終わりなき旅
Act1. Resource
暗闇の中に彼等はいた。とても冷たく溶けてしまいそうな闇。ゴトンゴトンと揺れる箱の中で沢山の鋼ポケモン達が静かに眠っている。彼等は何処かに運ばれて行っているようで、彼等自身はその行き先を既に知っていながら乗っているのだ。彼等の中にある諦めは所謂、運命の切符。つまり、「この世界を諦めること」こそこの乗り物の乗るための条件だ。彼等はそんな切符を心の中に携えながら不安と不穏、期待と救いを求めて乗り物に揺られている。
数時間前、彼等はとあるトラックに乗せられた。W何かWの工場で彼等を運んでいるのは人間で、鉄くずの様に鋼のポケモン達を檻に入れては大型機を用いてトラックに積んでいた。一台、二台、三台…満杯になる度にトラックの数は増えていったのだった。さて、今回の物語はこの鋼ポケモン達に焦点を当てたい。しかしながら、無尽蔵な彼等の匹数分を語るには少しばかり時間が足らない。そこで今回はとある三匹に話を絞ることとする。但し、忘れないで欲しい。この時点で、鋼のポケモンの歴史が物語化されていることを。貴方がこれから目撃するのは歴史の一部であることを―――



まず、一匹目の登場だ。
ある鋼ポケモンが目を覚ます。コイルだ。彼(便宜上、そう呼称することにする。)は目を開けるが、只管に暗い空間にまだ眠っているようなと誤認しかけてしまう。しかし、表面に感じる冷たさと埃っぽさに今ここにいるのが現実と思い直すのにそこまで時間は掛からなかった。
彼はむくりと浮かぶ。目が段々と慣れていき辺り一帯を見渡すと、鋼タイプのポケモンが大勢いるのが分かった。自分の身に起きている状況が全く理解出来ず、彼は混乱する。

「(どうしてボクはここにいるのだろう。さっきまでセンセイと楽しく遊んでいたのに)」

自分以外に知り合いがいるような気配はなかった。独り。独り。すると彼は急に寂しくなってきたのである。彼は再び蹲ってしまった。
彼はしばらくトラックにじっと揺られていた。周りの誰も一言も発することがなく、沈黙と暗闇だけが包み込む。彼以外目を覚ましているポケモンもいたが、死んだ目、この世界に夢も希望もないような目をしていた。彼は段々と憂鬱になってきたが、気を紛らわす為にも何かしたいと思ったので、鼻歌を口ずさむことにした。

「~♪」

周りが訝るかと彼は思ったが、特に誰も気に留めない……というよりはどうでもいいと感じだった。彼は歌い続ける。彼が歌っているのはWEndless JourneyWという曲で彼のお気に入りだった。彼のセンセイが御遊戯の時間によく歌ってくれた歌だ。こういう物寂しい時に歌うととても勇気が沸いてくるようで、彼はときたま口ずさむのはもはや癖だったりもする。

「~♪」

「~~♫」

すると、彼以外の声が暗い空間に響く。それは彼に同調するようにして徐々に近付いてくるのがわかった。すると、鋼のポケモンの間隙から大きな黒い耳のようなものをもったクリーム色のポケモンが出てきた。そうクチートである。

「上手ね。つい惹かれてしまったわ」

「う、うん。あの、一体君は?」

「あぁ、ごめんなさい。ワタシはクロムと言うの」

さて、二匹目の登場だ。
彼女はクロムという名のクチート。彼女をよく見てみると黒い耳のようなものはギザギザと歯が生えていて何でも喰らってしまいそうなおぞましい怪物みたいなものだった。その華奢な身体には全く似つかわしくない。彼は少し身震いをした。

「あら、ちょっとコレが恐い?」

彼の視線に気付いたのか、彼女が黒いそれを触りながら意地悪な笑みを浮かべてくる。彼は咄嗟に体を横に振り、ノーを示した。

「うふふ、結構勇気があるのね。そういえば、あなたの名前はなんていうの?」

自己紹介をされたらし返すのが道理というもの。彼も自己紹介を始める。

「ボクはニッケル。ニッケルっていうんだ」

「そう、宜しくね。えーと、隣いい?」

ニッケルには断る理由も無かった上に、話し相手もおらず退屈していた。なので、迷いなく彼女に自分の隣を空けたのである。

「ありがと」

ニッケルの隣にクロムが体育座りをした。すぐ知り合ったばかりだがこうやって誰かといると落ち着く。寂しさは紛れていった。そして、しばらくじっとしていると彼女から話しかけてきた。

