第三十八.五話 About Another World
≪僕らは所謂、憧れ。
僕らは所謂、神。
僕らは所謂、広義的中二病めいた妄想の産物。
僕らは所謂、宗教。
僕らは所謂…≫
ブチッ!
「人間界からラジオを持って来させたものの、良い加減聞き飽きたな。…何か食べたい、ワンダー、持ってきてくれないか?」
「では、これをどうぞ…」
「何だこの粒々の固まりは?」
「人間界から取り寄せました。北海道産の筋子でございます。醤油を一滴たらり、そして米と一緒に箸を使って召し上がって下さい」
「ふむ。とりあえず、この粒々を包んでいる膜を剥がなくては…」
ビリッ、ブチッ、ブチッ…プチッ
「おっと一粒潰れてしまった…ん、変な液体が出て来たな。脂っこい、ベタベタしているぞ」
「筋子というのはサケという系列にいる魚の卵で御座います。その液体は体液のようなものですよ」
プチッ、クチュ…プチュッ…
「脆いな。うまく食べられじゃないか。」
「(少し安物だったからですかね…)」
プチッ、プチッ…プチッ…
*
此処はジン世界、つまりアンフュール。神と言われる僕達は此処に存在出来るという特権を持っている。僕達に辿り着きうる者、それは…
「そうか、なるほど、これならファインを…」
僕らは未だに彼を安全にする方法が思いつかないでいた。しかし、思考を続けた結果、やっとのことで一つの案が僕に生じた。
「はぁ…ミュウ、策は講じましたか?」
ユクシーは待ちくたびれていたのか僕に対して深い溜息を吐いた。そんな風に思われても、思いつかなかったのだから容赦してもらいたいところだ。とりあえず、話そう。
「うん、今、思いついた。…皆をこの世界に招待すればいいんだよ!」
その考えにユクシーとアグノムはしかめ面を浮かべる。
「それはルール違反です。嘗てにそのような事をやってきた方はいませんでした」
「俺も反対だ。この世界には資格のあるものしか入れないことになっている。例えば、巷で噂の人間クンであるファインとかぐらい?」
正論だ。うーん。
「そっかぁ…。じゃあ…」
「いいんじゃない?私はやってみた〜い!」
そういったのはエムリット。こんな発言せいで、笑顔で楽しそうな彼女が他の二匹にはやはり変な風に見えたらしい。しかめ面は彼女に向けられた。
「エムリット、そんなことしたらこの世界の崩壊を助長してしまうかもしれないのよ」
「そうだ。此処はただへさえ不安定かつニュートラルな世界。バイアスに満ちた存在が侵入することは禁忌という言葉と同値だ」
ユクシー達のいう事は尤もで僕も一理あると思った。だが、エムリットは引かなかった。
「今までそんなこと言って…結局、皆、同じことを繰り返してきただけじゃない、全く成長がないわ!
W運命愛Wなんてロマンのある無神論的な言葉があるけど、それだけを表面的な理解で思想とするのは烏滸がましいと思うのよ」
エムリットがこう意見する。ユクシーは答える。
「神格化された私達には似つかわしくない言葉ですね…。確かに、繰り返されてきた欲望深き世界、これも受け止め新たにまた繰り返す。その言葉は正に私達の状況を説明するのには適切ね」
「うん、だから…それだけじゃダメなの!」
「じゃあ何が必要なんだ?」
「私達は、折角この世界を展望出来る位置にいるのだから、色々と試すのもやっぱり大事だと思う。言うなれば、W付加的運命愛Wへといった感じの現象へと昇華させることね。成長のない繰り返しはやっぱり見ていて飽きちゃうな〜」
「……」
「……」
「ど、どうしたの三匹とも?そんな目で見て…」
また二匹に見つめられるエムリット。彼女らの目にに訝しさを持ち合わせてはおらず、驚きに満ちた目をエムリットへと向けていた。
「随分、言えるようになりましたね♫」
「感情的な君には珍しい理性的な判断だな」
「僕もドン引くぐらい感心しちゃったよ!」
「もぅ!なによ〜、皆して!…で、結局どうなの!?」
ユクシーとアグノムは互いに見つめ、一回肯く。そして、視線は彼女に戻ってこう言った。
「私も賛成してみます」
「そうだな、チャレンジすることは素晴らしいと何処かで聞いたことがある」
ははっ、どうやら意見はエムリットのお陰で通ったみたい。
「満場一致ね!ミュウ、やってみましょう!」
「うん…!ありがとう!」
これから僕達は雲海に佇む皆の水先案内人だ。僕たちの目的はこの広い時代の海に浮かぶ世界を正しき流れに乗せることがお仕事。そこにはW善Wもなく、W悪Wもない。あるのは絶対精神である僕の無機質な選択だけだ。君たちの正義と悪は一体何処に行くのだろう。ただ言えるのは、それを知るものはまだ少ないということだけであった。
to be continued......