第三十三話 襲来、虫軍団!A
一方で、アルトは…
「待ちやがれっ!!!」
「焼き鳥にしてやんよ!!!」
「ひぃっ…ひぃっ!!」
必死に追ってから逃げるアルト。追ってきているのは、先程、宿の扉の前で窓を割っていたしていたやつらだ。テッカニン二匹だから、とても動きが素早い。
「(虫のらしくしつこい奴らだ…!)」
アルトは振り返って、羽を横に素早く動かした!
「WエアカッターW!!」
空気の刃を敵へと放つ。当然敵は身構えた。
「ふんっ!!WソニックブームW!!」
相手のWソニックブームWとWエアカッターWがぶつかり合う。そして互いにあっさりと雲散してしまった。しかし、敵は狼狽えることなく次に態勢を整える。
「今度はこっちだ!いくぞ!」
「おぅっ!!」
「(何だ…?)」
アルトは訝しく、相手の様子を窺う。そして、敵は口を開けて繰り出す。
「W輪唱W!」
甲高い声の振動をアルトへと波動のように繰り出した!アルトは片翼を振り上げ反撃する。
「WエアカッターW!!」
W輪唱WはWエアカッターWによって、打ち消された。有識者アルトも初めてその技の名前を聞いた。しかし、あまりの威力の無さに余裕そうな笑みを浮かべてこう言った。
「珍しい技だな!そんな弱っチィ攻撃じゃ私に勝てるはずもない!はっはっは!」
高笑いするアルト。しかし、これが敵に火を点けてしまった。
「余裕ぶっこけられるのもいつまでかな?…食らえ、W輪唱W!」
相手はなんとまたW輪唱Wを繰り出してきた。同じ技を工夫もなく出すのは愚の骨頂、アルトはそう思ってもう一度羽を振り上げた。
パァンっ!
再び、両者の技は相殺された。
「まだだ!W輪唱W!!」
「またかよっ!!同じ技を何度も出すとは馬鹿だな!!」
アルトは同じ要領でまた攻撃する。アルトは、相殺…そう思った時だった。
ゴオォッ!!
なんと先ほどまで相打ちだったW輪唱Wは、WエアカッターWを打ち消すだけでなくここにまで向かってきた!
「ちょ、何で…うわっ!」
アルトはW輪唱Wによる波動を食らう。全身に嫌な振動がして、飛んでいたアルトはそのまま体から不時着する。砂利と体が摩擦し合い、やがて止まった。アルトは歯を食いしばって、体をフラフラさせて起き上がる。
「(ぐっ…!あいつら手を抜いてたのか…?)」
何が起きたか状況がまだ理解し切れてない。W輪唱Wってなんだよ…
「無様だな。余裕ぶっこいてるからだよ!」
「へへへへ〜!」
敵がアルトを目下する。アルトも反抗的に睨み返した。逆光で顔が陰っていたが、敵の狂った笑いはそれでも確認できた。
「よし…連発コンボ行くぜ!W輪唱W!!」
「ぐぁっ…!耳が…!!」
アルトは耳を押さえる。音痴とかそういう問題ではない。鼓膜を針で突かれている気分だ!
「W輪唱Wってのは連続で出すと威力の増す技なんだよ!さて、俺もW輪唱Wだ!!」
「く"ぁっ…痛い…痛いっ!」
アルトは羽で耳に走る電気のような痛みに悶える。目には涙が溜まっていた。直接、頭の中を弄られている。頭痛までしてきた。ぐらんぐらんして気持ち悪い。頭の中で爆発が起こってるようだ。
「あW…ぁ…」
「そろそろトドメか?サンライズってやつ以外はヤっちゃっていいって言ってたし…」
一匹がそう言うと、W輪唱Wを続けたままもう一匹は肯く。
「おい、鳥、覚悟しろ…」
トドメを刺そうとWシザークロスWの態勢を取る。アルトは開閉を繰り返す瞳孔で敵を睨む。
「…んぁ…っ!!痛っ!」
「食らえ、WシザークロスW!!」
アルトに緑の刃が降りかかる!!アルトは目を瞑った。その時だ。
「ちょっと待ったぁ!!」
「ん、何だ?」
突如聞こえてきた誰かの声に気付いて、WシザークロスWを収める。そして、敵が背後を見ると、目前には黄色の拳があった。
「…なっ!」
「余所見しちゃ駄目じゃないの!!」
バコォッ!
敵が頬にWメガトンパンチWを食らって吹っ飛んだ!W輪唱Wを続けていたテッカニンは攻撃を中止して、吹っ飛んだテッカニンの所へと駆け寄る。
「おいっ、しっかりしろ…!」
「あの…」
そして、いつの間にか敵の前に居たのはフシギダネ。そして、彼は申し訳なさそうにこう言った。
「すみません!ちょっと眠ってて下さい!」
そう言うと、白い粉を敵にへと吹きかけた!
