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少し太陽が傾いてきた頃、ブースターのエマはもう何もなかったかのように元気になり、外の風を浴びていた。
「エマー」
つばさがのんびりとした声で呼ぶと、小走りで駆け寄る。そのブースターの頭を優しく撫でてやるとごろごろとのどを慣らした。
「つばさちゃん、ごめんね遅くなった」
ちょうど買い物袋をぶらさげた後藤が戻ってきて、つばさは立ちあがる。
「遅いですよ!」
拗ねた様子でちょっとむすっとするが、後藤が買い物袋から出したプレゼントで、目が一瞬で輝いた。
十センチ平方程度のちいさな黒っぽい箱。ちょっと名の知れた有名チョコレートのものだと箱に書かれているロゴを読むまでもなくわかる。
後藤はこれでつばさのご機嫌取りをしようと考えているらしい。そんな安直な手ではあったが、十分に効果があったらしく、爛々とした目でその箱を見つめている。
「遅くなっちゃったから。ごめんね、心配かけた」
「これ……」
「遅くなっちゃったお詫び」
後藤がそう言うと、つばさは着物の裾をそっと押さえてやっとその箱に手をかけた。
「ありがとうございます!」
これだけで機嫌をなおしてしまうつばさはやはり単純だなぁと思う。けれど、そんな彼女に心を開けないのは、彼自身の性格からだけではないのだろう。
「今日はもうここで泊まろう。せっかくバッチをゲットしたんだ。ポケセンの二階はやめて、君の分だけはちゃんとしたホテルをとってある。僕からのご褒美だよ。おいしいご飯でも食べよう」