ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪の狭間で





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第二章第一節 食物連鎖-タベラレル-
第四十二話 逆転A

「フッハッハッハ!フッハッハッハ!凄いな、このテレビというモノは!こんなにも愉快なモノなのか!」
「王様、随分と機嫌が宜しいですね。一体何を見ているのですか?」

ピッ

「これだ。」

≪◯△県■★市△◎町の民家でーー家族の遺体が発見されました。部屋中には有害気体が検出され、警察は一家心中と見て調査を続けています。なお近隣の皆さ…≫

「自殺関連のニュースですか。」
「ふふっ、そうだ。面白いと思わないか?」
「何故ですか?普通の方ならコレをみて『可哀想』、『荒んだ世の中』だと思うと思うのですが…」
「だからこそだ。このニュースを見たモノはだからこそ皆、幸せな気持ちになるのだ!」



「クッ…」

ティミッドは少し後退り、俺のプレゼントを手にした。

「こんな大事なこと隠してたって事は僕に何かしようとしたかたですよね?」

「違うっ!!俺はもう組を辞めた!ああいう世界から縁を切ったんだ…」

「じゃあ、これは何です?」

ティミッドはバックパックから一通の手紙を俺の前に投げ捨てる。俺は自分の息が荒れていくのを感じつつ、手紙を拾い開いた。

『ハング、久しぶりだな。ギャンだ。今度こちらからお前に会いにいく。 我燕組一同』

手紙を持つ羽がワナワナと震える。もしかしてアイツ会いに来る前にこんなものを……。俺の狼狽していたが、ティミッドは気にせずに更に続ける。

「こんな手紙が来るなんて、まだ縁があるってことじゃないですか?」

「……」

「僕、今まで騙されていたんですね。良かった、気付いて…危うく命を取られるところだった。」

「ティミッド、違うんだ…違う…んだ…」

ハングが彼に羽を伸ばす。しかし、ティミッドはそれを振り払った。

「ティミ…」

「僕にプレゼントとかして、機嫌取れると思いました?僕だって、意地があるんですよ…」

すると、ティミッドはハングのプレゼントの護りのオーブを出すと糸を吐きグルグルにする。そして、身体を振り回した。

「こんなもの、僕には要らない!!」

ティミッドは遠心力を利用して護りのオーブを海へと放り投げた!水が跳ねる儚い音が聞こえる。ハングは唖然とする他なかった。

「あ」

「ハァ…ハァ……ハングぅ、これが僕の本気だ!」

ティミッドは小さな眼をハングに向ける。怒りとは違ったなにかをハングは感じていた。ハングは一歩彼から後退る。

「怖いの?」

「…?」

「怖いんでしょ?僕もそうだったんだよ…。君と僕は所詮上下の関係だから」

「お前、そんな事思って…」

ハングは純粋な衝撃を受けていた。自分の存在、それが彼を怯えさせていた。なるほど、いつもそうだったんだ。彼は自分を取り巻く環境に怯えてたんじゃない−−−−−

「(俺に怯えていたのか…)」

そう思うと、急に悲しくなった。今までの二年間、俺らを絆ていたのはW友情Wとかいう曖昧なモノじゃなかった。運命が定めたW弱肉強食Wの関係。それが俺らの間にあった絆に他ならなかった。海岸の漣がいつの間にか悲哀に満ちた演奏へと代わっていた。

「言っちゃおうかな…」

「え…」

「ギルドの皆さん、いやトレジャータウンの皆さん…いや知り合い全員に言っちゃおうかな…」

境遇を晒されるのは自分が此処で活動出来なくなるのはもちろん、探検家を続けるのも不可能になる。警察に目が止まればもう終わりだ。

ハングはもう一歩後退る。

本気だ。ティミッドは確実に俺を詰りにかかっている、ハングはそう思った。既に昨日の高揚感などいずこへと行ってしまったようだ。今あるのは…

「(……怖い)」

ティミッドに対する恐怖心だった。

「ハング、怖いの?大丈夫、これからは僕の言う事聞けば何もしないから」

「……」

「今までの仕返しだ。この屈辱…思い知れ」

「…ごめ…ん」

「そうだよ、今のお前みたいに見下されてたんだよっ…!!」

「…っ」

ティミッドは振り返った。そしてのそのそと静かに這って海岸を後にしようとしたが、何かを思い出したように茫然とするハングを見た。

「そのネックレス、サンライズの皆さんも手伝ってくれたんです」

「…サンライズがっ!?」

「皆さん、喜んで受け入れてくれました。やっぱり、仲間って大事ですよね…」

ティミッドは吐き捨てる様にそう言い、海岸を後にした。ハングは羽をティミッドに伸ばした。

「ティミッドぉっ!!」

彼は振り返ることなくハングの視界から消えた。ハングの世界が滲み出て、砂浜へと染み込んでいく。一方的な押し付けだったのか、種族の違いだけでこうなってしまうにか、様々な思いが身体中を駆け巡る。そして…

