14.届く思い
†カトラ雲山 山頂†
カトラ雲山山頂。そこには、灰色の石でできた、ひとつの鳥の像がある。幾年月を経ることによって、広げられた翼には、いつしか蔦が這い、苔が覆い、生命の苗床となっていた。
その神秘の像――ホウオウの像――は、失われることのない神々しさをともなって、山頂へ訪れる者を歓迎するのである。昔も、今も、そして、これからも――。
夜明け前、はるか彼方の地平線にわずかな明かりが漏れ始める頃、シェーラ達はようやくその山頂にたどり着いた。
「ここが、山頂……」
「ああ」
シェーラはグレンに支えられていた。途中で片足に力が入らなくなり、肩をささえてもらわなければ、歩けない状態となっていたからだ。
彼女たちが山頂にたどり着くなり、ふっと出くわしたホウオウの像。それを目を細めて見つめながら、シェーラがつぶやいた。
「この像、いつからここにあったのかな」
グレンはシェーラを楽な体勢で座らせ、オレンの実を手渡した。彼自身は座らず、立ったまま苔むした像を見つめる。
「伝説によると、この世界が一匹のポケモンの願いによって作られた時に、幸福と悠久の生命の象徴として置かれたそうだ」
「悠久の生命って?」
「永遠の命のことだ。…それで、お前の目当てのものはなんだ?この像か?」
シェーラは首を横にふり、よろよろと這って周囲に視線を巡らせた。山頂の領域は狭く、また、視界を遮る物は石像以外ひとつもないため、探すことは容易だった。
けれど。
「……ない」
ここまできたのに、見あたらなかった。
(でかヅノに、こんなに助けてもらったのに…)
(ついてない)
気持ちが落ち込むと同時に、いきなり視界が黒くそまった。意識が遠のき、後ろに倒れそうになる。
(……いけない、いけない)
グレンの顔を盗み見る。彼は、今、シェーラがふらついたことには気がついていないようだった。
ほっとするシェーラの内心を知らず、グレンが尋ねた。
「お前は何を探してる?」
「……ホウオウの羽根」
悲痛な顔でつぶやく。すると、グレンは妙に納得したように、「…ああ、それだったのか」と言い、それから、シェーラのすぐ隣にどっかり腰をおろした。
「それなら、落ち込むのはまだ早い」
「……え?」
驚いて隣に目をやると、グレンは地平線に顔をむけていた。
「羽根を手に入れられるかは、お前の運次第なんだがな。可能性があるのは、むしろこれからだ」
グレンの言っている事の意味がわからず、シェーラは首をかしげる。
「…どういうこと?」
「俺を育ててくれた場所――“炎の里”でホウオウにまつわる伝説を聞いたことがある」
グレンは故郷を懐かしむように、目を細めた。
「夜明けと共に、ホウオウは空に舞い上がり、カトラ雲山の山頂を越えてゆく、とな。……しかし、お前は運がいいポケモンだ」
「運がいい?…なんで」
すると、グレンがまっすぐに地平線を指さした。
朝焼けの光を帯びて輪郭を輝かせる雲々。その悠々たる白い群れの中央から――
「ほら、見ろよ。……あそこだ」
――幻のように、空に浮かびあがる影があった。
シェーラが息を呑む。ゆるやかな羽ばたきを見せながら、そのポケモンは近づいてくる。躍動する羽根から光の粉がきらきらと空にばらまかれて輝き、そのポケモンの軌跡を美しく彩っている。
シェーラとグレンはそれを見上げた。
彼女達に影を落とし、上空を越え、ホウオウは何処か遠いところへと雄大に飛び去っていく。誰も知らない未知の場所へか、はたまた、シェーラ達と同様、ホウオウを待つ者のいる場所へか…。
「……」
