第十七話:レントラーの過去
エレクトタウンとウィードタウンの間の別れの森から少し離れたところにある薄暗い森に囲まれた少し開けた場所にある野原。
そのそばにある洞窟を二匹のポケモンが住処として使っていた。
「レンく〜ん!」
「スイ!レンくんって呼ぶな!くすぐったいだろ!」
スイと呼ばれたこのリーフィアはレントラーの恋人であり、昔からの幼馴染でもあった。
スイの名前の由来は
翡翠からだそうだ。
「え〜!でも私はやっぱりレンくんって呼びたい♪」
「あのな〜」
そこへ何かがはぜるような音と焦げ
臭い
臭い。
「!!」
スイは洞窟を一目散に飛び出していく。
「あ、ああぁ……」
住処を飛び出したスイが見た物は住み慣れ、愛着の湧いた森が紅蓮の炎で焼かれている光景だった。その森を焼く紅い炎は悪魔の如く森を焼き、数多のポケモンを苦しめている。
「何が…何が起こったんだ」
只々目の前の光景に立ち尽くしている二匹。
「よぉ…遅かったじゃねぇか」
そう言うのはダークポケモンのヘルガー。
このヘルガーは他のヘルガーとは違って青い色……色違いだった。
「ヘルガー!お前がこの森に火を放ったのか!」
「なに当たり前のこと言ってんだよ」
「あなたは…許さない!草笛!」
スイは何も警戒していないヘルガーに草笛を使い、眠らせる。
「早く炎を消さなきゃ!!」
熱気のせいでどんどん体力を削られていくスイ。
「スイ!ここは俺に任せてお前は逃げろ!」
「でも森が!」
「近くの町に行って水タイプのポケモンを呼んできてくれ!俺はここでこれ以上炎が燃え移らないように食い止める!」
「分かった!」
スイはそう言うと走って行こうとした。
「火炎放射!」
「きゃぁぁ!!」
火炎放射に身を焼かれ、頭の葉が焼き切れてしまう。
その部分は植物ということもあり、スイをとてつもない激痛が襲う。
「スイ!」
「フへヘへェ…逃げるなよ……今まで俺から逃げてくれた分楽しむんだからなぁ…」
「ヘルガー!スイに何てことをするんだ!チャージビーム!」
「ってぇな!お前なんかに教える必要はねぇが…言ってやるよ。スイが逃げられなくするためだ」
「何でこんな……森に火を放つことをした!それにスイを逃がさないって!」
「あ?そんなこと決まってるじゃねぇか。スイを手に入れる為だよ!何をしようとな!」
「わ…私はあんたなんかの物なんかには…ならない!!草笛…」
「スイ!」
炎に身体の一部であるに葉っぱの部分を焼かれ、衰弱しているスイに駆け寄るレントラー。スイは草笛を吹くが、ヘルガーは眠らなかった。
「そんなこととっくに分かってる。俺が欲しいのはスイの心じゃねぇ!躯だ!てめぇは邪魔だそこで寝てろ!物真似!」
ヘルガーの物真似で繰り出された草笛をまともに受けてしまうレントラー。
「さて、スイ……俺を楽しませてもらおうか……」
「くそ……」
そしてレントラーは寝てしまった。
そして目が覚めたとき、目の前には鎮火した森と一番見たくないものが…
「………………スイ…………」
スイは嫌いな相手に
穢され、息絶えていた。目はレントラーに向けられ、涙を流していた。
『スイ〜!!!!』
レントラーはもう呼んでも返事を返してくれないスイの魂に向かって叫んだ。大声で呼べば返事が返ってくるかもしれないと思っているかのように。
そこにレントラーとスイの友、ベイリーフが走ってくる。
「おーい!!大丈…」
スイを見たとたんショックに打ちのめされ、黙るベイリーフ。
元気で明るく、優しくていつも笑顔のスイがこの世を去った事が嘘であって欲しいと願う。
「スイ…嘘だよね…スイが死ぬ訳無い…誰が!誰がこんなことを…」
「スイをこうしたのはヘルガーだ…」
「何で!何であんたが居ながらこうなったの!なんでスイを守らなかったのよ!あんたが守っていればこうはならなかった!!何で…何でスイが…」
