第二十三話 とある事件の@
(ククッ…)
ぼんやりと誰かの声が聞こえる。頭の中に直接語りかけてくる…
(ファイン…お前にも怒り、憎しみは生まれるんだ?安心したよ…。)
返事をしたかった。
だけど、口が開こうとしない。
それが何かによって閉ざされてるのか、この声の主か、はたまた自分自身なのかはわからなかった。
(もっと、もっとだ…)
駄目だ…意識が薄れていく…。
待ってくれ…
「…!」
目が覚める。上には白い天井。
「(そういえば、病院にだったな。それにしても、)」
…あの声は夢?
・
・
・
・
・
「忘れ物ないか?」
「オッケー!完璧よ!」
「おぅ、俺もだ。」
「よし、じゃあギルドに帰るか!」
「「「おぉーー!!」」」
サンライズ、復活!
*
見事、退院を果たしたファインとサン。とりあえず、その日は入院疲れというものもあったので、ギルドをぶらぶらとしたり、皆に退屈な病院生活の話をして、ゆっくりと休んだ。皆がこんなに心配してくれるなんて嬉しい限りである。
そして、翌日…
「さあ!早速、仕事探すわよ!」
「あー、このノリ、久しぶりだな〜。」
三週間振りにサンライズの四匹は顔を揃える。あんなことがあったのにもかかわらず、サンは元気溌剌である。とりあえず、彼らは依頼掲示板の前に来た。
「そんな懐古心に浸ってる暇は無いわ!入院のせいで、遠征まであと二週間しかないのよ…!」
「え、ホントに行けるのか?ただへさえ、成績悪いっていうのに…」
ファインは不安げに横目でサンを見る。サンは彼を見るなり、ふんぞりかえったように自信有り気に言った。
「大丈夫よ、赤字も少ないんでしょ?私たちが今できることをやればいいの!」
「それはそうだけど…」
「ファイン、心配すんな!」
 アクタートがいきなりファインの肩に手を回してくる。彼の体重が掛かり思わずバランスを崩しそうになった。
「何が大丈夫なんだよ?」
「赤字の分はお前達がのほほんとした入院生活を送ってる間に返しといたぜ!」
「えっ!まじか…」
「さっすが、アクアね!なかなかやるじゃない!」
アクタートは誉められて、顔を紅潮させる。照れ臭いのか鼻の下を掻いて、歯を見せて笑った。
「あ、ありがとよ…。シードもちゃんとやってくれたんだぜ。な?」
シードは急にふられて、驚くと共に顔が赤くなる。彼は俯きながら小さく肯いた。
「もちろんわかってる。」
ファインは当然のように言った。
すると、サンは既に掲示板を覗いて依頼が記された紙を取って内容を確認してはまた貼り付けて、別の紙を取っては同じ行動を繰り返していた。
「これはダメね。これも微妙…何よ、『昇進テストの代理』って…何でもアリね…」
サンは溜め息を吐いて、依頼の紙をまた貼り戻す。一方、アクタートが腰に手を当てて急かしまくる。
「さっさと選べよ〜」
「わかってるわ!えーと…」
「みんな〜!!」
すると、聞き慣れた甲高い幼さを感じさせる声が聞こえた。
「よぉ、リヴ。」
「サンライズ、おはよ☆」
皆は互いに挨拶する。どうやらリヴは用があるようだ。
「何か用か?」
「またキミ達に頼みたいコトがあるんだ♪」
リヴはそう言うと、一枚の紙を出す。ファインはそれをそっと受け取り、中身を見る。
「墓参りに行くから警護してくれ…か。」
「やってくれる…?」
リヴはうるうるとした目で此方を見てくる。あぁ、そんな風に頼まれては断る事も出来るわけがない。
「俺はいいぜ。サンたちは?」
「おっけー!」
「面白そうなの無かったし、それで良いわよ。」
「ぼ、僕も…」
「ありがとう、サンライズ!」
リヴは両手を挙げて喜ぶ。他人事なのに良くこんなに喜べるな、とファインは思った。すると、アクタートが疑問をリヴに持ちかける。
「しかし、何でよりによって俺らなんだ?他にできるヤツいるだろ?」
それにリヴは笑顔で答える。
「確かにキミ達じゃなくても良かったケド…暇でしょ?だから頼んだの。あと、少し手応えのある依頼だからキミ達の実力もある程度測れると思ってね!」
「ほぉほぉ…」
どうやらリヴが考えがあって頼んでるらしい。ひとまず納得は出来た。
「じゃあ、早速行きましょう!もちろん、準備してからね!」
「あ、依頼者は正門前にいるからね〜!」
リヴは駆け出すサンに大声で言った。サンは手を振って反応してさっさとトレジャータウンに行ってしまった。ファインはそれを見て、呆れにも似た溜め息を吐く。
「全く、ボロボロになった事なんてもう忘れたみたいだなー…。」
