クイタランとわたし - 番外編:シンクロ・ドリーム
オムナイト編:おむ奈の願い

「奮発して、今晩はホテルにしちゃったけど……うーん。ふかふかベッド最高」

 思い切って有料のトレーナー向けホテルを借りたクレナは、その身体をベッドへと埋めた。

『電気を消しますね』

 有料のトレーナー向けホテルでは、ポケモンを室内に出すことができる。
 水を張ったタライの中で既に眠っているオムナイトを横切り、オーベムが電気のスイッチを切る。
 闇の中で、クレナとそのポケモン達は、共に眠りに落ちていく……

「スピヒィー」

 だが、クレナのオーベム「ジェントル」には、一つ困った癖があった。
 紳士ポケモンである彼は、とんでもなく寝相が悪かったのだ。

「スピフィフィー」

 紳士ポケモンの指が発光する。
 それは彼がサイキックを寝ぼけて使ってしまった証であり、その影響は、クレナ、そしてオムナイトの「おむ奈」に及んだ。
 クレナとオムナイト。
 夢の中の二人の意識は重なり、やがて一つの夢を見る……

 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 太古の海。
 「オムナイト」が、「オムナイト」と呼ばれる種族に成る前……彼らは繁殖力はあるが、弱い生き物だった。
 背負う殻は簡単に大型水棲ポケモンの牙に貫かれ、その身体は成す術もなく餌となっていく。

 だから、彼らは強くなることを選んだ。
 より強く、より大きな殻を得て、彼らは大型ポケモンの牙にも負けない種族「オムナイト」となったのだ。

 だがその強さこそが、彼らの終焉の始まりだった。
 外敵を撥ね退ける強さを得たオムナイト達は、繁殖力の高さが災いし、増えすぎたのだ。


「…………」


 海の中。
 オムナイトの末裔の少女「おむ奈」は、ぼんやりと巣の入り口を眺めていた。

 
「……お腹が、すいたよ……」 

 
 オムナイトの種族を襲ったのは、深刻な食糧難であった。  

 増えすぎた個体数。餌の奪い合い。
 そして致命的であったのは、殻の重さであった。
 強くなった殻は、世代を経るごとに、肥大化し、重くなっていく。
 もはやオムナイトは素早く動くことができず、近くに寄ってきた餌しか捕獲することのできない種族となっていた。


「……お腹一杯、食べたいよぉ……」

 
 やせ細った身体を縛る、重い殻。
 おむ奈には、もう餌を探しに行く体力は残っていない。
 仮に出かけたとしても、同様に飢えた同族に喰われてしまうことだろう。  
 オムナイトは、共食いをも強いられる状況に陥っているのだ。

 おむ奈は残酷な海の中で、神様を想った。

 神様は、何故オムナイトに意地悪をするのだろうか?
 こんなのは不公平だ!
 オムナイト達は、ただ強く生きたかっただけなのに……と。


「…………」


 おむ奈は、眼を閉じた。
 

 ―できることなら、お腹一杯、ご飯を食べたかった。

 ―できることなら、友達と、めいっぱい遊びたかった。

 ―できることなら、この重い殻を破って、すーいすいと動きまわりたかった。

 ―できることなら、とっても遠いとこまで冒険してみたかった。

 ―できることなら、できることなら、できることなら、できることなら……


 貝の少女は、闇の中で「やりたかったこと」をリストアップする。
 やりたいこと、やりたかったことは、幾らでもあった。
 だが、彼女に迫るは逃れられない「死」であり、種族の絶滅の道であった。


 ―かみさま。

 ―もし、貴方が本当にいるなら、聞いてください。

 ―私には、こんなにやりたいことがあったんです。 

 ―だから。もし、次があるならば。

 ―次こそ、私にやらせてください。

 
 おむ奈が願った、そのとき。
 死を前にして、彼女は見た。
 闇の中、自分を覗きこむ「白い獣」の姿を。


          『…………』


 それは、死に際の幻影か。
 それとも、貝の少女を哀れんだポケモンの神が、その最期を慰めに来たのか。

 
 ―できることなら、もっと、生きたかったなぁ。


 最後にごぼりと水泡を一つ出して、おむ奈は死んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ジェントル。また凄い寝相を……」

 起床したクレナは、紳士らしかぬ格好で寝ているジェントルに苦笑いしつつ、同時に眼を覚ましたらしいオムナイトに声をかけた。

「やぁ、おはよう、おむ奈」
「キィ!」

 タライから這い出したオムナイトは、クレナに元気な挨拶をする。

「そういや、今朝は、おむ奈の夢を見た気がするよ」
「キィ?」
「太古の夢だったような……」

 起きた瞬間に夢を忘れてしまったクレナは首をかしげるが、まぁ良いか、と洗面所へと向かった。

「ジェントル起こしたら、ご飯にしようね」
「キキィ!」

 貝の少女は人間の言葉はわからないが、「ジェントル」と「ご飯」が何を指すかは理解できる。
 美味しい朝食の為、オムナイトは眠っているオーベムの元に向かい、粘液だらけの触手で、彼の身体を揺り起こすのであった。

葉穂々 ( 2017/02/25(土) 19:49 )