ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪の狭間で





小説トップ
-第一章 日常という名のスパイラル!-
第三十六話 End of the day

もう、この世界に来て半年以上だ。俺はこのまま無為に過ごし続けるのだろうか。俺は一体何者なのだろうか。何故ポケモンになってしまったのだろうか。




遠征から早一週間。ギルドにはいつもの日常が流れていた。


「うぅ、まだ痛い…」
「病院行ったの?」
「行ってませんよ…」

親方部屋で会話をしているのは、ペラップのアルト、プクリンのリヴだ。アルトは耳を押さえて鋭い痛みを堪えてた。

「多分、遠征の時の傷だよね?」
「変な技使われたんですよ…。W輪唱Wとかいう技なんですけど、連続で使われると威力が上がるっていう。耳に直接攻撃されてる感じなんです…うぅ、痛い…」
「病院行きなよ。悪化したら、大変なんだから!」
「それはそうですけど…」

アルトは何故か病院に行くのを躊躇っていた。それを見たリヴは仕方なさそうに、

「じゃあ、僕が連れて行ってあげるよ!」

と、言った。それにアルトはギョッとし、慌てふためきながら首を横に振る。

「そ、そんな親方様の手を煩わせるななど…」
「いいの、いいの、僕たちは友達、友達〜!」

「いや、ホント、マジで…」

抵抗し続けるアルトを無理矢理引っ張って、部屋をひとまず出た。すると、彼らの前に一匹のヒトカゲが走って行く。そのポケモンは立ち止まって、

「よぉ、リヴ、アルト。何してんだ?」

と、元気良く言った。リヴは彼に困った様に笑ってみせる。

「おはよう、ファイン。これからアルトを病院に連れて行くんだ!」

ファインはリヴの後ろで引っ張られてるアルトをまじまじと見る。彼の顔は汗がダラダラと流れていた。傍(はた)から見ても嫌がってるのは明確である。

「アルト、ガキじゃないんだからちゃんとお病院に行かなきゃダメでちゅよ。」

ファインはわざと赤ちゃん言葉で話す。すると、アルトが見事に挑発に乗ってきた。

「ば、馬鹿にするな!私のような有識者がどうして病院にいけないことがあろうか!」

「訳すると、『絶対行けます』ってことだね!さすがアルト!」
「偉いなー、アルトー。」

「ぬわっ!しまった…」

「じゃあ、ファイン行ってくるね。君達も用があるから、今日休みとったんでしょ?」

「おぅ。外で皆が待ってんだ。」

「そうなんだ。折角だからゆっくりしてね。でも、遠征が終わったあとだからって気抜いちゃ駄目だよ?メリハリはつけてよね。」

ファインは、もちろん、と言って余裕そうに返事した。そして、リヴは呆然とするアルトをおんぶして梯子を登っていった。

「ハハッ、リヴも大変だな」

二匹を見送り、自分も目的の場所に行こうとした時だった。

「ファインさ〜ん!」

「ん?…よぉ、サマベル!」

声の主はチリーンのサマベル。彼女はニコニコしながら何かを持って寄ってきた。

「ファインさん、サンライズ宛にお手紙です!」

「手紙?」

ファインはサマベルから手紙を受け取る。赤で縁どられた手紙でどうやら速達のようだ。裏側を見ると、小さく『リーク』と書いてある。

「お、来やがったな!どれどれ…」

遠征途中で訊く予定だったW彼Wの両親の行方。が、あんなこともあり、うやむやになってしまっていた。そこで、帰った後に慣れない手紙を村長へと送りつけたのだ。そして今、その返事が来た!
ファインは嬉しそうに封筒から手紙を丁寧に取り出す。二つ折りにされた紙を開いた。

「(ふーん…。これはあいつが聞いたら喜ぶな!)」

手紙の中身は朗報だった。ファインは微笑して皆が待つ海岸へと急いだ。





一方でここは、W地底の湖W。白砂が散乱して静止した湖が冷たく輝いていた。そこには神々が厳かな雰囲気を放っている。

「僕ら四匹が揃うのは久し振りだね?」

まず、言葉を放ったのはデザイア世界五大湖統括者、及びW護神の湖Wの守護神ミュウ。彼はつい最近まで意識だけの存在だった。しかし、サンライズのおかげで身体を取り戻すことが出来たのだ。

「そうね、私すっごく楽しみにしてたのよ!」
「私もまた会えて嬉しいです!」
「こう揃うと、流石の俺も懐かしく思うぜ。」

残りの三匹は湖の守護神であるエムリット、ユクシー、アグノムだ。本来性別はないが、ミュウは便宜上、全員『彼女』としている。
彼等はしばらく雑談を交わした後、本題に入った。

