第四話 初任務@
「おきろおおおおおおおおおおお・・・・ってお前ら…」
「ん…」
小鳥の囀りと朝日とノイザの大声に気づき目を覚ますのはファイン。昨日は、案内された後、ギルドの奴らの話を聞いて一日が終わってしまった。
そして、ファインは自分の手に硬くザラザラした感触を覚える。
「(なんだ、このゴツゴツしてんのは…)」
次に、ファインの顔に生暖かい空気がかかる。ファインは思わず眉間に皺寄せる。
「(うっ…何だ、この生暖かい空気は、ってか、臭ッ!)」
ファインは嫌な予感をしつつも目を開ける−−−−と、
「むにゃ〜」
「うわああああぁ!!!」
「お前ら、もうそんな仲良くなったのか…」
なんで、俺と、アクタートが抱いて寝てやがるんだ!!?
「ん〜、うるせえなぁ…ってお前、何してんだ!」
アクタートも状況に気付き、すぐ立ち上がって後ずさる。アクタートは震えながら、ファインに恐る恐る訊く。
「お前、あっちの気があるのか!?そういうなんていうか趣向は自由だけど、俺を対象にするのは、」
「お、おおおおい!!勘違いすんな!!」
「朝から元気ね〜、おはよう〜」
サンが騒ぎ声にひかれて、ファインらの部屋に来た。二匹は彼女の方にすぐさま振り向き、弁解を始める。
「あ、サン聞いてくれ!ファインのヤツが俺を…」
「違うって言ってんだろう!」
いかにも下らないことで自分に非は無いという論争を繰り広げるファインとアクタート。サンは起こしに来たノイザに適当に事情を訊いた。
「…ってことなんだが、」
「なるほどね〜、まぁ、アクアだし仕方無いと思うけど、」
「え、どうゆうこと?」
「アクアって本当に寝相が悪いのよ!」
ファインはその事実に驚く。コイツノセイダッタンジャナイカ!
アクタートは不服そうにそれに反論する。
「おい、サン!毎回言ってるけど、俺が寝相悪いって証拠は何処にあるんだよ!」
「本人が自覚してないって言うのが厄介よね!この前なんか私の部屋に入って来たのよ…」
サンの目が一気に冷める。スゴイ!見ているこっちが落ち込むほどのこの目!
こ、これは所謂ドン引きならぬ、軽蔑だ!
ファインはニヤニヤとしながらアクタートのほうへと向いた。
「へぇ、アクタートくんがねぇ〜…」
「だから、ちげぇって言ってんじゃねぇか!!」
「お前ら、ホント仲良いな!!嫌になるぐらい!!」
ノイザの呆れ声が朝の空気に響いた。
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−−−朝の騒動も一段落つき、ファインたちは朝礼に向かう。探検家として初めての日。緊張しているのか、心臓がトクトクと鼓動を高鳴らせていた。行ってみると、他のギルドの皆は既に集合していた。
「お前たち、遅刻だぞ!サンは既に着ているというのにお前たちは…」
「すまん、アクアの寝相談義に付き合っててな。全くもってメイワクだ。」
「そうか、それならしかt」
「仕方なくねーよ!」
どうやらアクタートの寝相の件はギルド内では周知の事実のようだ。そして、朝礼を行い、リヴの話(寝言)を聞いて、散会する。その後、皆はそれぞれ持ち場へと向かった。しかし、皆は予定があるようだが、自分達は一体何をすればいいのだろう。
「俺らは一体何するんだ?」
「ん、どうしよっか?ファインは探険に行ったことないし…」
「そうだな…」
三人で考え倦ねていると、その様子を見ていたアルトが近づいてきた。
「お前たち、やることないのか?」
「考え中よ。起きた後、ファインに合う依頼を確認しに行ったけど全然なかったの。」
「よし、じゃあお前たちに頼みたい事がある。いいか?」
「いいわよ、なるべくイージーなもので。」
サンは断る理由も無いのでそれを快く受け入れる。
すると、突如アルトの顔が険しくなった。アルトはサンライズの三人を大きな羽で寄せ小声で内緒話のように話す。
「いいか、よく聞くんだぞ。まず、この任務は絶対に失敗してはいけない!」
「初っ端からそんなヤツかよ…イージーって言ったよな?」
ファインは不安を口にする。しかし、アルトは更に焦燥していた。
「もし、失敗したら……あああああぁ!考えただけでも恐ろしい!ブルブル…!」
「擬態語を口で言うのはちょっとサムいぞ。」
「うるさい!言葉の綾だ!」
それもちょっと語法が違う気もするが埒が明かなくなると思い、そこは気にしないことにした。