二匹とも、言葉を失って、ホウオウの消えた朝焼けの空を見つめていた。一連の出来事は、まるで夢の中の出来事のようで、唯一残された光の粉だけが、そこにホウオウはいたのだと示してくれていた。
と。
ひらり、と頭をかすめる柔らかな感覚をシェーラはとらえる。
「……あ」
シェーラは頭に触れたそれを、手でつかみとった。
それは不思議な輝きを放つ、虹色の羽根だった。
シェーラは呆然として隣のグレンを見上げる。
彼はたしかな微笑みを浮かべて、シェーラに頷いた。
「喜べ。ホウオウの、羽根だ」
ひょっとすると。
ホウオウは、ハヤテのためにこの羽根を落としてくれたのかもしれない。
そんな考えが頭をかすめ、シェーラの胸がかっと熱くなった。不覚にも、感動していた。止める間もなく目もとがゆるみだし、止める事もできず、涙がこぼれてしまった。
潤んだ視界の向こうで、グレンがぎょっとするのが見える。
「…お、お前……!?な、なんで泣くんだよ」
おろおろし始めるグレンにシェーラは気力を振り絞って顔をそむけた。そして、がしがしと強引に目元をぬぐう。
「うっ、うるさい。別に泣いてなんか、」
言いかけた言葉がふっと途切れる。
急に、めまいがした。
「…いや、…し、しかし…今…」
間近にあるはずのグレンの声が、何故かひどく遠くから聞こえる音のように思えた。同時に、シェーラの視界が暗く染まっていき、頭蓋骨をがんがんと内側からたたかれるような痛みを感じる。
「……くそチビ?」
あらがうすべもなく、まぶたが落ちていく。
(…いけない。…いけ…な…)
それを最後に、シェーラの意識はぷつんと途切れた。
†ゆうれいやしき 入り口†
場所は変わり。
ウェストタウンギルド、通称“ゆうれいやしき”の入り口で、二匹のポケモンが門番をしていた。グラエナのガルムとライボルトのライトである。
「今日も可愛い女の子達、俺達の誘いにのってくれなかったな…」
ガルムがぽつりとつぶやくと、ライトもちょっと遠い目になった。
「俺たち、軽い男ってことで有名ッスからね…」
彼らがぼやいていると、その背後から声がかかった。
「あれ、あんた達。今日は珍しく門番やってるんだ」
きのみお世話係のコノハナである。
彼女の声に、ガルムが顔をあげてつぶやいた。
「おー、サヤか」
コノハナのサヤは、腰に手をあて、にやりと笑う。
「はっはーん。ウチの見たところでは、ガルム達、またナンパに失敗したね?」
ガルムは顔をしかめた。
「言っておくがな、サヤ。お前が知らないだけで、俺は本当は超モッテモテなんだからな!俺が声かけても女の子達が無視するのは、皆恥ずかしがり屋なだけなんだからな!」
「いや、ガルムさん。それはちょっと無理があるッスよ」
「うん。ただの願望ね……」
二匹に呆れられ、ガルムは呟いた。
「くっそ…女の子と一緒に探検してる男はみんな爆発すればいいのに…」
「同感ッス。俺も女の子と探検隊組めばよかったッス。ダンジョンの中でイチャイチャしたいッス」
煩悩だだもれな二匹に、サヤは呆れた。
「…あんた達…そりゃー当然モテないよ」
その時、何の前触れもなく、彼らの前に青い光が出現した。どこからか、探検隊が帰ってこようとしているのだ。
「こんな時間にお帰りとは、珍しいこともあるもんだなあ」
「……あ!そういえば、グレンの兄貴が探検でてるらしいッスよ!」
「なに?じゃあ、まさか…!」
ガルムとライトは、一方的かつ勝手にグレンを慕っていた。理由は、強いから、とのこと。
青い光が霧散する。そこにいたのは、一体のリザード。
探検から帰ってきたグレンだ。
「おっと、あんた達の予想が的中したね」
「…グ、グレンの兄貴だ…!」