「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか…いずれ来るWハザマWに備えて!」





波が静かに打ちつけ、潮騒が心地よく流れる海岸。まだ昼前の空は煌々と輝く太陽によって照らされて、砂浜も透明な白砂が光を反射させてキラキラと輝く。そして、彼等は今、側にある岩礁の上でファインが来るのを待っていた。

「遅いわね〜。」

「というかさ、折角の休みをこんな風に使っていいのか?」

「ファインが今後の方針を話したいんだって。」

ゼニガメのアクタートはピカチュウのサンのそれを聞いて、へぇー、と生返事をする。
すると、ファインが慌てたように駆け下りてきた。彼は急いで岩礁を登ってくる。

「はぁー…はぁー…、すまん!待たせた!」

ファインは息を荒げて謝った。二匹は深い溜め息を零して、ファインに言う。

「言い出しっぺ何だから、ちゃんとしなさいよ。」
「全くだ、ふんっ!」

「だから、ゴメンって!…で、一匹いないけど?」

二匹は岩礁の沖側の方を指差した。ファインは指す方向に這って進んでそこから下を覗いた。

「いたいた。」

「何か最近テンション低いのよね。」
「何でだろうな?依頼とかしばらくは上手く行き過ぎて恐ろしいぐらいなんだけどな。」

彼はボーッと沖をずっと眺めていた。特に、ホエルオーやホエルコの群れなどがそこにいる訳でもなく、ただ静かに波立つ水平線を見つめていた。

「よっと!」

「ちょっとファイン危ないわよ!」

サンの注意などもろともせずに岩礁のてっぺんから跳ぶ。そして、見事に着地…

ダンッ!

「うぅ…痛ぇ…」

…とはいかなかったようだ。ファインは足に襲いかかる垂直抗力に悶える。

「ファイン、大丈夫…?」

急に横に舞い降りた彼に驚きつつも心配するのはフシギダネのシード。ファインは歯を食い縛って痛みを耐え切る。

「おぅ…大丈夫だ。」

涙目になりながらもそう答えた。それにシードは安心して、また遠くに伸びる海に目をやった。

「(シード…)」

ファインはそっとシードの前に手紙を出した。

「どうしたの、ファイン?これって、手紙?」
「いいから読んでみろって!」

シードは不思議に思いながら手紙を蔦で持って読み始めた。ちなみに、内容は以下のようである。

『サンライズ様へ

サンライズ、元気にしておるか?もう少し丁寧に書こうかと思ったが、お主らなら別に問題なかろう。
今は村民の全総力かけて復興に励んでる。私の孫も一生懸命やってるが、イークに叱られているからな…子供の割にはって言っといた方がいいかもしれん。
そうそう、君らが帰った後、いろいろ大変だったんじゃよ。
まず、警察が寄って集るようにきたんじゃ。きっと爆発の煙を見た誰かに通報されたんじゃろうな。事情聴取、現状など色々訊かれたんじゃが、とりあえず今回のテロの犯人のことは言っといってやったぞ。こういうのはやはり、専門職の方に任せるのが一番じゃ。
さて、ファイン君が言っていた、シード君の両親の行方についてだが少し心当たりがある。彼はフェシル村で起こった大火事の被害者だということを知ってピーンと来たんじゃ!
先日、W神秘の森Wで集団移民が来たそうなんじゃ。そこにわしの知り合いがいるんじゃが、確かにフシギバナが数匹は来たらしいんじゃ。他のポケモンもゾロゾロ入り込んで来たそうなんじゃが……不安なのは全民受け入れてくれたかどうかなんじゃよ。ひとまず、わしからの報告はこの程度じゃ。
また、暇あれば村に遊びに来ておいで。じゃあの。

リークより』

「(お父さん、お母さん…!でも…)」

シードが読んでゆっくりと手紙を閉じた。ファインは計ったように

「シード!両親がいるかもしれないだってよ、良かったな!」

と、言った。しかし、

「うん…」

シードの反応は裏腹に結構イマイチだった。予想外のことでファインは不思議そうにした。一番喜びそうな筈なのに…
すると、上から彼女らの声が振ってくる。

「ちょっとぉ〜!ファインたち上がって来なさいよ〜!」
「話し合いやるんじゃねーのか?」

「おぅ、今行く!シード行こうぜ。」

「う、うん…」

二匹は海岸の水を蹴りながら岩礁へと登って行った。







時は約一ヶ月前に遡る。

『ここが、ポケモンだけの世界か…。』

『さて、何処にいるんだ。ファイン?』

という風に、前話でカッコつけて登場したものの、一体この俺の有り様はなんだ…!

