金魚。 - 1
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 一人っ子の僕は何となく夕方のワイドショーをぼーっと見ていることが多かった。ワイドショーには必ずと言っていいほど、短いドキュメンタリーや潜入もののコーナーがある。世間の隅っこで起きた問題に疑問を投げかけるようなもの、もしくは珍しい出来事、人、ポケモン。幸せそうなものから不幸せそうなものまでその種類は様々である。(不幸なものや、世間からずれているものが圧倒的に多い。が、それは視聴者がそういうものを見て、自分の事を棚に上げながら世間を憂うのが好きだからだと僕は思っている)
 その、ドキュメンタリーで僕はよく目にしていて憧れていた事がある。
 それはパートナーであるポケモンをモンスターボールに入れず連れ歩いているトレーナーの様子だ。柔らかそうな毛並みのポケモンや少し固そうなドラゴンタイプまで、多種多様のポケモンを抱いたり肩や頭に乗せて歩く。なんて素晴らしいんだろう。パートナーとの愛情や絆の強さを感じるし、それほどまで懐いているポケモンといるなんて、どんな幸せな事だろう。
 さて、僕も遂にパートナーを得て、今まで羨望していたその情景に馴染める権利を得たのだ。母に見送られて清々しい晴れの日に旅に出掛け、今から輝かしい、ポケモンととても仲睦まじく、更には最強のトレーナーとなる第一歩を踏み出したのだ。
 このモンスターボールを宙高く投げれば、ほら――、
「出てこい、トサキント!」
 ちょっと前に抱いたこの金魚に対する何とも言えぬ感想など忘れていた。だって、いいじゃないか。みんなが連れている初心者用のポケモンは育てやすいし強いに決まっている。それならば僕はこのマイナーなトサキントで天下をとってやる。
 ウキウキした気持ちを乗せて、モンスターボールは虚空を待って、半分に割れると、映像でしか見た事のなかった光を放ちポケモンを放出した。
 想像とは、なんて豊かで、なんて自分に都合のいい事ばかりなのだろうか。僕は眼前に描かれた情景にまた、なんとも言えぬ気持ちになった。
 ぴちぴちとトサキントがはねる。とてもじゃないが、土の上をうまく歩けそうにはないし、このフォルムをどうやって頭に乗せろと言うのか。それに金魚好きの僕は知っている。水に棲む生き物を素手で触っていては生き物たちが火傷をしてしまう事を。だから、抱いていられる訳がない。少し首をひねって、僕は静かにこいつをモンスターボールに戻した。
 あぁ、そういえばここから一番近いポケモンセンターはトキワにあるんだったな。

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早斬風牙 ( 2014/05/11(日) 20:46 )