ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪の狭間で





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第二章第一節 食物連鎖-タベラレル-
第四十四話 もうこれでタベラレナイ

「では、ワンダー、答え合わせをしよう」

「私は笑顔でいる優しそうなポケモンを殺めようと思います。やはり、善を滅ぼすのが悪である私達の使命であると思うのです」

「じゃあ、もし、更にこう加えよう。その笑顔でいる優しそうなポケモンが実は『逃走中の強盗致傷容疑を掛けられていた』としたら、お前はどちらを殺す?」

「それは…」

「ワンダー、隠し事をするとはこういうことだよ」





「我燕組若頭補佐、ナッグ。ハングを連れ戻しに来た」


「我燕組のナッグ…あぁそうだ、地元でも結構な荒くれ者って聞いたことあるよ」
「リヴ、お前何でも知ってんだな。…というか、ハング、これは一体どういう事だよ!」

俺はハングに慌てて訊いた。何故、我燕組が今攻めてくるのか。ハングが関係していることは明らかであった。彼はナッグを見たまま答える。

「先日、俺の所にナッグ、こいつが来やがった。」
「何故だ?」
「今こいつが言った通り、俺を連れ戻しにだ!」

ハングを組に一体どうして…。
ナッグはハングに一歩ずつ近付く。背の高さは彼と大差無いが、身体は一回り大きい。しかし、彼は臆せずに立ち向かった。

「もう俺は何があろうと戻らないと言っただろ!組長が危篤なことは確かに気掛かりだ。でも、もう俺には関係がないし、絶縁状も貰ってる!」

「ハングゥ…今はそう言ってられる時じゃねぇんだ。組の存亡に関わる問題でね、組の皆で決めたことなんだよ」

ナッグは鋭く睨んだ。俺は咄嗟に話の間に口を挟む。

「おい、そこのナッグってやつ!ハングが嫌って言ってんだからよ、大人しく引き下がれよ!」

「おい、ファイン、お前こそ関係無い!突っ込むな!」

うっ…ハングに叱られてしまった。折角、味方になってんのに。

「ハング、もう一度訊く。組に戻れ、そして次期組長として我燕組を従えろ!」

ナッグの大声と共に空気が振動し、信じられない事実にと俺リヴは驚愕した。

「(ハングが次期組長…!?)」

しかし、ハングは依然として態度を崩さなかった。

「何度言われても同じだ!あんな腐れ切った場所に帰るつもりはない!」

俺はその姿に少しの感動を覚えた。いいぞ、ハング頑張れ。しかし、すぐにそんな感動は絶望へと変換されることとなる。

「仕方ないな、おい、連れてこい」

すると一匹のオオスバメが薄汚れた何かを咥えて、輪の外から出て来た。咥えたものをそこへ吐き捨てた。ハングの目の色がすぐ変わる。

「ティミ…ッド……?」

捨てられたのは喧嘩真っ最中の友であった。気絶してたのかティミッドはふるふると瞼を開けて眩しさに目を薄める。

「う、ここは…?」

辺りを見渡すと、そこには余りに大き過ぎる恐怖が彼を囲んでいた。

「ひ、ひいいいいぃっ!!!」

「坊主、あんたに用があるんだ」

ナッグがティミッドにせめよる。近付く強面にティミッドは身体を震わせ、恐怖に怯え、涙を流し続けるしかなかった。ナッグは気にせず続ける。

「ほら、あそこにあんたの知り合いのオオスバメが居るだろう?どう思う?」

ティミッドはナッグの示す方向、ハングの方をビクビクと見た。二匹は目が合う。そして、互いにショックは隠し切れなかった。

「やっぱり僕を貶めるために…やっぱり、やっぱり…!!」

「ティミッド…違う、ちがっ…」

「もう僕の所に来るなぁっ!!!僕の前から消えろおぉっ!!!」

ティミッドから放たれた言葉が全身の細胞一つ一つに激しく響いた。彼の溢れんばかりの涙はハングに罪の意識と悲哀となり質量を持って心身にのしかかる。ハングは世界が逆転した様な、吐き気を催す感覚に纏わりつかれていた。

「(…もう)」

ハングは諦めた様に力なく俯く。そして、こう言った。

「ファイン、もう十分か?これで良いだろう?結果オーライ。チーム『タベラレル』はぐちゃぐちゃだ…」

「ハング…」

更に振り向いて、こう言った。

「なぁ…っ…もぅ、許して…くれよ…っ!」

ハングの涙が飛沫の様に散った。その顔を見た俺は良くわからない罪悪感をひしひしと感じた。何もしてないのに。
一方で、ナッグにとっては好都合だった。不敵に笑いもう一度ハングに訊く。

「さぁ、ハング、どうする?断ったら、この坊主がどうなるかわかってんだろうな?」

「……」

ハングはティミッドを一瞥した。結局、俺はこいつの何にもなれなかった。互いに自分の延長線上に居ただけのオブジェに過ぎなかった。ただ、視界にいつも互いに入れてた他ならなかった。ハングはもう考える事が面倒になり吹っ切れたくなった…















