ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪の狭間で





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第二章第一節 食物連鎖-タベラレル-
第四十一話 逆転@
「ワンダー、この世で恐ろしいモノが何か判るか?」

「絶対的な闇、暗黒。そうですか?」

「確かに突き詰めればそこに辿り着くだろう。しかし、私が言っているのは、もう少しありふれたモノだ。」

「一体、何でしょうか?」


「…W絆Wだ。」



「さーて、何を作ろうか…」

ハングは基地に帰っていた。そこにはティミッドの姿はなく、彼が一匹、プレゼントについて思案してるところだった。

「(勇気の出るものかぁ…。なんだろうな…?)」

勇気の出るもの。サンライズによるとティミッドの欲しいモノはそれらしい。確かにアイツはいつも何かに怯えているように見える。喧嘩の仲直りだけじゃなく、そういうことにも助けになれるもの。

「はぁ…わっかんねーなっ!」

ガチャリッ。
俺がそう叫ぶのと同時に入口のドアが開いた。小さな芋虫が這ってくる。ティミッドだ。俺は慌てて絶賛製作中のプレゼントを誤魔化しにかかる。

「ティ、ティミッド!コレは、あれだからな!あれだ、そのつまり…」

「……」

しかし、ティミッドは無言で中に入って、少しばかりの金を持って静かに出て行った。俺は思わず瞬きを繰り返す。

「まだ、怒ってんのかなぁ〜。あああ、厄介だぜ…」

俺は頭を抱えつつ、作業に戻った。自分の羽で作った羽ペンで適当に思いついた事を木を乾かして作られた紙に書いていく。料理、装飾、実用的なモノ。どれもありきたりに思えて、すぐに紙を破り捨てた。いざとなると全然思いつかない。俺は羽ペンをおいて机に突っ伏した。

「(ティミッドと出会って結構経つな…二年ぐらいか?)」

そして、思考が不思議と回顧へと変換されていく。その時だ、俺ははあることを思い出して立ち上がった。

「そうだ、あれにしよう!…買い出しに早速いくか!でも、いくらすっかな…?」

これならきっと喜んでくれる。俺は勝手にそう確信して、買い出しえと出掛けた。






一方でギルドではとんでもない事態が起こっていた。

「もう一回訊くけど、コレがティミッドからの御礼…?」

「うん!スゴイね、サンライズ!」

リヴが誉めたのは今、目前に積まれている宝の山だった。黄金のリンゴ。謎のパーツ。埋蔵金。命の種。黄金の種。どれも群を抜いてプライスレスで貴重でとても珍しく幻とまで言われるとても価値あるアイテムたちだ。これ以上の形容が出来ないほどスゴイ。

「こんなモノ、何処からとってきたんだ…」

ファインがそう疑うほど凄かった。すると、リヴは黄金のリンゴを勝手に取って頬張る。

「あ〜ん♡」

「おい、リヴ、勝手に…!」

ファインが止めようとしたが時すでに遅し。リヴは果汁を垂らしながらシャクシャクと音を立てて咀嚼する。そして、喉を鳴らし飲み込んだ。

「うぅ〜!!デリッシャァッス!!この洪水の様に溢れ出る果汁!リンゴの甘みの中にある確かな格の違い!皮も薄く食べやすいし、仄(ほの)かな芳香が鼻を抜けて…」

感想をベラベラと連ねるリヴ。一通り述べるとリヴは幸せそうな顔を浮かべてもう一口頬張った。周りにいる皆も自然と唾を飲み込んでいた。

「お、親方様…一口…」
「やだ♪」

しかしながら、宝も凄いがハング達の様子はどうなんだろう。

「まぁ宝もだけど、ハングとかうまくいってのんかな?」
「私もそう思ってたのよ。ティミッドとか正直言って面倒な性格だろうし」

サンが俺にそう言うと以前と同じ様にシードを一瞥する。すると、シードと以前と同じ様に目が合った。

「サン、また、ヒドイよ…」
「ちょ、ちょっと私、別にシードのこと変とか思ってなんかないわよ!ハハハ…


一方で、俺は既に別の事で思考を巡らせていた。

「(そういえば、ハングって何故か泥酔してたよな。ティミッドのことなのか?)」


−−−−構わねぇーよ!もうどうにでもなれってんだ!


彼の投げやりにも思える言葉を思い出す。ひょっとすると、彼にはまだティミッド以外の事で何かあるのでは、と思った。だとしても、依頼以上のことは突っ込めないとギルドのルールにもある。考えるのも余計なお世話か。

「ファイン〜、報酬いらないの?」

機嫌良さそうに報酬に集るサン…じゃなくて皆集ってる!

