17話:貫き通すは鋼の強さ
それは、突然の再会だった。
「やっほぉ、クレナ」
「!」
レストランにて名物のラーメンを啜っていたクレナは、突然の訪問者に目を見開いた。
「れ、レモー!?」
「キンセツラーメンは、ちょっと私には無理かな。ハヤシライスをお願いします」
隣のカウンター席に座ったお嬢様のレモーは、店員に料理を注文し、クレナに微笑む。
「見てたよ、ジム戦。ランク4戦だっけか」
「えっ」
「強くなったね。正直驚いた」
3つ目のバッジ取得から数日後。
次にクレナが挑戦したのは「電気タイプ」を専門とするジムであった。
今回のジム戦では初回で勝利を決め、見事4つ目のジムバッジを手に入れたクレナであったが、どうやらレモーは、その一戦を見学していたらしい。
「レモーも、ジム戦に来たの?」
「そ。明日に予約してるわ。ランク7戦よ」
「ランク7て……もうそんなにバッジを集めたの!?」
「ふふん。明日見学に来て良いわよ」
「…………」
クレナは頷きながらラーメンを啜る。そんなクレナに、レモーは更なる提案をした。
「その前にさ、クレナ。この後、私とバトルしない? 明日のバトルに備えて、ウォーミングアップしたいのよ」
「え」
「どう?」
願ってもない提案だった。
そもそもクレナは、嘗てポケモンバトルで惨敗を喫したレモーへのリベンジを果たすことを、当面の目標としていたのだから……
「勿論だよ。私は、ずっとこの時を待っていたんだから」
「流石クレナ。相変わらずの負けず嫌い!……とは言っても、やっぱり持ってるバッジの数が違うしね。今回もハンデを付けてあげる」
「ハンデ?」
「クレナの手持ちは四体だったよね? クレナは四体全部使っていいけど、私が使えるのは二体まで。これでどう? まぁ、尤も、私が二体目を出すことは無いと思うけど」
レモーは不敵に笑う。
ルールでは二体まで使用できるが、彼女はクレナの手持ち四体に対し、一体で全抜きしようというのだ。
「言ったね」
「ふふん。言ったわよ。あ、ハヤシライスが来た」
「ハンデが厳しすぎたって、後悔するかもよ」
「ないない」
二人の若きポケモントレーナーは食事をしつつ、ポケモンバトルの再戦を誓った。
「……ミントアイス食べて、歯磨きした後でも良い?」
「……後味キツイものね、キンセツラーメン」
****
「お、バトルか」
「女の子のトレーナー同士だ」
「可愛いポケモンを使うのかな?」
そして、食後の歯磨き後。
クレナとレモーが相対するバトルコートに、ギャラリーが始まる。
「あっ。あの子、レモーさんだ」
「おおっ、本当だ」
レモーは一部では有名人であったのか。
ギャラリーの中には、カメラを持ったファンや、レモーの名前を呼ぶ女性の姿もあった。
「クレナ。バトルの前に話しておきたいことがあるんだけど」
「何?」
「貴方は聞いたことはある? プロを志すトレーナーは沢山いるけど、本当のプロになれるのは、ポリシーを持ったトレーナーだけだって」
レモーは腰のボールホルダーからボールを取り出し、クレナに見せる。
「私が貫き通すのは「鋼」の強さよ」
「鋼……」
「さぁ、行きなさい、クロガネッ!」
レモーがボールを投擲し、バトルコートに呼び出したのは、全身に鋭利な刃を持つポケモンであった。
「ジャッ」
紅と黒の外殻。武士を連想させる、その風貌。
刀刃ポケモン「キリキザン」の鋭い眼光が、クレナを捉えた。
「クレナ、キリキザンは悪と鋼の複合タイプのポケモンよ。彼の刃と、どう戦うのかしら?」
「そっちが「武士」なら、こっちには「騎士」がいる」
クレナは虫タイプのシンボルマークが付いたボールを取り出し、投擲した。
「行けっ、ジーン!」
ボールから現れたテッカニンは、鋭い爪を掲げて空へと舞い上がる。
