クイタランとわたし




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クイタランとわたし
23話:ワタシが認めたポケモントレーナー

 送り火(おくりび)山。
 ここは過去現在未来に渡ってポケモンの魂が眠るとされる霊園であり、ゴーストタイプのポケモンが多く生息することから、トレーナー修行の場としても認知されている場所である。

『ポケモンのお墓が沢山ですね』
「ここはポケモンのための霊園らしいからね」
『……その死を悼んでくれる人がいる。彼らは幸せなポケモン達です』

 送り火山の霊園は、塔とその外周の山道で構成されている。
 流石にお墓の並ぶ塔内でバトルの練習をする気にはなれず、外周のルートを選んだクレナであったが、山道にも沢山のお墓が建てられている。

「広いスペースを探さなきゃね……」

 お墓への被害を気にせずバトルしているトレーナーの姿はちらほらと見かけたが、クレナは迷惑にならない場所を探し、クイタランとオーベムを伴い、上に上にと道を登っていく。
 
「カゲボウズに、あっちはヨマワル。ジュペッタもいる」

 道中で見かけるポケモンは、普段お目にかかることが無いポケモンばかり。
 ポケモン図鑑を手に歩いて行くクレナだが、そんな中、彼女は驚くべきものを発見した。

「あっ! くい太、ジェントル、静かに」

 クレナはクイタランとオーベムを制し、お墓の影に隠れる。
 彼女の視線の先には、とあるポケモンの姿があった。

「チリーンだよ。本物のチリーンだ」

 ひらひらの尾。頭部の吸盤。小さなおてて。

 若い女性の間で人気爆発のポケモン、チリーンがそこにいたのだ。
 その可愛さから、クレナの通う学校でもチリーングッズを持つ女の子は多く、クレナもチリーン好きの一人であった。
 
「もう少し、近くで見てみたいな」

 多くのグッズが販売されているチリーンであるが、チリーンはカントーで愛されているピッピ同様、大変珍しいポケモンである。
 普段はまず出会うことのないポケモンであり、それ故に、クレナは是非とも生チリーンを近くで見てみたいと考えていた。

「リリン」
「あ、待ってよ」

 フリージオのものとはまた違う鈴の音で鳴きながら、チリーンは去っていく。
 クレナは早歩きで、その後を密かに追った。

「ぶ」
『クレナ様、目的が変わっていませんか?』
「ま、まぁまぁ。どうか可愛い物好きの女心を理解してよ、ジェントル……」


 チリーンの後を追い、山道を進んでいくクレナ。
 暫くチリーン・ストーキングを続けたクレナであったが、彼女は気がついた。霊園に立ち込める霧が、急に濃くなっていると。

「あ、あれ?」

 霧の濃さは増すばかりであり、もはやチリーンを追いかけるどころではない。
 前後左右、霧が深くてまともに見ることが出来ないのだ。

「ジェントル、くい太」
『ここに居ますよ、クレナ様!』
「ぶも」

 不安に駆られるクレナは、クイタランとオーベムを傍に引き寄せて、身を縮めた。
 
「リリリン」
「ケレレッ」
「コアァ」
「ガヒャ」

 彼女の不安を煽るように、怯える少女を嘲笑うように、あのチリーンを含めた沢山のポケモン達の笑い声が霧の中で響く。
 どうやら、この霧は、霊園に住むゴーストポケモンが引き起こしたものらしい。

『あのチリーン、どうやらゴーストポケモン達とグルだったようです。同じエスパーポケモンとして恥ずかしい限りです』

 響く笑い声にオーベムはピィと抗議するが、ポケモン達の笑い声は収まらない。
 だが、霧の中に「紅い光」が灯ったその瞬間、ゴーストポケモン達は嘲笑を止め、霧深い霊園は静寂を取り戻した。