「こら!報酬はギルドに充てるんだからそんなに取るな!(…クーッ!すっげぇ、欲しい!)」
「堅い事言うなよ。さて、俺様ももらうかね〜。」
「ノイザ、あくまでサンライズのモノなんだからがっついちゃダメよ!」
「へーへー、分かってますよ。」

皆が自分好みの報酬を一つずつ取って行く。どうせ九割はギルドに行くんだ。取ってけ、取ってけ。

「ファイン、無くなるぞ!」
「技マシンもあるよ〜!」

「おう、今行く!」

俺は疑問はひとまず置いといて自分も宝争奪戦へと参加して行った。






「確かにー、お金はー、頂きましたー」

「明日だな、ティミッド。」

「は、はい…」

「お前はホントにそれでいいのか?おれっちはあんまし感心しねぇーぜ」
「余計な事を言うな。なぁ、ティミッド?」

「はい…、頑張ります」







「お、おわったぁ〜!!」

ハングはプレゼント製作を終える。完成品を掲げて、満足そうにして一瞬だけ胸を撫で下ろした。そして、すぐに顔に陰が帯びる。

「うーん、やっと完成したはいいが、今頃何故あいつらはまた来やがった。俺はもう関係ねーのに…」

迫り来る不穏。俺は動揺を隠せなかった。俺はプレゼントを強く握る。

「まぁ、いいや。とりあえず、ティミッドに渡せれば。俺のことはその後だ」

そして、俺はティミッドとの出会いを思い出す。俺らの出会いは約二年前−−−−



『ここがトレジャータウンか…』

俺が最初にここに来た時の印象は、平和だなぁ、というこの場所を表すのに相応しい形容だった。ギルドが一つ、祭りの時の露店のような店。ポケモンの賑わいもまぁまぁ。有名なことはここのギルドのマスターの名が知れている事ぐらいと聞いていた。まぁ、当てのない俺には丁度いい今夜の寝床だ。

『(食いもんと寝床だな…金もあまり無いし野宿かな。)』

特に目的も無い。次の町に行こうとも、この辺りは辺鄙過ぎて、最寄りの町でも一日中飛び回らなければいけないような距離にある。仕方なく暗くなるまで適当に時間を潰すことにした。

『いらっしゃいませー、どうぞ見てって下さーい!あ、ポードとルリちゃん、こんにちは。』
『こんにちは!リンゴを二つ下さい。』
『リンゴ二つね〜。そうだ、リンゴ一つサービスしちゃうね!いつも頑張ってる君たちへのご褒美だ!』
『やったぁ!』

『今日の目標は依頼三つな!』
『ネル、張り切り過ぎだよ。イイ加減、自分の実力考えよう?』
『全く持って同意だな。』
『お前ら、いってくれるなぁ〜。』

過ぎ行く影に耳を傾ける。仲間。友達。皆が互いに気の合う者と語らい、探検隊をしている。俺も探検隊では無いが、最近はそういう風にしていた。そう、最近までは。

『(今日は何を食べようか…。)』

そんなどうでもいいことを思っていると、プクリンのギルドの前に立ち止まっていた。

『入ってみるか…』

俺は風呂敷に包んだ荷物を持ち直し、ギルド内へと入っていった。梯子を降りる。

『(へぇ、意外とポケモンが多いな…)』

地下一階を適当に見て回る。ポケモンが結構な数いる。しかし、正直言って他は特に何も無かった。せめて休憩所としては中々か。

『(ちょっくら、休憩するか…)』

窓際に寄る。崖を切り崩して造られているギルドなので、窓から海が展望出来るようだ。遙かに続く水平線が眩しい。

『これからどうしようか…』

当ての無い旅。正義を気張ってWあそこWから抜け出したはいいが、先には不安しか無い。これからは、無限に続く時間の中に取り残されたような虚無からくる不安にずっと怯えながら過ごすのか。その時だ。

『おい!てめぇ、何処見て歩いてんだァッ!あぁっ!?』

『す、すみません!』

怒号がフロア中に響く。周りの探検家も驚き視線を中心へと注いだ。俺も気になり皆同様に目を送る。

『(ケムッソとボスゴドラか…あと腰巾着が二匹…)』


『てめぇ、俺様の通行の邪魔したからにはそれなりの報復があって当然だよなぁ?』
『そうだ!おやっさんにこんなことしといてタダじゃおかないからな!』
『そうだ、そうだ!』