しかし、失敗できない任務など自分らに任せてもいいのだろうか、それともアクタートやサンは結構出来るヤツだったりするのか…わからない。
そんな風にファインは任務成功への不安を感じていたが、初探険ということで、それがどういうものかという期待もしていた。アルトはサンライズの様子を見て話題を任務の内容に移す。
「ズバリ、任務内容を言うぞ…」
「う、うん…」
サンライズの三匹は固唾を飲む。恐ろしい任務、一体、どのような任務が……
「リンゴの森へ行ってセカイイチを調達して来い!」
…。
笑止。
サンがいかにも不機嫌そうな顔をする。多分、舐められた気分になったんだろう。確かにお使いみたいな仕事である。そして、不躾(ぶしつけ)にサンは答えた。
「…はぁ?セカイイチってあの大きなリンゴよね?リヴがいつも食べている。」
「そうだ、その親方様の為にセカイイチを調達してくるのがお前たちに与えられたヒジョーーーに重要な任務だ!」
要約すると、『リンゴの取ってきて』という探検の要素がい一切見受けられない任務。一体何が重要なんだろうか。ファインは思い切ってその真意を訊ねる。
「一体、何が重要なんだ?」
「よし、知りたいのなら教えてやろう。親方様はグルメなお方でね、リンゴというリンゴの中でセカイイチしか召し上がらないのだ。それを、朝、昼、おやつ、夕食、夜食と一日に計五個食べる程セカイイチがお好きなのだが…」
「だから調達してこいって訳か。」
「そうだ、なんだ物分かりが良いじゃないか♪」
なるほど、アルトの説明で何となくはわかった。しかし、ファインたちにはそれ以上に気になることが一つ残っていた。
「わかったけど、失敗しちゃいけないのはなんで?失敗する気は無いけど気になるわ。」
ファインたちもサンの言及に同意する。すると、アルトは更に周りを警戒して、更に小声で話し始めた。
「お前たちはこの任務は初めてだったな…。では言うぞ、もしこのヒジョーーーに重要な任務を失敗すると…」
「「「すると?」」」
「親方様の『たぁーーーーーーーーーーーー!!!!』…を食らうことになる。ていうか食らわされる、というか死ねる…」
ファインはその言葉に聞き覚えがあった。そう、探検家になる時、つまり昨日の朝方にリヴが登録という名目で叫んだ時に発した言葉だ。そ、その言葉に一体何の秘密が…と思ってると−−−
「ふふーん、ア〜ルト♪」
「んぁッっ!!!?
−−な、何でしょうか、親方様…?」
リヴが気分良さそうに鼻歌交じりで此方に来た。アルトは背後からの不意打ちを受けてビビりまくる。彼はアルトの前に来ると笑顔で話し出す。
「朝のセカイイチが食べたいなぁーって思って♪」
「は、はい!いま持っていきますので、お部屋でお待ちになってて下さいね…♪」
「わーい!やっぱりセカイイチの無い生活なんて考えられないよ!」
リヴはプレッシャーをかけるようそう言って自分の部屋へとスキップして戻って行った。無意識で言ってると思うと、恐ろしい。アルトはリヴが消えたのを確認して胸を撫で下ろす。彼も彼なりに大変そうである。
「本当にセカイイチが好きなんだな。」
「あぁ、そうだ。お前たちに頼むのも今日で昼で在庫が切れてしまうからなのだが…。
まぁ、よろしく頼む。絶対に失敗するな、わかったな!?夕食前には戻ってこい!念のためもう一度言うぞ、失敗は許されない、わかったな?」
アルトに念押しをくらう。アクタートは威勢良くアルトに親指を立てて見せる。
「心配すんな、アルト!俺たちサンライズに任せとけ!」
「…念のためもう一度言う、絶対に失敗するな!」
「アクア、信頼されてないみたいだぞ。」
「…しょんぼりん。」
アルトから任務を受けたサンライズはひとまず、トレジャータウンに向かった。此処は相変わらずの賑わいで探険家でごった返している。サン曰く、探険家には事前準備が欠かせないらしく寄っておきたい店があるというが…
「ここよ!」
「「ようこそ!!カクレオン兄弟のスケルとトールのアドベンチャーショップへ!!」
ヤケにテンションの高いポケモンだ。しかし、それをぶち壊すように、サンは平然とする。
「おはよ、スケルとトール。昨日説明したと思うけど、ここはこの二匹が経営してる何でも屋よ。探険に行く前にはここに寄って準備をするのがセオリーね。」
スケルとトールのアドベンチャーショップ。安直過ぎるネーミングには脱帽せざるを得なかったが、とりあえずこれから探険する上で欠かせない施設らしいので、頭の片隅にでも置いとくとする。すると、サンの説明を聞いていたスケルが眉を顰める。
