ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪の狭間で





小説トップ
第二章第一節 食物連鎖-タベラレル-
第四十話 捕食者と獲物A

「ハング、久しぶりだな。」

「おい、何の用だ…」

「単刀直入に言う。…お前を連れ戻しに来た。」

「…!?」

「少し話そうぜ。悪友(ダチ)だろ?」



シードは足元が崩れて地面へと落下する!

「おい、シードっ!!」

「ちょっ…」

「シードォオオッ!!」

「うわああああっ!!」

すると、俺は反射的に叫んだ!

「シード!俺の腕にW蔓のムチWだ!!」

俺は腕を外側へ出す。シードの視界にそれが入るとすぐに蔓のムチが放たれた!

「っ!」

シードの蔓が俺の腕に絡みつく!シードの体重が一気に腕に掛かる。俺は重さでしゃがみ込んでそまう!

「サン、アクア!手伝ってくれ!!」
「分かってるよ!」
「引っ張るわよ!せーの…!」

サンとアクタートはシードの蔓を一緒に引っ張る。そして、引っ張る度に蔓が俺の腕を締め上げる。

「痛っ!」
「ファイン、大丈夫!?」
「あぁっ!早くあげちおう!」

三匹でシードを引っ張り上げる。サンの声に合わせて、リズム良く確実に上げていく。しかし…

ヒュンッ!

「うわああっ!!」

中程度の風が吹く!シードはそれに煽られて、思わず力を入れた。

ギチッ

「うがぁっ!?」

俺の腕に再度痛みが走る。一瞬だが力が抜けてしまう。

「ひいっ!!」

「キャッ!ファイン!」
「くっ、まだまだァッ!!」

もう少し力を入れられでもしたら腕の骨が折れてしまいそうだ…。俺は冷や汗をびっしょりかきながら引っ張る!

「せーの…!せーの…!」

掛け声に合わせて、十数センチずつ引っ張る。サンとアクタートも汗をかいて必死だ。そして…

「「「とおおりゃああっ!!!」」」

三匹は一気に引き上げた!シードが宙に舞う!

「…!」
「やった…!」

「うあ、うあああっ!」

「ちょ、ここに向かって…」

そして、シードはそのまま三匹の所に落ちてきた。

「ぐあっ!」
「キャッ!」

少しの砂煙が舞い、四匹はぐちゃぐちゃに倒れる。

「重ーい!!早くどいて〜っ!!」「イテテ…こりゃ参ったぜ。」「み、皆、ありがとう…!」「礼は後でいいからどいてくれ…」

皆は落ち着いて体勢を整える。サンは身体に付いた砂を払い上げる。

「おい、サン。背中に砂付いてるぞ」
「ホント?払ってくれない?」

サンはアクタートに背中を向ける。茶の縞と黄色の体毛、そして可愛らしく尻尾を向ける。アクタートは少しギョッとする。

「(そういえば、最近、サンに触ったのっていつだっけか…?)」

実はアクタートはずいぶん前からこんな事ばかり考えてる。何故、こんな気持ちになるかはまだ彼は分からなかった。でも、少なくとも嫌なわけではない。こそばゆく落ち着かない感覚だと彼は感じていた。

「ちょっと、早くしなさいよぉー」

サンが待ちくたびれて、不満を漏らす。尻尾をフリフリと振りながら。

「あ、すまん」

アクタートは慌てて今の気持ちを圧し殺し、サンの背中をはたいた。毛並みに沿って優しく砂利を払い落とす。

「お、終わったぞ…」

「うん、ありがと、アクア?」

彼女が笑顔を見せる。それに顔が紅潮するアクタート。そして、彼は顔を抑えてその場から動かなくなってしまった。

「さーて!早速、洞窟内を調べましょう!」

「少しは待てよ。今、応急処置してんだから」
「ファイン、いつもゴメンね…僕のせいで…」

俺は先程、道中に落ちていたWオレンの実Wの葉を紐で腕に当て、W癒しの実Wを一個口に入れた。そして、落ち込むシードを静かに慰める。

「いいって、いいって。仲間をフォローする為のチームだろ?」
「あらぁ、随分と臭くて、カッコつけた台詞ね!」
「うっせーよ。今のやつらはこういう事が平気で言えないから色々と悩むんだよ。なぁ、アクア?…あれ、アクアは?」

俺がそう言うと、サンは指を差す。アクタートが顔を抑えて、何かに悶えているようだった。

「おい、アクア。何してんだ」
「ファインにはわかんねーよ!!」
「はっ?」

すると、アクタートは顔を紅潮させながら穴の中に進む。

「ほ、ほら!巣みたいなのがあったぞ!」

大声で吃りながらもアクタートは叫ぶ。俺は彼のよく分からない行動に首を傾げたのだった。

「(何なんだ…)」
「アクア、ホント!?」
「僕も見たい!」

とはいっても、そんな複雑な気持ちに惑わされずに依頼の方は着実に熟さなければいけない。俺は気を取り直した。
巣の中を覗くと、一片(ひとひら)の羽毛と硬い黄色の殻のようなものを見つけた。

