終わりなき旅
Act2. Recall
暇を持て余した彼等が始める小噺。まず、先手を切るのはマンガンだ。

「それじゃあ、始めるぞ。オレはソダテヤという施設にいたんだ。オレらみたいな共働きの主人とかのポケモンを世話してくれる場所だ。聞いただけど、そんないい場所には聞こえないかもしれないけれど、そんなことはなかったぜ。とてもいい場所だ。友達もすぐ出来たし、センセイもよく気にかけてくれた。最初は不安で堪らなかったけど、すぐに慣れたもんだ。でも、オレは此処に入った時にすぐ気付くべきだったんだ。その時から既にオレらは存在を許されていなかったんだって。入った時に、センセイが優しそうにこのW切符Wを渡してくれたんだ。『これはあなたが幸せになるための大事なモノ。あなたたちが救われる場所に行く為の切符よ』って。オレはそのころ不幸なんて感じてもいなかったし、センセイが何を言ってるのかさっぱり分からなかった。だけど、オレのW運命Wの分岐が迫ってくるのにはそう時間はかからなかった。
ある日だ、隠れん坊を友達とやっていたんだ。オレらがやってた隠れん坊ってのは少しばかりルールが違ってた。『めしあ』というルールだ、内容は『一度見つかってしまった者もまだ見つかってない者が助ければフィールドに復帰出来るという』ものさ。だから、下手すりゃ鬼の番が終わらないけどその時は場の様子見て変わったりとかしたんだ。しかしな、オレが鬼だとそういうことは一切無かったぜ!だって、俺は『デッドサーチャー』って異名を付けられるぐらい見つけるのが得意だったからなー!……名前の意味?知らんがな、でもカッコいいだろ?まぁ、そんな感じでさ、オレはすすんで鬼やることが多かったんだ。皆は逆に隠れるの結構得意だし、オレの鬼の実力とは結構拮抗していたんだぜ。だからこそやり応えがあるってもんだ。
で、あの日も同じ様に隠れん坊をしていたんだ。だけど、その日のオレは二回ぐらいみんなを逃がしてしまったんだ。俺の調子が悪かったのか、皆の調子が良かったのかは分からないけど、とにかく俺は悔しかったのだけは覚えてる。だから、三回目こそは絶対に見つけ切るって意気込んでいたんだ。それで三回目の隠れん坊が始まる。みんなが一斉に隠れるから、見えなくなったのを確認して二十数えるんだ。

いーち!にー!さんー……

一秒一秒大きな声でに数えた。みんなにも聞こえなきゃいけないしね。そして、二十だけ数え上げて次にこう叫ぶ。

もういいーかーい!

隠れん坊と言えば、この掛け声だよな。このあとに続くのは『もーいいよー』。俺はその言葉を待つ。だけど、周りからは一切の声も聞こえなかった。聞こえてくるのは夕暮れの暖かい風が吹きつける音、周りの木々がざわわと振るっている音だけだった。俺はもう一度、

もういいかーいー!

と叫ぶ。でもやっぱり返事はなくて……。オレは不安になり瞑っていた目を開けて、周りを見渡す。誰もいない。それは当然なんだけど、オレは言い知れぬ不安に襲われた。オレはもう一度叫ぶ。

もうーいいーーかーい!!

今度はさっきよりももっと大きい声で叫んだ。でも、やっぱり誰からも返事がないんだ。不安は増大して、オレの見てた空がぐにゃんと歪んだ。足元がふらついた。オレは独りになってしまったのかって思った。でも、そう思うのはまだ早いって暫く探しんたんだ。白肌の岩の後ろ、ボロボロなヒノキ造り小屋の中、川縁の茂みの中とか……。ここは皆が決まって隠れる場所だったから居ると思ったんだ。でも、居なかったんだ。オレは確信した、孤独になったんだって。いや違う、既に孤独だったことを思い出したんだ。そして、それを更にまじまじと感じるのは数十分後のことだったよ。あの後オレは探すのを諦めて、ソダテヤへと帰ったんだ。たった一匹で歩く帰り道はとても寂しくて、暮れていく日は暖かったけど切なく思えた。少し歩いて、ソダテヤに着いた。で、オレはビックリしたんだよ!だって、一緒に遊んでいた友達がそこにいたんだ!だから、オレはこう言ってやったよ。『お前たちなんで俺を置いて行ったんだ』って!そしたら友達はこう言ったんだ。

『だって、今日は僕たちが救われる日ってセンセイが言ってたじゃないか。だから、早く帰ってくるようにって』

オレらが出掛ける前に確かにセンセイはそういっていた。だからって何も言わず帰るなんて酷いと思ったよ。すると、センセイが外に出てきてオレらを呼んだ。『さぁ、ご飯の時間よ。あなた達の最期のご飯の時間よ』ってね。オレらは遊びで疲れてることなんて忘れて、ソダテヤの中へと入っていった。中に入ると木の匂いがムッと篭っていた。木造で古い組み立てが特徴で、酷い雨が降るとたまに漏ってしまうぐらい老朽化してしまっている。センセイは『もう直す必要はない』と言っていたんだけど、何故だかは今もわかんねぇ。とりあえず、飯の時間だからオレらは急いで円卓に向かったんだ。綺麗に周りに集まり、センセイが皆の前に一つずつ皿を置いて行く。皿の上にはマトマのカレーフード。センセイの作るカレーライスは程よく辛くてとても美味しい。食べると暖かくて心がほっこりするんだ。主人にはこんなことして貰えなかったからすごくありがたかった。
で、ムシャムシャとカレーを食っていると横から友達のダンバルが話しかけてきたんだ。

