第三十二話:ノーマルタウン
組織、グランドの一員であるブースターに襲撃されてから早一ヶ月。
レントラーの治療も終わりに近づき、マグマラシ達三匹は負けたことで自分達の弱さを知り、特訓した。
そして今日はレントラー退院の日――
「…………アリゲイツ達どこ行った?」
アリゲイツ達はレントラーが退院したにもかかわらず、居場所も教えていないし、迎えにも来ていない。
「…レントラーさんですよね?今日退院の…」
「あ、ああ」
話しかけてきたのはピクシー。
「あなたの仲間であるハヤシガメさんからの伝言です。“退院おめでとう。この村の村長…って違う違う。この町の町長の家に来てね”と……」
「わかった。ありがとな」
「…!?それでは失礼します!!」
ピクシーは早口でそう言うとそこから逃げ出した。とその瞬間、そこに突っ込んできたプクリン。
「ピクシーちゃーん…何てこうタイミングのいい……」
ちょっと泣きそうな顔のプクリン。昔、倒れていたプクリンをピクシーが看病したのがきっかけで好きになり、ピクシーの事を想い続けている…もとい
追い続けている。
レントラーはそんなプクリンを触らぬ妖精に祟り無しと言わんばかりに避け、町長の家に向かう。
「あ〜!!もういやだ!安請負するんじゃねかった!!」
町長の家でアリゲイツが叫ぶ。
「アリゲイツ……これはなにをいれるんだ?」
マグマラシはアリゲイツを多少手伝っている。本当に多少。
しかし、マグマラシの格好は…今は言わないでおこう。
「後一分くらいでオレガノを入れてくれ」
アリゲイツはもうとてもぐったりしている。そしてそばには大量の同じものが。
「こっちは……何を……いれるの?」
ハヤシガメは息を切らしている。
「サフラン、それと……ブラックペッパーでも入れてみるか?」
アリゲイツ達が何をしているのか……もうわかるとは思うが料理である。
アリゲイツが頼まれて町長&護衛達の食事を作っているのである。
どうしてこうなったのか……それはこの町に来てから二日目の事――
―――【過去回想】―――
「レントラー意識戻ってよかったよね!」
「ほんとに。あのままスイの後を追っていくのかと思ったぜ」
「ちょ……アリゲイツ……」
「本人の前で死ぬと思ってたとかいう発言をするなよ……傷つく…」
「大丈夫だろ。一ヶ月で治るって医者が言ってたんだから死なないだろ」
「ま、それもそうなんだけどな」
「レントラーまた明日」
「ああ、またな皆」
アリゲイツ達はレントラーの御見舞いの帰り道で話している。
「襲われてた♀ポケモンがいたからよ?そこに俺が助けに入ったらよ?その♀ポケモンが“何してんの?邪魔で気持ちの悪い顔見せ無いでくれる?”って言うんだぜ?酷くねーか?」
「それ何時だ?」
「えーと……三年前。桜が満開とは行かないまでも少しつぼみを残してほとんどが咲いていて、チェリムも花を開いていた
シェイミの月の二十二日の
スイクンの曜日。午後五時三十六分二十七秒」
「細かっ!」
「そんなに根に持ってるの!?」
「全然。単純にそのとき時計を見ていて、偶然覚えてしまったんだけど?」
「……やっぱり根に「違うって」…持って「ない」…復讐を「何なんだよ……。俺そんなに信用ねぇか?」」
「ある。機嫌直そうぜ!あ、レントラーの意識回復記念パーティーもといアリゲイツの手料理堪能食事会でもやろうぜ?」
「作るのめんどくさい」
「そう言わずにさ〜」
「アリゲイツ僕からも御願い。作ってよ」
「……
レントラーがいねえのにそんなことする意味あるのか?」
「!?アリゲイツがまさかの正論!?」
「まぁ、作るけどよ……材料調達よろしく」
そんなことを話していると横から話しかけてきたポケモン。
「のう。アリゲイツと言う者の料理の腕はどれ程のものなのか?」
「それは―――――って誰?」
「ああ、すまん。名乗っておらなんだな。ワシはエテボース。もうすぐ七十を迎えようとしとるヨボヨボの腐るのが早くて耳が遠く、頭も悪いクソジジイであり、二つ名は|《健爺》っと言ってもワシの家族に付けられた名だがの。そしてこの町の町長の友でもある」
『(自分の事を他人事のように結構悪く言った!?って何で町長の友って言った?)』
「え、と、俺はアリゲイツ。んでこっちがハヤシガメ、最後にマグマラシ」
「よろしくの」
『ああ(はい)(こちらこそ)』
「で、アリゲイツ殿はどれ程の料理の腕前をお持ちかな?」
「さぁ〜?」
『プロ並!』
エテボースの質問にハヤシガメとマグマラシは口をそろえて答える。
