第三話 ようこそ、プクリンのギルドへ!A
今日は新しい弟子にWファインWが入ってきた。元人間っていう変な子だけど、これからまた楽しくなるよね。新しい日の始まりだ。
by リヴ
*
「じゃあ、みんな自己紹介、自己紹介♪」
プクリンのリヴが小躍りして皆の紹介を促す。彼らはざわざわと誰から自己紹介をするか揉めているようだった。別に誰からでもいいけど。
そして、決まったのか一匹のポケモンが前に出る。
「ちょ、押すなって!全く…。おっと、すまねぇ、俺はドゴームのノイザだ。このギルドの目覚ましと見張り番を主に担っている。そして、こいつが俺の相棒のディグダのグジッド。」
「よ、よろしくお願いします!」
ファインも同じ様に切り返す。そして、ノイザとグジッドが一歩退いて別のポケモンが前に出てきた。
「キャー、次は私たちね!私はキマワリのロスナスっていうの、皆からはロスナって呼ばれてるわ。」
「私はチリーンのサマベルです。よろしくお願いします、ファインさん。」
「あぁ、よろしくな、ロスナ、サマベル。」
「キャー!!いい声過ぎて私、心が射抜かれそう…ガクッ」
「ロスナ、しっかりして!あぁ、ファインさん心配なさらずに!たまにこうなるんです…」
「まぁ、確かにファインは声はいいわよね?」
最後にサンが余計なことを言った気がするが、あえて無視をかます。ロスナスがサマベルとノイザに別室に運ばれて行くのを後目に自己紹介はまだまだ続く。
「では次は私だね。私はグジッドの父のガジッドだ。そこに掲示板があるだろう?私はあれの更新係なんだ。」
「更新?」
「まぁ、後で質問があったら来てくれ。」
『見張り番』とか『掲示板』とか様々な単語が飛び交っているが、どれもいまいちよくわからない。探検家には必要な存在なのだろうか。
「じゃあ、次はワシだな…ワシはグレッグルのウィリー、好きなものはこの壺だ。この壺はな…ムフ、ムフフフフ…」
自分の中の何かが引いていった。ファインはやっとわかった。このギルドは変人ばっか集まるギルドだということを。
先が思いやられる気もしたが、まだ皆のことを詳しく知っている訳ではないので何とも言えない、と思い直す、というか言い聞かす。まだ紹介をしていないのは見る限り、後二匹か…。
「次は俺だな、ヘイヘイ!俺はヘイガニのセラブだ!よろしくな!」
「最後はあっしでゲスね!わいはビッパのブランドというゲス…うぅっ、」
「おい、どうした!?」
「三匹目の後輩でゲス…嬉しいゲス…!」
「ん、三匹目?最初の二匹は誰だ?」
「それは、アクーーーふぐっ!?」
ブランドが名前を言おうとした途端、アクタートとサンがビッパの口を閉じにかかった。そして、二人の顔はいかにも動揺を隠せていない様で…。なるほどね。
「お前らか、最後の二匹って…」
「う…そ、そんなわけないよな、なぁ、サン?!」
「そ、そうよ!決して、最初の二人っていう最下位の立場じゃないのよ!」
「別に隠すことはないのにな…、まぁ、さっきまでサンが偉そうにしていたのはちょっと許し難いが…」
ファインが嫌疑に満ちた目で二人を見る。勿論、二人は動揺しており、冷や汗がドバドバと出ていた。一方で、ブランドは状況を全く理解出来ないでいた。ひとまず、全員の自己紹介を受けた。次は自分だ。
「まぁ、いいや…。じゃあ、俺も紹介しなきゃな。俺はファインだ。信じられないと思うが、『元』人間でそのことと自分の名前以外殆ど憶えていない。まぁ、言葉とか知識は消えてないっぽいけど…。とりあえず、よろしくな。」
すると、リヴが自己紹介を終えたのを見計らって手を叩いた。皆の視線はリヴの方向に集まる。
「よし、皆、自己紹介も終わったし仕事にかかろうか。」
「「「おぉー!」」」
皆は掛け声とともに散会し、それぞれの持ち場へと就いた。残ったのはリヴとアルト、そしてファインたち三人組だ。
「で、俺らは何すればいいんだ?」
ファインが疑問するのは当然のことである。そこで、親方リヴはある提案を持ちかけた。
