第7話 嘘みたいな現実
私はホノカ。自分で言うのはなんだけど、テレビコトブキの人気キャスター。いつも通りテレビやラジオに出演して、最近はシンオウ以外の地方でも出演させてもらって、今すごく充実した生活を送っている。そんな私はカントーのクチバシティから帰ってきた。そして今現在、コトブキシティの楽屋で信じられないものを目にしている。
「宇宙エネルギー開発事業団は今日も皆様のため、開発を進めています。そのためには皆様のご協力が必要不可欠。詳しくはハクタイ支社、トバリ本社へ」
私、宇宙エネルギー開発事業団はつぶれたと思っていた。確か…ギンガ団、って言ってCMやっていたけどここ最近は見なかったから。突然の倒産だったからみんなびっくりして取材してたけど、報道規制がかかったらしい。この事実はごく一部の上層部と私、ユウカ先輩とナオキしか知らない。なんで私たちが知ってるのかっていうと、取材しに行ったから。
「…局長に聞いてみよう」
局長は今コトブキにいないからポケギアの電話機能を使って話す。CMを流すには局長の許可が必要だから、局長は絶対に何かを知っているはずだ。
「局長!ギンガ団のCM流すってどういうことですか!」
局長を問い詰めてみる。ギンガ団については悪い噂しか聞いたことがない。もし局長がそれを知ってて流したんだったら、何をやってるんだろう。
『ギンガ団…?宇宙エネルギー開発事業団のことかね?』
「そうです!なんで流したんですか!」
『私は許可を下していないぞ。そんなことがあったら大問題だ!』
ギンガ団は、つぶれた。それは事実。だけど、また復活して舞い戻ってきた。その事実を局長は、知らない。頭が混乱する。次は何を聞けばいいんだろう。
『…ホノカくん。なぜギンガ団がつぶれてしまったか教えてあげよう』
局長が話したのは、嘘みたいな話だった。
ギンガ団は人のポケモンを奪っていたこと。
リッシ湖の爆破はギンガ団の仕業だったこと。
時間と空間のゆがみがテンガン山の頂上『やりのはしら』で起こったこと。
フタバタウン出身の3人の少年少女トレーナーがギンガ団の野望を食い止めたこと。
何もかもが反転した世界『やぶれたせかい』があったこと。
ハードマウンテンで『火山のおき石』が盗まれたこと。
ボスと幹部が失踪、幹部の1人が国際警察に捕まったこと。
私がのんきに暮らしている間にこれだけのことが起こって、そして一般の人は何も知らずに暮らしていた。神話上のポケモンもいたことが立証されていたらしい。
「…そうでしたか。私、何も知りませんでした。局長がCMのことを知らないってことは、誰かが局内に忍び込んで流したってことですよね?」
『そうなるだろうね』
「私、調べます。今度こそ真実を伝えたいです!ジャーナリズム魂がうずきます!」
みんなに騙されてたんだよ、もう心配いらないよ、って言いたい。こんな巨大な犯罪グループを見過ごしておけない。いろいろな意味でね。
「危険だよ、ホノカ」
そう言って私のポケギアを取り上げたのはナオキ。
「確かにそうだけど…。みんなにこの情報を伝えたいの!」
「それが危険だって言ってるんだ。敵にその情報を言ってしまう可能性がある。もしそんなことになったら、何をされるかわからない。…局長が嘘をついている、って可能性もあるしね」
「なっ…」
「そうと決まったわけじゃないけど、僕たちだけでの捜査は危険。国際警察や協会に任せるべきだよ」
ナオキの言うとおりだった。でも、どうしても真実を突きとめたい。ジャーナリズムってこういうことなんだね。
「…協会に電話してみたらいいよ。どうせ無理だと思うけど」
ひょこっとカイリが顔を出す。なんか、腹立つな。
「むっ。ホノカさんの実力をなめちゃいけませんよ。あー、もしもし?ポケモン協会副理事ですかー?」
「「ふ、副理事!?」」
ナオキとカイリは驚いてる。ま、いろいろツテがあるのですよ。ツテって言っていいのか微妙だけど。
「副理事はいない?代わりに副理事代理が用件をお伝えします?」
なんでかは知らないけどナオキが目を細めて、私のポケギアをもう一度奪った。
「もしもし、代わりました。副理事の電話番号をいただけますか?副理事本人にはコトブキのホノカと伝えてください。5分しましたらもう一回電話をかけます」
そう言ってナオキは電話を切った。何がしたいの?
「ねえ、なんで切ったの!?」
「副理事は信用できる人間…かもしれないけど、副理事『代理』はまだ信用に取るに足りるかわからない…ギンガ団の人間だ、っていう可能性もある」
悔しいけど、ナオキの言ってることは正論。副理事代理が5分後…今だと3分後に電話に出てくれて、それでやっと伝えられて、それで終わるかもしれない。もしかしたら調査ができるかもしれない。今やっと、わたしたちが直面しているのは深刻な問題なんだ、って気づいた。遅いけどね。
「あ、来た。もしもしー?副理事の電話番号ですか?ああ、えっと…0、9、9、2、3、4、1、7、5ですか?ありがとうございました」
教えてくれた。これで、もしかしたら調査ができるかもしれない!わたしはなんとしても真実を見つけ出したい、そう思う。
「…もしもし、ヒナー?ホノカだよ!もー、ポケギアの番号くらい教えてくれてもいいのにさー。ああ、それで…ギンガ団ってやつ、知ってるよね?」
ヒナはさすがに知ってた。そりゃそうだよね。
「ギンガ団がね、復活したの。だから、最前線でこう、レポートしたいなって!…え、大丈夫?いいの?やったー!うん、じゃねー」
ヒナは、OKしてくれた。なんでか知らないけど、してくれた。ここのところ、無理だと思ってたんだよね。
「ってか、副理事となにタメで話してんだ?」
カイリは目を丸くして言ってる。これは本当に近い描写…かもね。ま、なんでかっていうと…副理事のヒナギクはわたしの妹だから。
「へえー。そうだったのか。じゃ、ナオキは知ってたんだな」
「いや、知らないよ。人様の家庭環境に首を突っ込むのはアレだから」
そういえばナオキには言ってなかったなー。でも、今知ったからいいはず…だよね。
「じゃ、とりあえず打倒ギンガ団!よっしゃ行くぜー!」
楽屋にホノカの叫び声が木霊した。
「わかりました。ロケット団、ギンガ団、警戒…。多くて嫌になりますね…」
紅茶は空になった。