1 序章
西暦二千某年五月某日――。
この日本では各地で梅雨入りが発表され、ここ数日雨が続いていたが、今日に限ってどの天気予報も全国に渡り晴れという予報だった。
ずばりその予報の通り、一日中晴れ渡り、燦燦と降りしきる太陽は、非常に気持ちのいいものではあった。しかし、風が全く吹かず、凪ぎ続けているのは、奇妙なものだ。山麓でも、野辺でも、海でも風は吹かなかった。
誰もが静か過ぎる夜を奇妙がりながら、床につこうとしていた午前零時――。
突然の爆音によって、その静寂は脆くも崩れ去った。
その記憶は人々に鮮明に焼き付いているであろうが、語られることは少ない、核戦争開始の合図である。
地球規模で発生した核戦争の原因は、その昔京都議定書で定められた二酸化炭素排出における事項である。経済学の論理の基づいて決定された、二酸化炭素排出量の売買可能という事柄は、確かにその時代背景に見合っていたが、その後数百年間、次の会議が上手くまとまらず、そのままになっていたのは問題であった。各国の思惑が渦巻き、やはり皆、自国が可愛いあまりに冷戦状態を引き起こし、一つの国が日本へ時代遅れなミサイルを撃ち込んだことが、その危うい均衡を全て崩してしまったのだ。
結果、日本と安保条約を結んでいるアメリカが宣誓し、核攻撃を開始。それに反対する各国と三つ巴になり、更に、その戦火のとばっちりを受けた国が激怒し、参戦。更に――と、結局全地球での大乱戦となったのである。
その核戦争が収束したのはミサイルが打ち込まれた時から五年の後。
昔であれば、そんなに長いとは思えない時間であったが、それは核兵器が進化した世界では余りに長すぎた。
二百あまりある国家の内、百数十カ国が全滅。他の国もあのチェルノブイリの事故以上に多量の放射能を浴び、半減期を計算して、その場を封鎖するなんて待っていられる訳がなかった。多くの人が被爆し、医療機関は麻痺。終戦後も第二次世界大戦以上の凄惨な現状は長く続いた。
その所為で動物達はほぼ原型をとどめず、不思議な生き物へと変貌して、生物学者の興味を酷く引きつけていった。
一部の生物学者は命をかけて研究を続け、物理学者や化学者、数学者と共に研究しその生き物が分子レベルまで分解、再構築される幽体ともとれるような奇抜な体をしている事を判明。更にはそれを収容できるボール状のカプセルが開発され、パソコンでやりとりできるまで発展させた。後にそのボールはセンスがないと言われ続けた、モンスターボールという名称で定着し、そのボールがポケットに入る大きさまで小さくなることから、その生き物たちはポケットモンスターと呼ばれる事に決まった。もちろん日本人のつけたこの名前は、英語圏において多大な批判を受けたが、結局こちらも定着した。あの戦争から二十五年の歳月が流れた後の出来事である。
その同時期、やっと核廃絶を全世界が目指した地球は、そのかわりに発達した科学によって自然との共生が図られ、誰もが快適に過ごせる社会へと少しずつながら変容していた。
この出来事は、多くの歴史書などにかかれ、後々の世まで語られる事になる。
そして、これは更に数十年経ったある日である――。