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ポケモンってもっと可愛いのいっぱいいるのにな。
こいつに初めて出会ったとき、僕は心底そう思ってがっかりした。
僕は小さい頃から祭りというものが大好きだった。大勢の人が浮かれて、騒いで、綺麗な花火があがったり、美しい桜が見れたり、御神輿の熱気も僕を興奮させた。それに子供は普段、日が沈みきる前に家に帰らねばならない。けれどその日だけは特別だった。日が沈んでからも外で遊べるのはとても魅力的で、少し禁忌のようなものを感じ、底知れない快感が包んでくれる。だが、僕がお祭りで一番好きなのは、そんなものではない。――屋台だ。
そう、屋台。同じ風に思っている人も大勢いるのではないだろうか。普段食べる焼きそばはそんなに美味しくないのに、あの空間で食べるととてもおいしい。おもちゃコーナーにおいてあったら目もくれないようなガラクタが欲しくて仕方なくなるし、そのガラクタが何故かとっても大切になる。
その中でも僕が一番好きだったのは金魚すくい屋さんだ。とりわけ金魚が好きだったわけでもないのだが、金魚すくいというものを初めて目にしてから、金魚まで大好きになってしまったくらいである。勿論、昔書いた“しょうらいのゆめ”は“きんぎょすくいやさん”だ。それを学校で短冊のようなものに書いて、家に持ち帰ったときは母が笑っていた。やくざにでもなるのかしらね、と。あの半紙が張ってあるだけの丸いもので、あまり飾っていない赤い金魚や出目金を掬うだけ。それだけなのに、何故こんなにも人を夢中にさせるのだろうか。ただ、金魚すくい大会のようなものには一切興味がない。あのお祭りの中にある屋台の金魚すくいが特別に好きなのだ。
そんな僕がちょうどポケモンを持つ事を許される十歳になったとき、そいつは突然家の庭にある池に現れた。
通例、子供たちは初心者ポケモンを研究所でもらうか、元々飼っていたポケモンをパートナーにするか、親がトレーナーやブリーダーならば親から貰い受けるかして、初めてのポケモンを持つ。しかし僕の場合は違っていた。
母には、楽しみにしておいてねとしか聞かされていなかったが、朝になってその母はとってもしてやったりな笑顔で僕を庭に案内した。これが、あなたのパートナーよ、と。
大きな目に、ちょっと気持ち悪いようなぶにぶにした体。真っ白の中に赤い模様が遠目には綺麗だ。尾はレースのカーテンのようにゆらゆらしている。
その大きな目がぎろっと僕の方を向いた。小さく悲鳴をあげて急いで母の後ろに隠れたが、それはすぐに僕への興味が薄れたようで視線を戻した。
もう一度、そおっとそいつの方を見る。よく見てみれば、これは……金魚だ。それもばかでかい金魚。こんなのポイではすくえっこない。たまに屋台にいる掬えるわけがない、けれど挑戦してしまうような大きな金魚とは訳が違う。それに、小さいから可愛いと感じていた金魚も、ここまで大きいと可愛いというよりは気持ちが悪い。おまけのこの金魚は角まで生えている。これが、僕の、初めてのポケモン。
このポケモン。母曰く、トサキントと言う名らしい。母は僕が喜ぶだろうとブリーダーから直接選んで連れてきてくれたらしいが、正直めちゃくちゃ戸惑っていた。最初のポケモンはもっと、肩に乗せて旅が出来るような……。
困惑した僕の表情を見て、母は不思議そうに首をかしげる。そうだ、これは母の好意なのだ。無にしてはいけない。無理矢理笑顔を貼付けて、ありがとうと言うと、新規トレーナー登録の為に、研究所へ案内のはがきだけ持って僕は走った。手続きは思ったよりあっさりと終わり、ポケモン図鑑とモンスターボール五つ、それにトレーナーカードとトレーナー入門ブックを貰って一度家に帰り、トサキントをモンスターボールにしまった。
これが、今日から僕のパートナー。でっかい金魚。