「まぁ、いつも通りでいいじゃねーか!」
ファインはアクタートの言葉に苦笑する。そして、そこに立ち続けるのも無意味なのでファインらもトレジャータウンへと向かうのであった。
*
「やっと出番だな。」
「第十二話以来ですね…」
「ちょっとしか出て無かったけどな…」
「さて、『最凶最悪』…それが自称となるか皮肉となるか見物だな…」
「任せて下さい…」
「この最凶最悪…」
「スウィンドルズに…!!」
*
準備を終えたサンライズは正門へと向かう。しかし、ここは待ち合わせに使うポケモンが多くいるため結構ごちゃついている。皆、時間潰しに雑談やら盛り上がっていた。その中をサンライズは右往左往しながら依頼者を探す。
「ねぇ、依頼者って誰なの?」
「フローゼルだとよ。シード見えたか?」
「ファインに見えないんじゃ四足歩行の僕に見える訳ないよぉ…って、ア、アクタート僕の上に乗らないで…」
「こうした方が高いだろ?えーと…あ、あれじゃね?」
アクタートはシードの上から指を差して方向を示す。彼の指の方向を見ると、正門の脇に一匹のフローゼルが見えた。サンライズは群衆を避けながらそこへと向かった。
「おい。」
「はい、何でしょうか…?」
「墓参りの警護っていうのはあんたの依頼?」
ファインは紙をピラピラとして、フローゼル見せた。すると、フローゼルはハッとして頭を下げて挨拶をした。
「貴方達が警護の方ですか!私、フローゼルのフロウと言います。今回はよろしくお願いします!」
すると、もう一度ペコリと挨拶をする。俺らより背が高いというのに腰が低いこと…
「お、おぅ。道順はアンタが教えてくれるって聞いてるけど…」
「はい!コレが地図です。」
彼女は腰に掛けてあるポーチからくるくる丸められた地図を取り出して渡してきた。ファインはそれを受け取り、広げる。
「どれどれ……え?」
地図を広げて目的地を確認すると、驚くべき事実が判明した。
「目的地って…ボンズ大陸!!?」
「てことは…大陸越えしなきゃいけねぇのか!?」
「大陸越えですって!?大冒険間違いなしね!」
「僕たちで大丈夫かなぁ…」
様々なリアクションを見せるサンライズ。実は四匹とも大陸越えなんぞやったことがない。新たな挑戦というわけである。
「大丈夫ですよ。船出してますから、それに乗って行きましょう。」
と、依頼主は笑顔で言う。船が出る出ないの問題では無かったのだが、とりあえずそうしておこう。
*
フロウに案内されて、近場の名も無い港へと着いた。随分と廃れており、閑古鳥が今にも鳴きそうである。船は結構な数が着岸しているが、錆や苔で薄汚れてしまっていた。
「俺たちの船ってどれだ?」
「アレですよ。」
フロウは指差すと、そこには至って普通の白い船…ではなく、頭の角が輝くジュゴンが二匹居た。
「あ、フロウ様、おかえりなさいー。」
「ただいま。ザンノ、ちゃんと、休めた?」
「えぇ、少しは!まぁ、帰りはノイオにも頑張ってもらわなくては…」
「判ってる…安心しろ…」
礼儀正しいのがザンノ、ふてぶてしい態度なのがノイオ。どちらもフロウのことを慕っている様子である。
「二匹とも挨拶なさい。今回お世話になるサンライズの皆さんです。」
「サンライズの皆様、よろしくお願いします。私はザンノと申します。」
「俺はノイオだ…」
サンライズも挨拶と自己紹介を済ませる。そして、フロウが手を叩いて言った。
「さて、そろそろ行きましょうか。サンライズの皆さん、準備は宜しいですか?」
「オッケーだ。」
「おう、もちろんだ!」
「もう出来てるわ!」
「ぼ、僕もっ!」
「じゃあ、早く乗って下さいよ。そうしないと着く頃には日が暮れてしまいます!」
皆はジュゴンの二匹に促されながら彼らの上に乗り込んだ。初めての船旅に沸き上がる気持ちが抑えきれなかった。
*
「ここであってるんですか、リーダー?」
「あぁ、王様は『ココに奴らが来る』とおっしゃっていた。」
「まぁ、ウォーミングアップって感じでいいんじゃねーの?」
「そうだな…とりあえず寝床は探そう。」
*
「よっと!」
「アクア!危ないわよ!」
約六時間後、サンライズは赤き太陽照るボンズ大陸の地を初めて踏みしめる。
アクタートは真っ先にノイオから飛び出してくるんと一回転して着地する。
「いっちばんのりー!!」
「ガキか!」
ファインが呆れながら言う。はしゃぐ気持ちも分かるが、こういう不慣れな状況こそ落ち着いていかないといけない。
「ありがとね、二匹とも。」