『す、すみません…な、何でもするから許して下さい!!』

涙目になりながら必死に謝るケムッソ。どうやら、ただ身体がぶつかっただけのようだ。ボスゴドラの方は何かケムッソへの罰を考えてるようで…

『そうだな…持ち金、道具全部寄こせ』

あらま、随分とベタなカツアゲなこと。俺なら…いや、何でも無い。

『ぜ、全部…!?コレは今日の食事もあるんです!勘弁して下さい!』

ケムッソが普段這っているのに、更に頭を下げてぺったんこになった。土下座ってやつかな。しかし、ボスゴドラのほうの機嫌が収まる様子はない。

『ふざけてんのかぁっ!?ああぁっ!?』

ボスゴドラがケムッソを蹴り上げる!ケムッソは空中に舞い、ぺたんと床に落ちる。苦しそうに丸まっていた。

『う、うぅ…うっ…』

『ぎゃははは!よわっちぃなぁ!流石、虫タイプ最弱だな!』

罵倒するボスゴドラ。呻くケムッソ。

『あれって最近暴れてる不良だよな?』
『ちょーヤバイって感じ。どっかいこ!』
『触らぬボスゴドラに祟りなし』

加えて、周りの傍観が何とも非情だ。見るに耐えない…

『これでも喰らえ!』

ボスゴドラがケムッソを踏みつけようとする!クソッ!


ガシッ!


『あ"っ?誰だお前は?』

『もうイイんじゃねぇか?ただぶつかっただけじゃねぇか。』

つい身体が出てしまった。ボスゴドラの足からくる質量が重い。ボスゴドラは不機嫌そうに言う。

『俺様に刃向うとはいい度胸してるな……うぜぇんだよ!!』

ボスゴドラは前触れも無く、俺に腕を振り上げた!

『(W見切りW!)』

俺は即座にケムッソを抱えて、W見切りWを発動させた!ボスゴドラの攻撃を僅差躱す。

『防御技ばっか使いやがって…くたばれっ!』

ボスゴドラの攻撃が再び来る!しかし、俺は次々と−−−ケムッソを抱えたまま−−技を躱した。右。左。上。下。あらゆる方向からまるで透けるように。

『はっ…!はっ…!』

『もうバテてきたか?大したことねーな!』

一方で周りが心配、そして愚者を見るような目で見てくるのが分かった。

『ぐああぁっ…ムカツくぜぇ!逃げんじゃねーよ!!』

苛ついたボスゴドラは全身を使って飛びかかる!体全体が鉄の塊だ、のしかかられたら一溜まりも無い。だがな…

『(…今だ!)』


翼を広げて、気を集中させて…!


『グアアッ!!』


『…!』


ボスゴドラの横を、左翼を奴の首に掠り付けて、素早く通り過ぎる!

『(W燕返しW)』

『ぐ…あ…』

ボスゴドラは膝をついて倒れた。辺りに震動が伝わった。
…そうだ、ケムッソは!俺は腕の中を確認した。そこには目を一生懸命瞑る虫のポケモンがいた。

『おい、大丈夫か?』

『…ん、は、はい。ありが…』

ケムッソと目が合う。彼の口から出ようとしていた言葉が消えて…

『う、うわああああぁ!!ゴメンなさい!!だから、命だけはぁ!!』

『(はっ、何言ってんの!?)』

どうやらまだ混乱しているらしい。むしろ、命の恩人だぜ…

『おいおい、今俺が助けたんだぞ?』

『うわああああっ……え?そ、そうなんですか?』
『はぁ〜、そうなんだけど…(何か恥ずかしいぜ…)』

何だ、この釈然しない感じ!?意図も無く、自分の台詞がどことなく恩着せがましくなってしまった。ぐぬぬ。

『す、すみません…あなたみたいな方が僕なんか助けるなんて思いもしなくて…。ありがとう、ございます…』

ケムッソは申し訳なさそうにかつ感謝を込めて礼を言った。すると…

パチパチパチパチパチ!
パチパチパチパチ!

周りから拍手が響き渡る。多分、不良を倒したことへの労いだろう。でも…

『おい、拍手なんてやめろ。何がめでたいんだ?』

その言葉に周りが静まる。

『黙って見てた奴らが調子乗ってんじゃねぇぞ?あ"ぁっ?』

更に、その言葉に周りに戦慄が走る。そして、ボスゴドラの周りではうろちょろしている腰巾着に目を向けて言ってやった。

『失せろ』

『は、はいいぃっ!!』
『逃げろおおぉ!!』

恐ろしい程の速さで逃げて行った。俺は奴らが消えたのを確認して、一息ついた。

『あ、あの…有難うございます!』

『まぁ、気にすんな。』

ケムッソは顕著な身体で小さく礼をする。さて、俺はこの辺で御暇(おいとま)しようか。

『それじゃ、俺はもう行くぜ。』
『はい、本当に本当にありがとうございます!』

軽く羽を振り、別れの挨拶をする。少しやり過ぎたかもしれない。周りの冷たい空気がそう思わせていた。注目を浴びつつ、ギルドの外を出る。折角、辞めたのにこうしては何も変わらない。明日にはここを出発だ。そう思った時だった。

