第三十二話 襲来、虫軍団!@
「皆!もう少しで村だよ!」
ファインたちは森をミュウを先頭に駆け抜けていく。村に向かって…
「はっ…はっ…(皆、無事でいてくれよ…)」
*
「こんにちは。俺はヴィー、『王』からの使者。さて、サンライズは何処かな…?ククク…」
アルトは今の状況が恐ろしいほど悪いのは分かった。なんたって敵が大量の仲間を引き連れ、今、目の前に現れたのだから。ヴィーは羽を広げ、軽く滞空しながら村をまじまじと眺めた。
「血生臭くないな…」
ヴィーはゆっくりと着地して横にいる部下らしきドクケイルに話し掛ける。脅迫的に。
「思ったより死体が少ないようだが、どういう事だ?」
「は、はい!『プクリンのギルド』どもが予め村民がを非難させていたようです!」
「そうか…!」
その瞬間、ヴィーは手の大きな針でドクケイルに峰打ちをした。
「がっ…!」
「あーあー、作戦失敗か。何処からリークしたんだか…。俺のために尽すと言ったから部下にしているが、こんなんじゃなぁ…」
「ふ、不手際をお許しください!!」
謝る姿など気にする事も無く、ドクケイルの触角を掴んで顔を近付けた。
「おい、皆、今日はご馳走だ。」
「「「「イエエエェッ!!!」」」」
「…!!!いや、嫌です!!止めてくださ…」
ドスッ。
ヴィーがドクケイルの腹に針を抉り込んだ。ドクケイルの目から輝きが失われて、そのまま力無く、だらんと干物のようになってしまった。
「さて、本題に…あれ?」
ヴィーは、アルトが既にそこに居ない事に気付く。ヴィーは遺憾というよりも面倒臭いと言った感じに溜め息をついた
「はぁ…まぁいい。こっちには人質がいるんだ。ゆっくり戦いを楽しもうじゃないか」
ヴィーはニヤリと笑って部下達と共に進軍していった。
「本当に来ちゃったよ!ヤバイ、ヤバイって!!」
アルトは羽を広げて宿屋に突っ込む。
「お前たち!!!」
「うわっ!!アルトでゲス!」
「うるさい。少し落ち着けよ。…応急処置してくれ。」
ウィリーはマッスグマを村民が作ってくれた即席布団に寝転がしているところだった。傷が深いが、ここに今すぐ治療出来るものはいないが、応急処置を施しておいた。
「皆、ここで呑気にしてる場合じゃないよ!!敵が向かってくる!!」
その言葉に宿内がざわめく。
「私たちどうなっちゃうの…?」
「こわい…」
「この村も終わりだ…」
ネガティブな言葉が宿内に飛び交う。アルトは慌てて言葉を付け足した。
「だ、大丈夫!ひとまず、ここから避難しましょう!村から離れるましょう!」
「アルト、避難場所はあるのか?」
「そ、それは…うーむ…」
そう言えば、そんなこと考えてなかった。いくら、知識人といえども避難場所の点在地をいちいち覚えている訳がない。アルトが考えていると、村長が立ち上がった。
「避難場所ならわしが案内しようではないか。」
「村長…。それは何処に?」
村長はゴホンと咳払いをして口を開いた。
「村の外れにシェルターがあるんじゃ。ちょうど、この宿の裏地から行けたはずじゃ。」
「シェルター、そんなものが…」
シェルターなんてものは大昔の戦争に使われていたぐらいのモノで非常に珍しかった。しかし、今となっては都合が良い代物である。
「じゃあ、今すぐそこに避難だ!グジット、ブランド!今すぐ村民らをシェルターまで警護だ!」
「はい!」
「ゲス!」
「私について来なさい。案内しよう。」
そして、彼らの指示で村民は宿からぞろぞろ出て行く。煙が上がる村の光景に目を逸らしながら前のポケモンについていく。
その時、奥の方で爆発が再び起こった!