「……ジュオォ」

 朧気だった紅い光は、徐々にはっきりとした形になっていく。
 それは、ポケモンの眼だった。

『お気をつけください、クレナ様……!』

 紅の単眼。大きな手首。灰色の身体。

「ジュオオオオオ……!」

 霧の中に現れたのは、手招きポケモン「サマヨール」であった。

『あのポケモンは、貴方に敵意を抱いています!』
「えっ」

 オーベムが警告したその時、サマヨ―ルは拳を握りしめ、クレナへとパンチを放った。

「ぶもぉっ!」

 その攻撃を受け止めたのは、クイタランである。
 だが、サマヨールのパンチを受け止め切れず、彼の身体は弾き飛ばされてしまう。

「う、うわあっ!」

 サマヨールはクレナへと拳を振りかぶる。
 慌てたクレナは転がるように逃げながら、腰のボールホルダーからボールを取り出し、手持ちのポケモンを全員召喚した。

「ジーン、おむ奈、りじ夫! くい太を援護して!」

 クレナを襲うサマヨールに、テッカニンが爪を構えて飛びかかり、オムナイトが触手をうねらせ水鉄砲を発射し、フリージオが冷凍ビームのエネルギーを口部に収束させる。
 だがサマヨールは動じず、怪しげに紅の眼を輝かせ、手を揺らめかせた。

「ジ?」
「キィイ」
「リィイイイン……」

 瞬間、サマヨールへの攻撃態勢に入っていたポケモン達はその動きを止めた。

「ど、どうしたの。皆」

 テッカニン達だけではない。
 クイタランも、傍のオーベムも様子がおかしかった。

「ピギィ」
「ぶ、ぶも……」

 彼らは、クレナを振り返る。
 彼らの眼は、明確にクレナへの攻撃意思を宿していた。

「え、う、嘘でしょ。ねぇ、くい太。嘘だよね?」
「ぶもぉ!」

 クイタランはクレナへと炎を纏った舌を振り下ろす。

「うわあああああっ!」

 テッカニンはクレナの思考をかき乱す嫌な音を放ち、オムナイトは転がってクレナの逃走経路を塞ぐ。
 
「止めて、止めてよ!」

 手持ちのポケモン達に追い込まれたクレナは、尻もちをつく。
 顔をあげると、そこにはクレナを見下ろし、冷凍ビームを収束させるフリージオの姿があった。

「りじ夫っ!」

 精神に干渉する、催眠の技。
 サマヨールは手持ちポケモンに嬲られるクレナを笑い、フリージオに命令を下した。

「ジュオオ」

 殺せ、と。

「リィイイイイイッ!」

 フリージオが冷凍ビームを放つ。
 クレナの全てのポケモンは、サマヨールに掌握されている。
 霧に遮断されたこの空間において、もはや、彼女を庇う存在はいない。

 そのはずだった。


「……ピ、ピギャッ……」


 サマヨールは目を見開いた。
 操っているはずのオーベムが、己の術に抗い、文字通りトレーナーの盾になったのだ。

 
「ジェ、ジェントル」
『……せ、精神操作は、我が一族の十八番です……遅れは、取りませんよ』

 光の壁を纏っていると言えども、フリージオの攻撃は強力であり、オーベムの身体は全身が凍傷寸前であった。
 クレナはオーベムが作ってくれたチャンスに、ボールの回収光線でポケモン達を戻そうとしたが、ポケモン達は光線を受け付けなかった。

『あのサマヨールに、黒い眼差しを、使われてしまったようですね……』 

 クレナは操られたポケモンを戻すこともできず、自身は冷凍ビームのダメージが残っている。
 
『…………』

 オーベムは覚悟を決め、クレナに念を飛ばした。

『クレナ様。貴方は逃げて下さい』
「ジェントル?」
『あのポケモンは、本気でクレナ様の命を奪おうとしている』
「ちょっと待ってよ。「貴方は」って」

 迫るポケモン達を前に、オーベムは全身にサイキックを巡らせる。

『ワタシが時間を稼ぎます』

 オーベムは実体化させた念を翼のように生成し、フリージオに鋼の翼の一撃を見舞う。続けて、実体化させた念「サイコショック」を弾丸のように射出した。
 だが、オーベムの身体を、テッカニンとオムナイトの攻撃が襲う。
 念力のサイキックで彼女たちの動きを止めるが、その背をフリージオの辻斬りが抉った。
 念で生成した鋼の翼は敢え無く砕け散り、背中に受けた裂傷から血が流れる。