『待ってよ!』

背後から声が聞こえる。甲高く、混じり気のない声。ハングは振り返った。そこには、プクリンが一匹だけ、肩で息をしていた。

『何だ?』

『とぼけてもダメだよ、ハング!』

何で俺の名前を知っている!?
なので、ハングは思わず釣り上がったその眼で睨みつけてしまった。しかし、プクリンの方は全く動じることがない。むしろ、笑顔を見せて話しかけてきた。

『そんな怖い顔しないでよ。君みたいなポケモンがこんな所に何用だい?』

『どういうことだ?』

『だって君は…』





−−−−−−目が覚める。何時の間にか寝てしまったようだ。外を見ると、暗い。まだティミッドは帰ってきてはいなかった。ハングは立ち上がり伸びと欠伸をかました。

「そろそろ出るか…」

ハングは部屋を見渡し、作り終わったプレゼントを懐にしまい基地を後にした。

そして、来(きた)る翌日…

「ねぇねぇ、ファイン」

「何だ、リヴ?」

「ちょっと、海岸行ってきてくれないかな?荷物置き忘れちゃって…。いまこの通り忙しいんだ。多分、近くの岩陰にあると思うんだけど、」

「あぁ、構わないぜ。おい、お前ら、ちょっと行ってくる。」

「いってらー、早くしないと勝手に依頼決めて出発しちゃうからね〜」

今日の最初の依頼……というよりも雑用はリヴの探し物をとってくることだった。もちろん報酬はない。どうやら海岸に置いてきてしまったらしい。リヴはボーッとしてるしこういうことは珍しいことではなかった。正直、親方として大丈夫なのか、という感じだししっかりして欲しいものである。海岸に着いて例の探し物を探していると、確かに荷物は岩陰にあった。自分ながらすぐコレを見つけられたなと思う、岩陰とかあちらこちらにあるから 。

「(うーん、多分、これだよな。じゃあ…)」

雑用も済んだし、早速帰ろうとした時だ。誰かが海岸の奥の方で話し声が聞こえた。何となく気になり俺はこっそりと見てみたのである。すると、そこにはあのタベラレルがいた。

「(ハングとティミッドじゃねぇか!多分、決着だよな。よし、上手くいくか見守ろうかねぇ…)」






「な、何ですか、ハングさん。」

目の前にいる彼はいつも通りの反応だった。謙虚で内向的というかなんというか…

「いや、さぁ…前は怒ってすまねぇ!俺も短気だったよ。」

この謝罪にティミッドは驚きを隠せてないようだった。いつもあっちが謝ってくる側だったから。俺自身がこうするのが珍しかったのだろう。ティミッドは無言で肯いた。

「じゃ、仲直りの証(しるし)に…」

取り出したのは昨日作ったプレゼント、W護りのオーブW。ハングは彼にそっと渡した。

「大事にしてくれよ。それあれば、飛行に弱いお前も大丈夫だぜ!」

ティミッドは暫く無言でそれを眺めていた。オーブは綺麗な紺碧の輝きを放っていた。見惚れているのだろうか。すると、ティミッドはやっと口を開いた。

「僕も…」

ティミッドも背負っていた小さなバックパックから何かを探していた。

「僕も…ハングさんにプレゼントがあるんです。」
「…ま、まじか!?」

嬉しさで驚くことしかできなかった。プレゼントもそうだが、何よりも仲直り出来たことが嬉しい。ティミッドの手が止まる。

「どうした?」

「な、何でもない…」

ティミッドは再びゴソゴソし始める。ははーん、なるほど緊張してるんだな、とハングは思い心で笑う。そして、ティミッドが取り出す。

「はい、コレ、僕からの…」

「おー、サンキュー!!すっげぇ、嬉し………」
















「最後のプレゼントです。」

黄色の嘴がついたネックレス。ハングはそれに見覚えがあった。いや、忘れるはずも無い。これは−−−−−
ハングは抑えきれない焦燥を露わにする。恐る恐る訊いた。

「ティミッド…これを何処で手に入れた…?」

すると、ティミッドはニヤァと笑う。そして、こう言った。

「Wオレンの森Wの高い高い石の塔の穴の中だよ、ハング?」

「ティミッドォっ!!!」

ハングはネックレスを放し、ティミッドに攻めよった!

何故だ!何でティミッドがこんな事を知っている…!?

ティミッドの身体が驚いたのかビクリと反応する。しかし、ティミッドが逃げる事はなかった。むしろ敢然として立ち向かっている。そして彼の口からこう言葉が出た。

「いや、違うかな…我燕組(がえんぐみ)の若頭さん?」

我燕組。その言葉を聞いた途端俺の全身から嫌なが汗が噴き出してきたのだった。

to be continued......

ヒート ( 2013/10/09(水) 17:08 )