「おいっ…いきなり何…す…んだぁ…」
敵はばたりと瞼を倒れて鼾をかきはじめた。そして、アルトの側へとある一匹が駆け寄る。
「アルト!大丈夫か!?」
「アルト!大丈夫か!?」
「やっと…きて…くれたか…
サンライズ…」
アルトの目の前に居たのはファイン…とミュウだった。心配そうにアルトを抱きかかえる。アルトの目を見て、すぐに異常が分かった。
「目が泳いでる…さっきの技のせいか。あと、ミュウ、俺の言ったこと真似すんな。」
「僕の言ったこと真似すんな!」
一方でアルトの様子を見て、サンは自分なりに分析をした。
「うーん、確かW輪唱Wって技だったと思うけど…歌で攻撃して、しかも連続で出すと威力が上がるの。」
そして、後ろからはアクタートが出てくる。
「ほぉ、サンって意外と物知りなんだな。」
「な、何よ…馬鹿にしちゃって!」
サンはぷいっと腕を組んでそっぽを向く。アクタートはやれやれとする。
「お前ら、漫才やってる場合じゃないぞ。」
「やってねーよ!」
「ファインもやりたいの?」
「いいから、アルトの救護が先だ。それに敵も縛り上げておかなきゃだし…」
「ファイン…」
すると、アルトが息絶え絶えに話し掛ける。ファインはそっと耳を傾けた。
「親方様は…?」
「リヴも村にいるぜ。今、別行動してるとこだ。」
「そうか…うっ!げほっ、げほっ、ぉえっ!」
アルトは咳き込み、痰のようなモノを吐き出す。地面に水っぽい音と共のへばりついた。アルトは震えながら羽で口を押さえる。
「アルト、大丈夫かよ!?」
「あぁ…ちょっと眩暈と頭痛がするだけだ…。うぷっ…。」
さっきの技のせいで耳に相当のダメージを負ったようだ。長時間の振動は身体に悪影響を及ぼすと言うが、こういうことか…
「シード、アルトにW眠り粉Wだ。」
「え?うん…」
シードはアルトにW眠り粉Wをかける。アルトの瞼は抵抗することなく閉じていった。寝息を立てて、ファインの手の中で眠る。
「よし、寝たら少しは良くなるだろうぜ。安全な所に運びたいな…」
「ファイン、こいつら縛り上げたぜ!」
アクタートは縄で敵をぐるぐると縛り付け、どや顔をする。敵が不服そうに彼を睨んでいた。ファインは適当に答えることにした。
「はいはい、良くできましたね。じゃあ、ひとまず宿へと運ぶか…」
「ファイン、僕も手伝うよ!」
そして、サンライズはアルト救護のため宿へと戻る。
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一方、ここはシェルター内。明るい訳ではないが、食糧は三日分は見積もっているらしい。寝床もあり、避難生活としては全然ましといったところか…
ドンッ…
「また何か音が…」
「きっと、私たちの村が、うぅっ!」
絶望する村民たち。明日から家が無いかもしれない、そんな不安感に彼らは包まれていた。その様子を見兼ねたブランドが励ましをかける。
「だ、大丈夫でゲスよ!あっし達が家を造るの手伝うでゲスよ!なんたって、あっしらは…むぐっ!」
ブランドが叫ぼうとした時に、ウィリーがブランドの首根っこを掴む。ブランドは不服そうにウィリーを見る。
「何ゲスか?」
その態度にウィリーは眉間に皺を寄せて小声で言う。
「馬鹿野郎。勝手な約束するんじゃねぇ。」
「…?家を造るってことゲスか?」
「そうだよ…!お前、木造一棟造るのにいくらかかるか知っててのことか?一件ならまだしも、数十棟となったらそれこそ無理だ!」
ウィリーは顔を近付け怒る。ブランドはその様子に怯えつつも、
「こういう時にお金の話なんて、罰が悪いでゲスよ…。今は皆を安心させてあげるのが一番でゲス。それに、あっしらが頑張って皆を救えば、家を建てるのにお金も掛からないでゲス。」
その瞬間、ウィリーの中で何かが切れる音がした。
「おい、ブランド。お前、自分が何言ってんのか判ってんだろうな?」
「う…ウィリー、顔が怖いでゲス…。皆の気持ちになってあげたら、やっぱり家を造ってあげた方がいいじゃないでゲスか。」
「俺らのギルドが潰れてもか?」
「え?」
ブランドは首を傾げる。ウィリーは呆れたように続けた。
「木造一件あたり最低でも百万ポケはくだらない。もし、ワシらがやって経費削減したとしても、ギルドの活動に支障が出るんだよ。」
「…」
「確かにお前の考えは理想的だ。だが、所詮理想止まり。お前は救い手になるってことがどういうもんかまだ判ってないらしいな。無責任ほど相手を傷付けるものはない。」
ウィリーの叱責を浴びたブランドは黙ってしまった。ウィリー自身も言い過ぎたとは思ったがこれぐらい言っておかないと、余計なことをまたしてしまうかもしれないのだ。憂鬱な溜め息を吐く。
「でも…」
ブランドが口を開く。
「でも、村の皆を助けてあげたいでゲス…」