「ピ、ピィィ」

 呻きながら起き上がるオーベムに、テッカニンの爪が突き刺さり、鈍器と貸したオムナイトの体当たりが直撃する。
 だが、オーベムは尚も戦闘続行の意思を見せた。

「ピ、ピギッ」
「…………」

 よろめくオーベムの前に立つのはクイタランである。
 クイタランは、満身創痍のオーベムの身体を、炎を纏った舌で打ち、太い爪で突いた。

「ピギャアッ!」
「あ、ああああっ……」

 オーベムがリンチにされる光景を、クレナは呆然と眺めることしかできなかった。

「も、もう良いよ。止めてよ、ジェントル。嫌だよ、こんなバトル!」
「ピギアアアアアッ……!」
「ジェントルったら!」
「ピギャアアアア!」

 憧れた人間の紳士と話したいが為に、人の言葉を覚え、紳士としての振る舞いを身に着けることに経験値を注ぎ込んだオーベムであるが、今や、彼は紳士であることを捨てていた。
 ここで盾となるオーベムが倒れてしまえば、クレナが襲われてしまう。
 彼は主の命を守るため、命を削り咆哮する獣となったのだ。


「……ジュオオ……」


 サマヨールは、命を捨てて戦うオーベムに尋ねた。


 ―何故、お前は球使いを守る?
 ―連中に尽くす価値など、どこにも有りはしないというのに。

 
「ピギアアアアアッ!」


 ―あの方は! ワタシが認めたポケモントレーナー!
 ―お前なんぞに! 殺させてなるものかぁ!



「ぶもぉ!」
「ピギィイイイイイッ!」

 クイタランの乱れ引っ掻きがオーベムを襲う。
 オーベムは念力のサイキックをクイタランに浴びせながら、叫んだ。


 ―いつまで操られているんですか、くい太ぁ! 貴方は!
 ―クレナ様の「相棒」でしょうがっ!


 だが、その最中。
 オーベムの身体は「手」に掴まれた。

「ジュオオオオオ」

 サマヨールが、オーベムの身体を拘束したのだ。

「ピギッ!」

 オーベムはサマヨールにサイキックをぶつけながら叫んだ。
 何故、クレナを攻撃するのかと。

「ジュオオオ」

 サマヨールはその問いに応えた。


 ―クレナイ・クレナが。
 ―俺を使い捨てた球使いの、娘だからだ。


 サマヨールは、オーベムを掴む手に霊的エネルギーを収束させる。


 ―これは、あの男への復讐だ。


 オーベムを投げ飛ばしたサマヨールは、その身体にシャド―パンチを叩き込んだ。

「ピ……ァア」
「ジェントル―ッ!」

 オーベムの身体が宙を舞い、霧の向こうへと消えていく。
 クレナが叫びながら追うが、彼女は目を見開いた。
 
「じぇ、ジェントル……」

 霧の向こうは崖になっていた。

「…………」

 へたり、とクレナが座り込む。
 
「ジィー」
「キィ」
「リィイン」
「……ぶも」

 サマヨールに操られたクレナのポケモンたちが、放心する少女に迫る。

「ジュオオ」

 サマヨールは、その中でクイタランに命じた。
 相棒と呼ばれていた彼に殺されるのが、球使いにとって一番の屈辱であるだろうと考えたのだ。

「……あぁ」

 クイタランが迫る中、クレナは身を縮こませながら、迫る死に怯えた。
 結局、逃げることも、オーベムを助けることもできず、彼が命をかけて作ってくれたチャンスを無駄にしてしまった。


