第二十八話 奇々怪々!遺跡の秘密
「待て!!」
「…っ誰!?
此処にいる誰でもない声が広場全体に広がった。野太く重さのある声が鼓膜を振動させる。
「何者ですか?出て来なさい!」
サーナがそう言うと、広場の天井の真ん中が崩れて落ちてきた。崩れた天井が大きな音を立て墜落。中央が砂煙で覆われる。
「…っ!」
「誰かいる…。」
砂塵に紛れて薄っすらと影が見えた。そして、段々と煙が落ち着いて正体が明らかになる…
「ラビィ、あれって…!」
「えぇ…」
「愚かな探検家共、私の土を踏むとは良い度胸だ。その心意気は誉めよう!」
「伝説のポケモン…」
「ライコウ!!」
彼等の目の前に現れたのは雷雲を纏い、雷(いかずち)の神と謳われるポケモン−−−−ライコウだった。
「ライコウ様…」
ライコウが現れた途端、態度が急変するグラエナやバクオングたち…。ライコウは嘲る様な眼で彼等をまじまじと眺めた。
「全く、これじゃあ何のためにお前らがいるか分からない。下がれっ…!」
「すみません、ライコウ様…。おい、お前ら撤退だ!」
グラエナの一声で周りにいたポケモンらはライコウを残して立ち去った。ライコウはそれを確
認した後、再び侵入者に鋭い眼を向けた。
「何か用か…?」
ラビィはその問いに悠然と答える。
「まぁ、ちょっとね。此処にあるお宝について何だけど、教えてくれない?」
「また、そういう奴らか…」
「教えてくれないの?」
「…。」
ライコウは口を閉じたままだ。此方が優勢なのかどうかは分からないが…。すると、サーナがラビィの前に出た。
「ねぇ」
「近寄るなッ…!」
ライコウが威嚇する。すると、一気に周りに戦慄が走り出した。背筋の体毛が逆立ち、首筋には一筋の汗が滴る。
「ごめんなさい。でも言わせて…」
「何だ?」
「ここにホントに宝ってあるの?」
「…っ!!」
「え、宝無いの!?」
「どういうことなの…?」
ライコウはギョッとする。彼の顔には焦りが窺えた。何かを知っている様な雰囲気だ。サーナは真実を確信したようで、静かに続ける。
「やっぱりね。私って特性のお陰で、相手の気持ちがある程度判るのよ。まぁ、心理学の基本みたいなモノだけど…」
「…むぅ。」
ライコウは肯くだけだ。
「教えてくれないかしら、宝のこと…」
そう言うと、ライコウは何かを決心した面持ちで『少し待て。』と言って、その場を飛び去った。数分後、ライコウは口に箱の様な物を咥えて帰ってきた。
「これだ。」
「宝箱みたいね…」
サーナはそう呟いて、地面に置かれた宝箱をそっと開けた。
「…!」
「私にも見して〜。あっ、何も入ってない!」
ラビィは驚いたような、がっかりしたような声で宝箱の中を覗き見た。
ライコウは、すぅっと息を吸って気持ちを落ち着かせる。そして、重低音の声でゆっくりと話し始めた。
「昔の話だ。ある嵐が激しい夜だった。私は外の様子を見る為に外に出ようとしたのだ…
『外が荒れているようだ。少し様子を見てくる。プレートの監視を頼むぞ。』
『分かりました、ライコウ様。』
ここを住処にしているポケモンは我が下僕同然だ。彼等は快く頼みを聞き入れてくれた。安心しきって、私は外に出たのだ。
外は酷く荒れていた。豪雨と共に雷が閃光を放ちながら地面に堕ちていた。その時だった、あの者が来たのは…
『(むっ…!雨音でよく分からないが、誰か来るっ!!)』
誰かの気配に私は身構えた。それは奥にある茂みから感じていた。そして、そこから長くピンクの耳を立てたものが登場した。
『ふぅ〜!間に合った〜!…君、ライコウだね?』
『何者だ!?今すぐここから立ち去れ!!』
いきなり、現れたポケモンは馴れ馴れしく私に話しかけて来た。防雨用の何かを羽織っていた気がするが…」