「っ…ぅ、うぅ、っく…うぅううぅ…わぁぁ…!」

その場に崩れ落ちた。自分を支えていた何かが欠けてしまって、一番最初の所からもろとも崩壊した。何もかも。

「……」

止まらない悲しみ、怒りと悔しさが雫となって溢れ出てては落ちて、また溢れ出ては落ちて行った。この思いを何処にぶつければいいのだろうか、砂浜に滲む雫を見てハングはそう思った。

「畜生……」

ハングは眩暈がするのを感じながら、辛うじて立ち上がった。先ほどの海は深く沈んだ黒に染め上げられる。そして、浜辺に立つ孤独な燕の脚は動き出した。





「(ハング!?)」

俺は岩陰から一部始終を聞いていた、いや聞いてしまった。この驚愕を吟味することもままならず、ハングは羽を広げて、飛んでいく。俺は急いで逃すまいと追い始めた。

「(ティミッドがハングを裏切った…?二匹の間に何があったんだ!?)」

嫌な予感がした。何かが起ころうとしているそんな気がしたのだ。俺は手遅れになるまいとギルドに続く坂道を駆け上がった。



一方で、ハングは一足先にギルドに着く。あまりの疾走に驚く他のポケモンたち。そんなことは脇目も振らず、目を血走らせ息を荒げ、猛スピードで地下二階へと降りる!

「あ、ハングさん…」
「…ハング!!」
「あら、ハングじゃない。」

彼の目の前に映ったのはサンライズと背景にある豪華絢爛の宝。サンが息を荒げるハングへと近付く。

「随分、急いでるみたいね…」

「サン…ハァッ、ハァッ…」

「そうそう、ティミッドに言っといてくれない?豪華な報酬ありがとうって!」

「豪華な報酬…?」

「あれよ、あれ!」

サンが指差したのは背景にあった宝の山。彼は疲労で虚ろになる目でそれを見た。あれが何だというのだ、彼はそんなことはどうでもいいとチラ見しかしなかった。

「もうティミッドと話した?さっき、二匹で海岸にいるって噂になってたから…」

「それが、どうした…」

「あれね、ティミッドがくれたのよ!」
















…。















「は…?」

「あなたネックレスもらったんじゃない?黄色の嘴のついたネックレス。ティミッドがあれをハングに渡すんだって、凄く楽しみしてたのよ!」

ティミッドがサンライズにネックレスを取ってきてくれと頼んだ?
じゃあ、こいつらは…

「お前ら、ティミッドのあんな計画に乗ったのか…?」

「だってすごい名案じゃない?お相手の貴方が一番良く分かってるでしょ」
「お前たちはやっぱそういう関係の方が見ているこっちも微笑ましいぜ!」

こいつら、そんなに俺らの仲を壊したかったのか?まさか、金の為に?そんな邪推なことがハングの脳裏に過ぎり、背景の宝の山が視界の横で揺らぎ輝く。

「僕も二匹がこのままだといいなって思うよ!」
「おぅおぅ!皆も喧嘩してたこと結構気にしてたんだぜ!」

皆から、『良かった』『安心した』という声が飛び交い、拍手が俺に向けられた。俺は別世界にいるような浮遊感に襲われる。そして、着実に込み上がる負の感情。

「ま、これで一安心だな」


何なんだ…こいつら…

歯を食いしばる。

「ハング、もう喧嘩なんかしちゃ…」












パァアアンッ!!!

一瞬の出来事。ハングが無意識に大きく振りかぶった羽がサンの頬をはたき上げる。突然の出来事。周りの空気が一気に冷め、戦慄が走る。予想外の出来事。サンが力なく地面に堕ちていった。そして…

「キャアアアアッ!!」
「おいおい、何だ!?」

悲鳴と驚きの声が部屋に充満する!アクタートとシードは信じられない光景に唖然とした。アクタートはサンの方に振り返る。ピクリとも動かない。アクタートは考えるより先に身体がハングの方へと向かっていた。

