11話:ポケモンスカイレース
汗と潮の香りが充満する室内で、虫の騎士が黄金の鎧を煌めかせ、急降下する。
「迎え撃てっ!」
「ポォウ!」
ジムリーダーの格闘ポケモンが、天井から急降下する虫ポケモンを撃墜するべく掌を突き出すが、彼女を止めることはできなかった。
格闘ポケモンの掌は宙を切り、その懐に剣術のような「燕返し」の一撃が叩き込まれたのである。
「ジィイイイイイイイイイイイーッ!」
バトルフィールドに倒れた格闘ポケモンの頭上で、虫ポケモンテッカニンは、その勝利を誇示するかのように鳴いた。
「……じ、ジーン」
かくして、順調に二個目のバッジを手にしたクレナであったが、悩ましい問題があった。
「鳴くのは止めてっ!」
未だに、テッカニンを制御しかねているのである。
―
「ジジーッ! ジジジジジィーッ!」
「じ、ジーン。嬉しいのは私も一緒だけど、も、もう少しボリュームを……」
ジム戦勝利記念に祝勝会を屋外で行うクレナであったが、本日のMVPであるテッカニンは相変わらず煩く、とても食事どころではない。クイタランとオーベムも耳を抑えている。
「も、もう無理!」
音量に頭痛を催してきたクレナは、耐えかねてテッカニンをボールへと収納した。
テッカニンという種族の鳴き声の音量は凄まじく、「騒音公害」として度々ニュースとなって報道されるほどである。
「困ったな。このままじゃあ、気軽に外に出せないよ」
「素人さんだねー」
「わっ」
クレナが掛けられた声に振り向くと、そこには大人の女性が苦い顔をして立っていた。
「酷い騒音だったから、何事かと思って来てみたら」
「ご、ごめんなさい!」
「気をつけなよ。次は警察がやってくるかもしれない」
「ピピィー」
「…………」
萎縮するクレナを庇うようにオーベムは前に出て、クイタランはジト目を女性に注ぐ。
そんな彼らを見て、女性は吹き出した。
「あはは。この子達は、君にしっかり懐いているみたいだね」
「……私、テッカニンとどう接すれば良いのかわからなくて……」
「結構多いんだよね、君みたいな子。虫ポケモンは初心者向けってよく言うけど、テッカニンはトレーナーの腕をそのまま反映すると言っていいポケモンだ。上級者向けだよ」
「上級者向け……」
「でも、クイタランとオーベムは、テッカニン以上に上級者向けのポケモンだ」
「え?」
女性は驚くクレナに、笑顔で答えた。
「知らなかったの? まぁ、そんな彼らをしっかり手懐けられているんだから、君もテッカニンを制御できるようになるはずさ」
「あ、あの。貴方は……プロトレーナーの方、なのですか?」
「まぁね」
女性はトレーナーカードを取り出し、クレナに見せた。
赤色。
その色は、プロとしての実力を有していることの証明であった。
「と言っても、私はバトルじゃなくて、ポケモンレースのプロとして食べているんだけどね」
「ポケモンレース?」
「そう。見たこと無い? 文字通り、ポケモンでレースするのさ!」
女性はクレナにチラシを渡し、説明をした。
丁度この島で、飛行ポケモンによる島一周海上レースが行われる。
トレーナーは海上で追走するホバーマシンに乗って指示を与え、ポケモンは宙を舞い、技を繰り出し、ゴールと一位を目指すのである、と。
「色々あるんだよ、競技の種類は。今回は飛行ポケモン限定だけど、地上のポケモン限定のレースや、毒タイプ限定レース、ヌメラ限定レ―スなんてのもあったりするね」
「へぇ……」
「もし良かったら、そのテッカニンで出てみたら? その子にとって、良いストレス発散になるかもよ。参加費はちょっとかかるけど、勝てば賞金が出るし」
「えぇっ。でも私、素人ですよ?」
「ビギナーOKの大会だから大丈夫。島の人も結構出るみたいだよ。希望すればホバーマシンの操作は係員がやってくれるから、柵にしがみつけば良い」
「…………」
クレナはチラシを見直した。
開催日は明日。
記載されている賞金を手にすることができれば、旅の費用には当分困ることはないだろう……
「もっとも。その賞金は、このプロレーサー・アオコに勝たなければ貰えないけどね」
女性……アオコはにやりと笑い、チラシを見つめるクレナの肩を叩いた。
―
そして、翌日。
クレナは海上で、ハンドルを握る係員の背中を見ていた。
「緊張してます?」
「はい」
「飛ばしますから、柵をしっかり握っていてくださいね」
「お、お願いします……」
結局、クレナはレースに飛び込みでエントリーしてしまった。
賞金に目が眩んだのは間違いない。だが何よりも、彼女はアオコの熱気に当てられ、ポケモンレースに興味が出てしまったのである。
『ワタシ、クレナ様が海に落ちないか心配です』
