第十六話 第一の刺客、現る!@
「もう、結構奥まで来たぞ・…ハァハァ…」
「ハァ…そうね、ハァ…。」
森方面へと向かったサンとアクタートは捜索が難航していた。トレジャータウンに一番近いWリンゴの森Wが逃げ道に適しているとふんだが、誰も見つけられずにいた。
そういえば、ガラガラのボーンを攫ったポケモンは素早く去っていった。もしかしたら、もう此処にはいないかもしれない。
「ったく、何処にいるんだ!おい、出てこい誘拐犯!!」
「アクア、静かにして!此処に住んでるポケモンに迷惑よ…」
アクタートは口を慌てて閉じる。アクタートが叫びたい気持ちはサンも十分承知だが、こういう時ほど冷静にならなくてはいけない。サンが思考を巡らしていると…
「よう、嬢ちゃん、兄ちゃん!」
「?」
「何だ今の声?それに何処から…」
急に聞き知らぬ声が耳につく。サンとアクタートはキョロキョロと声の行方を探すが左右何処を見ても見つからない。
「ほらほら、上だよ、上!」
「上って…あっ!」
「お前誰だ?」
声の言う通りに上を見ると、木の上にポケモンが乗っている!拳にグローブを着けて、細い身のこなしのエビワラーだ。
「何で木の上いるんだ?」
アクタートが当然の質問を投げかける。すると、エビワラーはスっと音を立てずに地面に飛び降りて二匹の正面に立った。
「俺はリンプ。エビワラーのリンプって言うんだ!」
いきなり自己紹介を始める。サンたちには特に悪いポケモンには映らなかった。二匹は互いに肯きあってそのことの無言の同意を交わす。
「んじゃ、俺も自己紹介しなきゃな!俺はゼニガメのアク…」
「おっとおっと、別にいいよー。自己紹介なんて。」
自己紹介を遮られたアクタートは少し不服そうにした。サンはそんなアクタートを気にしながらもリンプに一つの質問をする。
「ちょっと何よ。そっちが自己紹介したんだから、こっちも…」
「これなん〜だ?」
すると、リンプが左手で懐から太い骨を出してきた。サンとアクタートはそれを見てハッとする。
−−−−ボーンの骨だ!
「ちょちょちょっと、なんであんたがその骨持ってんのよ!」
「まさかお前らが…」
「さーてどうかな?」
リンプは馬鹿にしたように片手で骨を投げ、クルクルと回して遊ぶ。この瞬間、サンたちはコイツがボーンの誘拐犯だと確信する!
「ボーンを返しなさい!」
「どうしよっかなー?」
「畜生!力ずくでやるしかねーようだな…」
アクタートがリンプを睨むと彼は口角を上げてニヤリと笑った。
「あれ?戦わないの?ビビっちゃったぁ?」
「黙ってりゃ言いたい放題だな!すぐに居場所を吐かせてもらうぜ!」
そう言うと、アクタートは地を蹴りダッシュして飛び上がる。そして、首を引っ込めた!
「喰らえ!Wロケット頭突きW!」
勢いよく首を出して猛スピードで繰り出されたWロケット頭突きWはリンプに真っ直ぐに向かう!そして、リンプに直撃した!
「…っ!」
「(よし、直撃!コレは効くぜ!)」
「フッ…」
すると、リンプは鼻で笑ったかと思うと、アクタートをガシッと掴む。そして、空へと投げ上げた!
アクタートは空中に投げ出されて無防備になる。
「なっ!?」
「もしもし亀よ亀さんよ〜♪俺をナメてちゃ滅ぶぜ!」
鼻歌混じりのリンプは素早さを活かして地面を強くなった踏み込んでジャンプする−−−−膝を突き出して−−−−
「やばっ!あれって…」
「いけ!W飛び膝蹴りW!」
W飛び膝蹴りWは見事にアクタートの腹の真ん中に命中してしまう!