「ピンクの…」
「長い耳ね…」
アクタートとサンは呟く。ライコウは構わず続ける。
「そして、そいつは更にこう言った。
『今は争ってる場合じゃないよ!早くここから逃げて!』
『何故だ!?第一、此処は私の土地だ、余所者にとやかく言われる筋合いはない!』
私は当然のことを言ったと思う。誰しも故郷は恋い焦がれるものだ。私もこの遺跡にも愛にも似たものを持っているつもりだ。
しかし、その者はこう言ったのだ。
『早く逃げないと此処にいる皆が死んじゃうよ!』
『何だと…!ハッタリか!?』
『違う!ここにもうすぐ巨大雷が直下するんだ!遺跡がそれで崩壊してしまう!』
私は驚いた。確かに酷い天候だが、それは無いと思った。しかし、その者の眼は嘘をついているようには見えなかった。
『…わかった。だが、私はここを主として離れる訳にはいかない。意地でも私が守ってみせる。』
『神の意地か…。君だけじゃ無理だ。仕方ない、守る方法が一つだけあるよ。』
『何だそれは…?』
『プレート、大地のプレートがこの遺跡にあるはずだ。それを避雷針がわりに使う!』
大地のプレート、これは宇宙の創生神に授かったプレート群の一つだ。どうでもいいだろうが、このプレートはこの遺跡に流れる電流をうまく調整してくれてる働きがある。」
「あぁ、だからこの遺跡ってピカピカ光ってるのね!」
サンは手をパンッと叩いて納得する。
「そうだ。大地のプレートは色々とこの遺跡の安全を守ってくれる秘宝だったのだ。…そう、その者はそれを使って、雷の直撃を回避しろと言ったのだ。
『それで本当に遺跡崩落を防げるのか!?』
『防げる!いや、防がなきゃいけないんじゃないのかな?君のトモダチの為にも!』
私は彼の言葉を聞いて、我が忠実な下僕共を思い出した。主従関係とは言っても、この狭い空間ならまた特別な感情も主従ならずとも芽生えているだろう。
『トモダチ…あぁ、下僕のことか。そうだな、此処は主として踏ん張らなくてはいけないのかもしれない…』
『そうだよ!…じゃあ、早くして!後、数分で直撃する!』
私は彼の指示に従い、プレートを持って遺跡の上部になる外の高台に急いだ。
『此処でいいか?』
『うん、そのまま掲げて…』
その瞬間だった、一瞬世界が真っ白になったのだ。それと同時に一閃が私に堕ちてきた!
『ぐあっ!!』
『うっ!』
私とその者は、衝撃で派手に吹き飛ばされた。それは私をも唸らされる程の強力なモノだった。私はすぐに弾け飛んだプレートのそばに駆け寄った。
『砕けておる…!』
プレートは破片を残して砕け散っていた。普段は強固な物だが、こんなにあっさりと壊れてしまったとなっては、内心では失望していたところもあったかもしれぬ。
『あらら…砕けちゃったね。』
『…。』
『でも、遺跡の皆は無事みたいだね…。まぁ、目的はなんとか果たせたし…君たちみたいな伝説は僕らにとって崇高なものでないといけないし、宿無しっていうのはちょっとね…。んじゃ、僕は帰るよ。』
そういってその者は微笑みながら帰っていった。私は彼に色々と気になることがあったはずなのだが、そんなことは忘れて、ただ呆然と砕けたプレートを眺めていた。
そして、明くる日、外に出た。嵐は過ぎ去り、晴天が私を照らしていた。昨日のこともあり、私は雷の堕ちた場所に再び行ったのだ。そして、そこで私は驚愕すべき光景を見たのだ。
『これは…!!』
私が見たのは、遺跡を中心に半径五キロ程の森林が焼け焦げている光景だった。稲妻の衝撃がプレートによって弾き出されて環状に広がったのだろう。
そこで、私は思った。もし遺跡に直撃していたら、遺跡を捨てて逃げたとしても我々は滅びていただろうと。我々は突然此処に来た若者に助けられたのだと、そう悟ったのだ。」