「だ、大丈夫だよ。操縦するのは係員さんだし、私はしっかり柵に捕まっているし」
レース開始まで少々時間があり、クレナはオーベムに海を見せてあげたのだが、クイタランは出てこようとしなかった。どうやら、炎タイプなだけに海が苦手な様子であった。
オーベムは興味津々でホバー上から海をくるくる見渡すが、やがてレース開始一分前が宣告され、クレナはオーベムをボールに戻し、テッカニンのボールを専用の台座にセットした。
このホバーと一体化した台座はボールを自動で開閉する装置であり、レース開始と同時にボールが開く。仮にエントリーポケモンがレース中に力尽きた場合には、自動で回収光線が放たれるという仕組みである。
「クレナちゃん!」
レース開始を待つクレナに、声が掛けられる。
自分でホバーのハンドルを握る、アオコであった。
「アオコさんだ」
数十メートル離れているが、アオコは手を振り、クレナに叫んだ。
「今日は共に頑張ろうね! でも、賞金は私のものよ。プロと素人の差を見せてあげる!」
「あ、あはははは」
これがプロの自信か。
クレナは苦笑いしながら、アオイに頭を下げた。
//やってきました、ムロタウン・ポケモンスカイレース! 司会と実況はこの私トークと、相棒のペラップでお送りいたします//
//シマス//
//皆様、ポケモンリーグよりも熱い一戦を! 海上を華麗に舞うポケモンと、レーサー達の戦いを! どうぞ御覧くださいっ! それでは、選手の皆様方、スタンバイ!//
専用のホバーに乗った実況とマイクを握り、ペラップが口を開く。
//スリー・ツー・ワン……ゴォォオオオオオ!//
ペラップの「おしゃべり」と同時に、各選手のホバーから一斉にポケモンが呼び出され、ホバーマシンが飛沫を上げて海面を浮き、全力前進する。
「マンタ! 水の波動!」
「ヤンヤン! 高速移動っ!」
「かぜおこしだ、アルバトロ!」
レース開始と同時に、ポケモン達は相手ポケモンを妨害するために、あるいは能力を高めるために、あるいはこの状況を突破するために技を繰り出した。
「スパー、電光石火で撃ち落とせ!」
「無道、フェイントだっ!」
技の撃ち合いとなり、次々とポケモンが海へと撃ち落とされていく。
//おぉーっと、混戦だぁー! 序盤から、次々とポケモンが脱落していくぅー!//
「ジーンッ!」
クレナはテッカニンの姿を探す。混戦に飲み込まれ、彼女の身体を見失ってしまったのだ。
だが、まだ台座のボール回収機能は動いていないため、撃ち落とされてはいないようであった。
「……嫌な音っ!」
クレナは叫び、その叫びを飲み込むかのような鳴き声が放たれる。
その瞬間、テッカニンの近くのポケモンは硬直し、彼女を見つけたクレナは即座に指示をした。
「逃げ切るよ、高速移動っ!」
「ジィーッ!」
テッカニンは排泄物と共に身体の力を抜き、グーンと素早さを上げた。
混戦から離脱するテッカニンであったが、
「あの虫野郎、俺のぴよっちに引っ掛けやがった!」
「ジョオーッ!」
高速移動が災いし、彼女に狙いを定めたコンビがいた。
「安い挑発しやがって。受けて立て、ぴよっち! 高速移動だ!」
テッカニンからの排泄物を頭部にかけられたピジョットは、高速移動をする彼女を仕留めるべく、自らもまた高速移動をした。
「ジーン、後ろ気をつけて!」
「ぴよっち、エアスラッシュ!」
テッカニンの背後のピジョットは、空をも切り裂く空気の刃を連続射出する。
「捕まっててくださいよ!」
「うわあっ!」
係員がハンドルを大きく切り、ホバーマシンが激しく揺れる。
柵に捕まるクレナは、海面をかすめていくエアスラッシュによる水飛沫を顔面に浴びた。
「気をつけてくださいね。トレーナーが海に落下したら、その時点でリタイア扱いですから!」
「ぶへぇ……」
クレナは海水を濡れた袖で拭い、状況を確認する。
エアスラッシュはテッカニンには当たっていないが、水飛沫を浴びてしまったらしく、体力を削られている。
「これじゃ逃げ切りは無理だ」
「ジィッ!」
テッカニンは鋭く鳴いた。
オーベムのジェントルでさえわからない、虫の言葉。
だがクレナは、テッカニンがクレナに怒っているかのように思えた。
「いつまで私を待たせるの!」と。
「……ジーン、燕返しっ!」
クレナの指示を受け、テッカニンは進路を曲げ、ピジョットと向き合う。
「真正面からやり合おうってか? 翼でぶっ飛ばしてやれ、ぴよっち!」
トレーナーの指示を受け、ピジョットは直接その翼でテッカニンを海へ叩きつけようとするが、彼らは忘れていた。
テッカニンは「忍びポケモン」と呼ばれるほど素早く、芸達者なポケモンなのであると!