「クソ…なんだ、この進みにくさ!」

緑色と桃色の体躯とがっちりとした太腿(ふともも)、そして長くしなやかな葉。そう彼はジュプトル。
今の彼の状況はというと、足に蔦が絡まり、何故か腕にも執拗に絡まってくるという状態。彼は汗を滴らせながらジメジメしたジャングルの中を当てもなく進んでいた。

「全く、クソ研究者共もちゃんとやってくれよっ…!」

そう叫ぶと同時に絡まった蔦を力尽くで千切る!彼は息を切らしながら足を前へと踏み出す−−−−その時だ。


プスッ


足に違和感を感じた。

「痛っ…!何か踏んだ、ぁ…?」

その刺激と共に身体から力が抜ける。彼はそのまま後ろに倒れてしまう。今度は背中に痛みが走った。

「うっ…」

横目で地面を見ると、棘の様なものがたくさん散らばっていた。彼が回らない頭で何が起こってるのか息を荒げながら考えていると、周りの草叢からゾロゾロとたくさんの影が出て来た。

「この森にこんなブービートラップに引っかかる奴なんかいたんだな。」
「エモノだ、エモノだ〜!」
「ただのW毒びしWなんだけどね〜。」

「(ポケモン…?)」

彼はW毒びしWという言葉から、今、毒で冒されてると思った。

「皆で均等に分けようぜ。こんな大物は久し振りだからな〜。」
「私、この太腿(ふともも)頂き!」

こいつら俺を喰うつもりかなのか?彼は背筋がそばだった。だが、動く力がない。でも、ここで死んでいいのか…。

−−『よくやったな、偉いぞ。』

いや、違う。俺はあいつ、ファインに会うためにそして…そうなんだ。
彼は力を入れてフラフラと立ち上がった。

「げっ!起きちゃった!」
「何よ今更!トドメさしちゃえば…」

「おい」

すると、彼は淡黄色の目で敵を睨む。敵も警戒して一歩下がる。

「随分と手荒い歓迎だな。」

ジュプトルは右腕の三枚の葉を一枚の刃に変える−−−すなわちWリーフブレードW
そして、ジュプトルの周りには気迫(オーラ)が漂っていた。彼の特性W深緑Wが発動したのだ。
敵は彼の眼光に戦(おのの)いた。

「こいつ猛毒食らって立ってる…」
「だ、だいじょうぶ、それでも…」

敵が言い返そうとしたその時だった。敵の横にスっと風が通った。そして、敵の頬に赤い線が刻み込まれた。

「やるか…?」

ジュプトルの彼はいつの間にか敵の背後にいた。振り返って、血の付いた刃を敵に向ける。

「速い…」
「こいつヤバイかも!!」
「て、撤退だ!」

敵は嫌な予感に先程の余裕など早々に捨て去り、一斉に逃げていった。ジュプトルは気配が消えたのを確認して、攻撃態勢を崩した。

「ふぅ…(あれが…ポケモンか。俺と同じ…)」


−−−『頼んだぞ、アトレ…』


彼は思い出していた。自分が人間界にいた日々を。彼、すなわちジュプトルのアトレはこの世界に来て、自分がポケモンであることを再認識した。

「ぐっ…!」

彼は嗚咽をもらして、すぐ側の樹木に寄りかかり、背中をズルズルと擦って地面に座った。

「(毒が回って来やがった…)」

戦闘中は実のところ気力で立っていた様なものだった。しかし、無理が祟ったのか、身体は既に猛毒の侵食になすがままだ。

「(目の前がボヤけて来やがった…。ここで最期か…?)」

俺は一体この世界に何しに来たんだよ、アトレは思った。彼は耐え切れず重くなる瞼に従った。

「(ファイン…すまねぇ…)」












「…じょーぶ?あ…た…」

誰だ…

「ね…。…い!」

ダメだ…。

アトレは意識を失った。







「もうそんなに経つのか…」
「時間が過ぎるのは早いわね」

ファインがこのデザイア世界に身を置いてから半年以上が経った。自分は一体何の目的にこの世界にきたのだろう。その疑問を抱え続けてそれだけの月日が流れた。
岩礁の上で静かに打ち立てる波の繰り返しの動きを見て、ファインは言う。

「サンとアクアは俺に最初出会った時にどう思った?」

二匹は顔を見合わせて同時に言った。

「不審者だな!」
「変人よ!」

「…だろうと思った」

ファインは呆れ気味に返事する。でも、それは自分自身も思っていた。なんせ記憶が吹っ飛んでしまっているのだから、この身体は自分のものの様ではないと感じることもなくはない。だからと言って、もし記憶が戻ったら俺はどうなるんだろう…
すると、アクアが口を開く。