「……怖いよ……」


 クレナは震える声で、呟く。
 その中で、彼女の脳裏に過ぎったのは、父の姿だった。


 幼いころも、こんなことがあった。
 まだ、父が共に暮らしていたころ。
 家族で向かったピクニックの先で、クレナは野生のポケモンに襲われ、命を落としかけた。

 そんな中、幼い彼女の命を救ったのは、他ならぬ父とそのポケモンであった。


「……父さん、助けて……」


 生きているか死んでいるかもわからない父が、助けに来てくれるはずもない。
 そんなことは理解しているが、クレナは最後の最後に、無意識に、父に助けを求めてしまった。

「………………」

 怯えるクレナであったが、いつまでたっても、痛みが来ない。
 
「……?」

 恐る恐る目を開けたクレナの視界に入ったのは、無言でクレナを見下ろすクイタランである。

「…………」
「くい太」
「……………………」
「くい太?」

 クイタランはクレナに背を向け、咆哮した。


「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 同時に、クイタランの両腕から炎が吹き出す。
 
「ジュオッ……?」


 ―俺の催眠が破られた?
 ―何故だ。


 驚くサマヨールであったが、彼はクレナのポケモン達に命令した。
 クイタランごと、クレナを仕留めろと。

「ジィーッ!」

 テッカニンがクイタランに爪の一撃を浴びせるべく迫るが、クイタランは腕から吹き出す炎を全身に纏った。

「ジッ」

 テッカニンが炎に怯んだその一瞬を見逃さず、クイタランは太い爪で蝉の騎士を地上へと叩き落とす。
 
「キィイイーッ!」

 オムナイトが殻の中に入って転がり、クイタランへと突っ込むが、炎を纏ったクイタランは真っ向から転がる攻撃にぶつかり、貝の少女を弾き飛ばした。

「リィイイイイイイーッ!」

 フリージオが冷凍ビームをクイタランへと放つが、炎を纏い猛進するクイタランの「フレアドライブ」は止まらない。
 冷凍ビームを突っ切るクイタランはフリージオへと突進し、直撃を喰らった結晶ポケモンは宙を舞い、地面へと突き刺さった。

「ジュッ……」

 瞬く間にテッカニン、オムナイト、フリージオの三体抜きを決めたクイタランは、サマヨールと相対する。
 
「ジュオオオオッ!」

 右手に霊的エネルギー、そして左手には電撃。
 支配していたポケモンを倒されたサマヨールは、接近するクイタランをシャドーパンチと雷パンチで迎え撃った。

 大技であるフレアドライブを続けて使用したクイタランの消耗は大きく、サマヨールのパンチ攻撃に弾き飛ばされたが、クイタランの尾は大量の空気を吸い込み、着地した彼は両腕をサマヨールに向け、口を開いた。

「ぶもおおおおおおおおおお!」

 そして放たれる、必殺の炎攻撃。

 クレナは、クイタランが両腕と口部から同時に放つ炎の火力に呆然とする。
 それは、炎タイプ専門のジムリーダーのポケモンが使用していた、炎タイプの超大技「オーバーヒート」のものであった。

「……ジュ……ジュオ……」 
  
 その火力は到底耐えきれるものではなく、オーバーヒートの一撃を喰らったサマヨールは崩れ落ちる。
 戦闘不能である。

「…………」

 だが、クイタランはバトルを続行した。
 彼は倒れたサマヨールに近づき、その身体を爪と炎を纏った舌で攻撃したのである。
 サマヨールは力尽きているのか、それとも、もはや抵抗する意思が無いのか。
 一切反撃の行動を見せず、クイタランに攻撃されるがままになっていた。

「く、くい太」

 クレナは走り、サマヨールの胸に爪を突き立てようとするクイタランの腕を掴んだ。

「駄目!」
「…………」

 クイタランはクレナを振りほどこうとするが、クレナはその腕を離さない。
 
「くい太。お願い。止めて……!」

 クイタランは、このサマヨールを許すことができなかった。
 自分たちを操り、クレナの命を奪おうとしたこのポケモンを、生かしておくことはできなかった。
 だが。

「くい太ぁ!」

 クレナはどうしても、サマヨールにとどめを刺そうとするクイタランの腕を離さない。
 ここで、クイタランは気がついた。
 フレアドライブ、そしてオーバーヒートを放ったばかりの自らの身体は、高温を帯びていることに。

「……!」

 既に、クレナの手は火傷を負っていた。

「私さ」
「ぶも……」
「嫌なんだよ。嫌いなんだ。こんな、死ぬまで攻撃するとか、そういうバトル」

 クイタランがサマヨールへの攻撃の意思を示す限り、クレナはクイタランの手を離さないだろう。

「…………」

 クイタランは動きを止め、サマヨールから数歩離れ、クレナを見つめた。

「ありがとう、くい太」

 クレナは目に溜まる涙を拭い、火傷した手で空のモンスターボールを取り出した。


「……ジュ……」


 その光景を朦朧とする視界で眺めるサマヨールは、そうか、と息をついた。


 ―【父さん、もう止めてよ】―
 ―【ポケモンが、可哀想だよ】―


 かつて、サマヨールがヨマワルだったころ。
 ポケモントレーナーであるクレナイ・ユウゾウの厳しいバトル訓練に耐えきれず、消耗する彼に、ユウゾウの幼い娘のクレナは涙を流した。