「連続斬りッ!」
「ジィーッ!」
先手必勝。
クレナがテッカニンに命令すると同時に、虫の騎士はキリキザン目がけて急降下した。
「クロガネ、メタルクローッ!」
「…………」
キリキザンは腕から刃を伸ばし、迫るテッカニンを迎撃すべく構えた。
「ジィッ!」
「ジャアッ!」
爪と刃が火花を立てて打ち合う。
キリキザンの重い一撃に、体重の軽いテッカニンは弾かれるが、彼女は続けてキリキザンに連続攻撃を仕掛けていく。
「流石に素早いわね……」
技を撃ち込む度にテッカニンの技の威力は上昇し、加速していく。
長期戦になれば、その動きはキリキザンの動体視力をもってしても追従できないものになるだろう。
「クロガネ、剣の舞!」
「え?」
だが、この場面でレモーはキリキザンの火力の底上げを図った。
テッカニンの猛攻の中、キリキザンは戦陣の踊りを舞う。
クレナはレモーの悠長な指示に困惑したが、彼女はチャンスとばかりに叫んだ。
「ジーン! 連続斬りっ!」
鋼の刃にテッカニンの爪跡が刻まれていくが、キリキザンは動じずに、舞を続けていく。
彼は恐れを知らないのか。それとも、レモーに絶対的な信頼を置いているのか。
「次の一撃で倒すんだ、ジーン!」
「ジィッ!」
剣の舞を使わせた以上、ここで確実に倒さなければならない。
テッカニンの連続斬りは鋼を断つに十分な威力となっており、その動きも、もはやキリキザンに追い切れるものではない。
クレナは決着をつけるべく、テッカニンに命じた。
「連続ぎ」
「不意打ちっ!」
だが、クレナは見た。
先手を取れるはずの無いキリキザンが、一瞬でテッカニンの背後に回り込み、彼女を一刀のもとに斬り捨てる姿を。
「えっ」
テッカニンがバトルコートへと落下する。
「ふふふ。言ったでしょう、キリキザンは悪と鋼の複合タイプのポケモンだって。彼の身体と心は鋼の強さだけど、隙を見ての悪辣な一撃だって、お手の物なのよ」
「……ジ、ジジッ」
地面に倒れるテッカニンは爪を伸ばし、尚も戦おうとするが、彼女はもはや戦闘不能状態である。
クレナはテッカニンをボールへと収納し、次のボールを握った。
「行けっ、おむ奈!」
クレナが二番手に選んだのは、オムナイトである。
オムナイトは触手をうねらせて、キリキザンと相対した。
「(ごめん、おむ奈)」
クレナには、先にオーベムを選出し、「雨乞い」で雨を降らせるという選択肢もあった。
雨さえ降れば、特性「すいすい」を有するオムナイトの機動力と火力は底上げされる。
だが、あのキリキザンには、テッカニンのスピードをもってしても先手を取られてしまったのだ。
「水鉄砲!」
「メタルクロー!」
だから、クレナはもう一つの戦術に託した。
「鋼」の強さを貫くというレモーに対し、豪雨状態では得られぬ「勝利」を目指して。
オムナイトで、少しでもキリキザンを消耗させるという選択を選んだのだ。
「キイイィッ……!」
キリキザンのメタルクローは、オムナイトの放つ水流すらを切り裂き、彼女の貝殻に大きな傷跡を残した。
大きく跳ね挙げられ、落下したオムナイトの触手は、へたりと地面に伸びる。
剣の舞で増した技の威力は、オムナイトを一撃で戦闘不能にするには充分であった。
「さぁ、クレナ。あっという間に二体抜きよ」
キリキザンは腕を払い、身体の水を弾き落とす。
二戦終えた後でも、彼は、十分な余力を残していた。
「まだ負けたわけじゃないよ」
クレナはボールを投擲し、三体目のポケモンをバトルコートへと呼び出す。
「ピィイイ!」
「オーベムね。でも、エスパータイプは、キリキザンとは相性最悪よ?」
バトルコートへと登場したオーベムは、レモーの言葉に対し、ちちち、と腕を振る。
『ワタシはきっと貢献してみせますとも。クレナ様の勝利に』