「でもよ、お前が来てから色んなことあったよなー」

「そうなのか?」

「あなたが来てから恐ろしく怒涛の毎日!」

ファインはそれに申し訳なくなった。今の発言はある意味で俺が此処に存在していることが『王様』に関してに重要事項にカテゴライズされていることの歴(れっき)とした証明だったから。
二匹は気にせず、話し続ける。

「シードはまだいなかったけど、私たち三匹の最初の任務覚えてる?」

「セカイイチ取りにWリンゴの森W行ったやつか」

「懐かしいなー。そこでフリクトと会って…」

「お前が負けたと」

ファインはボソリと呟く。アクタートはからかわれたようで、カチンと来る。

「あんときは油断したんだよ!次はぜってぇ勝つ!」

「どうだかね〜。」

「勝つって言ったら勝つんだ!」

感情が昂り立ち上がるアクタート。サンは呆れたように、

「ちょっと、熱入れ過ぎ」

と言い、彼を諌めた。彼は、だってさ、などと言いながら不服そうに座る。
ファインは意地悪に笑いながら、話を進めた。

「はははっ!…で、次はチーム『タベラレル』だったな。」

「ハングの奴、オオスバメのクセにサツキ病にかかりやがって…。本当に全く別の性格になってたからな〜」

「ティミッドのおかげでなんとかなったじゃない」

「まぁな。しかし、『タベラレル』というのはオオスバメとケムッソの皮肉な運命を暗示してるとしか思えねぇぜ」

ファインがそう言った瞬間、二匹の視線が集まる。それに違和感を覚えていると、

「ファイン、」
「それは暗黙の了解だからもう言うなよ。」

「う…すみません」

どうやら禁忌(タブー)だったようだ。後で聞いた話だが、ティミッド自身は自覚しているらしい。

「(ん?そういえば、何か他にあったような……)」








「クチュンッ!」

「ミュウ、大丈夫?」
「風邪なんてお前らしくないぜ。」
「私が治しましょうか?」

「だ、大丈夫だよ!(また、ファインが何か言ってる…)」





サンは溜め息を吐きながらも沈んだ空気を取り戻すように先に進めた。

「そう言えば、ルリとポードいたじゃない?」
「マリルの兄弟だよな?」
「うんうん!で、ルリを攫ったリープっていたじゃない?」
「あの変態スリープか…。逮捕されたし。ヤツがどうしたんだ?」

そして、サンは大きく口を開けて言う。

「とっくに、釈放されてたらしいの。」

「ええええっ!?」
「それホントかよ!?」

二匹は当然驚く。自分達は犯人の逮捕を目前で見たのだから、その釈放は少しの意外が混ざっていた。

「どうして釈放?」

「買い物してる時に、スケルとトールから聞いたんだけど、不起訴だったらしいのね。つまるところ、あの兄弟は被害届とか出さなかったってこと」
「へー、てかまずこの世界に裁判所とかあるのかよ!!?」
「うmn、ボンズ大陸には数カ所あるらしいわ。ライト大陸も近代化は進んでるからいつか建てられるかもね」

ここにそういう場所があるのは驚きだった。文化があるのだから当然と言えば、当然なのだが。とりあえず話をリープの事件に戻す。

「やっぱりあれって現行犯逮捕なのか?」
「そうでしょ。マグティーン保安官が連れて行ってたじゃない。」

ということは、今現在、あいつは今も悠々とこの世界にのさばっている訳か。ファインはなるほどと思う。しかし、不起訴とは驚きだ、一体何故だろう。
そして、しばらくシードを放って置いたのに気付く。気まずく思い、次の話題を繰り出した。