「ジョオオッ!?」
まるで分身。
テッカニンの細かな動きに惑わされたピジョットの翼は空振りし、直後に強い衝撃を受けた。
「ジィーッ!」
テッカニンがスピードを力に変えて、ピジョットの背中に燕返しの一撃を叩き込んだのである。
海へと叩き落とされたピジョットは自動で持ち主のボールへと回収され、テッカニンとクレナは彼らを尻目に、レースへと戻っていく。
//おおっとぉーっ! テッカニン、相性差を覆し、ピジョットを返り討ちだ―!//
//ダー//
実況が湧き、クレナの視界にカメラマンを乗せたホバーが映る。
どうやら、先程の一戦を中継されていたらしい。
「お見事。あの動き、流石は忍びポケモン!」
「いやー、あの子はどちらかと言えば騎士ですよ」
ホバー操作の傍らで係員が感嘆するが、クレナは訂正をした。
テッカニンは確かに素早く、忍者と呼ぶに相応しい存在なのかもしれないが……クレナのテッカニンは誇り高い騎士であり、刃のような爪の一撃こそが、彼女の最大の武器なのである、と。
「ブブッ……ブ」
そんな彼女たちの上空を、大きな影が飛んで行く。
「フライゴンだ」
「ジジッ」
あのサイズならば、直接トレーナーが跨ることも可能だろう。
先行する優雅なフライゴンに、思わずそんなことを考えてしまうクレナだったが、彼女は直後に鮮烈な光景を目撃することとなる。
「サジタル、ブレイブバードッ!」
フライゴンに強烈な速度で鳥ポケモンが突っ込み、その巨体を一撃で撃墜してしまったのだ!
「危なっ!」
「きゃああああっ!」
落下するフライゴンを避けるために、係員がホバーのハンドルを切る。
フライゴンは水飛沫と共に落下し、全身に海水を浴びたクレナは、しょぼしょぼする視界の中で、クレナに向かって手を振る女性の姿を捉えた。
//流石はプロレーサー・アオコ! カロスのポケモン、ファイアローのブレイブバードが、ドラゴンタイプのフライゴンを一撃で沈めたぁ!//
//シズメタァ//
「あ、アオコさんだ……」
「挑発されていますねぇ」
どうやら、アオコとファイアローは、わざとクレナ達の上にフライゴンを落としたらしい。
レースはまだ中盤。
だが、全身に水を浴びたクレナとテッカニンの闘争心に火が点いた。
―あんな挑発をされて、引ける筈がない!
