終わりなき旅
Act5. Recycle and...
僕らが失くした存在意義、それがいま目の前に現れる。

扉が開かれた。ボワッとした熱い空気が流れて来たのである。すると目の前には何処かの工場と思わせる機械群が視界に入ってきた。

「ねぇ、これって何……」
「すっげぇでかい…」

「……」

静かだったポケモンたちも立ち上がりざわめき始めた。すると、上の方から何やら機械に乗って降りてくる。そこには人影がひとつ。そうあれはーーー

「センセイだ」

センセイはあたりを適当に見回して拡声器を手に取り、

≪静かに!≫

そう言うと皆静まり再度沈黙が訪れた。センセイはそれを確認してもう一度拡声器を口に当てた。

≪お疲れ様、貴方たちの旅もやっと終着。此処まで来た勇気あるポケモンにはもちろん御褒美があるわ≫

そういうとポケモンたちは再びざわつき始めた。御褒美ってなんだろう。そう思う前に僕は手を上げていた。

≪はい、そこの君。どうしたの?≫

「……一つ質問いいですか?」

≪ええ≫

「じゃあ、一つ。……御褒美ってなんですか」

≪あらいい質問ね。いいわ、答えてあげる≫

センセイはそうニンマリしてこっちを見て更にこう言った。

≪リサイクル、それが私たち大人が貴方達に最期にして上げられることよ≫

リサイクル?一体何をされるのだろう。僕は回答に礼をいい一歩さがった。センセイは草臥れた鋼タイプのポケモンたちを見回して再び説明始めた。

≪さて、早速でしょうけどはじめましょう。じゃあまずあなたから≫

「はい」

前に出されたのは一匹のヒトツキ。僕と同じぐらいの歳だろう。そのヒトツキが扉の近く行く。

≪みんなに挨拶はする?≫

「あ、はい。えと、皆さん短い間でしたがありがとうございました。ボクもやっと生まれ変われる……皆さんも頑張ってください!」

そういうと周りの鋼タイプのポケモンたちは泣き始めていた。悲しみ、喜びのどちらからくる涙か僕には分からなかった。とりあえず僕はリサイクルというものを見てみたい。センセイは一体何を……

≪じゃあ、行ってらっしゃい≫

「はい!」

すると、ヒトツキは笑顔で外に飛び出した。そしてそのまま下に落ちていく。

「ちょ…」

僕は思わず声を上げたが数秒後にボトンという音が鳴った。
え、まてよ!一体何処に落ちたんだ!?

≪いまヒトツキくんは自分を消しました。でも彼はやっと役立つことになるでしょう≫

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

僕は状況が余りにも飲み切れず声を荒げた。するとセンセイは愛想めいら笑い浮かべて僕に対応する。

≪さっき質問してくれた子ね。今度はどうしたの?≫

「彼は……今のヒトツキくんは何処に落ちたんですか!?」

そう言うと周りの鋼ポケモンたちがクスクス笑い始めた。クロムとマンガンもキョトンとし僕を見ている。

「ニッケル、あなたやっぱり……」
「何も知らないんだな…」

「僕だけ知らないのか?」

センセイは少し鼻で笑いながら僕にいった。

≪此処に来る前に言われなかった?あなたたちが救われるためには全身全霊を犠牲にしないとなし得ない、って≫

「僕が聞いてるのはそんな抽象的なことじゃない!!一体、一体…何処に落ちたんだ!!」

僕が声を荒げるのを聞いてセンセイは溜息をついて僕を手招きをした。

≪こっちきて、覗いてみなさい≫

僕はクロムとマンガンを見たが彼らは俯くだけで目を合わそうとしなかった。僕は手招く方へいく。熱風が全身を包んでいくが狼狽えず僕は近付いていった。

≪もう役に立たないのならね…≫


僕は淵まで来て、下をみた。


≪せめて鋼らしく、金属らしく≫

「なんだ…これ……」


≪生きていけるように≫



僕の眼下に広がったのは熱く煮えたぎるマグマだった。ゴポゴポと音を立てて、僕たちなんて一瞬で溶けてしまう程の目に痛い熱さだというのはすぐ分かった。

≪…生まれ変わった彼らはきっとあらゆるものに利用されるでしょうね。ネジやクリップみたいな日用雑貨、テレビや携帯電話みたいな電子機器。そして一部はこの施設の修繕に充てられるでしょう。未来の子どもたちが安心して生まれ変われるようにね≫

「……」

僕は唖然とするしかなかった。ポケモンとして生きる価値がないのなら、命を使って本来の性質で役に立てだって?