「ニッケルが歌っていた曲ってWEndless JourneyW?」

「う、うん。よく知ってるね」

「ワタシの好きな曲の一つなの。ワタシのセンセイが歌ってくれた曲」

センセイ。ニッケルは彼女との共通点にハッとした。もしかしたら彼女なら今のこの状況を知っているのかもしれない、彼はそう思った。

「ねぇ」

「なに?」

「ここって一体なんだろう。クロム、君は知ってるかい?」

そう訊くと、彼女の顔はキョトンとして不思議そうに僕を見る。何か変なことを訊いてしまった、と彼は慌てた。すると、彼女はこう言った。

「ニッケル、あなたは此処に訳も分からないまま来たの?」

「うん……なんていうか成り行きな感じで理由はよく覚えてないんだ」

「本当に何も知らないのね。どうしよう」

クロムは何かを躊躇っているようだった。ニッケルはそんな彼女を見て、不安が混み上がる。ボクはもしかしたらとても危ない状況にいるのかもしれない、そんな不安だ。彼女は暫く考えて、決心をした顔を覗かせた。そして彼女はこう言った。

「そうね、知っといた方がいいのかもしれない。ねぇ、ニッケル。今から話す事は全てホントウの事。あなたを深く傷つけるかもしれないけど、聞きたい?」

ニッケルはクロムにそう言われてギョッとした。やはり芳しくない状況に置かれているのは間違いなかったらしい。余程ショッキングなことなのだろうか、不安と恐怖が彼の中で渦巻き、この暗闇をより一層深くしていっているような気がした。でも……

「(ここで立ち止まっていても何も始まらないじゃないか)」

そう思い、彼は彼女の話を聞くことを決心した。彼は彼女に頷いた。

「わかったわ。それじゃあ―――」

その時だ。

「おおおーーいい!!マンガンだぞーーーっ!!誰かいねーかあああ!!!」

急に空間に大きな音−−−いや、誰かの声が響く!距離的には結構近い。しかしながら、周りの鋼ポケモンたちは誰も反応しない。ただ、誰かの叫びが反響し続けるだけだ。

「い、一体なんなの!?」

「さ、さぁ?とりあえず行ってみよう!」

彼等は辺りに蹲る鋼ポケモン達を掻き分けていく。ドーミラー、エアームド、アイアント……様々なポケモンが横目に入ってくる。彼は本当に鋼ポケモンしかいないんだと改めて感じる。此処にいるのもそうだが、どうして鋼ポケモンばかりなのだろう。彼はそんなことも疑問に思いながら向かっていった。さて、段々と声が近づいて来る。もう少し。そして声の発生源を視界へと捉えた。

「おぉおーいい!!皆どこだああーー!!」

「あ、あのポケモンが!」

「ココドラね」

さあ、三匹目の登場だ。叫び散らしているのは鋼の装甲だがとても小柄なポケモン、ココドラだった。名前は叫んでるとおりマンガンだろう。マンガンが大声で叫び散らすので、周りのポケモンが訝しそうに彼を睨みつけている。ニッケルとクロムははこの騒音をずっと聞いているつもりもないので早速止めに入った。

「ちょっと、君うるさいよ!」

「んっ!おぉ!やっと反応してくれる奴がいた!ということはお前達はオレの知り合いだな!?」

「はい?」

このココドラは一体何を言ってるのだろうか。彼等には皆目見当もつかない。勿論、ニッケルもクロムも彼のことは全く知らなかった。多分、彼の早とちり。ニッケルは辺りを見回すと鋼ポケモン達がうっとおしそうに見ていた。非常に居辛い状況である。とりあえず、彼等はマンガンを連れて別の場所に移ることにした。

