部長さまはいつまで待たす気なんだ?もうかれこれ30分は遅刻してるぞ…。あ、確か副部長さまはポケモン協会の役員もやってるらしいな。ま、忙しさなんて理由になんねーけどな!」
ミナトは自分のパートナーであるプラスルとマイナンに愚痴をこぼす。最後のセリフは思いっきり笑顔で言ったので周りにいた宿泊客が思いっきり引いている。
「ごめんなさい。待たせましたね」
サングラスにつばの広い帽子を被ったお嬢様のような女の子がミナトに近づいてくる。
「え、まさか…あなたが副部長、さま?」
「そうです、ミナト。この声に聞き覚えはありませんか?」
そう言われてみると、確かに聞き覚えがある。どこか懐かしいような声。少年時代に遊んでいた幼馴染の声のような気がする。
「うん、そうそう…って幼馴染!?まさか、お前…ヒナか?」
「違います」
「違うのかよ!」
自分の心の思うまま、口に出すと違うと即答されたので何やってんだオレ!と頭を抱え込むミナトである。確かに副部長の前に醜態を晒すのは恥ずかしいだろう。尤も、副部長の前に宿泊客がドン引きした直後だったのでかなり恥ずかしさはあまり変わらない。
「いえ、嘘です。私は…ヒナギク。あなたと幼少時代によく遊んでいた、ヒナです」
サングラスを取ってにっこりとほほ笑むヒナギクに、幼少時代の面影は少しあった。さらにかわいくなったな…とか思いつつ、すこし胸が痛む感じがするミナト。
な、なんだ、これ…。胸が…痛いっ!そう思うミナトはこれが恋なのかと直感するが、次の瞬間すぐに撤回した。
あ、これ過労だ、と。
「み、ミナト!?ジョーイさん、人が、人が倒れました!」
意識が朦朧としていく中でも、ヒナギクのこの声だけは、はっきりと聞こえていた。
オレは…気を失ったのだろうか。さっきからヒナの呼ぶ声がする。ヒナか…。懐かしい。もう天国だったりしてな。シャレになんねーぜ。
「……ト、ミナ…、ミナト!」
「はいいっ!」
幻聴じゃない気がして思い切り返事をする。母さんみたいな呼び方をするなあ…。
「もー、心配をかけさせないでください。これからプラズマ団をぶっとばしに行くんですよ?過労ごときで倒れてどうするんです。あなたレンジャーでしょ!」
ヒナ、母さんみたいだな。って、そういえばプラズマ団討伐任務があるんだったな。…この先、オレとヒナだけで大丈夫なのか?いや、オレはキャプチャすればいいから戦力的には問題ないが…ヒナは、そんなに強いのか?
「私の戦力のことを気にしていますでしょう?私のポケモンたちは、イッシュ四天王のポケモンと互角に戦えます。それくらいの実力がなければ副部長など勤まらないのです。ほかにも2人、助っ人を用意しております。イッシュ地方元ジムリーダーに、イッシュ全ジム制覇者。これだけの面子が揃っていて、なにか問題でも?」
いや、ないです…。確かに、心強い。ヒナとオレだけじゃ、ちょっと大変だもんな。
「じゃあ、出発しますよ。急がねばなりませんからね。世界が崩壊する前に…」
ヒナは、最後何かぼそっと呟いていたけれど、何を言っているかオレには聞こえなかった。