第三話:噂の真相
模様が書かれた円の上に浮かぶ一匹のポケモン。
「あそこに浮いているのは…♀のザングース?」
「ザングースにそっくりだな」
「あの子は…ザングースの妹よ」
「「「妹!?どういうこと!?」」」
ザングースに妹がいたことに驚いているマグマラシ達。
ザングースからは家族がいないと聞かされていたから無理もない。
「どうして俺の妹……サンが宙に浮いて眠っているのか知りたいんだろ?」
しばらくの静寂の後、ザングースが語り始めた。
「あれは二年半前の出来事にさかのぼる……」
暑い陽射しが射す夏が終わりを告げ、秋が始まろうとしていた。
緑豊かな山の上の草原に涼しげな風が時折吹き抜け、草木を揺らしていた。
「お兄ちゃーん!こっちこっち!」
「待てよ。急ぎすぎると転ぶぞ!」
「大丈夫だって!きゃぁ!!」
「どうした!!」
ザングースの前を走っていたサンが突然姿を消し、慌てるザングース。
「お兄ちゃ〜ん。助けて〜…」
涙声で助けを求めるサン。
「どこだ!!」
「お兄ちゃ〜〜ん!」
ザングースが声のするほうに向かうとそこには狭い地割れが。
その奥に小さな赤と白の模様が見える。
「大丈夫か!!」
「助けて〜!!」
「今行くからな!待ってろ!!」
「お兄ちゃん!気をつけて!」
ザングースは狭い地割れの中に入って行った。
「ブレイククロー!!」
ザングースはブレイククローで作った穴をうまく使い、少しづつ降りていった。
ザングースが次の足場に足をかけたとき足場が崩れ、ザングースは頭から落ちていった。
「お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃん…お兄ちゃん…しっかりして!」
「痛っ!」
落ちたときに頭を打って暫く気絶していたようだ。
ザングースが上を見上げると遠くに日の光が見える。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
サンが涙を流しながら話している。
「お兄ちゃんが起きないから死んじゃったのかと思った…よかった」
ザングースはサンの頭をなでながら言った。
「サン……心配かけてごめんな」
「お兄ちゃん…」
ザングースが辺りを見回すとそこには横へと続く薄暗い洞窟が。
「サン見てみろ。あの奥から光が漏れてないか?」
「え?……ほんとだ。気づかなかった…」
「あそこから出られるかもしれない。行ってみようぜ!」
「うん!」
ザングースはうまく動かせない体を引きずりながら向かって行った。
「お兄ちゃん身体…」
「大丈夫。これは一時的だから」
ザングースを気にしながら進んでいくサン。
「お兄ちゃん!!見て!」
「何だ?」
「えっと!えっと!!とにかく見て!」
ザングースがサンに追いつくと信じられないようなものを目にした。
「水晶が…光ってる…」
「綺麗だね…」
「そうだな」
洞窟の中に部屋みたいな空間があり、その中心で水晶が光り輝いている。
その水晶を中心に模様のかかれた円がある。その横に黒い石碑がある。
「お兄ちゃん。これ持って帰ろ!」
「ああ。いいぜ」
このときサンもザングースも水晶を中心に模様のかかれた円がある事にも石碑にも気づいてなかった。
サンが水晶に触れたとたん水晶が強烈な光を放った。
「うわっ!!」
ザングースはその光が眩しくて目を瞑った。
そして目を開けると水晶は消えてしまっていた。
そしてサンが倒れていた。
「サン!?」
「お兄ちゃん…身体が動か…ない…助…け……て………」
サンはそう言うと目を閉じた。
「サン!サン!!」
ザングースはサンの身体を揺するが、サンは目を瞑ったまま起きない。
ザングースが辺りを見回すとさっきまで気づかなかった石碑が。
ザングースはサンを抱きかかえながら、石碑の前に立つ。
