第九話 Mother's DayA
「誰かっ!誰か、助けてえ!」
「お願いだ、静かにしてくれ!」
「おい、ルリ、襲われてねえか!?」
「リープ!何をしてるんだ!ルリを離せ!」
リープが此方に気付いたようでファインたちの方に振り返る。そして、何かを察したのかルリを背後に隠した。
「お前たちは誰だ?」
「俺らはサンライズ。お前たちを助けに来たが、どうやら助けるのは一匹で構わないようだな。」
「何のことだ?」
「お前はルリのカーネーション探しを口実にルリに近寄ったんだろ!」
「やるか?」
アクタートの挑発にも動じず毅然とした態度をとり続けるリープ。リープもやがて戦闘態勢に入り、構える。
「やる気満々じゃねぇか!いくぜ!W水鉄砲W!」
アクタートの水鉄砲が彼の口内から発射される。しかし、リープはルリを両手に抱えて水鉄砲を躱した!リープは体型に合わず俊敏な動きをするようだ。意外なステータスにアクタートが舌打ちをする。
「ちくしょー、外したか!」
「俺をナメるな!俺にはやらなきゃいけないことがある。ここで倒れる訳にはいかない…」
リープが何かを訴える。しかし、ファインたちの耳には微塵もその言葉は入らなかった。何故なら、ルリがさっき助けを求めていたのは確かで、例え、リープが悪いことをしようとしていないとしても、あの子が嫌がることならそれは事の善し悪しに関わらずしてはいけない事だからだ。
「ルリが嫌がってる。さっさと離せ!」
「やはり話が分からないか。仕方が無い、ここでお前たちを倒す!」
「ヘヘッ!早速行くぜ、Wロケット頭突きW!」
アクタートは首を縮め、足の踏み込みを追い風に勢いよくリープにWロケット頭突きWをかます!
「アクア、危ない!ルリくんに当たるわ!」
「!!」
アクタートはサンの言葉でそのことに気付いたが、彼の頭は既にルリの目前である。間に合わない!
「くっ!!」
「きゃっ!」
すると、リープがルリの上に覆い被さりWロケット頭突きWを代わりに受けた!
「ぐがっ…!」
リープは体ごと吹っ飛ばされる。ルリの頭上を通過して奥の岩壁に強く叩きつけられ、鈍い音が山頂に響き渡った。ルリは目で頭上を通る彼を眺めてやがて岩壁に至った。
「ルリくん、大丈夫!?」
「う、うん!おねえちゃんたちはだれ?」
「私たちはチーム『サンライズ』、あなたを助けに来たわ!私から離れないでね!」
ルリはコクンと肯く。サンは微笑んで、いい子ね、とルリの頭を撫でながら背後に回して、リープへと視線を戻す。リープは岩壁に体を強打したせいか動けなくなっており、痛みに顔を歪ませ苦悶の声を出していた。そこにファインが近付く。
「…ってぇ」
「まだ抵抗するのか?」
「…お前らに願いがある。」
「願い?誰がお前みたいな悪人に…」
「サンライズさ〜ん!ルリ〜!」
突然、後ろから声が聞こえる。おそるおそる振り向くと…
「ポード!それに…」
「ジバコイルのマグティーン保安官!」
「ぽーどサンニ、さんらいずノ帰リガ遅イノデ自分モ行キタイ、ト申シテイタノデ、私ト同伴トイウ条件デ連レテ来マシタ。」
ポードと一緒に来たのはジバコイルのマグティーン保安官。彼(実際、性別は不明)はこのトレジャータウン付近の安全を守っている。タウン郊外に保安庁があり、トレジャータウンからも数分で行ける距離である。そのため、保安官自身がお尋ね者の逮捕等の依頼を持ちかけてくる事も少なくない。
一方、ルリがポードに気付き、サンから離れていきポードに駆け寄って行く。
「お兄ちゃん!」
「ルリ!良かった…」
ポードはルリを抱きしめて安堵の涙を見せる。ファインたちはそれを見て、同様に安心する。しかし、まだ任務が完了した訳でない。
「さて、こいつはどうするか…」
「待て!話を聞いてく…っ!?」
「逮捕シマス!」
マグティーンは隙をつきリープに手錠を掛けた。リープは手を捩ったりと抵抗するがあっさりともう片手に手錠を掛けられ身動きが取れなくなってしまった。
「ホラ、着イテ来ルンダ!犯罪者メ!」
「くっ!」
ファインたちはマグティーンと囚われの身となったリープを引き連れて行くところを眺める。それを見ていた目はきっととても冷たいものだったに違いない。そして、リープが引き連れられてルリの前に止まる。ポードは一気に表情が汚物を見るような目に変わる。ルリはポードにしがみついて少し怯えてるようだった。マグティーンはリープを一歩前に出して命令する。
「謝レ!」
「……!」
至って当たり前の事だ。謝罪という行為は決して許しを受けるだけという行為でない。自分を辱め、戒めるという立派な更生においての必要条件だ。