…もういい、還ろう。














「分かった、お前の頼み聞いてやる」

「…へへっ、そうでなくちゃな!ハング!」

ナッグはどこか嬉しそうだった。一方で、この目の前の出来事を俺は黙っているいられなかった。


「ハング…お前自分が何言ってんのか分かってんのか!?さっき、意地でも帰らないって言ったじゃないか!!」

「もういい。お前の勝ちだよ、ファイン。望み通りになっただろ?」

「だから、違うって…!」

「俺はこの世界にいるべきではなかったんだ。だから、俺はあの世界に還る。」

ハングはナッグの元に進む。俺は駆け出した。だが、すぐさま仲間である別のオオスバメが立ちはだかる。

「どけ…どけっ!」

俺はW火炎放射Wを放とうとする!口の中に光を溜めて放った!

「ふんっ!」

しかし、W見切りWで躱される!そして、羽で軽く叩かれ、後ろに飛ばされた。リヴがそれを受け止める。

「ファイン、あんな数じゃ無茶だ!」
「駄目だ!…ハング、ハング!!」

ハングは歩み寄るナッグの元へ、一歩、一歩。ティミッドは横で怯えて床に臥せるだけだ。もう誰も彼を止められない。そして、ナッグがハングの肩を抱く。

「おかえり、我が親愛なる仲間よ」
「ただいま。二年振りだな…」

ハングはしまっていたネックレスを取り出して、首に掛けた。我燕組の称号である黄色の嘴の黄色の輝きが彼の胸に煌(きら)めいていた。

「さて、こいつにはもう用は無い」

ナッグは足下にいたティミッドを蹴り飛ばした。丁度俺たちの所へと向かって来たので、俺は見事捕まえた。そして、俺はハングに懇願した。

「ハング、お願いだ!何かの間違いだと言ってくれ!!こいつは…ティミッドはどうすんだよっ!!」

しかし、俺の必死の叫びも虚しく消えた。ハングはわざとらしく無言のままあさっての方向を見ていたのだ。代わりにナッグが太い声で返事した。

「これがハングの選択だ。お前達は関係ない。…よし、用は済んだ!お前ら、撤退だ!!」

合図と共に舎弟らが素早く去っていく。俺達はようやく輪から開放された。残っているナッグ、ハングの二匹。

「そうそう、親方様、我燕組次期組長ハングの継承式に是非いらして下さい。最近の暴力団事情について知っておく事も大切ですよ、ククッ!」

ナッグはそう言うと、不思議玉を出した。あれはW光の玉W!

「では、失礼」

「行かせるかっ!!」
「ファインっ!!」

俺はハングたちを捕まえようとする。しかし、ギルド内が白い光をに包まれ視界が無くなる。光が消えてしまった頃には、もう彼らはいなかった。俺は抑えきれない悔しさで地面を殴る。

「何でだよ…畜生っ!!」
「…ファイン、相手が悪かったんだよ。君が悔やむ事じゃない。」

リヴが励ますが、耳には何も届かなかった。誰かが、お前達は別にとても仲が良い訳じゃないんだからいいじゃない、と言うかもしれない。でも、俺はやはり探検家として、ヘルパーとしての誇りかどうか分からないが、そのような心に疼くモノを穢されたような気分になった。その侮辱が悔しく思えたのだ。
そして、地面を殴っている時にハッとこう思った。

「(そうか、我燕組の奴等がタベラレルを…)」

多分、間違いない。今までの事はタベラレルを嵌める為の、ハングを連れ戻す為の布石に違いない。

「リヴ!俺、あいつら追わなきゃ…!」

その言葉を発した瞬間、リヴは行かせまいと俺の腕を掴んだ。勿論、それに抵抗する。早くしないと敵が逃げてしまう!

「ファイン、落ち着いて!もうあいつらは行っちゃったよ!それに君だけでどうにかなる問題じゃない!」

「あいつらがタベラレルをハメやがったんだっ!!早く行かないと…」













ドクンッ…











『ククッ、憎いか、そいつらが…そいつらが…』







誰だ、お前…っ!?







「ぐぁっ…!」
「ファイン?…ねぇっ!大丈夫!?」

痛ぇっ…!頭が痛い…!

急に頭に激痛が走る!金槌で直接、小脳を叩き潰されている様な……っ!

「痛い、ハァッ!痛いっ…!!」
「ファインッ!しっかりしてっ!!」

俺は抉られる様な痛みに冷汗を身体中から出し、頭を抱え蹲る。リヴの声など聞こえない。頭の中に響くのは堪え難い痛み…そして−−−−不可思議な声。それは内面から俺に語り掛ける。


『我燕組…そいつらが憎いか?



「はぁっああぁ…!憎い…!」

「ファイン、どうしたの!?何処見てるの!?」

リヴは彼の異常に右往左往する。目の色が全然違う。蹲るヒトカゲは頭を抱え続けた。

『なら、全てを俺に委ねろ!そうすればお前の憎悪などすぐに雲散出来る!安心しろよ、お前の事は良く分かってる…』

誰だお前は?
でも、見知らぬ他人と相対するような緊張は全くない。むしろ、余りに身近過ぎて触れるのも容易い存在…。

「憎い…憎い…」



『さぁ!解き放て、お前の…』

こいつも言っている。全てを…全てを委ねて…










≪駄目だ!ファイン!!≫







ミュウ…?