「グレンの兄貴ッス!」
その呼び名を聞いて、グレンが微妙な顔になる。
「俺はお前達の兄貴じゃないと何度言ったら……いや、今はそれどころじゃないな」
よく見ると、グレンは背中にワニノコをせおっていた。
「お?兄貴、それはどこの誰ですか?」
「見覚えのない顔ッスね…」
「ん?な、なんか趣味の悪いマントがウチには見えるんだけど…」
三匹がそれぞれ勝手に言ったことを、グレンは冷静にぶったぎった。
「説明は後だ。誰か早くエレキ婆を起こしてくれ。こいつはひどい怪我をおっている」
「怪我って……。あれ、そのワニノコ……もしかしてシェーラちゃんッ!?」
サヤが驚いて叫ぶ。すると、グレンは神妙な顔で頷き、一方で、門番二匹は顔を見合わせた。
「……あのワニノコ、女の子か?」
「……そうみたいッスね」
グレンは背中のワニノコの容態を気にしていたために、そのひそひそ声に気がつくことができなかった。
「おい、頼むから、早くエレキ婆を…」
「「兄貴の裏切り者ぉおお!」」
グレンの声を遮るように、門番二匹が突然叫んだ。そして、くるりと回れ右をし、悲痛に顔を歪ませなから駆けだしていった。
「兄貴なんて爆発すればいいのにッ!」
「兄貴が心からねたましいッス!」
そのまま、二匹は何処かへ去ってしまった。
「……」
「……」
しばしの無言の後、サヤが微妙な顔になって、つぶやいた。
「……あー。ウチがすぐにエレキ婆を呼んでくるよ」
「ああ。頼む」
コノハナが屋敷の中へ走っていく。その背中を見送った後、グレンは背中のワニノコをちらと見た。
ワニノコのバッグには、虹色の羽根がきちんと入っているはずだ。
「やれやれ。ようやく依頼終了だな」
†ゆうれいやしき エレキ婆の医務室†
「…ェーラ……シェ…ラ…」
遠いところから自分の名前が繰り返し呼ばれている。
微睡みの中にいるシェーラは、その声を億劫に思った。
まだ穏やかな海の中にたゆたっていたかったからだ。シェーラは無視をきめこんで、眠りの底へ落ちていこうとした。
「…シェーラ!」
はっと目を覚ました。
その途端、体中の痛みが再び認識され、シェーラは軽くうめき声をあげる。
「…ほーら言わんこっちゃない。トト。今は寝かせておやり。それが優しさってもんだよ」
医師のエレキブルの声がする。
シェーラは床に敷かれた布団の上で寝かされていた。傷のひどい部分には包帯がまかれていた。奇妙な臭いがするのは、きのみをすりつぶして作った薬が塗ってあるからだろう。
「エレキ婆…?あたしの…名前、よんでた…?」
「違うね。私じゃなくて、あんたの相棒だよ」
シェーラは目を丸くした。そして、なんとか体をよじらせ、右の方に顔を向ける。
トトが座ってシェーラを見つめていた。
「こら、無理に動くんじゃないよ!」
「いえ。あたしは、大丈夫で…」
「そう言うのにかぎって大丈夫じゃないのさ。とっとと寝な」
エレキ婆に注意を言われるシェーラ。その彼女の目前で、いきなりトトが頬をふくらませた。
どうやら、トトはご立腹の様子だ。
「シェーラ。無理しないって、言ったのに」
トトがむすーっとした表情でつぶやく。これは“とっとと寝て”いる場合ではないかもしれない。
「……えーっ…と」
シェーラの口が言い訳をしようと様々な形にさまよった。
自分が嘘ついたのは事実だ。…でも、それは仕方なかったというか、不可抗力というか…
「悪い子には、おしおきっ!」
突然トトが叫んだ。
「え、今…?ちょ、待っ……」
「とうっ!」
トトが高くジャンプ!そして、シェーラのお腹めがけて落下し――華麗に決まったぁああ!
