ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪の狭間で - -第一章 日常という名のスパイラル!-
第六話 サツキ病
「良い天気だわー。」
「そうだなー、」
「あぁ…」

海岸でサンライズの三人は横になって日光浴を楽しんでいた。
今日でファインが入隊して約二週間が経つ。そろそろこの生活に慣れてきたという感じだ。一方で、自分自身に関する情報はナシ。一体、自分は何なのだろうか。そういう風にファインは空に悠然と流れる雲を目で追いかけながら物思いに耽っていた。

「何かやることないのか〜?」
「残念ながら依頼が殆ど私たちのランクじゃ受けられないのばっかでしたの、アクアさん…」
「はい、そうですか、サンお嬢様。」
「ふぁ〜、眠いな…」

三文芝居を繰り広げ暇を潰すサンライズの姿は実に滑稽だ、太陽はそんな風に嘲笑(あざけわら)っているように見えた。ファインが呆れの欠伸をする。すると、

「サンライズさん〜!」

「あら、チーム『タベラレル』のケムッソのティミッドじゃない。」

サンライズの下に来たのはケムッソのティミッド。先日、話を聞いたが、彼は非常に臆病な性格だという。その原因がチームメイトのオオスバメのハングにあるらしい。チームの名前の由来は彼自身の末路を予見しているという何とも皮肉なネーミングだ。
ハングはアクタートとはよく冗談を言い合っているのを見かけたことがある、きっと結構仲が良いんだと思うし、決して悪い奴には見えなかった。
しかし、そんな事実があったとしても鳥と虫の関係なんて弱肉強食が普通だろうからティミッドは正論だと思う、酷だけど…。
さて、そんな彼が息を荒気てどうしたのだろうか?

「どうしたんだ?何か用か?」

「話を聞いてくれるんですね!ちょっと着いて来てください!」





「これがハングなのか?」
「別人だな…」
「はい、そうなんです…」

「だるい…何もやる気が起きん…」

タベラレルの基地に案内されたサンライズが目にしたのは腑抜けたハングだった。壁に(もた)れて一点だけを凝視してぼーっとしている。特にアクタートが驚きを隠せなかった。アクタートはハングの傍らに寄って心配の言葉をかける。

「おいおい、ハングなのか?どうしたんだ?」
「よお、アクア……最近やる気が出なくてな。そうそう、俺の話を聞いてくれ…」

「何だ?」

「オレンの実が三つあるとしてだな、ヤドンが二つ食ったとする。残りはいくつだ〜?」

「ひ、一つだろ…。」

「正解は、ヤドンはのろいから二つ食べる間に一つはヤミカラスに盗られてしまうのでゼロでーす!…とか思っちゃったりして。」

「さっきからずっとこんな調子なんです。」
「病院行けっ!!!」

アクタートはとりあえず近くのお世話屋のラッキーのフォーチュンを呼んで来た。フォーチュンは早速、ハングの診察を始める。

「これは…!」
「おい、何かわかったのか!?」
「これはWサツキ病W…」

フォーチュンは顔を陰らせて聴診器を離す。すると、サンが手を拳にして力を入れ震えているのが分かった。

「Wサツキ病Wですって!?」
「サン、何か知ってるのか?!(一体どんな重病…)」
「ううん、全然分かんない…!」
「……」

ハングが患っているのは『サツキ病』という病気らしく、フォーチュンは明るく病気の説明を始める。

「Wサツキ病Wっていうのは躁鬱(そううつ)病の一種よ。この時期って、生活環境が変わってそれに慣れてくる時期なの。その時、気が抜けてダレちゃうことがあってね。それが重症化したのがWサツキ病Wね。」
「重症って…そんなに危険なんですか!?」

ティミッドが心配そうにフォーチュンに問い掛ける。しかし、フォーチュンは天使のように微笑みながら、

「大丈夫よ!そもそも、この病気自体は全然重くないの。薬飲んで精力つければすぐ元気になるわよ。」
「よかった〜、ホッ…」
「ティミッド、良かったわね!」

どうやら、そんな大事には至らず済みそうだ。サンライズの出る幕はナシか…と、思っていたが、

「さーて、薬を処方しなくちゃね、薬は、っと…どこかしら〜?」

「こんなハングはもう見てられないぜ!」
「なんやかんやでアクアが一番心配してたわね〜。」

「あれ〜、お薬ちゃんどこですか〜?」

「俺も気抜いたら、ああいう風になっちまったかもな。From 人間 Into ポケモン っていう環境の変化が…」

「あ…れ…?」

すると、フォーチュンが顔を青ざめながら此方を見る。そして申し訳なさそうに両手当てて、

「ごめんなさい、在庫切れ☆」
「…。」

と、笑ってきた。どうやら、俺たちの出番はこれからのようだ。
迂闊だった。こういう性格方は医療関係に勤めない方がいいんじゃないのか。もし、目の前で急病人、例えば、アレルギー性の呼吸困難の患者が彼女の元に来たとして、