「……んん? そのオーベム、私の言葉に反応した……?」
まるで人間のようなオーベムの振る舞いにレモーは驚くが、彼女は気を取り直してキリキザンに命じた。
「不意打ちっ!」
「リフレクター!」
キリキザンはオーベムの背後に回り込むが、オーベムは反転してリフレクターを展開し、キリキザンの身体を弾き飛ばした。
「なるほど。そういうこと。クレナ、わかったわよ。貴方の考えが」
不意打ち攻撃を失敗したキリキザンだったが、地面に着地した彼は、即座に跳躍した。
「ジェント……」
「クロガネ、メタルクローッ!」
キリキザンの刃は、リフレクターを物ともせずに、オーベムの身体を斬り捨てた。
「ピ、ピギィ」
クレナの傍に落下したジェントルを、クレナは抱きかかえる。
「クレナ。貴方は、最後の一匹に託しているのね」
「…………」
「さぁ、出してきなさい。貴方のエースを」
クレナの作戦は、レモーに看破されていた。
最後一体。
クレナの相棒の、クイタラン。
レモーの鋼のポケモンを打ち破るには、彼の炎が必要だった。
―でも。
―本当に、あのキリキザンを倒すことなんてできるのだろうか。
クレナの中に、不安と、敗北への恐れが渦巻く。
やるべきことはわかっているが、ボールホルダーへと手が伸ばせない。
―ああ、私な駄目なトレーナーだ。
―結局、昔と何も変わらない。
―ポケモンの気持ちに、何一つ応えられない……!
だが、そんなクレナに、彼女の腕の中のジェントルが手を伸ばした。
『クレナ様。貴方はワタシが認めたポケモントレーナー』
『そして、ワタシは知っていますよ。貴方の相棒の、炎の熱さを』
「ジェントル」
『今こそ彼らに知らしめる時です。貴方達の、本気を』
「…………」
オーベムの念を受け取ったクレナは、頷いた。
このジェントルマンなオーベムは、クレナとクイタランのコンビが初めて捕まえたポケモンである。
そんな彼からのメッセージを、無下にするわけにはいかなかった。
「そうだね。その通りだよ」
オーベムをボールに戻したクレナは立ち上がり、ボールホルダーから新たなボールを取りだす。
「今こそ、レモーに見せる時だ。私たちの強さを」
ボールに貼られた「エースシンボル」のコーデシールが、太陽に照らされて煌めいた。
「来るわよ、クロガネ。クレナの切り札が」
「ジャッ……!」
キリキザンは深く構える。
彼は察したのだ。全精力を傾けるべき「強敵」が来ると。
「行けぇっ、くい太ぁっ!」
クレナは叫びながら、バトルコートへとモンスターボールを投げ込んだ。
「ぶもぉぉぉおっ!」
その叫びに呼応するかのように、クイタランもまた咆哮し、バトルコートへと着地した。
「不意打ち!」
「鬼火!」
二人の少女は同時に命令し、キリキザンが驚異的な脚力でクイタランに迫るが、その身体をクイタランが射出した幽玄な炎が舐めた。
「ジィャッ」
キリキザンはクイタランから距離を取り、転がって身体に纏わりつく鬼火を振り払うが、その全身に火傷の跡が残る。
これでは、剣の舞で底上げされた攻撃力も、低減してしまう。
「……メタルクロー!」
「炎の渦っ!」
クイタランが炎の渦を射出するが、疾走するキリキザンに命中しない。
炎の渦で捉えられぬまま、キリキザンはクイタランの懐へと飛び込み、刃が備わる腕を振り上げた。
「くい太っ!」
クイタランから血が流れる。
だが、彼は踏みとどまり、キリキザンを睨みつけた。
「ぐぶもおぉ……!」
鬼火による火傷。
そして、先のバトルでオーベムが展開したリフレクターにより、キリキザンの一撃はクイタランを倒すに至らなかったのである。
「ジャッ……!」
キリキザンはクイタランから距離を取ろうとするが、彼の身体は拘束されていた。
炎を纏うクイタランの舌が、キリキザンを捕えたのだ!