≪じゃあみんなこのコイルくんも納得したみたいだから。どんどん飛び込んでねー≫

センセイがそういうと鋼ポケモンたちはどんどん進行する。ダメだ、ダメだダメだダメだダメだ!

「やめろっ!みんなこんなことしちゃダメだ!」

僕の叫びなぞ誰も聞き入れてくれるはずもない。鋼ポケモンたちはヨーコーロの中にどんどんと落下していった。みんな消えていった。
すると、クロムとマンガンが僕をトントンと叩いた。

「クロム、マンガン…」

「ニッケル、ごめんね。あなたは愛されてる、だからきっとそう言うの」
「俺たちは愛されてない、だから行かないといけねぇんだ」

そう言うとクロムとマンガンもヨーコーロへと向かっていった。このままだと行ってしまう。

「違う……」

クロムとマンガンは淵に足を掛けた。深呼吸をし飛びこもうとする。

「君たちは、君たちは−−−」

クロムとマンガンが飛び出した。そのとき、ニッケルはやっと踏み出せる。彼の『磁力』が発動した。
「キャッ!」
「うおっ!」

カキンッと音がなって、落ちそうな二匹はニッケルの手に引き寄せられて、くっついた。彼らは宙ぶらりんの状態になる。そんな状態でクロムが叫ぶ。

「ニッケル!なんで!?私たちはもうこうするしかないのに!

「……」

続いて、マンガンも叫ぶ。

「お前はまだ愛されてんだろっ!此処に来るべきじゃなかったんだ!俺らを離して早く帰れ!!」

「……やだ」

でも、彼はその叫びよりももっと良いものがあると確信していた。やっと気づいた大切な感情。それは友情、愛情何でもいい。それは−−−

「君たちと別れたくなんかない!!!そんなの嫌なんだ!!」

「…!」
「ニッケル…」

ニッケルは引っ張りあげようとする。彼らは鋼、あまりにも重い。コイル一匹じゃ、あまりにも非力だった。

「(でも……!)」

彼らを救わないと、僕はきっと、きっと後悔してしまう。今踏ん張らないと、絶対に後悔してしまう……

このとき僕は初めて一生懸命になれた気がした。普通が染み込んだ僕の身体にふつふつと湧き上がる熱、今にも身体を溶かしてしまいそうな熱。これがきっと情熱、相手を想う気持ち、相手を気にかける気持ち、そしてこれを知ることが−−−!
その瞬間に彼らをぶら下げる手が軽く感じた。落ちたか、いや違う。きちんと彼等は僕の手にいる。軽くなったのは僕だ。いまならイケ…




「あら、ダメよ。他人の邪魔しちゃ」

その声が聞こえた途端、鈍い音と共に僕の頭上に途轍もない圧が襲う。

「ンガッ!?」

「ニッケル!」
「ニッケル!!」

僕は恐る恐る振り返るとそこにはセンセイが冷たい表情で見下ろしていた。熱せられた鉄棒を僕に下ろしながら。

「センセイ……なんで…」

「あなたは一体全体何をしてるの?私たちが折角あなた達が救われる為のお手伝いをしてあげてるのに。どうして邪魔をするの?ましてや、別のポケモンを巻き込むなんて言語道断ね」

そういうとセンセイは再び鉄棒を振り上げて殴りかかる。棒の熱が僕の全身に襲いかかりW普通Wに痛い、熱い。いま堕ちていった皆はこれ以上の痛みと熱を感じながら消えていったのだろう。最後まで苦しんでいっただろう、泣いてたんだろう、愛されたいと願いながら。

「熱い…」

「熱いでしょ、W愛されるWってこういうことなのよ」

あぁ、センセイの言う通りだ。W愛されるWってこんなにも痛くて、熱くて、辛いものだ。でも、みんなはその痛みを知らない。

「皆ね、あなたみたいに愛されて生きてきたわけじゃないの」

ガコン。
僕はW普通Wだった。でも、二匹の話を聞いた途端、僕は何だか自分だけがW普通じゃないWような錯覚に陥った。

「愛されたくても、愛してもらえなかった仔もいるの」

ガキンッ。
僕は愛されてたんだ。ここにいる皆と違って周りからいっぱいいっぱい愛されていた。熱いものをいっぱい受け取っていた。でも、そうしてくれなかった仔たちは冷たくて錆びるしかなかった……

「だから、何もしないあなたみたいな奴に代わって私たちがこうやって幸せにしてあげているのに邪魔するなんて……。問題児とはあなたのことね」

ゴンッ。
問題児。そうか僕はW普通Wだっだ。だから、問題なんだ。そうか、僕がここに来たのはその為か……!

