クイタランとわたし




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クイタランとわたし
14話:紅二点

 クレナが化石から渦巻きポケモン「オムナイト」を蘇らせて早数日。
 
「キィキィ!」
「うーん。おむ奈は今日も元気だね」

 食事を終えたオムナイトを眺めるクレナ。
 「おむ奈(な)」と安直な名前を与えられたオムナイトのメスは、明るくフレンドリーな気性の持ち主であり、見た目も性格も違うポケモンたちに、オムナイトは積極的にコミュニケ―ションを図っていた。
 
「キィ!」
「ぶも」
「キキィ!」
「ピィィ」

 乾燥ウデッポウもペロリ!と平らげる彼女は、クイタランに負けず劣らずの大食いガールでもある。死から蘇ったばかりとは思えないオムナイトのエネルギッシュさにクレナ達は当初面食らったが、今では彼女の元気な挨拶はお馴染みの光景となっていた。

「……キィ」
「あっ。いけない」

 テッカニンに元気に挨拶をしていたオムナイトだったが、彼女は急にペタンと地面にへたばり、クレナは慌ててリュックからミネラルウォーターを取り出した。
 水棲ポケモンは乾燥に弱く、熱中症にもなりやすい。
 特にここ数日は快晴が続き、それ故に定期的に水をかけてあげる必要があるのだ。

「元気なのは良いけどさ。茹で上がらないようにね」
「キキィ」

 水を掛けたクレナが人差し指でオムナイトをつつくと、彼女はその指に触手を絡ませる。
 オムナイトの身体はひんやりとしていて気持ちが良い。だが、触った後には手を拭く必要がある。彼女の全身は粘液だらけなのだ。

「ジーッ!」
「キィ?」

 そんな中、鋭い鳴き声が響き渡り、オムナイトがゆっくりと振り返る。
 そこには怒った様子のテッカニンの姿があった。

「ジー! ジー!」
「キキィ?」
「ジジィー!」
「あぁもう、ジーン。何をそんなに怒っているの?」
  
 クレナはテッカニンに尋ねるが、テッカニンはオムナイトの周囲を旋回しながらジージーと怒るばかりである。
 クレナはポケモンでありながら人と意思疎通ができるオーベムを見やるが、オーベムはお手上げとばかりに首を振った。

『む、虫の言葉はよくわかりません……』

 だがその一方で、オムナイトは嬉しそうにテッカニンに向けて触手をくねらせる。
 それが更にテッカニンの怒りを買ったようで、テッカニンはより鋭く鳴いた。

「おむ奈が来てから、ずっとこんな調子。ジーンはおむ奈のことが嫌いなのかな。女の子同士なんだけどなぁ」

 クレナはテッカニンの様子を見つめ、首を傾げた。一体何が原因で、テッカニンはオムナイトに怒っているのか……?
 

 その疑問の答えは、オムナイトと共にポケモンバトルの回数を重ねるうちに、明らかになっていった。


「おむ奈、水鉄砲!」
「力男、地球投げだっ!」


 クレナからの指示を受けたオムナイトは相手のワンリキーに狙いを定めるが、その動作は緩慢であり、水の弾丸を放つ前にワンリキーに接近をされてしまった。
 オムナイトはその大きな殻の重量故に、素早く動くことのできないポケモンなのだ。

「おむ奈、早く!」
「決めてやれぇ!」

 オムナイトが水の弾丸を放ったその時、既に視界は空に向かっており、彼女は全身に不発した技の飛沫を浴びながら地面へと叩きつけられた。

「あっ」
「よっしゃ、一体目! 次はそのクイタランか?」

 オムナイトは全ての触手を地面に伸ばし、へたり込む。
 戦闘不能は明らかであり、クレナはオムナイトをボールに回収しようとするが、それよりも早く、ボールからテッカニンが勝手にバトルフィールドへと飛び出した。

「ジィー!」
「ジーン、ちょっと勝手に……!」
「よし、二体目はテッカニンだな。いくぞ、力男!」

 有無を言わさず第二ラウンドが始まり、クレナはやむを得ず叫んだ。


「ジーン、燕返し!」


 ワンリキーの懐に、虫騎士の一閃が叩き込まれる。
 相手のトレーナーが唖然とする中、速攻でワンリキーを倒したテッカニンは、オムナイトの頭上で高らかに鳴いた。

「…………」

 クレナはこれまでに同じ光景を何度か見ていた。
 動きの遅さが災いして黒星を付けられることの多いオムナイトであったが、オムナイトが倒されると、決まって彼女の分まで白星を取り返すかのようにテッカニンが飛び出し、バトルに挑むのだ。


 ―もしかして素早いジーンは、おむ奈の遅さに苛立っているのかな。
 ―いや、むしろ、苛立っているというよりは……放っておけないのかも。
 

 クレナは、テッカニンを見上げるオムナイトを覗き込む。


「キィ」


 弱った身体ではあるが、その目はただ一点、誇り高く鳴くテッカニンを見つめていた。


 ―それでもって、おむ奈は。
 ―ひょっとしたら、ジーンに……


「ぶも」


 相棒のクイタランに促され、クレナが顔を上げると、既に対戦相手は二体目のポケモンを繰り出していた。
 クレナはオムナイトをボールに収納し、テッカニンを見上げる。

「よし。おむ奈の分まで、格好良いところ見せなきゃね。ジーン!」
「ジーッ!」

  
 テッカニンは騎士として、一匹のお姉さんとして。
 爪を掲げて、先輩風を吹かせながら、対戦相手のポケモンへと突っ込んでいった。

葉穂々 ( 2016/12/29(木) 17:36 )