第二十六話 至極美麗!遠征のお供に
「みんな〜、今日はお知らせがあるんだ!」
朝礼で珍しく立ち寝(目を開けながら)をしていないリヴ。ギルドのメンバーはその光景に少し慌ただしくなる。もちろん俺らサンライズもだ。
「遠征まで後一週間だね。皆、頑張ってると思うけど、その遠征に関してのことでお知らせだよ☆」
リヴは瞬きしながらそう言った。さて、お知らせとは一体何だろうか。
「んじゃ、まず一つ目〜!今回の遠征地はミステリージャングルでーす!」
ギルド内が急に騒めく。そしてその中から様々な意見が聞こえた。
「ミステリージャングルって一度入ったら戻れないっていう…」
「凶暴なポケモンもうじゃうじゃいるって…」
「森林のくせに食べ物が少ないって…」
嫌な意見しか聞こえない。ハードな冒険になりそうだ。
『わーい!わーい!ミステリージャングルだぁー!!』
「そうそう、やっとお前も用事とやらを済ませられるな、ミュ……」
『なに、ファイン?』
「急に出てくんなあああ!!!」
ファインはもう一度息を大きく吸い込んで…
「きゅーうーにー……出てくんなあああああ!!」
『スゴい、スゴい!ファイン、120デシベルだよ!』
突然現れたミュウに思わず驚くファイン。ミュウは一方で、ニコニコしたままだ。何か測定されてるし。
「ファイン、うるさいよ!」
「仕方ないだろ!急に現れたんだから!」
「さっきからそこに居たぜ。」
「まじですか!?」
『ファイン、うるさい(笑)』
「お前は黙れ!」
皆から何故か責められるファイン。
「(全く、急に消えたかと思いきや…)」
『ファイン、どうかした?』
「何でもねーよ!」
『そう?ふふふっ!』
そうそう、この意味不明な笑いだ。これがどうにも感に障る。彼の存在は全くもって謎のままだし、俺の中にいるというのも別に普段の生活に影響がないから実感が沸かないのだ。もしかしたら、こいつの正体もこの遠征でわかるのかもしれない。
「じゃあ、お知らせ二つ目いくよ〜!今回の遠征に一緒に付いて行くゲストチームがいるんだ!」
「ゲストチームだって!?」
「キャーキャー、一体だれなのかしら?」
皆は一層ギルド内をざわつかせる。遠征にかけるボルテージがどんどん上がっていくのが雰囲気から判った。しかし、あまりにも騒音なのでリヴはさわぐ皆を大声で注意して静めた。
「ほら、静かにして。…じゃあ、そのゲストチームに今日は来てもらってまーす!どうぞー!」
リヴがそう言い放った瞬間、親方部屋がバンッと音を立て開く。なんとそこには誰も知らないことはないチームだった。
「誰かがその名を呼べば!」
「颯爽、華麗に登場!」
「
妖艶のミミロップ、ラビィ!」
「賢女のサーナイト、サーナ!」
「
豪悍のチャーレム、チャーリー!」
「「「三匹揃って、チャームズ!」」」
な、なんと、かの有名な『チャームズ』だった…!