「これかしら?ティミッドの言ってたものって…」

「目立つものはこれぐらいしかねーぞ」
「周りとかにないかな…」

周辺を捜すも何も出ず。きっとコレがティミッドの言ってたものだろう。

「よし、ティミッドの所に戻るか!」
「オッケー!じゃあ、またあの崖で頑張らないといけないのねぇ〜」

「そ、そんなぁ〜!」

シードは嘆きを空に響かせた。





「きょ、今日は本当にありがとうございます!」

「いやぁ〜、なんたってサンライズだからね〜」
「私たちも久し振りに楽しく依頼が出来たわ!」

トレジャータウンに帰った。何事も無く依頼が無事に終わったのは奇跡に近いだろう。奇跡というこの表現も些か変だとは思うが。

「じゃあ、今日取った奴。ちゃんとハングに渡せよ」

「はい!…あと、報酬のほうはギルドの方に届いていると思います」

「わかった。ありがとな」

「こちらこそ。では、また用事が出来たら、今度もお願いします!」

ティミッドは小さく礼をした。彼は背中の風呂敷に今日の収穫を入れている。小さな身体には辛そうに見えるが、彼の目は煌々と輝いていた。そして、サンライズは彼の後ろ姿を見送る。彼らはまだ残っている任務を果たしに行こうとした。

「で、ハングさんはどこかな?」

シードが呟く。ティミッドの言う通りなら、彼らの基地にはいないだろう。

「わかんねーな…。ギルドの誰かが知ってるんじゃないか?」
「…じゃあ、帰りましょうか」

皆はその案に賛成して、ひとまずギルドへと戻った。
地下一階へと行くと、いくらか探検家がいた。もう午後をまわっているから、ただ雑談の勤しむポケモンたちや、早めに仕事を終えて報告をしあっているポケモンなどしかいなかった。そこにはハングはいない。そして、流れる様に地下二階へと行く。すると、見張り番をしているノイザが此方に気付いた。

「よぉ、サンライズ」

「ノイザか、見張り番ご苦労様」

俺は適当に返す。ノイザはずっと同じ体勢だったせいか、足首を回して解していた。

「お前ら、早いな。今日はもう終わりか?」
「大体なー。あと、もう少しなんだけど、居場所が分からなくてね」
「誰か探してるのか?」
「ハングだよ」

それを聞いたノイザが少し間をおいて、すぐそばの大きな穴に向かって叫ぶ。

「おおおおぉいいい!グジッドぉおおっ!」

俺達はあまりの大声に耳を塞ぐ。すると、数秒後に声が返ってくる。

「なんですかあああぁ??」

「ハング、オオスバメのハングがどこ行ったか判るかあああ!?」

「えと…、昼頃、ギルドから出て行きましたよおおお!!」

「分かったああああ!!!」

すると、ノイザは満足そうにこう言った。

「此処にはいないみたいだ。外のどっかにいるんじゃないか?」

「そうらしいな…(うるさい!)」

結局、行方は分からず終い。それでは一体どこにいるのだろう。そして、考え倦んだ結果…

「仕方ない、俺が一人で探しに行く!お前たちは休んどけ。」

「えー、でも…」

サンが反論しかけるが、俺はすぐさま食い気味に被せる。

「こういうのは集団で行動しても効率が悪いしな。もしハングが外にいたとしても、あまりに広過ぎる」

「…わかったよ。んじゃ俺らは此処に残らせて貰うよ」

意外とアクタートがすんなりと受け入れてくれた。

「ありがとよ。じゃあ、俺は行くぜ」

ファインは三匹を残して、手を振って出て行った。

「僕は、ファインが万が一の為に薬作っておくよ。腕がまだ治ってないし…」

シードはそう言って部屋に戻った。残されたのはサンとアクタートの二匹。アクタートはチラリと彼女を見る。

「(二匹になっちまった…。皆でいる時はこんな感じにならないんだけど…)」

アクタートは自分の体温が上がっているのが分かった。この異常がまだなんなのかよく分からない。
すると、感覚器官の発達している彼女はその視線にすぐさま気付く。

「どしたの、アクア?さっきからジロジロ見て…」

彼女は不思議そうに訊ねる。アクタートは無意識にそうしてたらしく、数秒後に気付く。

「い、いやぁ…皆行っちまったって思って(何だ、何だ!?やっぱ俺なんか変だぜ!?)」

アクタートは取ってつけた様な返事をする。高鳴る胸の鼓動が自分の耳に聞こえてきた。

「そう?じゃあ、私は久し振りにロスナとサマベル誘ってどっか行こうかな〜。トレジャータウンにいるかな…」

「お、おぅ。そうだな、行ってらっしゃい、ハハハ…」

彼女はペタペタと足音を鳴らし、嬉しそうに尻尾を振りながらトレジャータウンに向かった。
アクタートは大きく深呼吸して心を落ち着けた。身体が一気に疲れる。何なのだろう、 この感情は…