「ぐえっ」
怪我を無視した問答無用のアタックに、シェーラはうめき声をあげる。
そして、トトは、腹の上にのったまま、今度はおもいっきりシェーラに抱きついていた。
「…!」
シェーラは目を丸くする。驚きもあるけれど、傷にさわって痛たたた……。
「シェーラは、とーっても悪い子!」
抱きつくといっても、トゲピーは腕が短い。だから、顔をシェーラの首もとにうずめるような形だった。
「……」
シェーラはちらと一瞬トゲピーを見、視線をさまよわせた。トトは無言で、ぎゅっとシェーラを掴んでいた。なにか、切実な思いをこめるように…。
シェーラは、ひとつ小さなため息をつき、とうとう言い訳をせずに言った。
「ごめんね、トト」
「次からは、トトも一緒に無理する。待つのはもう嫌なの」
心配してくれたのかな、とシェーラは思う。当たり前のことなのに、シェーラはそれが嬉しかった。
「うん。そうしよう」
それを聞いて、トトが顔をあげた。花開くようないつもの笑顔になっている。
そして、彼女はぴょん、と後ろに飛び下がり、シェーラとあらためて顔をあわせた。
「それじゃあ、シェーラ。…おかえりなさい!」
トトが微笑んだので、シェーラも同じ表情をした。
「うん。トト。…ただいま」
暖かな気持ちに包まれるようだった。
そこで、ごほん、と少し場違いな咳払いをエレキ婆がした。
「本当は面会させるのは明日からがよかったんだけどね。傷は完治したわけじゃないんだよ」
(いやそれなら、さっきのトトアタックを止めてほしかったです、エレキ婆)
エレキ婆は腕組みをした。
「シェーラ、あんたには、もうひとり面会希望者がいるよ。…どうだい、会ってもよさそうか?」
シェーラはうなずいた。
「あ。はい。あたしは全然大丈夫なので……」
「私に二度同じことを言わせる気かい。…こりゃあ、一度鉄拳制裁しなきゃならんようだね…」
エレキ婆が腕をふりかぶる。
「え、ちょ…待っ…!そんな理不尽――」
その腕がシェーラの脳天めがけてふりおろされかけ……途中で止まった。
「なーんて嘘さ。医師が怪我人にそんなことするもんか」
エレキ婆が飄々と笑う。“トルネード”二匹はこそこそと話した。
「…それでも、脅すなんて…恐ろしい婆さんだね……」
「…トトもそう思うのー…」
途端に、エレキ婆のかわらわりが二匹に炸裂した。
「ぐえっ」「きゃー痛ーい♪」
怪我人に攻撃しないんじゃなかったのー!とシェーラは心の中で叫ぶ。が、エレキ婆はそんなことお構いなしだ。
「婆さんじゃなくて、エレキ婆とお呼び。わかったかい?…はい、よろしい」そういって、彼女は医務室のカーテンの方に目をやった。「さぁさ、面会希望者さん。そこに隠れてないで出てきなさい」
エレキ婆は気をきかせて、部屋から出ていく。
しばしのためらいの後、でてきたのはポッポだった。
「ハヤテじゃない!」
ハヤテは顔をほころばせたシェーラを一瞬見て、眉をよせた。
「その包帯、どうしたんだよ。散歩してたんじゃなかったの」
「…あー…」
シェーラはぽりぽりと頬をかいた。
「いやぁ…散歩してたら転んじゃって」
「転んでできる傷なのそれ!?」
すると、トトも白々しく嘘をつく。
「シェーラはですね。骨がもろくて、転んだ瞬間、複雑骨折しちゃうの♪」
「いや待ってトト。そしたらあたし探検とかできないから」
「はっ…確かに…!」
“トルネード”の会話に、ハヤテが半眼になった。
「シェーラもトトも嘘つきだ」
二匹は困ったように顔を見合わせた。
と、シェーラがおもむろに、枕元に置いてあったトレジャーバッグに手をのばした。中身をごそごそと探りーー目当ての物を、見つける。
「ね、ハヤテ」シェーラは手招きした。「ちょっとこっちに来て」
目をぱちくりさせて近寄ってくるポッポに、シェーラはバッグの中身からそれをとりだした。
虹色の羽根だった。
ハヤテは息を呑み、トトは落ち着いたまま微笑した。
「トトはシェーラのこと、信じてたよ」
「うん。ありがと」
一方、ハヤテは呆然としたまま、シェーラを見つめていた。
「それ……ホウオウの羽根…?」