ライコウは長い話を終えると、小さく息を出して、宝箱また手を出す。
「プレートは元々、此処に入っていたのだ。プレートのお陰で補ってきた部分は私がなんとか調整している。そして、大分この生活にも慣れてきた。」
「ふーん…そんなことがあったんだね。」
「話は分かったわ。でも、貴方にはそれに関係してまだありそうね。」
サーナはまだまだ言及した。ライコウも図星過ぎたのか、少し笑った。
「ふっ、その通りだ。私の土地にはこの宝を求めてくる者が最近になって増えてきておる。宝など無いと言っても誰も聞く耳を持たないのだ…。」
「だから、仕方なく実力で追い払っていたのね。」
ラビィの言葉に肯くライコウ。全てを話し終わった、そう誰もが思った時、ライコウが急に頭を下げてきた。
「どしたの…?」
「お主らに頼みがある。この遺跡にもう宝は無い、二度とこの地に来るな、我々は平穏を望んでいる。そう公衆に言ってはくれないか?」
ライコウの瞳は、侵入者に対する警戒からくるのか疲労感に満ちていた。彼等はただここで静かに過ごしたいのだと強烈に胸に訴えかけてくる。そして、ラビィは言った。
「そうね、そういうことなら仕方ないわね。分かったわ、言っておく。で、私たちもすぐ出て行くわ。皆、それでいい?」
「うん、ラビィに賛成!」
「アタイも!」
「お、俺も!」
「もちろんよ!シードもファインもね!」
「うん!」
「あ、あぁ…」
どうやら満場一致のようだ。ライコウは静かに微笑んだ。
「ありがとう。お前たちのような物分かりいいポケモンがいて嬉しい。では、私はこれで消えるとしよう。お前たちも早く出ていくのだぞ。では、さらばだ!」
そう言い放つと、ライコウは光のようにこの広場を立ち去っていった。
「じゃあね、ライコウ!貴方に出会えて良かったわ〜!」
「さぁ、私たちも帰りましょうか。ん、サンライズの皆どうしたの?」
「なんでもないっす…(俺たち…)」
「うん、何でもないわ…(空気だったなぁ…でもチャームズがカッコ良かったからいいかも!)」
「ライコウか。まだまだ知らないことが一杯だな…。(それにしても今度は遠征だ。何か自分に関する手掛かりを持っている人物に話を聞くんだ…)」
それぞれの思いを抱きつつ、一行は遺跡を後にした。不思議と帰り道の洞窟は穏やかな光に包まれている様な気がした。
*
「サン〜、何してますの?…キャーキャー!日記ですわ!」
「ちょっと、ロスナ!勝手に見ないでよ!」
此処はサン、ロスナス、サマベルの共同部屋である。サンは帰ってすぐに日記に今日あったことを
認めていた。
すると、横で遠征の準備をしているサマベルが話を割って混ざってきた。
「チャームズさんたちとの探検どうでしたか?」
サンは待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「スゴかったわよ!三匹のコンビネーション抜群って感じ!まぁ、私たちは空気だったけど…良い経験になったと思うわ!」
「キャー、サンライズの皆だけずるいですわ!私たちも一緒に探検したい…うぅ…」
「ロスナ、仕方ないでしょ。サンライズの皆さんは指名されちゃったんですから。私たちは私たちなりに遠征に向けて頑張らないと!」
「それもそうですわね…よし、頑張りましょう!」
ロスナスも遠征にかける意志の強さは人一倍のようである。サンとサマベルはそれを見て愉快そうに笑った。
「(私たちサンライズもチャームズみたいに強くなれたらな…。皆と一緒に頑張って…。)」
サンはワクワクする気持ちを抑えて先に寝床に就いたのだった。
to be continued......