皆は予想外の登場人物に驚いていた。はたまた、その登場の仕方に驚いていた…のかも…。
「…ん?」
「スベった…?」
「ちょっとリヴ!どういうことだい!?」
「チャ、チャ…」
「チャームズよおおおおっ!!!」
しばらくして一気に歓声が上がる。ギルド内は一瞬にして沸き上がった。
「(ふぅ、ひとまず良かった…。手紙で寄越して甲斐もある。)」
リヴは彼女らを受け入れてもらって、少し安心した。そう思うのも束の間で、リヴは手を叩いて注意を集めた。
「で、今回、チャームズ達は別チームと合流して行ってもらうよ!」
「誰だ誰だ!?」
「きっと私よー!」
「いやいや、俺が…」
ギルドは再びざわつく。リヴは眉を顰める。そして、息を大きく吸い込んでWアレWを今にも発動しようとしていた…。
「皆、うるさい…」
「絶対、俺が一緒に!」
「ヘイヘイ!俺っちが一緒に決まって…」
「私が…」
「うるさあああああああい!!!!」
…。
シーン。
「…よし、静かになったね♪じゃあ、遠征の詳細を説明するよ!まず、チャームズとはこの遠征までの間に一緒に暮らしてもらいまーす!」
「(うぅ…親方様の"ハイパーボイス"…)」
リヴの一声(大)を受けて一気に静まるギルド内。例えば、シードは圧倒されて涙を溜めて呆然としていた。
そして、リヴは長々と説明を始めた。重要事項を結構言っていた気がしたが、皆は有名なチャームズと一緒に組めるかどうかということで頭が一杯のようだった。
「ねぇ、ファインは一緒に組めたらどうする?」
「チャームズと?」
「うん!私は彼女たちの武勇伝をとくと聞きたいわ〜!」
「俺はどうでもいいかも。」
「ええええ!!チャームズよ?!あんな有名探検隊と一緒に冒険出来るなんて全世界の探検家の夢よ!」
「おい!そこうるさいぞ!!」
「うっ、ごめんなさ〜い…。」
アルトに叱られてしまった。サンはそわそわする気持ちを無理矢理抑え込む。確かに俺も憧れの人が自分の前に現れたらきっとテンションは上がるだろう。しかし、誰かに対するそんな気持ちも忘却の彼方へいってしまった。
ニコッ
すると、騒がしいのが気になったのか、リヴの隣にいるチャームズの一匹サーナが此方に微笑みかけた。しかし、咄嗟に目を背けてしまった。次に見たときは、彼女は既に顔はリヴの方向に向き直っていた。
「さて、お待ちかねの遠征メンバーの発表でーす!」
「「「「わーわーわー!!!!」」」」
ついに発表という時になり、ボルテージが上がる。そして、リヴは大きな声でメンバーを発表していった。
「さっきも言った通り、何チームかに別れて行くからね!それじゃぁ…Aチーム、ノイザ、ロスナス、サマベル!」
「キャーキャー、私たちですわよ〜!ノイザ、足引っ張らないで下さいね。」
「なに〜?ロスナス、いま何つった?」
「御二方、ケンカは止めて下さ?い!!」
「次にBチーム…ブランド、ウィリー、グジット!」
「あ、あっしでゲスか!?あわわわわ…」
「ヒヒヒ…めんどくせーけど付き合ってやるか…よろしくな、ブランド、グジット。」
「は、はい!よろしくお願いします!(初めての遠征…!)」
「じゃあ、最後のCチーム!…ファイン、サン、アクタート、シード!」
「よっしゃああああっ!!」
「サン!?今そんな声どこから出た!?」
「初遠征♪初遠征♪」
「ちょっと、怖いかも…」
こうしてチーム配分が決まった。皆と同じチームになれたのは幸運だった、ファインはそう思った。しかし、きっとリヴの計らい、と思い直した。何故なら、その時、彼がウインクして来たからだ。
「で、残りは僕とアルト♪残りは悪いけど、ギルドのお留守番お願いね。これも大切な仕事だよ。そして、チャームズは…」
「ねぇ、リヴ?」
すると、今まで黙っていたサーナが口を出す。リヴはキョトンとした顔で「何?」と訊き返す。そして、サーナは笑顔で、
「私たちサンライズの皆さんと一緒に行きたいです!」
その瞬間、ザザッと視線がサンライズに注がれる。名指しされた本人達は、ファインを除いて狼狽える。
「お、俺ら…?」