シェーラは軽い口調で返事をした。
「そ。本当は散歩じゃなくて、知り合いとダンジョンに行ってたの。ごめんね、嘘ついちゃったーってわけ。まあ、これあげるから、許してね」
シェーラは笑ってごまかす。
「……え、……え?」
ハヤテは口をぱくぱくさせている。動揺を静めることができないようだ。
そんな彼の翼に、シェーラは虹色の羽根を握らせる。
「周囲の環境とか、自分の能力とか、誰かの言葉とか……。そういうもので、あなたの将来を制限しないで」
シェーラは穏やかな目でハヤテを見つめる。
「成せば成る、成さねば成らぬって言うでしょ?私はあなたのそばにずっといることができないし、あなたが何かをやり遂げようとした時にも、そばにはいられないと思う。……だけど、この羽根を見て、ときどきは思い出してね。ハヤテが不可能だと思っていたことを、どうにか可能にすることができたってこと」
ハヤテは視線を、羽根とシェーラの間で行き来させた。そして、言うべき言葉に散々迷ったあげく、
「……ありがとう」
それだけをつぶやいた。シェーラとトトはまたも顔を見合わせ、笑った。
それだけで十分だった。
†ゆうれいやしき 入り口†
数日がたった。
シェーラはほぼ全快し、明日にでも探検にでかけるのだそうだ。ハヤテは彼女が心配で、ずっと幽霊屋敷にお泊まりをさせてもらっていたのだが、とうとう今日、オオスバメが迎えにきてしまった。
(うん。そろそろ僕も帰り時だよね)
ハヤテは洋館風のギルドの入り口から出ていった。
翼には、虹色の羽根が握られている。
幸せをもたらす、と言われるその羽根。長い間、見たいと憧れていたもの。それが今ここにある。
(この羽根を傷を負ってまで手に入れてくれたポケモンがいることを、僕は忘れない)
(トトとシェーラが教えてくれたことを、忘れない)
ハヤテは振り返って、ゆうれいやしきの全貌を眺めた。
(ねえ、シェーラ、トト…。僕は、決めたよ)
ふいに、屋敷の入り口から二匹のポケモンがでてきた。
シェーラとトトだ。
見る間に彼女達はハヤテの前までやって来た。
「ハヤテさん、帰るの?」
「うん」
知らせてなかったのに、気がついてしまったらしい。
「楽しかった?」
「うん」
シェーラの言葉に頷き、少し間をおいてからハヤテは二匹をしっかりと見た。
「あのね、聞いてほしいことがあるんだ」
「んー?」「なになに?」
ずい、と二匹が身をのりだしてくる。ハヤテは思わず苦笑いを浮かべた。そして、
「僕、飛ばずに生活するよ」
と、ハヤテは嘘をついた。
しかし、予想とは違い、二匹は特に落胆した様子もなく「トトは応援しますね」「うん、よく決めたね」と言っただけだった。
ハヤテは手応えの無さに前のめりになりそうだったが、なんとか踏みとどまり、そして、二匹に翼を振った。
「それじゃ。シェーラ、トト、本当にありがとう!」
「またね!」「また会おうー!」
二匹が手を振って見送ってくれた。ハヤテはしばらくの間、二匹に手を振ると、くるりと半回転し、前だけを向いて歩き始めた。この道の先に、オオスバメが待っているだろう。
一世一代の大嘘、とったらちょっと大げさかもしれないけれど、ハヤテはそれくらいの意気込みで、嘘をついた。
(だって、ホウオウの羽根をもらって、飛ばないままでいられる奴なんて…鳥ポケモン失格だろう!)
絶対に飛んでやる。ハヤテはそう、胸に誓った。
そして、いつか――
(――いつか、あの二匹の前にふらっとあらわれて、)
(そして、飛んでみせるんだ)
二匹はハヤテのことを、嘘つきだと呼ぶだろうか。
もしも、そうだとしたら、
『ごめん、嘘だったーってわけなんだ。まあ、飛んでみせるから、許してよ』
そんな風に、誰かさんの真似をして、笑ってごまかそう。
やがて、ハヤテの目がオオスバメの姿をとらえる。
「遅いですよ、もう」
「ごめんごめん」
ハヤテはオオスバメの背にのり、続けて呼びかけた。
「ねえ、オオスバメ」
ハヤテは言いながら、振り返った。もう建物の影で見えないけれど、向こうの方角に彼女達はいるはずだ。
「やっぱり探検隊って格好いいよね」