「お、おい!どこいくんだよー!」
「人目に余るから別の場所に行くのよ」

二匹はマンガンを連れて、とりあえずさっきの場所へと戻ってきた。クロムは呆れたのか、溜息をついて座り込んでしまった。黒い口もへの字に曲がっていた。一方、彼はは彼女の様子なぞ気にすることなく、ニッケルに詰め寄った。

「なぁなぁ!俺の知り合いなんだよな!?」
「(うるさい……)違うよ。ボクは君のことなんて全然知らないし」
「えー!?じゃあ、なんで俺のとこに来たんだー!!」
「そんなでっかい声出してれば気になって仕方ないよ!」

このココドラはただ頭が弱いのか、それとも演技なのか。ニッケルは彼の行動を理解出来ずにいた。このまま彼のペースに巻き込まれるのはいけない、そう思った彼は深呼吸をして一旦黙ることにした。一方で黙った二匹をみたココドラはキョトンとしてこう言った。

「そういえば、お前達は誰なんだ?」

やっぱりあなたも知らないんじゃない、と言わんばかりにクロムはむすっとする。しかし、マンガンの顔をみると別に天然を演じてるようには見えず、ただ純粋にそう思っているようだ。ニッケルは言った。

「ボクはニッケル、そしてクチートの彼女はクロムさ」

「ほぉー、オレはマンガンっていうんだ!ヨロシクな、ニッコニッコとクリーム!」

二匹はスゴいやつに出会してしまったと思った。後悔とかそういうものより驚きが上回る程に。

「ニッケルだ」
「クロムよ」

「そうかそうか!すまんな、マイケルとムクロ!」

だめだこりゃ、ニッケルとクロムは呆れるしかなかった。一方でマンガンは暗闇とは相反するとても陽気な笑いをしていたのだった。


……さて、以上が彼等の邂逅である。無機質な音、漆黒の闇に包まれた場所、夢と希望を忘れた場所、そこで彼等はW運命Wの出逢いをしたのだ。果たして、彼等の出逢いは幸か不幸か。彼等のW旅Wはまだ終わらない、始まったばかりだ。





さて、次に始まるのは哀れな子供達の友情談義。出逢った三匹がこれから始める語り合いはきっとこの世界に生まれてしまったことへの懺悔でもあり、この世界に感じていた理不尽や不条理への怒りから生み出されたものなのかもしれない。いずれにしろ、既に彼等が出来ることは互いに語り合い、迫り来る時に備えて心穏やかになることしかなかったのだ。何故なら、この乗り物は片道切符しか受け付けないし、帰り道もない。そう、もう戻れないのだ。ただ彼等は希っていた。終点に到着した時にきっと今度は僕等に優しい世界があるのかもしれないと、救いのある世界があるに違いないと、自らの無力さに打ちひしがれながらそう願い続けたのだ。


「ねぇ、退屈じゃない?」
「うん、ちょっとね」
「静かなのはオレの性に合わない!」

彼等はこのつまらない空間にいい加減飽きてきた。周りは寝ていたり、独り言を呟く根暗ものばかりだ。こんな空間にずっといたら気がすっかり滅入ってしまうだろう。そんな気持ちを紛らわす為に彼等は何かをしたいと考えていた。そこでニッケルからこんな案が出たのである。

「談議だ。談議をしよう」

「談議ってなんだー?」

「皆で小咄をし合うことよ」

「こんな場所で出来ることって言ったら、そんなことぐらいだし。あと君たちのことをもっと知りたいしね」

そういうことで談議をすることに決定した。しかし、彼等はまだ子供だったから小咄するには些か経験不足だ。とりあえず小咄をし易くする為にテーマを決めることになった。さぁ、一体どんな議題となったのか。彼らが数分の議論の末に導き出した答えは、

「W運命W」

ということになった。彼等がこれから語り始めるそれぞれW運命Wの小咄、これは懺悔もしくは願望だ。さて、各々が小咄の結末に提示する答えは何方だろうか。得とみるがいい、目の当たりにするがいい。

to be continued......

■筆者メッセージ
これは始まり(Resource)
彼らが始まります。
ヒート ( 2014/11/15(土) 18:15 )