「そっから、少し経ってシードと会ったんだよな」

「そうね〜。森がめちゃくちゃでショックだったけど、シードがそこにいたのよね」

シードの方を見ると、急に見られたせいかシードは顔を赤らめて焦っている様子だった。

「シードってば本当最初うじうじしてて正直言うと、ちょっとイラついたかも!」

「うぅ…」

サンの言葉に落ち込むシード。しかし、サンはすぐにフォローを入れた。

「でも、今は出会った時と全然違うって感じ。頑張れば変われるんだなぁって思ったし、ちょっと自信もらちゃった!」

サンは嬉しそうな、しかし、何処か寂しげな表情をしていた。風がそっとサンライズを包み込む。
すると、サンが続けて言った。

「シードは何か色々と思うことある?さっきから黙ってばっかりだけど」

「べ、別に…」

「遠慮はいらないぞ。俺たち仲間じゃねーか!」

アクタートもフォローを入れた。しかし、シードはまだ落ち込んだままである。
ファインはこの状態が続くのも嫌だったので、無理矢理話題を変える。

「シードと言えば、ボーンが攫われた時にスゴいかっこ良かった!」

「あ〜、そうそう、それ前々から聞きたかったの!あの時は、私も大変だったし…」

「シードってばさ……」

ファインはシードの事を楽しげに話した。ピンチの時に彼自身の意思で守ろうとしてくれたこと、恐怖に立ち向かったことなど色々話した。

「シードは俺のベストヒーローって訳よ♪」

「やっぱりそういうのカッコいいよね。私も頑張らなきゃ!アクアもフリクトに負けないぐらい頑張ってね♪」

「お、おぅ!もちろんだ!」

三匹は笑い合う。今だからこそ笑い話に出来るが本当にあのときは絶体絶命で大変だった。そして、そこから俺らが『王様』との間接的、というよりはむしろ一方的な押し付けのような関係が明らかになった。

「はは、そうだね…」

一方でシードは冷淡な反応。何というか今までの彼に戻ってしまったような、そんな感覚が佇まいから滲み出ていた。
ファインは気を取り直し話題を変える。

「そう言えば、フロウから言われた事件のことまだちゃんと調べてないな」

「そ、そうだな。大虐殺事件のことだろ?あれ、結構な悲劇だったらしいぞ」
「私、初耳だったんだけど、もっと詳しく教えてくれない?」

アクタートは知ってる限りのことを話した。
要約すると、事件は恋愛絡みが原因の無差別の虐殺ということらしい。犯人は既に捕まって服役中。そして、先日のボンズ大陸への任務でフロウは事件の数少ない生き残りであること(厳密には事件に巻き込まれたとは言い難い)がわかった。

「警察が約一年もの村とその周辺の捜索をかけた。その結果、犯人がやっと見つかったワケだな」

「犯人ってどんなやつなの?」

「そこがわかんねぇんだよなー。俺も聞いた話だからこのぐらいしか覚えてない!てか、恋愛絡みでこうなっちまうなんてコエーな」

犯人の情報が一切無いのはいかにも不自然だ。調査を頼まれている分、こうなると至極難しい依頼だ…。




『事件の捜索をして欲しいのです!』



それ以前に、あの彼女の言葉は明らかにおかしかった。
それは、犯人は既に捕まっているのに、どうして再調査は頼んだのだということだ。彼女はこの結果にきっと疑問があることは確かだろうけど、一体何を思ったのだろう。犯人が捕まったなら少しは無念が晴れると思うのだが…。
服役中の犯人は冤罪?幻影(フィクション)?色々、思ってもどれも取り留めのない空想に終わった。

