第3話 ホノカさん、キレる
エンジュシティ。
「こ、これは…」
エンジュシティには『まいこはん』という人物が多数存在する。シンオウ地方ではそれこそテレビくらいでしか見たことのない代物で、ジョウト地方へ行く修学旅行では、必ずと言っていいほど『まいこはん』を見るためエンジュシティに寄る。ほかにも歴史的に貴重であるスズの塔や焼けた塔を見学するために、という目的も存在するのだが。
「エンジュシティって初めて来たけど、ホントにまいこはんっているのね〜」
売れっ子ホノカが大都市エンジュに初めて来た理由は、勿論船酔いのせい。飛行機は乗れるのだが、スケジュールを考えて、いつもエンジュのロケを断念している。
「ホノカ、ポケモンセンターにチェックインしよう。観光はそれからでも遅くないし」
現在の時刻は6時。予定時刻ぴったりだ。エンジュといえば夜。まいこはんが活発に行動する時間帯に観光するのがベストだと言えよう。昼間はコガネシティかスズの塔あたりにでも行って時間をつぶす観光客が多い。
「…わかった」
渋々ホノカは頷いた。
翌朝、午前10時。
「ヤバいっ!急がなきゃ!」
ふつう、コガネシティーエンジュシティ間の移動に要する時間は5時間ほどである。午前10時から行けば着く時間は大体3時。約束の7時まで4時間ほどある。何故2人がこんなにも急いでいるのかというと、12時30分から自然公園のとなりに位置するポケスロンで試合が行われるからである。ホノカはメールで局長にポケスロンの中継を1試合(ちなみに1試合に要する時間は1時間くらい)流したい、という理由で12時20分までに会場の中まで来るよう依頼されていた。コガネシティーエンジュシティ間のちょうど中間に位置しているので、要する時間は大体2時間半。単純計算すると、10分遅刻するということである。トゲキッスを使えばいいのだが、何せホノカは乗り物酔いしやすい体質。回復に30分はかかるので空を飛ぶことは断念した。
「あーもう、なんで今頃メールすんのよ局長!」
「突然の事らしいからね〜」
急いで短気になっているホノカとは対照的に呑気に話すナオキ。
「なんでアンタはそう呑気なのよ!」
一方、同時刻、同所にて。
「…?あの人は…!」
男はまさか、というような目で見つめる。
「ムウマージ、サイコキネシス!」
そして男は、ポケモンの技で体を宙に浮かせ、その男の下へと向かう。
「やっぱり…」
男は、すとんと地に降り立った。