…。






「うっ…」

「ファイン、大丈夫!?」

「リヴ…?すまん何かいきなり頭が痛くなって…ウグゥッ!」

俺が立ち上がろうとすると、頭に鈍痛が振幅を上げた。頭で鐘を無秩序に叩き散らしているような…。気持ち悪い。

「ファイン、どうしたの、頭が痛いの?」

「いきなり痛くなった。すまないな…」

俺は頭を抑え、座り込む。呼吸がまだ整わない。息を繰り返し吐く。頭痛のせいで血液が循環しているのが良く分かった。

「……」

「とりあえず、僕はギルドをどうにかしなきゃだけど…」

リヴは置いてけぼりのティミッドを抱える。彼は蹲り黙り込んだままだ。

「まずはティミッドを送っていかなきゃね…。外も結構騒がしそうだし。ファイン、具合悪いのは山々だけど、皆の救助頼める?」

「分かった、頑張ってみる」

「流石、僕の弟子だね。トモダチ、トモダチ〜!」

そう返事した俺にリヴは久し振りにその言葉を言った。リヴがティミッドを背負い梯子を登り視界から消える。俺はもう一度深呼吸をした。

「(一体、いきなり何が起こった…?あれは誰の声だ、それにミュウ…)」

そして、俺が痛む頭で必死に思考してる時だった。

「ファ、ファイン…」

「シード…?」

自室からだ、シードが顔を出して此方を見ていた。俺は覚束ない足取りで倒れている皆を通り過ぎて彼に近付く。

「シード…お前は大丈夫だったか?」
「う、うん…僕は大丈夫!でも、ファインが…」
「心配すんなって。少し頭が痛むだけだ。ちょっと休めば治るさ…。だから、俺の代わりにギルドの皆のこと頼めるか?」
「もちろん!奥にサンがいるから…」
「分かった…」

そして、ファインはギルドの奥へと消えて行った。シードはギルドの皆の安否を確認しにいったのだった。





「それじゃ、ティミッド。僕は行くよ。じゃあね」

静かに扉が閉ざされ、一匹で暗がりが覆う基地内にいるのは野望を果たしたはずのケムッソだった。送られてもらったが、礼も言う暇もなしにリヴは行ってしまったのでただ立ち尽くすことしか出来なずにいた。リヴが去ってから数十分経ったが、カチカチと木製時計が時間を刻む音だけが響くだけで彼は微動だにしない。ただ動いていたのは彼の頭に巡る思考たちで、ずっと彼は自分自身のやって来たことを幾度も反芻していたのだった。

「(僕はやったんだ…。やり遂げたんだ…)」

ハングをいじめ返すことは叶わなかったが、結果的に思い知らせることはできたはずだ。僕なんかに構うからいけないんだよ、ハング。そう思うと、今まで感じたことのない気持ちに襲われた。優越感。一言で表せば、それに尽きてしまう。

「(やったんだ、成し遂げたんだ。でも…)」

そして、反芻は毎回ここに入る逆接に遮られた。

「(僕、この後どうするんだろう…)」

何かがすっぽりと抜けてしまった気がして、落ち着かない。解放されたはずなのに、自由なはずなのに。疑問していると基地の扉が勝手に開いた。

「ハ…」

「よぉ、ティミッド。鍵はちゃんとかけていないとな」

そこに居たのは僕の共犯者たちだった。悍(おぞ)ましい笑みを此方に向けていた。

「何ですか…」

「成功を祝いに来たのだ。同時に我々も作戦もほとんど果たされたからな。」

「……」

「さて、暫くは様子を見るとしようか。今日はそれだけだ。さらばだ、ティミッド」

そういうと、再び扉の開く音が聞こえた。出て行ったのか、そう思った。

「おい、」

…違ったみたいだ。

「…まだ何か用ですか?」

「あのさ…」

少ししてこう聞こえた。

「俺から言うのもなんだけど、友達(ダチ)は大切にしろよな…」

「……」

「じゃあな」


そして、次はドアの閉じる音が聞こえた。再び部屋に闇が戻る。

「…っ」

ティミッドは久し振りに独りで夜を過ごすことを決心した。そして、特に鍵を掛けようとは思わなかったのだった。
一方で…

「これでいい。サンライズへも結構なダメージを与えられた筈だ」

「なぁ、ムラー…」

「何だ、リンプ?」


リンプとムラーは互いに見つめ合う。リンプは何か言おうと口を開きかけた。しかし何かに邪魔されて言い出すことは出来なかった。

「何でもない…。ま、さっさと行こうぜ!」
「……だな。」

こうして黒幕達は愉快そうにトレジャータウンから少し離れることにした。まだ、騒ぎがあって一時間と少しのことだった。

to be continued......

ヒート ( 2013/12/04(水) 16:20 )