「ねぇねぇ、ファイン?」

サンが話しかけてくる。ひとまず、事件のことを推理するのを止めて彼女の話に耳を傾ける。

「何?」

「そろそろ本題入ってもらってもいいんじゃない?」

サンは意地悪そうに囁く。ファインはうっかり話し込んでしまい、メインを忘れていた。

「おっと、すまん。じゃあ、始めるか…サンライズはどうこれから活動するか。色々なことを含めてな」





『アルトさんー、五番、診察室に来て下さーい』

アルトに対して処刑とも思えるアナウンスが流れる。アルトはガクガクして意地でも長椅子から離れまいと背凭れにしがみ付く。

「ほら、アルト、行こうよ」

「お、親方様!心配は無用なので帰って大丈夫ですよ!私オンリーで行けますから!」

「遠慮しなくていいよ♪ほら、さっさと行くよ」

リヴはアルトの首元を獲物を捕らえるように掴む!アルトはバタバタと抵抗するが、綺麗な白い床をなすがままに滑っていた。

「ママ〜、あのおじちゃん、何ーい?」
「こら、見ちゃいけませんよ!」

度々、掛けられる嘲笑に気が滅入るがそれ以上に診察が嫌だった。だって…



「はーい、そこに座って。横向いて。


「……嫌です」

「全くアルトったら…!」

リヴは無理矢理、アルトの首を横に矯正する。首から嫌な音が鳴る。

「お、親方様ああああ!お止めにいいいいい!!!」

「子供じゃないんだから!お医者さんお願いします。」

「痛い時は手を…君の場合は羽を上げてね〜」

そして、アルトの耳に金属の棒が挿入される。医者はライトで穴の中を照らして、病因を探る。

「う〜ん…」

「(う〜っ!!耳の中、探られてる〜!!)」

「ん?」

何かを見つけたのか、医者がツンと鼓膜を突く。

「痛いっ!!」

アルトは尋常ではない速さで羽を上げる。リヴが珍しく呆れたような顔をする。

「うわ〜、これは中耳炎だね。急性のだけど…。これ痛いでしょ?」

「今さっき叫んだじゃないですか!?」

「どの位から痛む?」

「い、一ヶ月弱前からです。で、でも、痛みは段々と落ち着いてきたんですよ、ははは…。」

まるで何かから逃げるように強がるアルト。医者は耳の中を覗きながら続ける。

「痛みがなくなってきたとなると、大変かもしれない。ほっとくとマズイんだ。」

医者は一旦、手を止めて、机の上に目を移し、カルテに病状を記入していく。アルトはチャンスとでも思ったのか、

「あ〜、そうですね…それ痛み消えますもんね。でも、痛み消えますからもう大丈夫ですね。それじゃ、帰りますね」

と、意味不明な言い訳をして立ち上がろうとする。しかし、肩が急に重くなり椅子から離れられない。リヴが肩を掴んでいるからだ。

「親方様、お願いします。緊急事態です。どうかその御手(みて)を私から離して下さい。」

「ダメだよ、アルト〜!そんなんじゃ、君のことが心配で夜も寝れないよ!友達なんだから助けてあげなきゃ☆」

リヴのこの悪気の無さそうな言葉に悪寒するアルト。すると、医者はペンのキャップを締めて再び中耳炎患者に体を向ける。深呼吸を一泊置いてアルトにこう言い放った。

「治療方法は二つあります。抗生剤投与、もしくは鼓膜切開です。どちらがいいですか?切開の方が早く治ります。一瞬、辛いですけどね」

もちろん、アルトは抗生剤投与に賛成だった。しかし、

「アルトは鼓膜切開でお願いします☆」

「お、親方様あああ!?」

「だって、早く治った方がいいでしょ?」

何という宣告!親方様はWこの痛みWを知らないのか…!?
しかしアルトの意見など無視して、医者がパチンと指を鳴らすと看護婦がたくさん来た。

「患者が動かないように押さえろ」

「「「「はぁーーい!!」」」」

「え、何だ!?」

戸惑ってる間にアルトは既に看護婦に四方八方から腕や足を抑えられる。そして、医者は用具から針金をS字に曲げた様な形、そして先が槍の様に尖った細い物体を出して来やがった。

「まずは麻酔だね〜。綿いれるよ〜。」

「いやぁああ…うぐっ!」

大声を出そうとしたら、口を塞がれる。リヴだった。

「アルト、めちゃくちゃ痛いと思うけど頑張ってね!」

どうやら中耳炎の痛みは彼は知っていた様である。アルトは不思議と身体から力が抜けた。

「(あぁ…もう覚悟しよう。)」

耳の中の綿を取り除かれて、今度は槍を耳へと潜り込ませる。

「切るよ〜、痛いときは手を挙げてね〜」

「(落ち着け、アルト。やればできるんだ、私は…)」

「いち、にの、さんっ」

プスッ








「『王』は一体何企んでるんだろう?」

「いろんな部下よこしやがって…。何度危険な目に遭ったか」

「最初はボーンが攫われた時ね」

最初に襲ってきたのは、サワムラーのムラーとエビワラーのリンプ。正直言うと、一番ボロボロになった記憶しかない。あの時は、圧倒的力量差をまじまじと見せつけられた。途中でフリクトが助けに来なかったら、ボーンが目覚めなかったら、今ここに生きているかどうかも怪しいところだ。
すると、アクタートはいきなりシャドーボクシングみたいな事を始める。

「どうした、アクア?」
「畜生〜!悔しいぜ!フリクトと言い、リンプと言い…。次は絶対勝つぜ!」

以前、アクタートは両者との戦闘に惨敗している。一時期は落ち込んでいたけれども、今はとなっては日々明日に向けての活力となっている。

「……」
「…アクア、どうしたの?」
「あ、あぁ、何でもないよ、シード。」

彼は落ち込むシードをチラリと見た。そう、もしかしたら、彼が意気込む理由はそれだけではないかもしれない。
次にサンが話を進めた。

「次は、墓参りの護衛の時ね〜」

「確かチーム『スウィンドルズ』。ゴーストタイプの三匹だったな」

次は、スウィンドルズ。親分と呼ばれていたからリーダーはゲンガーのドッペルだと思う。そして部下のカゲボウズのカゲ、サマヨールのファントム。霊(ゴースト)らしく墓地で出会った。