「くい太ぁ! ……炎の!」
「ぶもっ」
「鞭ィ!」
「ぶもぉおおお!」
クイタランは全身を使い、キリキザンを宙に投げ飛ばす。
そして、炎を纏うクイタランの舌が。「炎の鞭」が、落下する刀刃ポケモンの身体を滅多打ちにした。
「ジ、ジャアァ!」
バトルコートに落下したキリキザンは立ち上がり、再び構えるが、
「……ジ、ジァッ……!」
腕の刃が熱で溶け落ちると同時に、彼は膝から崩れ落ちた。
戦闘不能である。
「クロガネ。四体抜きは成らなかったわね。でも、よくやったわ」
レモーは倒れたキリキザンをボールへと収納し、ボールホルダーへと手を伸ばす。
「あと一体だね」
「それは、お互いさまよ」
レモーはモンスターボールをバトルコートへと投擲する。
「行きなさい、シロガネ!」
「キョオオオオーッ!」
出現したのは、鋼と虫の複合タイプのポケモン「アイアント」。
彼こそはクレナの初戦に黒星を付けたポケモンであり、クレナ達が打倒を目標としていた個体であった。
「ぶもぉおおお」
「キョオオッ」
クイタランは両腕を広げてアイアントを威嚇し、アイアントは大顎を打ち鳴らす。
「くい太、炎の鞭!」
「シロガネ、アイアンヘッド!」
負けられない再戦。
クイタランは炎を纏った長い舌をアイアントへと振り下ろすが、アイアントはキリキザン以上に素早かった。
「クレナ。アイアントはクイタランに弱いかもしれないけれど」
炎の鞭を掻い潜り、アイアントは、クイタランの腹の裂傷目がけて、渾身の頭突きを放った。
「私のシロガネは、クイタランよりも強いのよ」
その一撃の威力に、クイタランは目を見開き、胃液を吐く。
よろめいたクイタランのその身体に、アイアントは続けて鋼の頭突きを放っていく。
「……く、くい太」
クレナは拳を握る。
―指示をしなければ。
―何としてでも、くい太を勝たせなければ!
「くい太! 炎の渦っ!」
だが、アイアントの猛攻を受けるクイタランには、とても炎を吐く余力は残されていない。
クイタランは指示を実行することもできず、アイアントに打ちのめされていく。
「これで決まりみたいね」
レモーは勝利を確信するが、クレナは、諦めきれなかった。
「……くい太、お願いっ!」
彼女は信じているのだ。
クイタランの強さを。
「炎の、渦をっ……!」
「キョオオオオオオオッ!」
だが、圧倒的な実力差が、クレナの願いを砕く。
アイアントはトドメの一撃をクイタランへと叩きこんだのである。
「……ぶ、ぶ……」
バトルコートへ倒れたクイタランは、空を見る。
クレナが呼んでいる。だが、打ちのめされた身体は、その声に応えることができない。
「………………」
意識も薄れる。
だが、そんな中。
クイタランは、声を聞いた。
― ……お父、ちゃん…… ―
血を流しながら、己を呼んだ娘の声を。
「……ぶもおおおおおおおおおおっ!」
クイタランは咆哮し、動かぬ身体を立ち上がらせる。
「ぶもおおおおおおおおーっ!」
「キョッ……」
アイアントが驚愕する中、クイタランは、炎の渦を噴きつける。
効果は抜群。
決してアイアントの身体が耐えられる一撃ではないが、
「シロガネッ、ストーンエッジッ!!」
レモーが叫んだその時、クイタランの足元から、岩の刃が飛び出した。
「ぶ」
「キ、キョォオオオオ……ッ!」
クイタランの胴体に岩が喰い込むと同時に、炎の渦から、よろめくアイアントの姿が現れる。
「くい太」
「……気合なら、シロガネだって負けていないの」
アイアントの胴体に巻かれていた、「気合のタスキ」が燃え落ちると同時に、クイタランの身体は今度こそ崩れ落ちた。
「…………」
満身創痍のアイアントは、倒れたクイタランを見やる。
「キョォッ」
彼はクイタランに尋ねた。
―お前を突き動かすものは、何だ?