「いえいえ、またいつでも呼んで下さい。」
「俺は眠い、帰るぞ。」
そういう言うと二匹は青い海の中へと潜って消えてしまった。
フロウはしばらく二匹が消えた海を見て、振り返る。
「じゃあ、早速墓参りの警護頼んでいいかしら?」
「勿論だ!何のためにきたと思ってる。」
ファインは腰に手を当てて言う。フロウはそれをみて安心したのか微笑した。
「ファイン、やる気満々ね!」
「まぁな。なんたって三週間振りの依頼だしな!」
ファインは指を絡めてバキバキと関節を鳴らす。アクタートやシードも負けじと意気込んだ。
すると、フロウはポンと両手を合わせてハッとする。
「そうね…折角だから私の住んでる街…じゃなくて、村を案内しながら行きましょうか!」
港から奥に進むと、田畑が彼らの目に飛び込んでくる。
「うおー、田んぼだ!田んぼ!」
「悉(ことごと)く田んぼね!」
二匹の感想通り、田んぼが一面に広がっておりポケモンらがそれぞれの技を活かしながら、耕作を営んでいた。逞しい体つきのポケモンもいれば、ひょろっとしたメスのポケモンまでいる。
「長閑だな…」
ファインは呟く。
「はい。でも昔はこうじゃなかったんですよ。」
「?」
フロウはそういうと、青空を見上げて目を細める。ファインは不思議に思いつつも、フロウの後について行った。
幾つかの田んぼを抜けると、今度は畑が広がっていた。田んぼ同様にW水遊びWで水を撒いたり、W火炎放射Wで肥料の木灰を造ったりしていた。
「おー、フロウちゃん、こんにちは!今日は連れの方が居るのかい?」
「おじさん、こんにちは!はい、お墓参りのお供をして下さるの。」
耕作をしていた一匹のポケモンが此方に気付き、呼び掛けてきた。
「気をつけてなぁー、最近はこういう所も治安が悪いから…。お連れの方、フロウちゃんを宜しくお願いします!」
ポケモンは九十度以上腰を曲げて頭下げる。サンライズもそれに軽く会釈をした。
「知り合いなのか?」
「はい、いつも親切にしてくれるおじさんです。彼に限らず、ここに居る人は皆優しいですよ♪」
フロウは微笑みながら言う。それにファインは感心の返事をした。確かに辺りを見回すと、皆笑顔である。良いところだ。
すると、サンが後ろから躍り出る。
「ねぇねぇ、あとどのくらいで着くのかしら?」
歩いてまだ十数分だが、サンは気になったのか到着時間を訊いてきた。フロウが、そうね、と呟いて、少し上を見上げて時間を見積もる。
「あと十数分ぐらいですよ。畑を抜けて、外に出たら墓地に繋がる階段が見えますから。」
そして、畑を抜けて外に出ると彼女の言ったとおり遠くに石造りの階段が見えた。上まで続いているが、上の方は木が生い茂って先が見えない。多分、相当長い階段だろう。
しかし、ファインは辺りを眺めてもう一つ気になることがあった。
「なんか村より道が整備されてるな。石畳というより…コンクリートか?それに街灯まであるんだな。」
村の様子とは打って変わっての工業的なものが目に入る。ライト大陸では決して見かけないものである。
「このボンズ大陸では工業が盛んなの。だから、ライト大陸では見慣れないものがあっても仕方ないわね…」
少し自慢気に説明するフロウ。つまり、ライト大陸は自然、ボンズ大陸は人工といったところだろうか。
そんなこんなで石段の下まで来た。上を見ると、果てしなく階段が続いている。
「なげぇ…」
「何十段あるのかしら…いや百以上かな…」
皆は余りの高さに驚きを隠せなかった。修行するにはもってこいの場所であることは間違いはなかった。墓地というロケーションから肝も試せるだろう。
「サン?どうしたの…さっきからキョロキョロして…」
シードがサンの不審な行動が気になった。図星だったのか、サンは思わずぎょっとする。
「い、いや〜、WゴンドラW的なものないかしら…って思って…。」
それを聞いたアクタートがふと疑問する。
「ゴンドラって何だ?」
それに、フロウがすぐさま答える。
「簡単に言うと、山の麓から頂上まで運んでくれる乗り物です。この大陸でも余り見慣れないものですが…よく知ってましたね。」
フロウがサンに振り向く。
「う、うん。いつか忘れたけど聞いたことあったなぁって…。てか、ないと疲れるわねー…」
サンは弱音を少し吐きつつも、一緒に登っていった。。
そして、少しの休憩を挟み、一同はまた階段を登り始める。一段一段、確実に歩みを進めていった。
to be continued......