「疲れた。一眠りするか…」

アクタートは何かを後悔しているのを感じたが、今はそれが何なのかさっぱり分からなかった。





「結局、見つからなかったな…」

俺はトボトボとギルド前に戻って来た。トレジャータウンをまず探して、次に近場のダンジョンに行ったがそこにもいない。戻ってるかと思い、更にトレジャータウン内を探したが、やはりいなかった。

「クッソ〜!何処だよ、ハング!」

俺は夕暮れ空に向かって悔しそうに、かつハングへの少しの苛立ちを叫び放つ。すると、すぐそばの穴からポケモンが出て来た。そう、パッチールのカフェである。

「(そうだ、パッチールのカフェにまだ行ってなかった。もしかしたら…)」

早速、俺はカフェへと足を運ぶ。穴から続いている土の階段を一段ずつ降りた。ドアの小窓から光が漏れている。俺は開店を確認し、入口のドアを開いた。

「いらっしゃいませ〜!…あ、ファインさん、お久しぶりで〜す!」

チールの声が響く。まだ数回しか来ていないというのに名前を覚えてくれているの少し意外だった。彼に挨拶がわりに軽く手を振った。そして、店内を見回した。

「あ…、いた」

他の客で隠れて見え辛かったが、よく見るとカウンターの奥にハングが一匹で突っ伏していた。俺が急いで駆け寄る。

「おい、ハング!」

その声に反応し、ハングが伏せていた顔を上げた。それはだらしなさが露わになっていた。

「んぁ?…ファインじゃねぇかあ…」

すると、鼻にアルコール臭が抜けるて思わず手で抑えてしまう。

「酒クセぇッ!お前、他人様に依頼しといてなにしてんだよ!ずっと探してたんだからな!」

俺がハングに憤っている
と、チールがそばに困った顔をして寄ってくる。

「ファインさん、知り合いですか?この方、昼からずっといるんですよ…」
「マジかよ…。おい、ハング!とりあえず、此処出よう!」

俺はハングを席から降ろそうとすると、彼は動きたくないのか抵抗した。

「やめろって、俺なんて、こうやってるのがお似合いさぁ…。マスター、もう一杯くれぇ…」

彼は独り言の様にそう呟く。ファインが呆れている一方で、マスターは仕方なさそうにもう一杯持ってくる。中味はマトマの実のようだ。その血赤色と辛そうな臭いでわかる。

「もうやめて置いた方が良いですよ。身体に障ります」

「構わねぇーよ!もうどうにでもなれってんだ!」

ハングはお代わりを一気に飲む。そして、大きな声を出して、ジョッキを強く置いた。その時だった。

「ゔっ…!」

「どうした、ハング?」

ハングが急に口を羽で押さえる。ファインは嫌な予感がした。

「……」

「おい、ハング…」

「……吐きそう」





「うおおおぉぉええぇ…」

「(俺、何やってんだろ…)」

カフェを脱出し俺はハングを海岸で介抱していた。はぁ、今にも目的を見失いそうだ。何故、今こんなことをしているのだろうか…。溜め息をつきつつも俺はハングの背中を摩(さす)った。

「ぜぇー…ぜぇー…」
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…少しな…」

少し落ち着いたハングは海水でうがいをした。そして、適当に自らの吐瀉物を砂や海水で処理して一息つく。

「はぁ…」

「落ち着いたみたいだな。あーあ、もうこんな暗くなっちまった…」

ファインは夜空を見る。少し肌寒い風が吹き、星が疎らに輝く。さて、ハングも落ち着いたところで、ファインは本題へと入る。

「ティミッドのこと調べたぞ。」
「お、おぅ…どうだった?」
「勇気がほしいってさ。勇気が出るモノとか場所とかそういうことだと思うぜ」
「そうか…」

ハングはそれを聞いて淡白な反応をする。朝とのテンションの差が少し気になるが、一応依頼は完了した…のか?

「じゃあ、俺は帰るぜ。もうクッタクタだ!報酬はいつでもいいよ」

「おい、ファイン」

すると、俺が行こうとした時にハングが引き止める。

「何?」

波の静かな漣だけが聞こえる。ハングは少し間を空けて、

「俺が酔い潰れてた理由訊かないんだな」

と、不思議そうに言った。そして、俺はそれに頭を掻いてこう言った。

「まぁ、俺が深いとこまで突っ込む必要は無いだろ?探検家は依頼者のプライベートも守らなきゃな」

「そうか…でも、今日は迷惑掛けてすまん!」

ハングは頭を九十度の角度に曲げて謝罪する。随分と綺麗な姿勢で敬意を払われてるようで少し照れ臭くなった。

「あ、あぁ。じゃあもう行くぜ。ティミッドとうまくいくといいな!」

俺は彼に手を振ってその場を後にした。そして、一匹残ったハングは…

「…勇気か」

漣に紛れてしまうほど小さくそう呟いた。

to be continued......


ヒート ( 2013/10/08(火) 08:36 )