「てめぇっ!!」

アクタートの拳がハングに直進する!しかし、それはあっさりとハングに受け止められる。

「ハング、てめえ今なにしたのか分かってんのか!?」

アクタートが仲間を傷付けられたことへの怒りをぶつける。しかし、それはハングにとっても似通ったものだった。

「アクアぁ…それはコッチの台詞だ。信じてたのによ、お前たち本当に探検家失格だぜ。」

「お、俺らが一体何をしたんだ!?むしろ、こっちは手伝ってやったんだから礼の一つ二つ貰いたいところだ!」

「シラ切りやがって…雑魚が世迷い言抜かしてんじゃねぇよ。あ"ぁん!!」

ハングの形相が鬼の様に変わる。明らかに常人の顔はしていない。どこぞの暴力団に居そうな…アクタートは思わず後退った。
その時だ。ファインが遅れて登場する。

「ハング!はっ…はっ…!」

ハングが振り返る。先日までの穏やかな表情は失せ、悪人面をしたオオスバメが一匹そこにいた。

「よぉ、ファイン。よくも俺等をハメやがったな。」
「違うんだ、ハングっ!!俺の話を聞け!」

「うっせぇんだよっ!!」

また羽を振り上げる。ファインは体重を後ろにかけて辛うじて躱す。ファインはなんとか誤解を解こうとした。

「ハング、お前は誤解している!」
「どの口がほざいてんだ。しばくぞ!」

もう一発くる、ファインがそう思った時に親方部屋のドアが開いた。出てきたのはアルトだ。

「ちょっと騒がしいよ!一体何が……って、サンライズ、また何かやらかしたのか!?」

「(アルト、火に油を注ぐ真似をするな!俺らがやったみたいじゃないか!)」

ファインはアルトの失言にほとほと呆れる。そして、アルトに続いてリヴが出てきた。

「どうしたの!?一体何の騒ぎ!?」

「リヴ、ハングが急に…!」

手の離せないファインの代わりにシードが慌てて状況説明をする。リヴは何となく状況を把握できた。そして、

「よし、皆、今すぐ、ハングを取り押さえて!」

その発令に一堂はおどろきを隠せない。全員が停止する。ハングは怒りを込めて、リヴを睨んだ。

「…!!?リヴ、貴様ァッ!」
「しまっ…!」

ファインから方向を切り替えて、ハングはリヴに襲い掛かる!翼に気を溜める−−−W燕返しW。
それはリヴの目前に迫る。リヴはただハングの眼だけを見る。動かない。そして…

「W十万ボルトW!!」

一瞬、白い閃光がポケモン達の間隙を縫いながらハングへとダイレクトに向かう。

「グア、アァッ!!」

ハングには効果抜群。力なくハングはリヴの目の前に倒れた!
そして、ファインは何処からともなく現れた閃光の源を辺りを見回し探す。この中で電気技が使えるのは…

「サン!!」

「ハッ…ハッ…!私、やったの…?」

サンがよろめきながら立っていた。しかし、少しバランスを崩しまた倒れかける。それにすぐさま気付き、アクタートが駆け寄って彼女を受け止めた。

「おい、サン!大丈夫か!?」

「えぇ…」

そして、リヴが周りを見渡して、手を叩く。静けさをとり戻して、皆の視線が集まった。

「シード、アクア!サンをひとまず部屋に。シードは薬の調合が出来るよね?食堂で適当なもの使っていいから応急処置を。アクタートは運び終わったら、一回戻ってきて」

リヴらしからぬ真剣な表情に二匹は戸惑う。彼の柔和な顔が強張っていく。これが親方の威厳というやつか。

「……」
「…おい、リヴ」

「返事は!?」

「「は、はいっ!」」

リヴの雰囲気に呑み込まれて、そのまま勢いで返事をしてしまった。二匹は慌ててサンを運んで行った。
続けざまにリヴは指示をまたする。

「ノイザ、ロスナス、サマベル達、他はアルトの指示に従って、ギルド地下一階、周辺に大事にならないよう図って欲しいな。出来るね、アルト?」

「も、もちろんです!皆、着いてきなさい!」

「(なんか、偉そうですわね)」
「(毎度のことだろう)」
「(そうでゲスね…)」

そのままの流れでファインも皆に着いて行こうとする。その時、リヴの声がかかった。

「ファイン」

「ふぇ?」

不意だったので間抜けた声が出てしまった。リヴは特に気にも留めない様子でこういう。

「アクアが戻って来たら君は僕の部屋に来て」

「お、おぅ…」

そう言うと、気絶しているハングを背負い、彼は親方部屋へと戻っていった。




「ん…」

「大丈夫、ミュウ?どうかした?」

「うん、何でもないよ…」

不思議な空間。今は、彼ら神しか入れない不可侵の場所−−−−WアンフュールW。またの名をWジン世界W

彼の、ファインの力の予兆。デザイア世界の運命を揺さぶる力。

「(敵側はファインを殺そうとしているのか、それとも生かしているのか?)」

「ミュウ、そろそろ俺たちも動いた方がいいんじゃねぇか?」
「賛成〜。出遅れて先手取られちゃうのは嫌よー」
「敵側は徐々に動き始めています。先に全てのイニシアチブを取られてしまうのは最悪見ているしかなくなってしまいますよ」