「がっ…!」
「アクア!」
アクタートはそのまま暫く滞空して背中から墜落した。
「フンッ!よわっちー♪」
リンプは鼻で笑って二匹を嘲るかのようにシャドーボクシングをする。一方でサンはアクタートの元に駆け寄り安否を確認しに行った。
「アクア!アクア!」
「ぬぉ…ゲホッ!ガハッ!あぁやべぇ、死ぬとこだったぜ…。」
「ちょっと体力回復しないと…あっ!」
サンはバッグを持って来るのを忘れたことに気付く!本来、道場の様子を見に来ただけなのでバッグなど不要と判断したのが仇となった。
「どうしよう、バッグが…」
「大丈夫だ。まだやれる…。」
アクタートは甲羅の腹が少しヒビ割れているのをもろともせずに立ち上がる。
「ほぅ、まだ戦えるようだね!兄ちゃん!」
「ふん、このアクタート様を侮ってると痛い目遭うぜ…!」
と、アクタートは強がってみたものの、甲羅の損傷が負担となってまともに動けない状態である。更にW飛び膝蹴りWの高威力の物理的なダメージが体にも伝わり彼を疲労させていた。明らかに二匹の不利である。しかし、アクタートの顔にはまだ余裕が残っていた。
「(こんな勝負久し振りだぜ…これはサンにも力を借りなきゃな…)」
ということで、アクタートは横で心配そうに見つめてくるサンに問い掛けた。
「おい、ここは協力しようぜ!」
「あ、あったりまえじゃない!であるのは何か策あるの?」
「まぁ、単純なんだけどな…」
そうして、アクタートはサンに耳打ちをした。
「うん、分かったわ!あんた、こういう時は頼りになるわね!」
「一言多いぜ…。じゃあ、行くぜ!」
そう宣言して二匹は戦線に気を取り直して立つ。二匹は明らかに自信に満ち溢れた目をして、リンプにその眼差しを向ける。
「話は終わった?」
リンプはどうでも良さそうに様子を窺った。周りにはいつの間にか森に生息するポケモン達が三匹の戦いを観ていた。
「ギャラリーも湧いてきたみたいだな。俺っちがお前らにK.O.を決め込んでやるぜ♪」
リンプが右手のグローブを二匹に突き出して敵意を見せる。
「それは…」
「こっちのセリフよ!!」
「かかってこいやああぁっ!!!」
真っ先にリンプが高速でアクタートに迫る!
「WマッハパンチW!」
「くっ!させるかよ!」
アクタートはリンプの攻撃をギリギリまで引き寄せる!リンプは少しの違和感を感じた。
「W水鉄砲W!」
「ぐっっ!!?」
真正面で水をぶっかけられ思わず目を閉じてしまうリンプ。WマッハパンチWは目を閉じたおかげで、アクタートから見事に外れた。
「へっ、この距離なら躱せなかっただろ!」
「ペッ!なかなかやるんだな…」
リンプは口に入り込んだ水を地面に吐き捨てる。水をかけられたので濡れてしまったが、余り影響はないように見えた。すると、アクタートがニヤリと口角を上げる。
「何がおかしい?」
「まだ俺らの攻撃は終わってないぜ!」
「いくわよ!W十万ボルトW!」
待ってましたと言わんばかりにサンが赤い頬に電気を溜めて、一気に一閃を放つ!
「フンッ、W十万ボルトW如きにやられる俺じゃねーよ!」
「気付いてねぇのか?お前、馬鹿だな!!」
「どういう…ぐあああぁぁあっ!!!」
アクタートがリンプを罵倒する言葉を発した時にはリンプは高圧電流を食らっていた!そして、先程アクタートがかけたW水鉄砲Wの電流の伝導性の良さも相まって効果は倍増だ!攻撃を食らってリンプはそのまま膝を着いて倒れた。
「や、やった〜…」
「よっしゃ!倒せたぜ!うっ…いてて…」
サンとアクタートは手を互いに合わせて勝利を喜び合う。サンライズにとってこのような本格的な戦闘は珍しいことだったのでこれは彼らにとって大きな意味があっただろう。
「ねぇ、大丈夫?」
「平気平気!こんなことじゃくたばんねぇ…痛っ!」
「ふふっ、まったく調子乗っちゃって…。そうだ!ボーンの居場所吐かせないと…」
そう言うと、サンは<ruby><rb>俯</rb><rp>(</rp><rt>うつぶ</rt><rp>)</rp></ruby>(うつぶ)せになってリンプに近寄る。電撃をもろに喰らったせいか、体の数カ所に火傷が見られた。いくら敵とは言え、こういう傷は生々しく、気分の良いものではない。
…とは思った彼女だが、今は勝利の高揚感からそんなことには目を瞑るのであった。