「あいつら、フロウさんにとんでもないことしたから許せないわ!」
「べろろぉ〜んってか?」

アクタートはからかう様に手をダランと垂らし、かつ舌を出してカゲボウズの真似をする。その結果、彼は彼女に一発の拳骨をもらった。

「いてええっ!!殴んなくてもいいじゃんか!!」
「そういう気持ちが悪い真似は止めなさい」

一方でファインは苦笑しながら、その様子を見ながら色々と思考していた。次々と襲い掛かる敵、絶え間ないピンチ、そして…

「ほら、喧嘩は止めろよ」

「え、喧嘩?」
「別に喧嘩してないわよ?」

「あ、はい、そうですか。はい…」

何か俺が悪いみたいな感じになってるし、とファインは思った。しかし、なるほど、これが彼らの仲の良さなのかもと思い直すのだった。

「何よ、ファイン。」
「ずっとこっち笑って見てきてるけど、気持ち悪りぃ…」

「はっはっは、すまないねぇ、御二方!」

とりあえず、話題を戻そう。

「最後は遠征だな。」
「ヴィーね。一番残酷なヤツだったわ」

初めての遠征にもかかわらず、サンライズはいつものごとく苦難にギルドごと巻き込まれてしまった。負傷者は出たが、一応一段落は着いたから安心はしている。しかし、

「あの時、『王様』が私たちを狙ってることがほぼ決定よね」
「一体理由はなんだろうな。アルトは耳やられて、他の皆も傷付いて、それで…」

アクタートはシードの方に目を移す。彼は自分たちの話など構わず、遠く海を眺めていた。潮騒が耳へと心地良い振動となって入ってきた。
そんな彼を見たファインは切り出そうかどうか迷っていたが、そうすることを決心する。