「キャアッ!!」
「爆発…!」
「うわあああん!!!」
「皆さん、落ち着いて。大丈夫です。我々、『プクリンのギルド』が誇りを賭けて護ります…!」
「はい、よろしくお願いします…!」
アルトはそんなことを言って諌めてみたものの、実際は不安に駆られ続けていた。親方様、早く…!
「怪我は大丈夫ですか?」
「えぇ…。心配ありがとうございます。」
「おかぁ…」
次に先程のマッスグマの親子が来た。不覚にも怪我を負わせてしまった。アルトは申し訳なさそうにもう一度謝罪する。子供がアルトに寄ってきた。
「アルトおじさん、ファインお兄ちゃんは?」
「おやおや、ピー。『お兄さん』だろと何度言ったらわかるんだい?」
アルトは青筋を浮かべて言う。ピーは慌てて訂正する。
「あわわ、ごめんなさい!ファインWお兄さんWって言わなきゃダメだよね、なれなれしすぎるもんね。ごめんなさい、アルトWおじさんW!」
そっちじゃねぇよ。アルトはそう思ったが、ここは大人持ち前の冷静さで何とか怒りを抑える。
「…まぁいい。ファインのことか?あいつらは今別行動中だ。」
「大丈夫?」
「まぁ、一応、探検隊の端くれだ。心得はきちんとしているはずけど…。」
「そっかぁ…」
そう言ったが、未だに心配そうな面持ちのピー。すると、一匹のライチュウが出てくる。
「こら、ピー!迷惑掛けちゃダメじゃないか…。すみません、アルトさん…。」
イーク、ピーの父親だ。アルトやリヴは頻繁にここに来ているものだから、大抵の住民とは知り合いである。このライチュウもその一匹だ。
「いえいえ!子供がしたことですから!…とりあえず、避難を急いで下さいな」
「はい。ピー、行くぞ。」
「おじさん、お兄ちゃ…お兄さんをよろしくね…」
アルトは適当に手を降って、見送った。とりあえず、今度ファインと話し合う必要があるようだ。ははは。
そして、数分程度で村民は全員避難が完了。アルトはひとまず安堵した。宿内から外の確認をする。
「(付近には誰もいないみたいだな…)」
アルトはストンと窓の下に座る。Bチームは避難民のための警護にいってしまって、一匹でいる部屋はとても静かだった。窓から仄かな光が屋内に注いでいる。
「親方様…」
アルトは戦いに挑むかどうか迷った。自分があの大群に匹敵する実力とは到底思えない…。
ひとまず、落ち着くために少し目を閉じる。すると、いつしかのリヴとの会話が思い出された。
『親方様はスゴイですね…。』
『どうして?』
『自分の意志を貫いているというか、何というか…。周りに流されないってのはスゴイと思いますよ。』
『そんなの簡単だよ!』
『え?』
『自分の夢を見つければいいんだ!』
『夢…?』
『そう、夢。でも、最初は小さな目標でも構わないと思うんだ。』
『それだけで変われるものですかね?』
『絶対に譲れない、死ぬまで絶対に諦めない、そんな望みがあれば誰だって辛くても自分の意思で生きていけるよ…』
今も覚えている。親方様が寂しそうに呟いた言葉。アルトが感慨に更けているその時、
ドンッ!!
「…!?」
突如、ドアから強い音が聞こえた。しかし、聞こえたのはそれだけではない。
「ドア、開かねぇな…」
「グヘヘ、中から匂うぜ…。おーい、殺しにきたぜぇ…!」
ドンッドドン!!
ドアを叩く音は増す。アルトは驚いて声を出しそうになったが、両翼で口を抑える。冷や汗がたらりと額を伝っていく。
「おい、開けやがれ!!」
「窓から何か見えるか?」
「カーテンがかかって見えねぇな…」
「そうだな、ぶっ壊せばいいじゃねぇか…」
窓のそばにいたアルトはギクリとした。このままだと中に侵入されてしまう…。
「おーい、窓から入るぜー!」
「せーの!」
割られる!
ガインッ!!
