プロローグ side : another world
どしゃぶりの雨が大地にふりそそいでいる。激しい風の怒号が途切れることなく続いている。
「…ワザ教えの……受けついだ…に、まかせる…」
ぬかるんだ土の上、吹き飛ばされされそうになりながら立つ人々。びしょぬれの視界の中で、儀式の準備を進めている。
「……これは…の、扉を呼び覚ます…」
雷が、激しい音とともに地上に落ちてくる。ライコウがどこかでこの儀式を見守っているのだろうか。
「…龍神のタマゴを、ささげ………役目…お前に…」
雷の音がいよいよ激しくなってきた。誰かの叫び声が、膨れ上がる雷鳴の轟きにかき消される。
「…は……せか……を!」
「タマゴをよこせ」
場面は変わり、突如、はっきりとした声が聞こえた。見慣れないポケモン達があたしを囲んでいる。
仲間は誰もいなかった。あたしはひとり、嵐の中でタマゴを抱きかかえていた。
「よこせ」
「そのタマゴを」
「龍神のタマゴを」
「よこせ」
「よこせ」
「絶対に渡さない。このタマゴは、命にかえても守り抜く!」
あたしの叫びに、周囲のポケモン達が、身構えた体を怯ませた。
ただ、あたしの目の前にいる数匹のポケモン達は、顔色を変えず、冷たい瞳であたしをにらみ続けている。
「おい、聞いたか、リュービ様。命にかえても、だと」
「…なかなかゆかいなことを言うニンゲンだ」
リュービ、とよばれたポケモンは背後にいたヒトカゲに目を向けた。
「グレン、お前の出番だ」
二匹のポケモンが、グレン、という名のヒトカゲに命令をする。
「殺せ」
「あのニンゲンを殺してタマゴを奪え」
濡れそぼった雨の向こうで、そのしっぽの炎が赤々と燃えているのがはっきりと見える。ヒトカゲがゆっくりと近づき、顔をあげ――あたしは、ひととき、その目に貫かれた。
ヒトJゲの瞳には、柔らかい感情がひとつも存在していなかった。そこにあるのは、とがったキバを連想させるような…危険な鋭さ、何かに対する憎しみ、強い強い怒り、…そして、少しの…悲しみ?
「…ニンゲン。後悔するなら、今だ」
ヒトカゲはそれだけ言った。
あたしは目をつぶって、タマゴを強く抱きしめる。
この、龍神のタマゴだけは、絶対に、絶対に……
その時、ひときわまぶしい光をはなって、大きな雷がおちた。