「ご、ごごご指名を食らったわわわ…」
「僕たちがチャームズと…」
「……。」
リヴはサンライズとチャームズの両方を見て、何かを考え倦んだ結果、一つ肯いた。
「そうだね。別に構わないよ♪」
「ありがと、リヴ♪」
「さっすが〜、やるじゃん!」
「まぁ♪可愛い坊や達と一緒に探検出来るなんて嬉しい限りね!」
「てことで、サンライズ。これでいいかな?」
「もももちろん!!!いいいいいに決っってる、じゃ、じゃない!?」
「俺様ももちろんイイぜ!(そういえば、サンはチャームズの大ファンだったなぁ…)」
「き、緊張するよぉ…」
サン、アクタート、シードの反応は上々である。そして、残るは後、一匹。
「おい、ファイン!これでいいか?」
「……。」
「ファ・イ・ンさぁ〜ん?」
「ん?あ…あぁ、俺は構わん。」
「えー、それ適当な返事じゃないか?」
違う、とファインは反論する。アクタートはいかにも信じてなさそうに怪訝な顔で、はいはい、とそれに返事をした。それに、ファインは少し不機嫌になりながら再び口を堅く閉じた。
「じゃあ、チーム分けも終わったことだし…遠征まで後、一週間!皆、頑張ってね!解散!」
「お前ら!あまりチャームズの皆さんに迷惑掛けるんじゃないぞ!…それとちょっと、ファイン、こっち来い。」
「…?」
ファインはアルトの所に行く。そして、翼で皆に見えないようにして小声で話す。
「おい、ファイン!これ、チャームズに頼んでくれ!」
「やだ。」
「即答!?少しくらい考えて貰っても…」
「サインぐらい、自分で行けや!」
「えー、だってさっき建前上あんなこと言ってしまったし…」
「はぁ…」
ファインは呆れたようにそのサイン用の色紙を受け取る。
「い、いいのか!?」
「仕方なくだ…別に悪いこと頼まれてる訳じゃないからな。」
「ハッハッハ、流石私の弟子だ!気が利く!気が利く!」
早速、チャームズの所に行こうとすると、既に彼女達はこのギルド員でないポケモンも含めて大勢の探検家に囲まれていた。ファインは予想以上の人気度に驚いた。とりあえず、今はサインの話なんぞを持ちかけたら大変なことになることは目に見えている。色紙はそっと背中に隠して、ファインも彼女らに集る群に近付いた。
「どうして探検家を始めたんですか?」
「どんなお宝手に入れたんスか?」
「リ、リヴ様とは一体ど、どういう関係??」
「あはは!皆、落ち着いて。順番、順番♪」
質問攻めにあっても動じないチャームズ。どうやらこんな状況はさほど珍しくないようである。そして、集団の中にいるサンも目をキラキラと輝かせながら、彼女らに呼び掛けていた。
「チャ、チャチャチャームズのみな、皆さん!」
「あら、さっきのサンライズの一匹の…何かしら?」
サーナがガチガチに緊張するサンに気付いたようで彼女の方向を向いた。
「わ、私、ずっとチャームズに憧れてました!会えてスゴい嬉しいです!!」
サンは顔を赤くしながら一生懸命喋る。よくよく考えるとこんな彼女はあまり見たことがない気がする。
「ありがとう。あなた、サンっていうのよね?」
「どうして私の名前を…さっきはチーム名しか…」
「リヴに色々聞いてるの。最近、活躍中の探検隊のメンバーってね♪」
その言葉にサンの顔が綻ぶ。ありがとうございます、とサンはお礼を言った。
「はいはい、皆、私たちはちょっと挨拶回り行ってくるからまた後でね♪」
「「「「ええええええぇ…」」」」
一方で、ラビィとチャーリーは無理矢理質問を切った。慣れているからといって、流石に何十分もこの状態はきついらしい。
「サーナ、行きましょ!」
「あ、うん!」
「あぁ〜、ここに来るのも何年振りだろうねー!」
すると、サーナを誘ってさっさとどっかに行こうとした。それにすかさず気付いたのはサンだった。
「アクア!私たちも行くわよ!」
「お、おぅ!」
「ぼ、僕も行く!」
サンはアクタートの手を取りチャームズを追い掛ける。シードも慌ててそれに付いていった。
『ファインは行かないの?』
「別に興味ないからなあ。じゃあ、俺は久しぶりにサメハダ岩に行くか…」