「サンさん〜、折角、店の名前があるのに『何でも屋』と概して言われるとなんか萎えます…」
「えーと、リンゴ三個、オレンの実と睡眠の種、それから…」
スケルの言葉など一切耳に入っていない様子のサンは容赦なく注文を突きつける。スケルは涙目になりながらも、サンに注文された物を金と引き換えに手渡す。
「まいどあり〜…」
「さーて、次は…」
サンは次に隣の施設に向かう。ファインとアクアはそれに着いて行く。
「あら、サンちゃん!」
「おはよ、おばさん!ファイン、ここはガルーラのリィタムおばさんの倉庫。探険中で手に入れたものや依頼の報酬とかのあらゆるアイテムをここで厳重保管してくれるわ!持ち物整理の時にもおばさんが手伝ってくれるの。」
「よろしくね、ファインちゃん。昨日は一緒にお話できて楽しかったのよ。このリィタムおばさんに頼めば、何でも守って見せるわ!」
「あぁ、よろしく、おばさん。」
 リィタムおばさんの倉庫。アクタートが昨日言っていたが、セキュリティは世界一と聞いた。あとは人妻であることぐらいだ。
「あ、そうだ!」
リィタムは後ろを向き、尻尾振って機嫌良く何かを手探っている。一分後、顔をあげて何かを取り出してきた。
「あら、あった。はい、ファインちゃん、おばさんからの弟子入り祝いよ!」
「ん、それは…」
「あら、それスペシャルリボンじゃない!」
リィタムが取り出したのはスペシャルリボンというものらしい。色は鮮やかな紫だ。ファインはそれはじっと見て観察する。うん、まさに布だ。
「ファインちゃん、手出して!」
「ん?」
ファインは言われるがままに手をリィタムに差し出すとスペシャルリボンを優しい手付きで腕に巻いてくれる。ファインのオレンジに紫が調和してきた。
「良く似合ってるわよ!」
「そ、そうか?サンキュ…」
ファインは少し照れながらリィタムに礼を言った。彼女は微笑して、サンとのやり取りを始めた。
数分後、サンは準備を終える。
「さーて、準備も整いました!いくわよ、アクア!ファイン!」
「質問〜」
「ん?」
「お前らが付けてるそのピンクのスカーフはなんだ?」
ファインは、アクタートとサンの首元に付けてある布を指差す。
「あぁ、これ?これはモモンスカーフよ。もし毒状態になってもこのスカーフにはモモンの実の解毒成分を散布してあるからね。それですぐ毒が治るわ。」
「ほうほう…」
そんなアイテムもあるのか…って、俺らはそんな危険な場所行こうとしてるのか!?
「アクア、サン!俺の分はねーのか!?」
「あー、そのことなんだけど、ファイン、緊急参入だったからまだ揃ってないのよね。でも、こういうのって何とかなるもんよ。」
あぁ、こいつは何を思って言ってるんだろう。今日が初仕事だというのに、加減を知らないのか!?
「おいおい、勘弁してくれ…」
「大丈夫、毒になったら、モモンの実を食べればいいし、なんなら私かアクアの貸してあげるわ。」
ファインはしぶしぶこの楽観的な空気に従う事にした。これは慣れなくてはいけないことなのか、そう思うと胃が痛くなりそうだった。
こうしてサンライズは冒険の準備が整った。トレジャータウンの正門に向かう。ファインが一抹の不安を抱えていることなどいざ知らずなサンは二人の手を引っ張ってリンゴの森へと急いで行った。
*
「着いたわよ!」
「あ〜!やっと着いたぜ!」
数分後、サンライズの目の前には森が広がっていた。
想像していたより遠かったWリンゴの森Wは想像していたより明るく、木陰が地面に投射されているのがわかるぐらいだった。リンゴの森と言うだけあって、あちこちには大小様々なリンゴが結実している。
「さーて、さっさと行きましょ!」
「敵とか出るんじゃね?」
「そりゃぁ、出なきゃ面白くないでしょ。探険だし、」
「不安しか感じられないのは俺だけか…」
サンライズは森の小道へと入り込む。木々のせせらぎ、虫の鳴き声、そして草の匂いが森特有の世界を創り出す。周りには木々が立ちはだかっていたが、そのせいか結構涼しく、光量も丁度良くなっていた。
「結構、涼しいな。」
「そうね、快適に行けそうだわ!」
しかし、道を進んでいくも見渡す限り周りにはリンゴの木ばかり。あ、たまにオレンの実もあった。そして、肝心のセカイイチは一体どこにあるのやら…