「なんだよ!この石碑は!何が書いてあるんだよ…畜生!!」
そこに刻まれていたものは今はもう文献にすら残っていないほど昔使われていた文字が書かれている。
「ここに入りて魔力の水晶を得ようとする者、我が
呪によって五日の内に滅ばん。」
「誰だ!!」
「私はここの番をかれこれ数万年しているミルタンクのタルミ。さっき言ったのはその石碑に書かれている内容よ」
「お前がこの
呪をかけたのか!!」
「いいえ。私ではない“何か”よ」
「…妹の命はあと五日なのか?」
「ええ……」
「そんな!どうして!…あんたは番ポケなのになぜ見張っていなかった!」
「…言い訳になるかもしれないけれど、私だって常に見張りたかった。けど、命はあなた達と同じ長さしかない。それなのに私がなぜ数万年間番を出来たのかわかる?私はここのそばに部屋を作り、その場所の時間の流れを遅くする魔法をかけた。その部屋の中にいたからよ。もちろん声を聞いてその部屋を出ようと走ってもその部屋にいるうちは時の流れが遅いままだから出られるのは暫く時間がたった後になるわけ。だからなのよ」
ミルタンクの話を聞いたザングースはただ涙を流していた。
「…その子にかかった
呪は解けないことはないわ」
「!!!本当か!」
「嘘を言ってもしょうがないじゃない。私もその子の
呪を解いてあげたいし。でもそのためには最低二年半は時間がいるわ…」
「ならあんたがさっき言ってた魔法でそのための時間を稼げないか?」
番ポケはザングースの考えたアイディアは頭に思い浮かばなかったというように嬉しがっていた。
「それなら出来ない事はないわ!でも…魔法を二重にかけるということはそれだけその子へダメージがいくことになるわ。私も癒しの鈴とミルクのみで助けてあげるけど…その子が持つかどうか。それに…二重魔法は後からかけた魔法は効果が薄くなるわ」
「それでも、しなければサンは必ず死ぬんだろ?なら、少しでも可能性のあるほうへ!」
「…わかったわ。あなたがこれから二年半の間必ず行く場所で、近くに誰も入らないような場所は?」
「……あるにはある。俺の通っている学校の屋上にある貯水タンクのある部屋のさらに奥の部屋だ…」
「なら、早速行くわよ!道案内よろしくね!かれこれ数万年外に出てないことになるし、私の知っている時とは違うだろうから。出口はこっちよ!」
ミルタンクはそう言いながら出口へ向かって行った。その後をサンを抱えたザングースが追いかける。
「…身体は…ちゃんと動く!!…待ってろ、サン。お兄ちゃんが必ずその
呪を解いてやるからな」
そう言ってザングースは学校の屋上目指して走っていった。
屋上に着いたタルミは魔法で時を遅らせ、宙に浮かせることで
呪の進行を少しでも遅らせようとした。
「この
呪は大地から来る魔法だからね…大地に触れていると
呪が早く進行するのよ…」
「…そして今に至るという事だ…」
驚愕の真実を告げられ、開いた口がふさがらないマグマラシ達。
「…えっと、そのためにザングースはタルミ先生と一緒に消えた。それが目撃されて二匹が付き合っているという噂になったのか…」
グラエナが頭の中を整理しようとして思ったことを口に出している。
「タルミ先生…一体何歳?そして一体何者?」
アリゲイツが疑問を口に出す。
「私の感覚からすれば四十数歳、この世界からすれば数万歳ね。そして私は水晶の番ポケ。まぁ、水晶は消えちゃったから番ポケじゃないわね…」
「タルミ先生魔法使えるんだ!……あれ?サンの命って後どれくらい持つんだ?」
「この魔方陣から出なくても後三日よ」
「俺達もその
呪を解くのに協力しようぜ!アリゲイツ、グラエナ、いいだろ?」
「「もちろん!!友達なら当然だろ?」」
「…ありがとう」
妹想いの兄はその眼に水を溜めていた。