ブランドが心からそう想っているのはわかってる。本当はウィリーもブランドと同じ気持ちなのだから。ただ、現実問題、それはとても困難を窮めているだけなのだ。
「…とりあえず、ワシらは皆の命を守ることが先決だ。そのためにここに居るんだ。頑張ろうぜ?」
「…そうでゲスね!」
ブランドは目を真剣にする。とりあえず、気合は入ったようだった。自分たちが今できることをする。そう思うだけで心持ちも随分と違うように思える。
だが、彼らの耳に重くのししかかる一言が浴びせられた。
「…来なきゃよかったんだよ。」
「どうしたの?あなた…」
一組の夫婦と思われるオオタチからボソリと呟く。その時、一瞬だけ空気が静まった。視線がそのポケモンに集まる。そして、オオタチが立ち上がって目に涙を溜めてウィリーとブランドにこう言い放ったのだ。
「お前らが来なきゃ良かったんだよ!!ギルドの連中が来なきゃ良かったんだ!!」
「あなた、いきなり何を…」
ポケモンは怒りに震えた声で続ける。
「俺、知ってるんだ。ただ村を襲いに来たんじゃない!!お前らの仲間を狙って来やがったんだ!!」
ウィリーとブランドはギョッとする。誰にも知られてないはずなのに…
「どうして…」
「どうしてかって?…お前らの宿を通りかかった時に中から聞こえて来たんだよ。一応、これでも郵便配達員だからな。」
吐き捨てるように言う。シェルター内で反響して心にまで声が響いてくる。それに、全くウィリーたちは何も言えなくなってしまった。嫌な汗が首筋を伝っていく。
「仲間さんの名前は何だっけか?サンライズだったか?…そいつらを追い出せば敵も去るんじゃないのか?」
村民の視線はいつの間にか二匹に向けられていた。軽蔑し、恨めしそうな目。憎悪し、怒りに満ちた目。シェルターの灯りが揺らいだ。
「私、祖父の形見が…」
「遠くの孫からもらった首飾りも…」
「俺は、もう何も残ってねぇ…うぅ…」
悲しみに暮れる声がシェルター内に溜まっていく。咽び、嘆き、叫び、祈り。不思議な罪悪感をサンライズの仲間である二匹は心に募らせる。
「お前らのせいで皆、不幸になって…。特に、そのサンライズなんて奴らは生きてる価値もねぇじゃねぇかな!?」
「違うでゲス…」
ブランドがボソリと口を開いた。
「何だ、いってみろよ。疫病神ギルド。」
ブランドは身体を震わせて、俯きながら呟く。ウィリーは心配そうに横目で彼を見る。
「(ブランド…)」
「違うでゲス…そんなことないでゲス…」
しかし、憤怒の声はまだ容赦なく降りかかる。
「はぁ?迷惑しか掛けてないやつが居る価値なんてないに決ままって…」
「違うでゲスッ!!!!!」
ブランドは涙を散らして叫んだ。相手も声量に驚いて口をつつぐんでしまった。横にいたウィリーも彼がこんな声を出せることに驚いていた。
ブランドは咽び泣きながら続けた。
「…サンライズは、ひっく、そんなチームじゃないでゲス。うっく、優しくて勇気があって、あっしの大事な後輩でゲス…。サンライズはあっしらの大事な仲間でゲス…ひっく…。」
ブランドは嗚咽を漏らしながら懸命にサンライズを擁護する。すると、一匹の村民が立ち上がった。
「そうですよ…ギルドの皆さんはとても優しい方です。」
立ち上がったのは爆風で大怪我を負ったマッスグマの母親であった。側の村民に支えられながらフラフラと立っている。
「さっさと避難しなかった私たち親子を身を艇して守ってくれたんです。ちなみに、この怪我はわたしが鈍臭いせいですので…。」
そう言って彼女は苦笑いを浮かべてストンと腰を下ろした。すると、もう一匹が立ち上がった。
「私、イークも同意見です。」
ピーの父親である彼は村民の皆に向けて言った。
「私の娘がギルドの皆と話せて楽しかったと言いました。私の娘は少し我が儘な所があるので…相手をしてくれたギルドの皆さん、特にサンライズの皆さんには感謝してるんです。」
「ボク、お兄さんたちの大好きだよ!」
「何で…あいつらのせいで全部なくなっちまったんだぞ。許せねぇよ…」
それでも許せない心。そこに村長が立ち上がった。
「何じゃ、この村の男だというのにだらしない。」
村長も村が壊滅して、悲しんでいるはずだ。そして、ネギをビシッとギルドの二匹に向けて言った。
「お主ら!」
「な、何でゲスか…」
「村の現状なんて気にするな!じゃが、一つだけ条件…絶対に村を救ってくれ。それは約束して欲しいんじゃ…」
村長の目は本気だった。この村を救いたい、その一心が確実に伝わる。勿論、二匹はこう答えた。
「もちろんだ!!」
「もちろんゲス!!」
村長は安心したように微笑んで座った。イークも安心してほっと胸を撫で下ろした。やがて、怒っていたオオタチも落ち着いた。
しかし、ギルドの戦いはまだまだ続く……
to be continued......