しかし、いつまでも沈黙を保つリープにマグティーンが遂に憤る。
「早ク、謝レト言ッテイルダロウ!」
静かな山頂に怒号が響き、ポッポがそれに反応して山から飛び立つ。ファインたちも余りの大声に身の毛がよだった。
「……おい、」
リープがやっと口を開く。しかし、それはファインたちの期待する答えでは無かった。
「今すぐ此処を離れろ!じゃないと…ぐっ!?」
「同情ノ余地無シダナ…」
マグティーンは引っ張る強さを増す。リープは後ろに仰け反ったため声が吃ってしまった。
「デハ、りーぷハ私タチ保安庁ニ任セテ下サイ。」
「…ルリッ!」
リープが何か言った気がしたが、ファインたちの所までは全く届かなかった。むしろ、犯罪者の言う事など関係無いと言ったところか。何はともあれ、兄弟が再び出会えたことに今は喜ぶべきだろう。
「はぁ〜、良かったわね、ルリくん。それにしても貴方、女の子みたいね。所謂、中性的な顔立ちってやつ。」
「え!そ、そうですか?」
「本当に女みたいだな。だから、あんな変態に目付けられるんだな!ハッハッハ!」
「アクアさん、冗談でもやめてくださいよ!でも、本当に良かった…」
ポードはもう一度ルリを抱きしめる。流石のルリも照れているのが顔に出ていた。
「お兄ちゃん、苦しいよ。早く、お母さんにカーネーション渡そう。」
ルリはそういうどこからともなくカーネーションをだす。それは深紅に染まった花弁と薔薇に似た美しさがあり、こんな辺鄙な山にはあまりにも不釣り合いな存在だった。
「これがカーネーション!キレイね!早く、ルリくんが採ったカーネーションをお母さんに渡さないとね!」
「う、うん!」
*
数日後・・・・
「サンライズさんに郵便でーす!」
「アリガト。手紙か…珍しいわね。」
サンはいつものように早起きして外で散歩をしていた。すると、珍しくサンライズ宛に手紙が来たのだ。サンは裏返して宛先欄を見る。
「サンライズ様へ、ポードとルリの母ビウォラより…って、あの子たちの…」
サンは星のシールで閉じてある封筒を破らないように丁寧に剥がす。そして、中に手を入れて筆記されている一枚だけを取り出し読む。
「どれどれ…
『サンライズの皆様、この度は私の息子らがお世話になりました。書面にて御礼申し上げます。
サンライズの皆様がこのカーネーションを採るのを手伝ってくれた事、子供達はとても嬉しく思っております。実は私、今病気を患っていまして子供達、特にポードには苦労を掛けさせてしまっています。ポードは友達と遊んだり好きな事をしたい年頃なのに、それが自らの病のせいでできなくなってしまっている事がとても心苦しいです。そこで、私から厚かましいとは思いますがお願いがあります。
どうか遠目でいいのであの二匹を見守って欲しいのです。
先程も言いましたが、あの子たち本当に貴方たちを慕っているのです。私はこんな身の上なので何も出来ない、無力です。見ていてくれるだけでいいんです。一方的で済みませんが、お願いします。そして、本当に有難う御座いました。』
あの子たちにこんな複雑な事情があったなんて…。あれ、まだ続いてるわね。
『P.S. もう一つポードから聞きました。このお願いに貴方たちを選んだのは、実はリヴ親方様なんですって!リヴ親方様は世界でも名高い探険家ですから、サンライズはきっと認められたんですね。これからも探険活動頑張って下さい。』
えっ!リヴが!?意外ね…。
じゃあ、あの時、わざとポードがお願いしたようにいったのはわざとだったのね。よしっ…私たちももっと頑張んなきゃね。これ、ファインたちにも見せよーっと!フフッ♪」
サンは母親の想いを確かに感じ取って心の内に留めた。そして、顔が嬉しさで綻ぶのを我慢してギルド内へ戻って行った。
*
「ルリ、お母さんにカーネーション喜んでもらえてよかったな!なんたってルリが採ったんだからな!」
「え…、う、うん、そうだね!お兄ちゃん…」
言える訳がない、今更、こんなにお兄ちゃんが喜んでいるのに…。
言える訳がない、このカーネーションは…
−−−−待て!話を聞いてく…っ!?
「リープさん…」
「どうした、ルリ?ほら、朝御飯出来たぞ!」
「何でもないよ、お兄ちゃん!わー、美味しそう!」
二匹は
朝餉を摂り始める。ルリは彼の思いを思索していると、ふと、窓にポツンと音がするのに気付く。外を見ると雨が降っていた。もうすぐ梅雨だ、そう感じたのはこの兄弟だけじゃないはずだ。
ルリはよく分からない不安を感じつつ、朝食を口に運んだ。
to be continued......