「とりあえず、サン、アクアでファインにトレジャータウンの案内をしてよ!」
「そうね、いきなり足手まといになっちゃ困るし、此処の施設に詳しくなきゃ一流の探検家になれる訳がないわ!」
「よし、アクア、案内してくれ!」
「おぉ!」
「ちょっと、無視…?」
リヴは二人に任せてアルトと共に親方部屋にへと戻って行った。
ファインたちは話し合いの結果、一旦外に出ることになった。サンは晴れ晴れした空の下で思いっきり伸びをして深呼吸をする。
「さーて、始めますか。まず、改めて紹介させてもらうわね!私はサン、見ての通りピカチュウよ。よろしくね!」
「俺はアクタートだ。もう気付いてると思うが、みんなからはアクアって呼ばれてんだ、よろしくな!そして…」
すると、二人がバッチを見せつけてきた。丸い球体を中心に羽が生えている、なんとも不思議な形状だ。
「これは?」
「探検隊バッジだ、簡単にいうと探検家であること身分証明みたいなもん。ほら、これはファインの分だ。さっきリヴから預かってきたぜ。」
アクタートからバッジを受け取る。ファインは触りながら表、そして裏へと見て行く。
「ふーん、ん…何か書いてある、WサンライズW?」
「あぁ、それは俺らの探検隊の名前だ。」
「将来はあの朝日のように美しいそして、輝かしい探検隊になれるようにって思ってつけた名前なの。」
「サンライズねぇ…」
ファインはしっかりと探検隊の名前を心に刻み込む。これからはこいつら共にしていくんだ。甘い決心じゃ、きっとすぐに追いつけなくなるだろう。
そして、サンがファインの仕草を確認して説明を始めた。
「じゃあ、案内始めまーす。え?、右に見えますのは…」
「普通にお願いします。」
「…」
ファインはボケはいらないと言わんばかりの丁重な忠告をサンに放つ。サンは咳払いをして誤魔化し、説明を再開する。
「じゃ、じゃあいくわよ。ここは私たち探検家のコミュニティの『プクリンのギルド』。リヴの血筋の人たちが代々親方を勤めるからこういう名前になったのよ。で、私たち弟子はここで寝食を共にしてるわ。」
「ふぅん…」
つまり、俺も今日から此処が寝床っていうわけか。もしギルドに入ってなかったらと思うと、寝床すら危うかったのだろう。
次に、サンはファインらを先導していき目的地へと向かう。
「じゃあ、こっちきて!」
「…!!これは…!」
「ここが、トレジャータウンだ。」
ファインが見たのは簡単にいうと、商店街のような賑わいだった。規模的には小さいが様々なポケモンが店の主人たちと会話をしている。思わず自分までも高揚してくる。
「こんな活気がある場所があったんだな…」
「凄いでしょ?皆、ここで探検の準備をしたり、修行したり、情報を交換し合ってるの。じゃあ、一件ずつ回って行こうか♪」
周りを見て回ると活気が直に伝わってきた。訛り口調で話す者もいたのできっと地方から来たポケモンもいるのだろう。トレジャータウンは探検家の憩いの場という訳か。
「ん、おい、あっちみろよ。噂の新人だぜ。お〜い、サン、アクア!」
歩き回ってると、三匹のポケモンが近寄ってきた。一匹は長い爪と胸から腹にかけた赤い模様が特徴のザングース。もう一匹は今にも一刀両断しそうな大鎌が武器のストライク。更に、背中の針山と鋭い爪のサンドパンだった。
「おはよ〜。ファイン、紹介するわ。チーム『かまいたち』のストライクのシザーとサンドパンのニーアとザングースのネルよ。」
「もう今は専らお前の噂でトレジャータウンは持ちきりだぜ!ファインっていうのか、よろしくな!」
「あ、あぁ、よろしくな。」
ファインは気さくな性格に戸惑う。しかし、裏を返せば皆が自分を受け入れてくれてるということなので不思議と安堵もした。先行き不安だが普通に暮らす分には安心出来るだろう(たぶん)
「よし、ファイン!今度はこのネルと勝負だな!」
「ネル、ズルいよ。オイラ、ニーアともやってくれ!。」