「サン、セカイイチの場所は知ってんのか?普通のリンゴの木ばっかだぞ。」
「もぅ、アクアはせっかちね!もう少しだと思うから我慢しなさい!」
「お前に言われたかねーよ…」
ガサガサッ。その時だ、何処の茂みからか音がした。
「おい、今何か聞こえなかったか?」
「うん、私も聞こえた。」
「敵かぁ〜!?」
ファインが不審な音を聞きつけ二匹に忠告する。サンライズは自然と背中を合わせて臨戦態勢をとる。
「(ポケモンって戦うもんだよな。じゃあ、俺も今は何かしたほうがいいのか…?)」
ファインは初戦闘の予感に緊張感を高める。サンは長い黄色の耳を立てて警戒していた。
「いろんな方向から聞こえるわ。ファイン、よろしくね。」
「えぇ!俺かよ!?丸投げですか!?」
「あなたの戦闘能力見ておきたいし、多分、キャタピーとかその辺だから問題無いわよ。」
「そういうことだ、よろしく頼むよファインくん!」
「アクア、なぜお前の言動はこんなにも俺を苛つかせる!?」
「ピイイイィィ!!」
反駁(はんばく)する時間も無い!サンの言った通りキャタピーの群れが出てきた!一匹なら可愛いが、こう大群で出てこられると気持ち悪いとしか形容が出来ない。
「うへぇ、こいつら気持ち悪ぃぜ…」
「ファイン、さっさとやっちゃいなさい!」
「ったく、どうなっても知らねぇからな!」
ファインは戦線に立ち、キャタピーと対峙する。そして頭の中で自分の使えるだろう技を思い浮かべる。
「出せっかわかんねぇけど…W火の粉W!」
「ピィイ!」
ファインの口を大きく開けて口内から火の粉を吐く!吐き出したそれは見事にキャタピーに命中した!効果は抜群である。
「うお、当たった…。てか、そんな口の中、熱くないな。」
「中々やるじゃない!」
「ファイン、ナイス!」
ファインはガッツポーズをサンとアクタートにして定位置へ戻る。
「ピイイイィッ!!」
しかし、ファインの好プレーがあったものの、数的に此方の不利に変わりない。一匹が雑魚でも総出で集られたらひとたまりもないだろう。さて、どうやって戦況を変えるか…
「サン、どうすんだこれじゃ俺のW水鉄砲Wでも難しいぜ!」
「そうね…、ん、W水鉄砲W…そう、W水鉄砲Wよ!」
サンが何か閃いたようだ。小声で二人に作戦を話す。二匹とも内容は理解できたが、それを実行できるかどうか不安に思った。
「ホントにできんのか?」
「心配しないで、アクア。多分…いける。じゃあ、ファイン、よろしく!」
「あぁ!!」
ファインはキャタピーの大群に前に立つ。そして、ある技を繰り出した!
「W砂かけW!」
砂埃がキャタピー達の視界を奪う!彼らの辺りは砂埃に包まれた。右往左往してサンライズの行方を探す。その瞬間、外からアクタートの声が響く。
「喰らえ!W水鉄砲W!」
「ピィ!?」
突如、砂塵から水鉄砲が出てきた!砂を吸収した水流はキャタピー達を飲み込む!
「今だ、サン!」
「わかってるわよ!W電気ショックW!」
「ピイイイイイイイィィィ!!!」
水を浴びたキャタピーの大群は電気ショックを喰らう!水で濡れた体にはひとたまりもないだろう。キャタピーの断末魔が響く!
「ピィ…」
「よし、やったぜ…」
すると、サンがファインとアクタートの肩を両手で寄せる。そして、ニコニコと微笑みながら言う。
「あんた達、凄いわ!」
「んお、」
「サン、違うだろ。」
「?」
アクタートの言葉に疑問する。そして、アクタートは腰に手をやって答えた。
「W俺たちWだろ?」
「ふふっ…アクアにしてはカッコイイんじゃない?」
「ん…そ、そうか?」
「クサイ台詞だな!」
「んぁ、なんか文句あんのか、ファイン!」
「ほら、喧嘩するんだったら早く先行きましょ!夕食に間に合わないわよ!」
サンライズは笑い合いながら森の奥へと進んで行った。
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・
「サンライズ…、結構実力があるようだな。」
「そのようですね、W王様W。」
「人間界から来たと言うあのヒトカゲは中々できるではないか。予想以上だ…」
「貴方は強い方がお好きではないですか。」
「フフフ、よくわかってるじゃないか、ワンダーよ。」
「それであのピカチュウ…」
「まさかな…」
不気味に会話を交わす二匹のポケモン。一体、彼らは何なのか。ファインたちはそんなこと知る由も無かった。
to be continued......