「何じゃと!?そのような年齢でプロ並じゃと!?…………ハッ!いかんいかん。アリゲイツ殿、悪いんじゃが今日から二十七日後に開催される町長御食事会の料理を作って頂きたい!……本当にそれだけの腕があればじゃけど……」
「ハァ!?町長御食事会?意味わからねー!!」
「町長御食事会は各町長と食事をすることによって町同士が仲良くなることを願って年に三度開催される特別な催し物じゃ。“同じ釜の飯を食べた友”とか言うじゃろ?」
「なるほど……(単純に美味い飯食って仲良くしたいだけ?)」
「アリゲイツ、この頼みごと受けるの?」
「う〜ん……(マグマラシがメイドの格好して給仕するなら即座に受けるんだけどなぁ…)」
「手伝うからやろうぜ」
「何でも?」
「…?……ああ、食事会の手伝いなら何でもだけど?」
「なら、やる!!」
「おお!やってくれるか!とりあえず料理の腕がどれほどのものか知りたいのだが、腕を振るってはくれんかね?」
「今から材料調達するから待っててくれよ」
アリゲイツはノーマルタイプのポケモン達であふれかえった道の中へ消えていった。
「あ、僕達の泊まっている所は宿“
輪熊の宿”です」
もうかれこれ七十年は経営を続けており、今のオーナーは三代目だとか。
「“
輪熊の宿”…了解じゃ。そちらにすぐに向かって待つとしようかの」
そういってエテボースは歩いていく。
「あ、ハヤシガメ、アリゲイツって財布持ってたっけ?」
「……持ってないね。僕のカードで払うつもりだったし財布要らないって言ったから」
「行くか」
マグマラシ達はアリゲイツが歩いていったかと思う方向へ歩いていった。
そして買い物も済み、
輪熊の宿の一室にいるエテボースの前にはアリゲイツが作った料理が並んでいる。
「さ、さすがじゃ。プロ並の腕前だけあって見た目や匂いからも食欲をそそられる……しかし味はどうかの………」
ムシャ…モグモグモグモグ……!ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ!!
「ハイ、ストーップ!」
「ウァゴゴ…ウァゴゴ…ウァゴワスヲヒョクジノゴマヲフル!!(何故じゃ…何故じゃ…何故わしの食事の邪魔をする!!)」
「言ってることは分かるが、結論は?」
……モグモグモグモグ…ゴクン。
「もうワシ死んでもええ…死ぬ前にこんな料理を食べれたのじゃ…花畑を流れる川の渡し舟さんよ…ワシはどうすればええ?これ以上望んだら罰が当たるじゃろうて……今そっちに」
ベシッ!
涙を流すエテボースの頭を叩くアリゲイツ。エテボースもそんな事は気にしないだろう。
「…ッハ!?今ワシは天国を垣間見た…そして川の向こうに渡してもらおうとしとったわい!いや〜まさかこれ程のものだったとは……このエテボース、感極まったぞ!君に決定じゃ!!絶対に町長御食事会の料理を作ってもらうぞ!四百八十六匹前を!」
『え?』
「君に決定じゃと言ったろ?」
『いや、その後』
「?……四百三十六匹前のことか?」
アリゲイツ達は思いっきり首を縦に振る。
「近くの町は十八つの町だけだろ?町長は十八匹、その護衛を三匹だとして合わせて七十二匹そして全員が三人前食べるとしても二百十六匹分だろ!?」
「それはこの町の町長が原因じゃよ。それとその護衛の一匹も」
「……ノーマルタイプの町長とその護衛って……」
「町長カビゴンとその護衛の一匹ベロベルトのせいじゃ。それとポイズンタウンの護衛のマルノーム。三匹ともよく食べるからの〜一匹最低でも六十人前はぺろりと」
「俺達以外にも調理するポケいるんだろ?」
「は?町長ごとに違う料理人が作ったら味の差別が出来てしまうからいるわけ無いじゃろ?」
『地獄だ〜!!』
―――【普通視点】―――
お分かりいただけただろうか。そしてそこにレントラーが現れる。
「ブッ!!マグマラシ何着てんだ!!」
「訊くな……レントラー、ちょっとそっちへ行ってくれないか?」
物凄く暗い雰囲気のマグマラシは顔が紅くなっているレントラーを厨房の方へ押しやる。
「!助け!!」
「へ?ちょ、ちょとどういうことだ!?」
レントラーは無理やり手伝わされる。
「説明は後でするから“手伝え”……」
「はいっ!!喜んで!」
ハヤシガメの脅迫のような有無を言わない雰囲気にレントラーはすぐに手伝いに入る。
「皆がんばれー・・・」
「何でマグマラシは手伝わされてないんだ!!」
「マグマラシだけはこの後が大変だから今のうちに休んでもらわないと」
「そうなのか?」
『そう!』