だが、クイタランは答えない。
彼は気絶しており、そもそも、虫の言葉は通じないだろう。
―まぁ、良い。
―この先、何度戦おうとも。
―このシロガネは、クイタランなどに負けはしない……
アイアントは回収光線でボールに戻される。
「くい太!」
クレナはクイタランへと駆け寄り、その身体を抱き寄せた。
「くい太……ごめんね……わ、わたし」
クレナの眼から涙がこぼれる。
「私、勝ちたかった。くい太を、勝たせてあげたかったよぉ……!」
嗚咽するクレナだったが、そんな彼女を、試合を見ていた周囲のギャラリーが鼓舞した。
「泣くなよ、お嬢ちゃん!」
「凄く良い試合だったよ!」
「バッジ集めてるんだろ? 俺、君のこと応援するよ!」
キリキザンと、アイアント。
そして、彼らに対抗する、テッカニン、オムナイト、オーベム、クイタラン。
レモーとクレナのポケモンバトルは、ギャラリーの心に火を付けたのである。
「そういうことよ、クレナ」
「!」
クレナが顔を上げると、ハンカチを差し出すレモーがそこにいた。
「……シロガネに道具を持たせていなかったら、きっと負けていたわ。貴方は、この「未来のポケモンマスター」を、ここまで追い詰めたのよ」
「レモー」
「クレナイ・クレナ。貴方こそ、私のライバルに相応しい」
渡されたハンカチで涙を拭うクレナは、紅くなった眼でレモーを見つめた。
「ら、ライバル?」
「光栄に思ってよね。ポケモンマスターのライバルに、貴方は選ばれたんだから」
「…………」
「次は、ハンデ無しで。ポケモンリーグで、戦いましょう」
ポケモンリーグ。
それは、ジムバッジを八つ集めたトレーナー、即ち「プロ級の実力を持つトレーナー」のみが出場を許された、ポケモンバトルの祭典である。
「……良いよ」
出場だけでも困難な大会であるが、クレナは了承した。
負けず嫌いな彼女は、覚悟を決めたのだ。
「次は、次こそは。絶対に負けないから!」
バッジを八個集め切り。
ポケモンリーグに参加して。
その大舞台で、「未来のポケモンマスター」を打ち破ると!
****
そして、その翌日。
クレナは、ポケモンジムの観戦コーナーにて、レモーのランク7昇格戦を見守っていた。
「ピフィイイイ」
クレナのランク4昇格戦で出てきたのはレアコイルであったが、
この一戦でジムリーダーが繰り出した切り札は、その進化系のジバコイルであった。
「ピフィイイイッ!」
「ジャッ!」
ジバコイルは電磁砲を連射する。
レモーのキリキザンは砲撃を避け続けたが、やがて直撃を喰らい、吹き飛ばされた彼は一撃で戦闘不能となった。
「あっ……」
あれだけクレナ達を苦しめたキリキザンがあっという間に倒されてしまい、クレナは高ランクのジム戦の厳しさに息を飲んだ。
「行くわよ、タイタン」
だが、レモーに焦りは無い。
不敵に笑う彼女が繰り出したのは、巨大な鋼の怪獣、ボスゴドラであった。
「……メガ進化ッ!」
ボスゴドラの巨体に圧倒される中、クレナは眼を見開いた。
これは何かの幻か?
「グォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
レモーの指輪が発光すると同時に、最終進化形態であるはずのボスゴドラが、更に進化したのである!
「タイタンッ、地震!」
「グオオオオッ」
メガボスゴドラはバトルコートを、巨大な足で踏み下ろす。
「ピフィ、ピフイイイイインッ」
跳ね上げられたバトルコートの残骸が次々とジバコイルへと直撃する。
「…………」
クレナは、呆然とレモーとメガボスゴドラの戦いを見つめる。
―これが、レモーのポケモンバトル。
―これが、彼女の貫き通す、鋼の強さ。
―そして、これが……
「未来のポケモンマスター……」
覚悟を決めたは良いが、果たしてどうしたものか。
高くなりすぎたハードルに、クレナは、頭を抱える思いだった。
「……大変な人の、ライバルになっちゃったなぁ……」