「シード、遠征終わってから変だぞ?何かあったか?」

「……」

シードは口を閉ざしたままだ。アクタートは前もこのような状況があったから何となく彼の気持ちを察することが出来た。

「おいおい、シード!また落ち込んでのか?ここはぶっちゃけたほうがスッキリするぜ?」

アクタートがこう言ったもののシードは喋ろうとしない。次はファインが言う。

「みんな、心配してんだ。お前はこれ以上俺らに心配させたいのか?」

「ファイン、強く言いすぎよ」

ファインは少し挑発を込めた口振りで言う。サンはそれに、待った、を掛けようとする。しかし、

「僕…」

「あぁ、何だ?」

シードは口を開く。ファインは驚く素振りも見せずに優しく応える。その様子を見ていた二匹は、小声で、

「(ファインって、シードの扱い手馴れてるよね)」
「(ホントだな。まぁ、俺はお前の扱いに慣れてるけど…)」
「…?」


「ほら、言ってみろ。」

「ぼ、僕…この探検隊にいちゃいけないと思うんだ。」

「「「…!!」」」

シードから突如放たれた言葉に三匹は驚く。これは彼に相当なことがあったと察した。ファインはとりあえず対話を続ける。

「何でそんなこと思った?俺たちが不満とか?」

「ち、違うよ!」

シードはそこは強く否定した。首を横に振りながらそう言う。ファインは少し安心するが、もう一歩踏み込む。

「じゃあ、何だ?」

「ぼ、僕が皆に迷惑掛けちゃってるんじゃないかって…」

シードは小声で目に雫を溜めながら呟く。雫が黒の岩礁にポトリと滴り落ちる。ファインは、やっぱりか、といつも通りの彼である意味で安心した。

「どうしてそんなこと思う?」

「遠征の時に僕、敵のボスが…」

シードは遠征の時を思い出して少し身体が震えていた。しかし、ファインの眼差しに気圧されて黙る訳にもいかなかった。

「ボスが、仲間を殺してたんだ…」

「ヴィーがか…」

「見ちゃったんだ!部下を家畜同然に扱って、ジワジワ苦しめながら最後には殺しちゃうんだ!命乞いしてたのに…!」

シードは悲しそうに涙を流す。しかし、ファインはこれはまだ彼の本心でないことは既に分かっていた。

「お前はどうしたんだ?」

「何も出来なかった…。怖くて怖くて、あのサワムラーの時と同じで、うぐっ、何も出来なかった…」

咽び泣くシード。ファインは、やはりか、と思った。そして、やっぱりシードだ、とも思えた。彼にとって、自責だけが自分を慰める唯一の方法だから。

「そっか…。じゃあ、誰なら何が出来るんだ?そんな状況でさ」

「ファインたちなら勇気だして敵に立ち向かうって思う」

その言葉に遠征をあのスピアーとの対決を思い出す。彼の言う通り、勇気をもって立ち向かった。しかし、

「シード、俺は確かにそんなものはあった気がするけどさ、結局、守るなんてことは大して出来なかったよ。」

ファインは村の惨状を思い出し
そう悲しそうに言うと、シードに目を合わせてこう続ける。

「逃げたことは別に間違ってなかったと思うぜ」

「なんで…?」

涙目でファインを見つめる。ファインは空を見上げて少し考えながらこう言った。

「そうだなぁ〜、俺もよくわからんが、なんていうかほら当たり前じゃないか?」

「当たり前?」

「例えば、俺らって石とか目の前に飛んできたら、無意識に腕や手で顔を守るだろ?そんな感じだよ」

シードはファインの言うことは何となく分かった。だが、彼の意志には−−−−そんな自分勝手なことでまた失敗して誰かを傷付けたくないという−−−−いつしかのファインへの憧れがあった。

「でも、逃げてばっかじゃ駄目だよ!僕はお父さんとお母さんを見つけたい!多分、こんなことで逃げてちゃ駄目なんだって思った!でも、そんなこと思ってても遠征の時は無力で嫌だったんだ……」

シードは本音をぶち撒けた。彼のコンプレックスは相当強く、今まで彼が落ち込んできたのは『無力』という彼のネガティヴなW力Wが根本にあることに彼らはやっと気付いたのだった。

「僕は強くなって、皆の役に立ちたい!最後はお父さんとお母さんを助けて、また一緒に暮らしたいんだ!」

「シード」

シードがぴしゃりと言い切った途端、ファインが右腕でシードの顔を寄せる。

「ふぁ、ファイン!苦しいよ〜!」
「ハハハハッ!よく言ったな、シード!
そうだよ、ただその大切な想いだけあればいいんだ!頑張れよ!俺も応援するからよ。なぁ、サン、アクア?」

「あったりまえよ!なんてったって、私たちは…」
「朝日の様に世界を輝き照らすチーム『サンライズ』だからな!」

三匹は笑い、シードを見た。彼は今まで以上に目から涙を落とした。砂浜に沁み渡るそれは波に飲まれて行った。

「皆…ありがとう!」

そして、ファインは会心の笑みを浮かべて立ち上がって言った。

「よし、これからもしかしたらもっと大変なことになるかもしれない!傷付いたりとか、悪い意図が働いたりするかもしれない!『王様』とか訳のわからない輩が襲ってくるかもしれない!」

ファインは小さな身体で大きく叫んだ。そして、息を吸い込み、

「でも、俺らは『サンライズ』だ!何度沈んだってまた昇るんだ!」

「あ、上手いわね」
「誰が上手いこと言えと…」
「ファイン、上手だよ!」

皆の茶化しにファインは照れて頭をかく。

「う、うっさい!とりあえず、また明日から頑張っていこうぜ!どんな敵が来ても蹴散らしてやればいいんだ!そして、それぞれの目標を果たす!」

ファインはバッチを空に掲げた。

「私も!」
「よし、俺もだ!」
「ぼ、僕も!」

皆、バッチを掲げた。太陽の光がバッチの白い曲線に反射する。それは希望を孕んだ輝き、未来に馳せる思いの具現だった。

「(こいつらとなら、やっていける!)」



そう信じて−−−











…。





「三匹とも気を付けてね。」

「じゃあね、ミュウ!」
「またお会いしましょう。」
「また今度な。」


「アルト、大丈夫?」
「うっ、だ、いじょうぶで、ですぅ〜」


「腹減ったなぁ〜!」
「ヒイイイィッ〜!」



「あれ、シザーどこ行った?」
「うーん、お兄さんのところじゃない?」


「ルリ、ご飯の時間だよ!」
「はーい、お兄ちゃん〜!」



彼等には無意識に歩み始めた。この世界の一つの真理に辿り着くべく為の部分として。それは彼等にとってはとてもとても残酷で悲しい結末なのかもしれない。それでも、容赦無く時は加速していく。




そして…

「『王様』、データは揃いました。いつでも始めることは可能です」

「よし、キャストの設定が終わった!
部下全員に告ぐ!これから我々の偉大なる闇の世界の創造への第一歩が踏み出されようとしている!」

始動する。

「さぁ、始めようじゃないか!この私、総監督ダークライの手掛けた超大作の製作を!」

全ての<正義>と<悪>が世界のあちらこちらで疼きながら−−−

to be continued on Episode 2......


■筆者メッセージ
これにて第一章は終わりです。次回は間章をはさみます
ヒート ( 2013/05/07(火) 08:06 )