「…………」
レントラーは何も言い返せなかった。そしてすぐにどこかに向かって走り出した。
そしてレントラーは何者かと死闘を数十分もの間、繰り広げていた。
「……ヘルガー!よくもスイを!」
「今更何言ってんだ。草木の姫君を守れなかったてめぇがよぉ!!でも、あいつは良かったぜぇ!」
「うるさい!充電充電充電充電充電充電!」
「馬鹿が!隙だらけだ!俺に楯突こうとすんじゃねぇよ!火炎放射!」
レントラーは火炎放射を受けても只ひたすらに充電をする。
「死ね!雷!」
ヘルガーに雷があたる。あたり所が悪かったのかヘルガーの意識が飛び、身体が倒れる。
意識も無く、だらんとしているヘルガー。もう一度くらえば死んでしまうだろう。
「てめぇには死がお似合いなんだよ!六連続充電…」
レントラーはまた充電をする。
「これで最後だ!地獄に落ちろ!かみな「待って!!」」
レントラーが止めを刺そうと雷を撃とうとしたとき、それをとめる声が。
「レントラー!!復讐なんかして気が晴れる!?」
「ベイリーフ!!お前には関係ない!」
「私には関係なくてもあんたとスイに関係がある!!」
しばしの沈黙が流れる。
「…スイに?」
「あんたはスイと約束したんでしょ!互いに何があっても決して復讐しないって!!」
――【過去の時点での過去回想】――
「レン君!私達お互いに何があっても復讐とか他のポケモンを殺したりしないようにしようね!約束!」
「ああ。約束だ」
――【通常】――
「…そうだ…俺はスイと約束したんだったな…なのに俺は…」
「まだあんたは相手を殺してなんかいない!まだスイにも許してもらえるよ」
「そうか…だが、どうすれば良い?この抑えようの無い感情は…」
「スイとの約束のために、あの世でのスイの幸せのために憎しみは忘れようよ…」
「スイのために…スイ、俺はお前との約束を破るところだった…」
「ヘルガーを警察に引き渡して、スイのためにお墓を作りましょう…」
「ああ」
ヘルガーを警察に引き渡し、スイの墓を作ったレントラー達。
「スイ…俺は今、お前が好きだった俺のままでいられているだろうか…」
レントラーの言葉が風にかき消されていく。
「スイ。大好きだよ」
《レン君、私もだよ…約束守ってくれてありがとう…》
「スイ?スイなのか?」
レントラーに返事が帰ってくることは無かった。
「スイ、ありがとう。スイに会えてよかった」
そういうことがあって、俺は自分が寝てる間に愛するスイを殺されたんだ…。俺が混乱したり、眠らせれている時に二度と仲間を殺させない。そう誓ったんだ」
『…………』
レントラーの過去を聞いた一同は沈黙する。
「お、おい。そんなに黙り込むなよ!」
「………………zzZ…」
「人が話しをしてたのに寝てたのか!!」
「冗談は置いといて、「冗談でも止めろ!!顎ワニ!」レントラーにそんな過去があったのか…」
「アリゲイツ、悪口さえスルーか?」
「レントラーが混乱や催眠等などを耐えられるのはそんな過去があったからなんだ…」
「こういった暗い話は止めだ止め!!」
暗いムードに耐えられなくなったのかアリゲイツのことが面倒くさくなったのかレントラーは大声で叫ぶ。
「……ところで、アリゲイツ達は旅をしてるようだけど、どんな旅?」
マグマラシ達はハヤシガメにレントラーにしたものと同じ説明をする。
「へー良いなー!ねぇ、僕も仲間に入れてよ!まだチームを作るのには一匹足りないんでしょ?」
「よっしゃあ!!これでジムに挑戦できる!!」
「よろしくなハヤシガメ!」
「仲良くしていこうぜ!!」
ハヤシガメが仲間に加わって、ジムへの挑戦権が与えられた。
「明日はジム戦をするだろ?今のうちに身体を休めとけ」
「お休み……」
そう言って四匹は夢の世界へと誘う眠りに意識を任せた。