『ねぇ、マンガン。僕等は一体何処にいってしまうんだろうね』

友達は数日前からこんな感じに不安をオレにぼやいていた。まだ行ったこともない場所だからだろうけど。オレは、きっと大丈夫だ、と当たり障りのない返事をした。というよりもそれしか出来なかったんだ、オレも不安だったから。
暫くするとトラックが数台ソダテヤの前に停まった。トラックの側面には「ちるどハイソー」という言葉が大々的に書かれていた。センセイはトラックから出てきた人と何かを話していた。暫くすると僕等の所へと戻ってきてこう言った。

「さぁ、順番に乗って行きなさい」

ソダテヤの皆はトラックへと流れる様に乗り込んでいく。オレもその列に交じった。トラックの人たちは列を整理する為にオレらの周りを立っていた。決して逃がしはしないと、そんな重圧を上から感じていた。そして、オレは不安に思いつつ歩いていたその時に列からあぶれたポケモンが出た。

「やだぁ!!」

列から外れたのは一匹のエルフーン。しかし、すぐに周りの作業員に捕らえられてしまう。その手から逃れようと必死になるエルフーンだが、作業員はこう言う。

『(何故逃げる?君はこれから救われに行くというのに)』

エルフーンはそれに答えてこう言う。

「嫌だぁ!だってご主人様と離れたくないよぉ!」

エルフーンの泣き叫ぶ声が空に響く。それが伝染して他のポケモンの雰囲気も哀しみに満ちていった。必ずしも自分の意思で救われにいくポケモンばかりではないのだ。

『僕はご主人様のところに行く!』
『(こらっ!逃げるな!)』

逃げ出すエルフーンを止める為に作業員が走りだそうとした時、センセイが作業員の肩を掴み止めた。センセイはいつもの笑顔でこう言った。

『いいんです、行かせてあげて』
『(しかし……)』
『これがあの子が選んだ道です。あの子は主人に会いに行くためにわざと道を外れたのです。ただ、その主人はもうこの何処にもいないですが』
『……』

そして、センセイは不敵に笑いながらこう言った。


『あの子はもう永遠にシアワセにはなれませんよ。だってこれは救いの道を放棄した罰そのものなのですから』


……と。そして、騒ぎはこれで一旦収まる。オレ達は再び歩き出した。やがて、俺も乗り込む時がきた。もうガクドウの土は踏めない、もう戻れないんだ。でも、大丈夫だ。このトラックの行き先はオレ達の救いなのだから。そう思い心置きなく乗り込もうとした時だ。聞こえてしまった。とてもとても聞き慣れた声が。

『マンガンっ!!』

何で、何できちゃったんだ……マスター……?オレ、我慢してたのに……

俺はトラックに乗り込む間際にマスターを視界に捉えた。その顔はとても悲しそうだったのは今も覚えてる。俺は返事をしようした。が、

『マス―――』

バタンッ。トラックの扉は無情にも閉じられた。俺は扉の前で跪いた。そうして嗚咽を漏らして叫んだ。

『マ…スタぁー……ッ……!』


……マスターがオレと別れようとしてることを知ったのは今から一ヶ月前のことだった。マスターはどうやら遠い所に行かなくてはならなかったらしい。
だけど、オレを何処かに預けようとも頼れる身寄りはマスターにはいなかった。

だからマスターは苦肉の策にオレを此処に預けた!

わかっていたはずだ、これは仕方のないことだって!

望んで救われにいく訳ではないけど、仕方のないことだって……!」

マンガンはとうとう咽び泣き最初の元気など失せてしまって蹲ってしまった。しかし、ニッケルとクロムを除いては周りの雰囲気は依然として沈黙である。もう泣くことすらも諦めてしまったのかもしれない。クロムはマンガンの前に立って、

「あなたのW運命Wの小咄 ……きちんと心に刻んだわ」

と言った。その声がマンガンの鋼の肌に響く。

「オレは……っ!!うっ……うっ…!」

「マンガン、もういい!もう喋らなくていい」

ついにニッケルがマンガンを介抱する。涙はその鋼の肌をいつか錆びらせてしまうのではないかと思うほどに流れ続けた。そして。クロムは深呼吸をして次の咄を始めようとする。

「じゃあ、次は私ね」

到着まではまだまだだ。さて、次はクロムのW運命Wの小咄が始まる。

The End of Mn .and to be continued......

■筆者メッセージ
返事なき思い出(Recall)も変革の種
ヒート ( 2014/11/16(日) 23:20 )