「ほら、アンタ…名前なんだっけ?とにかく、ボーンを返してよ!」
「…。」
−−−−そう、目を瞑ってしまった。傷以外のことにも。
リンプの肩がピクリと動く。アクタートは遠目からそれに真っ先に気付いた!しかし、
「サ…」
「なっ…!」
アクタートがサンの名前を口にしかけた時、彼女の体は既に宙を舞っていた。腹にリンプの繰り出した技を至近距離で食らって…
「WドレインパンチWどうだい?」
WドレインパンチW−−−相手の体力を吸収して自分のものにする技。
アクタートはそのまま落ちてくる地点を予測して彼女を受け止めた。彼女の打撃を食らった所は赤く腫れている。見ているこっちが痛くなるほどだ。
「ん…アクア…」
「サン、大丈夫か!?」
「あ〜〜〜あああ、俺っち怒っちゃったー、もう無理、マジギレってやつだよ…」
アクタートは彼の言葉を聞き、歯を食いしばる。しかし、今の自分にはこの危機的状況を打破する術は持ち合わせていない。彼は何か方策がないか頭の中を巡らせる。
「(一体、どうすればいい?!あいつは体力回復しちまったし、サンは戦える状態じゃないし、俺もまともに…)」
「じゃあ、遺言はない?ないよね?じゃあ、そろそろ…」
「お前たち何をしてるんだ…?」
リンプがまさに攻撃を仕掛けようとした時だった。急にギャラリーの中から一匹のポケモンが籠に木の実を大量に抱えて出てくる。大きな鍬と鋭い目を持ったポケモン、カイロスだ。リンプは舌打ちして、そのポケモンを睨んだ。
「お前誰?」
「いや、ただ知り合いが倒れてるのを見てな…」
すると、彼はボロボロになっているサンとアクタートを見る。
「おい、大丈夫か?」
「お前…!」
アクタートは目を見開く。カイロスは溜め息を吐いて、彼の元に行った。
「ほら、こいつでも食いな。」
「…。」
カイロスはオボンの実をアクタートに投げ渡す。しかし、突然のW再会Wに驚いてるのかアクタートは口をパクパクさせる。
「ふ、フリクト!?フリクトだよな?!」
「そうだが、何だ?」
「な、何でもねーよ!」
アクタートは何故か強がってしまう。以前、彼と対峙した時に負けてしまい悔しい思いをしてしまったことをまだ根に持っているようだ。脳裏に強く焼きついている苦々しい経験である。
「そのピカチュウ、お前らの仲間だろ?」
「そ、それがどうした?」
フリクトはアクタートの抱えているサンを指差して言った。アクタートはぐったりしている彼女を見て悲しそうな顔をする。
「そうだよ、あいつにやられたんだ…」
フリクトはその指示語がこの状況からみて、こっちをイラついた目で見てくるエビワラーだとすぐに理解した。
「そうか…」
「…。」
「陰で隠れて休んでろ、その木の実もやる。とりあえず、俺が追い払ってやるから、どんな事情かはしらんがな…」
「っ!!」
アクタートはそれを聞いて、一瞬驚いたが、今は猫の手も借りたい状況。素直に彼の力を借りることにした。
「すまねぇ、借りは返すからな!」
アクタートはそう言って、ギャラリーのいる叢の中へサンを担いで入り込んだ。すぐに木に寄りかからせてオボンの実を一つとってサンの口に運ぶ。
「サン、フリクトのお陰で休めるぞ。ほら、オボンの実だ。食って回復するんだ。」
「う、うん…」
サンはそうして一口、オボンの実を弱々しく食べた。オボンの果汁が彼女の口から漏れて微かに光る。
「サン…。」
命は助かった。でも、何かが壊れたような気がする…。
アクタートはそんな奇妙な感覚を払うかのようにサンの食べ掛けのオボンの実を思い切りかぶりついた。
*
「あれ、次はアンタが相手?」
「そんな所だ。」
フリクトは二匹がちゃんと隠れられたこと確認して、目の前の敵に振り向く。
「へぇ、強いか?」
「さあな。一応言っておくが、ここら一帯は俺の村の管轄でな。勝手に暴れてもらっては困る…出来れば早々に立ち去ってもらいたのだが。」
「そうか…じゃあ、早く戦おうぜ。」
リンプがフリクトの言うことを無視して戦闘態勢をとる。フリクトは溜め息を一つついて同様に構えた。
「話が通じないようだな。力ずくでやるしかないか。」
「アンタ話が早いねー。じゃあ、さっさと始めようぜっ!!!」
リンプのダッシュと共に戦いの火蓋が切って落とされた!
to be continued......