第二十七話:不穏
―――【次元の狭間】―――
此処は何処でもない
場所。だが、どこでもある
場所。
そして
此処は何時でもない
時代、だが何時でもある
時代。
あえて
此処に名をつけるとしたら次元の狭間、それが
此処に相応しいだろう。
そこに
居る二匹のポケモン。
ドン!!シュン!…グニャ…
次元の狭間の一角が爆発的に膨張したかと思うと次の瞬間、急速に収縮し、大きな
歪みとなる。
「!!」
「なっ!!」
その者達は驚いたあと、急いで
歪みの修復をする。
「……さっきの
歪みは…」
「…自然に出来たとしては巨大すぎる。何者かが…」
二匹が
歪みについて話しているとき、そこに現れた一匹のポケモン。
「すまない…私のせいで次元の
歪みを起こしてしまった」
「…どういうことだ?」
「いつも通り
私の世界を管理してたんだが、余所見をしていて柱にぶつかってしまったんだ。それが引き金となって
歪みが起きた」
『…………』
「すまない」
「…ミスは誰にでもあるだろ。大事にならなかったんだからそこまで謝らなくても良いだろ」
「私のミスで
歪みが出来てしまった。お前達がすぐに修復してくれなかったら町が一つ消えていただろう」
「…
反転世界の神、過ぎた事は過ぎた事。我等は世界を守る役目があるが、そんなに気負っていては守るものも守れなくなる。少しは体の力を抜いて休め。世界の事は我等に任せて安心して眠れ…」
「…ありがとう
空間の神、
時間の神……」
反転世界の神は
空間の神と
時間の神に身体を預けすぐに眠りに着く。
「…
反転世界の神はいつも気を張って……これでは精神こころも身体も持たないだろうに……」
反転世界の神の身体を支える
時間の神は親が我が子を見るような目で
反転世界の神を見る。
「まったくだ。
反転世界の神は世界の事を思うあまり俺等みたいに神話にも載らず、俺等以外の知り合いも友達もいないまま世界を守ってきた…」
「ただ己の身体を酷使し続け、もうぼろぼろのはずなのに世界の為と、無理をし続け…………。
反転世界の神が無理をしてまで守ってきたこの世界、今度は我等が守ろうではないか」
「ああ、
反転世界の神に休んで貰う為にも、これ以上無理をさせないためにも」
「……フ…フフッ」
「なんだよ。急に笑って」
「いや、自分で言っておきながらさっきの言葉を思い返すと
反転世界の神が無理をするくらい我等が世界の事を
反転世界の神に任せ、世界の事をサボっていたというように思えてな」
「ああ〜確かに。そういうようにも取れるな」
「さて、我等の役目を果たしに行こうか、なぁ
空間の神」
「もちろんだ
時間の神」
―――【アジト:G】―――
〈ニュース〉
[昨夜、アイスタウンでポケモンが四十四匹も切り刻まれるという事件が起こりました。被害にあったポケモンは全員、切り口が焼き切られるという共通点があり、ポケモン警察は同一殺ポケ犯として逮捕する方針で捜査しています。犯罪者は炎タイプ、もしくは電気タイプであり、背丈は四十〜五十センチ程と推測される。とのことで、これに心当たりがある方は警察当局まで御連絡ください。また、犯人にはこの事件の他にも犯罪を犯している可能性が高く、そのことを考慮して三十万ポケも懸賞
金が懸けられています]
「ボルト…また派手にやらかしましたね。」
「まあな。目撃者を次々と殺していったらあれだけの奴を殺さなきゃいけなかったんだよ。俺でもあれは
殺しすぎたと思う」
「はぁ、あなたのせいでこの場所がバレでもしたらどうする気なんですか」
「バレたら俺が全員殺してやるよ」
「……それは頼もしいですね」
タン。ヒューーースタッ!
ボルトとポイズンが話していると上から飛び降りてくる
赤色の毛のポケモン。
「ボルト、ポイズン、ボスが呼んでる。そろそろ例の計画を始めるそうだ…」
「とうとう…あの計画が…」
「ポイズン、先行ってるぞ!」
ボルトはすぐに階段を走って行った。
「ポイズン、紅くて暖かい石……日照り石はどうなってる?」
歩きながらポイズンと話すポケモン。
「部下達の失敗のせいで手に入りませんでした。しかし日照り石のありかは突き止めたようです」
「今は何処に?」
「教えるわけがないでしょう。手柄を独り占めにされては
敵いませんから」
「…全てお前の手柄でいい。俺はそれ相応の
金さえ貰えれば手柄などどうでもいい」
「……それなら教えましょう。今は何処にあるかではなく誰が持っているかです」
「……誰が持って、何処にいる?」
「ウィードタウンのハヤシガメが手に入れ、今はナイトタウンに向かっているとのことです」
「…分かった」
ポイズン達の正面から走ってくるボルト。
「おーい!ポイズン!ボスの所のパスワードどうだったっけ?」
「…………本気で言ってるんですか?」
「もちろん!」
「私も行かなければならないので共に行きましょう」
ポイズン達はボスの所に行く。
[音声パスワードを入力してください]
『我等が主の妨げを排除する者として我等が主に求めるものは主の悲願が叶うことなり』
三匹がパスワードを口にする。
[ピーーー パスワードを承認しました]
機械的な音声が聞こえてシャッターが開く。
「……毎回思うんだけどめんどくさくね?」
「ボルト!」
ポイズンに名を呼ばれ、ボルトは口を
噤む。
部屋の奥から響いてくる声。
「…ポイズン、日照り石の在り処は分かったか?」
「ウィードタウンのハヤシガメが手に入れ、今はナイトタウンに向かっているとのことです」
「そうか」
「ボス。その事で御願いが…」
「何だ?」
「日照り石を手に入れる任を与えて下さい。手に入れたときはそれ相応の
金ポケさえいただければ……」
「よし。その任、お前に任せよう」
「はっ!早速その任を遂行致しましょう」
そう言って足早に出て行くポケモン。
「ポイズン。お前は研究所であの薬の開発をしろ」
「はっ!今ある物の三倍の効果があるようにしましょう」
「ポイズンは下がってよい」
「はっ!」
ポイズンも出て行く。
「…ボルト。アイスタウンで四十四匹も殺したそうだな…」
「…………」
「そのことについては追及しないが……ボルト、お前には新たな任を言い渡す」
「…………」
「最近、我等の事を嗅ぎ回っている奴がいる。そいつの処分と、日照り石と対になる物があるのか調査することを言い渡す」
「はっ!主の為に!」
「ボルト、お前も下がってよい」
「…………」
ボルトも部屋を出て行き、部屋の中で独り呟くボス。
「我は何者だ?そして我は何を為そうとしている?我は……なぜ三年より前の記憶が思い出せない!?」