『呼吸困難です!今すぐ酸素吸入を…』

『ごめんなさい、在庫切れ☆』

と、いって誤魔化せるのだろうか。

「すみません、フォーチュンさん、依願退職を全力で要求します。」
「ファインくん!いきなり何を言うの!理由を教えなさい、理由を!看護師としての名誉を侮辱するなんて!!」
「いや、だって…ふぐっ!」

サンがファインの口を抑える。そして忠告する。

「(面倒になるから)グダグダ言わないの!フォーチュン続けて。」
「分かったわ〜。…で、どこまで話したっけ?」

「…っっぷはあぁ?!苦しいぜ、ゲホゲホっ…」

ファインが喉を抑えて、呼吸を整える。危うく自分が彼女の患者になるところだった。
一方で、ティミッドも呆れ気味にしながらフォーチュンに続きを教える。

「在庫ギレってところです。それじゃあ、どうやって治せば…」

そして、ティミッドは周章し、言葉に落ち着きが無くなる。フォーチュンは眉を顰めて考え込む。

「薬を作れればいいんだけど…原料の養命草が無いのよね。
そうだ!サンライズの皆、W長寿の山Wで養命草を採ってきてくれない?」
「うーん…まぁ、別にいいわよ。暇だし、ね?というかこのままだと出番無かったかもだし。」
「俺も早くハングに元気になってもらいたいぜ〜…」
「腑抜けるのは嫌だしな…(フォーチュンの患者にはなりたくない!)」

「皆さん、ありがとうございます!」

ということで、成り行きでサンライズはW長寿の山Wに行くことになった。





「ここね、長寿の山っていうのは。」

サンライズは山の麓の小屋で一先ず休憩を挟んでいた。サンが木で出来た机に山の地図を広げる。

「ここは良薬になる植物がたくさん密生してるんだって。それに一般人の登山にも向いてるから、多分、余計な心配は要らないわね!」
「養命草は何処ら辺にあるんだ?」
「五合目辺りらしいわ。」
「じゃあさっさと行こうぜ〜!」

サンライズは山の登山路に入った。日が照る山道の周りには確かに不思議な形をした植物や匂いの強い植物が密生していた。サンが言うには、中には高価な薬草も在れば毒にしかならないものもあるらしい。そんな話を聞きながら歩いて行ったが、特に敵が出るということはなく順調に進んで行った。流石、一般向け。

「やっぱ山はいいな!」
「水ポケモンが何言ってんだか。」
「あぁ!?文句あんのか?」

「こら二人とも喧嘩しない。油断してると敵に不意を突かれる…」

ガサガサッ。突如、茂みから不穏な音が耳につく。楽しげな雰囲気は消え去り空気が冷める。

「サン知ってるか?そういうのをフラグっていうらしい。」
「もぅ、知らないわよ〜!」
「召喚師が此処にいたな…」

音は辺りをグルグル回ってサンライズを困惑させる。見えないものは感情を持つ者にとってはすべからず恐怖の対象である。
ファインは冷や汗を垂らしてキョロキョロと辺りを注意するが音の位置が正確に判断出来ない。隣にいる聴覚の優れたサンですら困難であるのだから当然と言えばそうであるが…。
数分後、暫く様子を見ているが現状が変わる気配は微塵も感じられなかった。しかし、我慢の限界か、そう思った時、サンの耳が何かを感知した!

「あそこよ!ファイン!」
「W火の粉W!!」

「ぷぎゃっ!」

叢の奥から悲鳴が聞こえた。どうやら直撃したようである。すると、叢から一匹の傷を負ったビードルが飛び出してきた。身動きをしてないが、ただ気絶しているだけのようだ。アクタートが安堵の嘆息をしてビードルに近づく。

「気絶したみたいだな…」
「なんだ、ただのビードルかよ。」
「心配してソンしたわ〜…」

サンライズは胸を撫で下ろし、オレンの実を食(は)みながら山登りを再開した。
そして歩き続けて数十分後、山の三合目に到達する。定期的に立てられている残距離を報(しら)せる看板は達成感というもの感じさせてくれる。