「勝負?」
サンがかくかくしかじかとファインに説明する。
「ふーん、ここにいるやつらと全員戦ったことあんのか。」
「今な50勝50敗なんだ!お前と勝負するまで他の奴らとやり合うのは我慢してやるからさ!」
「おぅ」
自分もポケモンになったということは何か技が使えるのだろうか。ヒトカゲはW引っ掻くWとかW火の粉Wあたりか…。
そして、暫く談笑を交わしてチーム『かまいたち』とは別れた。そして、サンに銀行、お世話屋、修行場、連結屋、そしてショップと次々に案内された。しかし、各の店で話をしていたせいか昼を既に過ぎてしまっていた。
「(あー、疲れた…)」
今日で何匹と出会ったのだろうか。少なくとも、十数匹だと思う。早く馴染むためには顔と名前を一致させなくては…。すると、サンがファインの疲れなど気にせずにこう言った。
「じゃあ、次が最後ね!いきましょう!」
「ん?」
サンが走っていくのに付いて行く。まだ行ったことのない所か。トレジャータウンの喧騒は薄れていき、ヤミカラスの声が夕陽色に彩った空遠くから微かに響く。
「……。」
それにしても、何故、こうなってしまったのか…わからない。きっと、意味なくこういう状況になった訳ではないだろう。きっと、何かーーーーー
ーー『僕を助けて…』
そうだ!あの声、意識が遠のく時に聞こえた声、あれは一体なんだろう…。とても悲しそうで寂しそうで苦しそうな声だった。もしかすると、自分の身に起こった出来事に関係しているのかもしれない。ファインはそう思うことで自分を宥めた。儚い依り所。だって、何を考えても謎は深まるばかりでーーーーー
「ファイン、……ファイン!」
「…!」
ファインはサンの声で我に返る。気が付くと、サンがファインを顔の下から覗き込んでいた。アクタートもファインの肩を叩いて様子を見ていた。
「お前どうしたんだ?ぼーっとしちゃって…」
「いや…何でもない!」
「変なの!そんなことより、ここが最後の『サメハダ岩』よ!」
ファインはやっとここが崖の上だということに気付く。落ちないよう慎重に淵まで近づく。そこからは広大な海が展望出来た。蒼く雄大な海は空の雲や太陽を鏡の様に映し出していた。この海なら自分が何か知ってるのだろうか。自分を此処、アクタートやサンのいるこの場所に流してくれた海なら…。しかし、聞こえるのは微風と無限に続く海鳴りだけで蒼海は何も答えてくれはしなかった。
「きれいだな…」
「でしょ?案内はこれで終わりね!時間結構余ったから後は自由時間ってことで。他の探検家と会話するのも良し、ギルドについてもう少し聞きに行くのも良し、あるいは寝ても良し!」
「なぁ、サン、アクア。」
「?」
「なんだ?」
「俺は此処にいていいのか?」
「あったりまえじゃない。あんたがどっか行く理由なんて無いじゃないの、それにーーーー」
「それに?」
「あなたが…ファインがどんな人間か気になるじゃない!ただそれだけよ!」
「はぁ…それだけの理由でかよ。」
 それだけ、だった。サンは言ってくれた。此処にいなくて理由なんてないんだ、とりあえずだけど。もしくは、それはまだ見つかってないだけなのかもしれない。
「まぁ、ファイン、気にすんなって!俺だって、最初、お前を不気味で電波な頭おかしいヒトカゲって思ってたけどよぉ、段々と人間って何なのかって思い始めたんぜ!」
「一発殴っていいか?」
理由なんて後で、見つければいい。不思議と此処は自分に安寧をもたらしてくれる気がする。何故だろう、感じたことのある気持ちだ。忘れた記憶からの幻影だろうか。
まぁいい、大丈夫、いつか絶対見つけてやる。昔の自分を、人間だった時の自分を…。
「一回、ギルドに戻ろうぜ。もう暮れてきたし。」
「そうね、ファイン、行きましょう!」
「おぅよ!」
俺はサンの手をとった。
いつか見つけてやるこいつらと一緒に…絶対!
待ってろよ、昔のファイン!
to be continued......