「…っ!!!」
アルトは弾ける音に耳を押さえる。窓は割れずに、衝撃に振動していた。その強度に驚いたのか外からも声が続く。
「この窓、かってぇ!!」
「防弾仕様か?でも、ヒビははいったぜ…。もう一回だ!」
ガインッ!
「(…もう時間の問題だ。)」
ガインッ!
ピシッ…!!
「(まだ、親方様たちは来ないだろう…)」
バリンッ!
パリパリッ、ピキ…!
「(よし…)」
「割れろおおおお!!!」
アルトは響き渡る叫び声の中、覚悟を決めた。
*
「何か異臭がする…」
「さっきの爆発か!?」
「多分ね。ほら、村が見えてきた!」
ファインたちは森を抜けて村へと再び舞い戻ってきた。しかし、彼らが目にしたのは数時間前のそれとは打って変わってしまったものだった。
「…なんだこれ?」
「村がボロボロ…家が無くなってる…」
「『王様』ってやつのせいか!?クソッ!」
アクタートは込み上がる怒りを隣の木に散らす。ファインは陰惨な光景に息を呑んだ。そして、中へと足を進める。
「私たちが居ない間に…」
「これは酷いねぇ…サーナ、あんたの超能力でなんとかならないのか?」
「無理よ、チャーリー。掃除って結構疲れるのよ。」
破壊された家屋の横を通り過ぎる度に心が痛む。すると、リヴが背後から、
「とりあえず、宿に戻ろうよ。もうこの村には敵勢力がいるはずだから。アルトたちのことも気になるしね。」
と言った。皆は首を縦に振り賛成する。途中で家屋の中をいくつか見たが、人影はない。多分、被害者はほとんどいないだろう。事前の避難が功を奏したのだ。
「宿もボロボロだな」
ファイルは宿を見てボソリと呟く。一方でリヴは宿内をのぞきみた。
「誰も居ないね……」
リヴはざっと中を見たが、大したことは無さそうだった。確実にアルトたちの活躍がみてとれた。
「あっ……」
リヴは日差しの所を見ると、何か落ちていることに気付く。辺りにはガラスの破片も飛び散っていた。リヴは拾い上げて、じっくりとそれを観察した。
「これってアルトの羽じゃ…」
割れた窓を見ると、風が吹き抜けてカーテンが大きくたなびいていた。すると、ファインたちも中へと入ってきた。
「意外と中は無事だったんだな。」
「Bチームたちががんばってくれたんだよ!ところで、敵ってやっぱり『王様』ってやつと関係あるの?」
「なんだ、シード?びびってんのかぁ〜?」
「うぅ…だってぇ…」
そして、リヴは立ち上がる。
「皆!」
ファインらの視線がリヴに集まる。リヴは続ける。
「僕たちは遠征に来た訳だけど…村を護る為にも戦ってくれる?」
「…」
「このギルドの誇りに賭けてだよ!」
皆は顔を互いに見合わせる。そして、当然の様に答えは返ってきた。
「そうだな…」
「当然じゃない!」
「あったりめぇだ!」
「僕たちも頑張らなきゃ!」
「そうね、私たちも…」
「久々に本気でも出しますか」
「あたいらなめてもらっちゃ困るよ!」
皆の意志は一つになった。村の為、ギルドの誇りの為に彼らは戦う決意をした。リヴは会心の笑みを浮かべる。
「ありがとう、皆」
ドォンッ!!
爆音が鳴り響いた。遠くからだったので、多分、相手はまだこちらの存在に気付いてないはずだ。
「もうヒートアップしてるみたいだね。…じゃあ、サンライズ、君たちは僕たちと別行動でいいかい?出来る限り、効率良く村内を探索したいんだ。」
リヴの問いかけにファインは答える。
「おう、もちろんだ。もし敵が来ても俺らがチャチャっと片付けてやるぜ!」
ファインは右手を腰に当てて、余裕そうな素振りを見せる。
「頼もしいよ!でも、親玉が出たら絶対に僕に知らせてね。…じゃあ、早速作戦開始だ!」
「よし!レッツゴー!」
サンライズはその合図と共に外へと駆け出していった。
to be continued......