「あ〜、後二合もある〜…」
「ハハハ…」

しかし、サンにとって看板は距離を感じさせ、疲労感を増長させるものに過ぎなかった。サンの愚痴はさらに続く。

「何が一般向けよ?、きっと『一般』の定義が違うのよ!多分、『登山や自然が大好きでたまらない方、むしろ山になりたい方、ばっちこーい!』って感じの人向けよ!」
「お前、さっきまでノリノリだったじゃねーかよ!」
「今と昔を相対するだけで愚かしいわ。私たちは感情の起伏の激しい生物なんだから仕方無い…」

使い慣れていない言葉を使った愚痴には妙な説得力があった…いやねーよ、要するに疲れたから休ませろという事だ。危ない、危ない。
そんな愚痴を惰性で肯きながら聞くアクタートは別に嫌そうな顔をしていないのを少し不思議に思う。そう言えば、こいつらはどんな出会いをしたのだろうか。ファインは二匹の様子を後ろから見つめてそんなことを思っていた。
更に数分後、四合目に到達。流石に疲れが溜まってきた。ファインは地図を広げて情報を再度確認する。

「確か、五合目には広場があって結構良い景色が見えるってアルトが言ってたな。」
「もう少しだな、よし、頑張ろうぜ!」

「あの、済みません。」
「ん、誰だ?」

後ろからの突然の声にファインは思わず振り向く。そこには一匹のスピアーが何かを抱えて滞空していた。

「おい、ファインどうした?」
「俺たちに用があるらしい。何か用か?」
「このビードルご存知ありませんか?」

スピアーが両手で抱えてものを見せる。そこにはなんと先程倒したビードルだ。そして、アクタートはそのことに素直に答えてしまった。

「あぁ、知ってるぜ。さっき俺たちが倒したビードルだ。」
「ちょこまかと私たちを弄んだ張本人よ。」

サンも素直に答えた。ファインはこのスピアーとビードルにどんな関係があるか気になった。

「あんたとそのビードル一体どういう関係なんだ?」

「お前らか…」

「えっ?」

途端にスピアーの声のトーンが変わる。スピアーはブルブルと震えて何かに憤っているようだった。え、憤ってる?

「お前らだな!坊っちゃまを傷付けたのは…許さん!」

「え、もしかしてあのビードルの御親族ですか…?」

「問答無用!お前たち、こいつらをひっとらえろ!!」

すると、辺りの叢から次々とスピアーが現れた!いつから潜んでいたか分からないが十数匹のスピアーが今目の前に立ちはだかっている。ファインたちが最悪の状況下にいることを理解するのに時間は要らなかった。

「くっ、仕方無いわ。あの技を使うしかない!」
「サン!まさか…」
「そのまさかよ…」

『あの技』とは一体なんだ…。きっとこの状況を一気に逆転させてくれる技に違いない、ファインは当然のようにそう思った。が、

「いくわよ!」
「おお!」
「せーの…」

一体、どんな凄まじい技なんだ!?

「逃げろおおおおおお!!!」
「うおおおおおお!!」

「え……ええええええええぇ!?」

ファインは予想外の行動に愕然と逃げる二匹の後姿を顎を落として見る。なるほど、凄まじく逃げ腰な技だ!

「…って、置いてくな!!」
「逃がすかぁっ!お前らも追いかけるんだ!」

ファインも二匹の後を追いかける。しかし、先にいる二匹は思ったより足が速い。特にアクタートはゼニガメのクセに速い。亀が遅いという常識の崩壊を感じつつも後ろから迫る脅威を気にせざるを得なかった。
ファインは二匹を見失わないように、かつ足が絡んで転ばないように一生懸命走る!走る!

「ファイン!早く来なさいっ!」
「遅えぞっ!」

そう言うと、二匹はT字路を左に曲がる。このままだと二匹を見失うことは確実だ。

「お前ら…ハッ、速いって、ハァッ!」
































−−−『僕を助けて…』

!!
なんだ、いまの声は!

走りながらファインは思う。それはどこか聞き覚えがあった。それもその筈、ファインが此処に来て初めて聞いた声だ。とても、寂しげで悲しそうな声。そう、間違いなく俺が夢の中で聞いた声だった。

『そのまま、真っ直ぐ…』

「ハッ、ハァッ…、真っ直ぐ…」

ファインは走っている目的など忘れてしまっていた。

後、二十メートル。ただ悲哀の声に誘(いざな)われて走っていた。

後、十メートル。T字路というものに『真っ直ぐ』というものがない、ただの崖なことはわかっていた。

後、一メートル。ファインはそのまま崖へと踏み出す!



「ひっ…ぐあああああああぁっ!!」



......to be continued


ヒート ( 2012/08/27(月) 15:19 )