「愛を貪るだけ貪り、愛の味を忘れたあなたに一体何が出来るの!?


いや、こんな僕にだって!!

「できるさ!!」

僕は二匹を思いっきり引き上げた。クロムとマンガンはどさっと僕に覆いかぶさる。僕は鋼のくせに息が上がる。まだ生きているってことだ。一方で二匹はヨーコーロからの熱せいか分からないが、ほのかに熱を帯びていた。

「クロム、マンガン、大丈夫…?」
「ニッケル…もうあなたって馬鹿なんだね。私もう飛び込む勇気なんてなくなっちゃったよ」
「いいんだよ、それで。飛び込む必要なんてない」
「ははっ、じゃあニッケル、俺たちはこの先どうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、こんなところからでよう。きっと外は明るいから!」

ニッケルはそういうと少し笑い、クロムとマンガンもつられて少し微笑んだ。それは見ていたセンセイは憐憫に満ちた目を向けてこう言い放つ。

「これ以上、無駄ね……」

「センセイ……」

「可哀想な仔たち!!出て行きなさい、早く!!」

そう言うとトラックの入り口から外までに架け橋が掛かった。その先は光が覗いていてきっと外界への入り口だろう。これがきっと本当の希望の地だ。

「…じゃあね、センセイ」

そう言って僕等は歩き出した。すると目下にあるヨーコーロから

『きみたちもはやくこようよ』
『きもちいいよ…』
『とってもあつくて…ここちいいよ……』

と呻き声にも近い音が聞こえてきた。これも彼等が選んだ幸福な道、僕はそう思い込むことしかできなかった。そして僕等は光に入っていく。



「覚えておきなさい!!あなたたちは…絶対に永遠に幸せなんかにはなれない!!!
特にニッケル、愛の味を忘れたお前は!!」


センセイの叫びを身体で感じながら。







外に出た。そこに広がるのは白い砂漠だった。光はどうやら僕らの幻覚で曇り空が広がっていた。周りを見回すも建物も人影も僕等以外何もなかった。寂しくて、希望など感じさせない無味乾燥な世界。すると、クロムとマンガンが跪き、震え上がる。

「ここはどこ……なんだか淋しくて寒い、嫌だ。さっきのところの方がまだ熱くて良かった!」
「こわい……独りでいるようで冷たい……、錆び付いたように動けない」

でも、僕は二匹を磁石で繋げた

「大丈夫だよ」

「ニッケル……?」
「ニッケル……」

簡単なことだった。ただ、こんなにも容易い言葉を言ってあげるだけでよかったんだ。それに気付くまでがとても大変だけど、僕はきっと気付けた。変革れた。


だから、言わなくちゃ。





「だって……だって僕は君たちがーーー好きだから」




その瞬間、クロムとマンガンの目からはほろりと一雫。それが砂の上に染み渡ると色が付いた。曇り空から日差しが差し込んできた。

「ニッケルぅ……あったかいよぉ…うぅ…」
「ふ、うぅ…俺もマスターに言ってあげられば……」

クロムとマンガンは目から熱いものをボロボロと零し始めた。まるで赤ん坊のように、わんわんと泣いていた。

後悔してからじゃ遅いんだ。気付いた今こそ、踏み出そう。

「行こう、まだきっと間に合うから。僕も言いに行かなきゃ……!」

「〜♪」

「クロム、その歌……」

「歌った方が気分もいいし、ね?」

「そうだな!」

さぁ、次の扉をノックしよう。もっと、もっと素晴らしいはずの世界を見る為に、もっと素晴らしい自分になる為に。

いつか誰か愛せるように、自分も愛せるように……

End and their Endless journey will last......

■筆者メッセージ
皆、昨日を糧に今日を生きる。それを繰り返す命たちが環状線上の終わりなき旅に鬱屈さを感じるかもしれない。しかし、その感情の漣こそが僕らの確定であり、分かち合いたいという切ない叫び、一つの歩みなのである。そして、僕らは微かだが歩み始めた。

歩みが望みを生むのなら、その連なりこそ未来を切り拓く。


あぁ、ニッケルたちはいま幸せである。
ヒート ( 2014/11/23(日) 01:07 )