「うるさいよ〜。僕も無駄に考えている訳じゃ無いからさ、もうちょっと、我慢我慢」

ミュウは思惟に戻る。敵側はまだファイン自体ではなく、サンライズとして目を付けている可能性が高い。ここはサンライズの皆を重視した方がいいのかも…

「ファイン、君が今死なれちゃ困るんだ。僕達の目標の為にも生きてて貰うよ」

ミュウは、そう小さく呟いた。




「おーい、サン、置いてき…」

「ぶぇっくしゅんっ!!」

帰ってきたばかりアクタートの前で大きなくしゃみを俺はかます。アクタートの顔に望みもしない液体が降りかかってしまった。

「……」

「あ、ごめん。だ、誰かが噂してるんじゃないのかなぁって、ははははは」

「ファイン、覚悟しろよ…」

アクタートは舌打ちを一つうち、ひとまず食堂の水道で顔を洗ってきてまた戻ってきた。

「まったく、とんだ迷惑だぜぇ…」
「謝ってんだろ…許してくれ。」

二匹はリヴの言う通りに親方部屋へと入っていった。中には、部屋の奥にリヴ、そして縄で縛り上げられたハングがいた。

「さぁ、二匹ともこっち来て。」

「…あぁ」

いつになく真剣な表情。きっとハングには関係しているんだと思うけど、一体何の話なのだろう。

「リヴ、俺たちに何か話あんのか?」

アクタートがそう訊ねた。リヴは小さく肯き、ハングの頭を一発殴る。

「…ん」

ハングが眼を薄らと開けた。そして、目線をキョロキョロと少し移して俺と目が合う。

「…!!おい、コレは何の真似だ!?」

「ギルド内で暴れてもらっちゃ困るよぉ。だから、そうならないように縛ってるんだ!」

笑顔で言うことじゃないが、容赦なく言うリヴ。メリハリの良さとこのギャップが彼の個性ということに何となく気付いた。
一方でハングは無理矢理逃げようとするが、リヴが結構キツく縛ったので脱出は不可能。抵抗に鋭い眼光を向ける。俺らは恐怖で固唾を飲んだ。

「さて、ハング。どうしてこんな事したか教えてよ」

リヴがそう命令する。ハングは舌打ちを一つして、言う。

「サンライズ、こいつらがハメやがった…」

「…っ!」

それにアクタートが反応して、ハングの胸ぐらを掴む!

「何がハメただ!!コッチは訳わかんねぇこと言われてムカついてんだよ!!ハング、一体どうしちまったんだ!」

「アクア、座って…」

「リヴ、でもよっ…!」
「アクア、此処は話を聞こう。ぶん殴るのはその後でもいいだろ」

アクタートは悔しさに歯を軋ませていた。多分、理不尽にサンが殴れられたからだと思うし、ハングはアクタートと結構仲も良く気の合う友達だったから裏切られた気分なのだろう。ついに、アクタートは震えている拳をしまった。

「ハング、続けて」

「随分と都合がいいな。中断しといて…」

「ハング、続けて」

リヴはただその言葉を言い放つ。無感情に、音のように。ハングは口角を上げて微笑して続ける。

「ティミッドがどうやら俺を貶(おとし)めようとしたらしい。」

「!!」

アクタートは驚きを隠せずに、まじか、と小さく呟いた。俺も驚きはしたが、海岸での出来事と辻褄が合い納得した。ハングはだるそうに続ける。

「そして、その手伝いをティミッドに頼まれたのはお前らサンライズ。莫大な報酬を前に裏切りやがった黒幕だ。そうだろ、ファイン?」

俺は大声で叫びそうになる気持ちの昂りを抑える。そして、小さくこういった。

「違う。俺等はそんな事は知らない…!」

「本当にシラを切るのが得意だな。偽善者どもが…」

「俺等はティミッドに『ハングに渡したいモノがあるので、手伝って欲しい』そう言われただけなんだ。まさか、ティミッドがそんな事を企んでいるなんて知らなかった…」

「本当か?俺のスパイをするために、俺からの依頼を受け取ったんだろ?そうだろ?」

流石のファインも眉間に皺を寄せた。挑発に乗りかけようとした時、リヴが口を挟む。

「君のこと、サンライズにも教えて上げてくれないかな?」

「はっ、何言ってんだか。リヴ、あんま俺をナメてると後悔するぞ」

「余程、言いたくないほど矮小な事なんだね。今の君はそれ以上に矮小だよ。そうだね、その辺のスバメの糞(ふん)ぐらい」

「誰が言えねぇつった?それ以上言ったら殺(と)るぞ?」

意外と挑発には弱いようだ。ハングは少し間をおいて口を開いた。

「俺は我燕組若頭、つまり暴力団のナンバーツーだった」

彼の過去に向いた目から出る寂寞とした空気が部屋に充満していった。

to be continued......

ヒート ( 2013/10/10(木) 22:48 )