『僕も行くー!』
「くんな!」
そして、ファインは(勝手に付いてきた)ミュウと共にサメハダ岩へと向かった。以前にも行ったが、ここからの蒼海は絶景で一度見たらきっと誰もが恋しくなる景色である。
「うひょー!ちょーキレイだぜぇー!」
『そうだねー。』
ファインは崖に座る。青い空の下で果てしない水平線をボーッと眺める。しかし、頭の中では様々な思索を巡らせていた。
「(それにしても『王様』って誰だ…?何故、サンライズを狙う?まさか…俺が…)」
『俺のせいでサンライズが狙われてしまっているんじゃないか?』
「!?」
不意にミュウに思っていたことを言われ、ファインは驚く。ミュウはそれを見てニコリと笑みを浮かべる。
『…なーんてね☆』
「てめぇ…勝手に人の心覗くんじゃねーよ!」
ファインは頬を膨らして再び視線を海に移した。ミュウは以前、自分の生い立ちを知っていると言った。しかし、彼はそれを教えてくれない。そうする理由も分からない。謎だらけだ。
「はぁ…お前さ、ホント何なの?」
『僕は正真正銘の湖の守り神だよ!食らえ、守り神テレパシー!!』
「はいはい、ハーモ何とかだっけか?」
ハーモナイズだよ、とミュウは笑顔で言った。大人しくしていれば可愛げがあるんだけど、この口からは嫌みしか出てこないというから困り物だ。
「お前さ、遠征終わったらどうするの?」
『僕?僕はねー…』
ミュウはそう呟くと空を見て考え込む。彼のそも大きな双眸が陽の光に反射してキラキラと輝いており、希望に満ち溢れているような気がした。
『まぁ、やること決まってるからね。それをやるつもり。』
「そっか…」
ミュウが何をしたのかはあえて訊かなかった。どうせ訊いてもはぐらかすだろうし。
水平線にホエルオーが一匹だけ悠然と顔を出して泳いでいた。このままゆっくりとこの世界で過ごして行くのかと思うと遣る瀬無い気持ちになる。此処に来た意味も、自分が何者なのかも分からないまま…
『ファイン。』
今度はミュウから問いかけて来た。ミュウは続ける。
『今の状態に満足してないの?』
「え…そんなことはないよ。でも、このままずっとこうというのは、やっぱり納得がいかない。」
ホエルオーを見ながらそう言う。ミュウもファインの目を追って、大きな鯨を見た。とても遠く、小さいように見えた。そして、ミュウは返答する。
『大丈夫だよ。大変な時期が今はまだ先のことかもしれない。だから、こういう時間を過ごせるんだよ。でも−−−』
「でも?」
『でも…それが近くになったら嫌でもそういう日々とはオサラバだよ。今はまだ先のことだから色々と曖昧で分かりにくいだけだよ。』
ミュウはそう言うとファインに笑いかけた。不思議と彼のいうことには説得力があった。
「その口はこの先に苦難がありますよってことか?…ははは!そうかもな!人生、楽あれば苦ありってやつだな。」
『まぁね…』
いつの間にかホエルオーが視界から消えていた。潜ったのだろうか。そう思ってるとミュウがハッとしてファインに言った。
『ファインも皆のところ行ったら?折角の有名な探検隊なんだから親交を深めとくのは悪いことじゃないと思うよ。』
「んー、なんていうか、やっぱりあんまり興味沸かないんだよなぁ。まぁ、こういうのも必要なのか?…じゃあ、ちょっくら行ってくる。」
『行ってらっしゃい!』
ファインはスッと立ち上がって、トレジャータウンに駆け出して行った。ミュウはファインの背を見送り、無言でまた水平線を見た。そこでミュウは一つの心配をした。
『あの辺り、サメハダーとキバニアの縄張りなんだよね。さっきのホエルオー大丈夫かな?
…まぁ、仕方ないか、あんな速く泳いでるんだから縄張りに突っ込んじゃったんだろうなぁ。食物連鎖には逆らえないよね。』
ミュウはそう呟いて彼自身もトレジャータウンに戻ろうとした、その時にまた彼にある疑問が生まれた。
『僕たちW神様Wって食物連鎖のどの位置なんだろう?』
彼は久しく疑問ができたことに少しの喜びを感じた。
to be continued......