 
 ―クレナイ・クレナ。お前は球使いに成っても……

 
 サマヨールの胴体に、クレナが投げたモンスターボールが当たり、その身体が収納されていく。


 ―何も、変わっていなかったのか。


 ボールの揺れが収まり、クレナはサマヨールの入ったボールを両手に包む。
 捕獲成功である。

「う、うぅっ」

 サマヨールを捕獲し、黒い眼差しの効果が解除されたことで、クレナはクイタランに倒されて伸びているテッカニン、オムナイト、フリージオをボールへと収納した。

「ジェントル」

 此処一帯のぬしポケモン・サマヨールが捕獲されたが、霧は未だに深いままである。
 
「ジェントル! 返事してよ、ジェントルーッ!」

 クレナはサマヨールの攻撃を受け、霧の向こうへと消えてしまったオーベムを呼ぶ。
 もしも、唯でさえ瀕死であった彼が、崖に落ちてしまったのだとすれば……

「う、うわぁあああん。どうしよう、くい太、ジェントルがぁ……!」

 オーベムからの返答の念も鳴き声も帰ってこない。
 クイタランの傍でクレナは泣き崩れたが、そんな彼女たちを、ゴーストポケモン達が取り囲んだ。

「コォオ」
「ガヒャヒャ……」

 ここ一帯のぬしポケモンであるサマヨールが捕獲されたとは言え、弱ったクレナの精神は、ゴーストポケモン達の絶好の餌だった。

「……ぶもっ」

 泣き続けるクレナを守るため、クイタランはゴーストポケモン達に威嚇をし、炎を纏った舌を口部から覗かせた。
 だが、そんな中。

「ノックマン、ニードルアームッ!」

 風と共に霧が晴れると同時に男性の声が響き、ゴーストポケモンの悲鳴が上がる。

「……え……?」
「ズァアアッ!」

 突如上空から降ってきたポケモン「ノクタス」は、次々にゴーストポケモンを追い払っていく。

「君、今朝の子だね。大丈夫かい!?」

 クレナが上空からの声に顔をあげる。

「お、お巡りさん……」

 そこには、大型ポケモンのトロピウスに乗る警察官がいた。

「間に合って良かった」

 彼は、クレナが船着き場で出会った警察官であった。
 ゴーストポケモン達は退散し、トロピウスから降りた警察官は、涙を流すクレナに近づく。

「お、お巡りさん! わ、私のオーベムが!」
「この子だろう?」
「あっ!」
「大丈夫、息はあるよ」

 警察官の腕には、全身ボロボロのオーベムが抱えられていた。

「何だかね。とても強い意思を感じたんだ。君に危機が迫っているから、助けて欲しいって。慌ててトロピー……トロピウスに乗って急行したら、木に引っかかっている彼を見つけたんだ」
「ジェントル……」
「ポケモンセンターに行こう。ヒワマキまでひとっ飛びだ。乗ってくれ!」
「は、はい!」

 クレナはクイタランとオーベムをボールへ収納し、警察官の力を借りてトロピウスの背に乗る。

「行くぞノックマン、トロピー」
「ズァア」

 最後にノクタスがトロピウスの背に飛び乗ると、トロピウスは送り火山から飛翔した。

「ありがとうございます、お巡りさん……!」
「礼なんて良いよ。市民を守るのが警察官なんだから。それより……どうか、ポケモンを嫌いにならないでくれ。君を襲ったのはポケモンだけど、君を守ったのも、ポケモンだ」
 
 警察官にしがみ付くクレナは、その言葉にゆっくりと頷いた。

「はい。忘れません」

 トロピウスの羽ばたきの振動で、クレナの腰のボールホルダーにセットされた、6つのモンスターボールが揺れる中。
 再び少女はツリーハウスの町へと舞い戻るのであった。

葉穂々 ( 2017/07/08(土) 15:49 )