「係員さん、ホバーのスピードを上げて下さい!」
「え!? まさか彼女に勝負を仕掛ける気ですか?」
「逃げ切りは無理、となると、こちらから攻めるしかありません!」
「風邪引かないようにしてくださいねぇ!」
テッカニンは加速し続け、係員もやけくそ気味にホバーのスピードを上げる。
「あら、クレナちゃん。私のサジタルと勝負する気?」
「ジーン、燕返しっ!」
アオコのファイアローに追いついたテッカニンは、その背中に爪を突き立てようとしたが、その身体はあっさりと翼で払われてしまった。
「あっ」
「そんな攻撃力じゃあ、倒せないわよ。サジタル、ニトロチャージッ!」
「キャオォ!」
ファイアローは炎を吐き出し、その炎を纏ってテッカニンへと突撃した。
「炎技!?」
「当然、虫のテッカニンには効果は抜群よ!」
テッカニンは直撃は避けたものの、火の粉が降りかかり、彼女は身を焦がす熱さに悶えた。
「ジィィィィッ!」
「ジーン!」
//おおっと、テッカニンVSファイアロー! これはテッカニンに分が悪いとしか言いようがない!//
//ガナイ//
「まだまだ、この技の真価はこんなものじゃないの! サジタル、続けてニトロチャージ!」
ファイアローは攻撃の手を休まず、ニトロチャージを連続でテッカニンへと放つ。
そのスピードは技が放たれる度に増しており、やがてテッカニンのスピードをもってしても、避けことが困難になっていった。
―アオコさん、あのフライゴンを倒した技を指示しないってことは、本気じゃないんだ。
―でも、このままじゃあ、絶対に勝てない。攻撃を通さない限りは!
「ジーン、嫌な音!」
ファイアローの防御を崩すべく、テッカニンに十八番の騒音を指示したクレナであったが、テッカニンは技を出さない。
「……ジーン?」
テッカニンの身体には、もはや技を出す元気も残っていないのか。
クレナは、台座にセットされたモンスターボールを見る。リタイアは、トレーナーの判断で行うことも可能なのだ。
―このまま無理をさせたら。
―ジーンの短い寿命が、更に短くなってしまうかもしれない……
クレナがテッカニンのモンスターボールに手を伸ばしたそのとき、係員はクレナに呟いた。
「貴方のテッカニン。本当に、「騎士」なんですね」
「え?」
「見てくださいよ。あの姿を」
クレナは視線をモンスターボールから放す。
そこには、焦げた身体を物ともせず、自らを鼓舞するかのように舞い飛ぶテッカニンがいた。
//テッカニン! 剣の舞で攻撃力を上げていくぅ!//
//イクー//
「剣の、舞?」
そんな技は、これまで覚えていなかった。
だが事実として、テッカニンは今、剣の舞を使っている。
「こ、こうなったら……ジーン!」
「ジィー!」
「あの焼鳥に、騎士の一撃を見せてやれ!」
「ジジジィーッ!」
「燕返しっ!」
テッカニンは爪を広げ、ファイアローへと特攻する。
そんなテッカニンを見て、アオコは微笑んだ。
「敵を惑わすよりも、自身を高めることを選ぶのね、貴方のテッカニンは。嫌いじゃないわ!」
アオコは、相棒のファイアローに強く命令した。
「受けて立ちなさいサジタル! ブレイブバードッ!」
「キャオォォオオオオオオオッ!」
テッカニンの爪の剣と、弾丸と化したファイアローがぶつかり合う。
//燕返しと、ブレイブバードの真っ向勝負! ……だが、これはぁ!//
テッカニンと接触したファイアローは、海を切り裂きながらクレナの眼前を通過する。
風と波に煽られホバーマシンが傾く中、クレナは力なく落下するテッカニンの姿を見た。
「ジーン!」
到底届かないのだが、クレナは身を乗り出し、テッカニンを受け止めようと両手を差し出した。
が、その瞬間、彼女の身体は海へと傾いていく。身を乗り出しすぎたのだ。
「危ない!」
「わああああ!?」
だが、彼女が海に浸かることはなかった。
「ぶも」
勝手にボールから飛び出したクイタランが、落下寸前のクレナの身体を、両手で抱え込んだのである。
「あ、ありがとう、くい太〜」
係員の手も借り、ホバーマシンへと戻ったクレナは、ジーンが自動収納されたモンスターボールを見た。
「……敵わなかったなぁ」
「残念でしたね。ですが、良い線行っていましたよ」
「で、ですかね?」
//ファイアロー、テッカニンを撃墜! 高速移動し、遅れを取り戻していくぅー!//
//クゥー//
「あぁ。もうアオコさん達見えないや」
「……ぶもぅ」
空を眺めるクレナ達をよそに、水飛沫でしっとりと濡れたクイタランは、ぶるりと身体を振るわせ水を払った。
―
結果として、レースを制して賞金を手にしたのはアオコであった。
ファイアローの快進撃を、どの参加ポケモンも食い止めることができなかったのである。
「うん。母さん。今日はムロでポケモンレースに参加したの……うん……ジーンが……そうそう、テッカニンがとっても格好良くてね……」
「運転? あぁ、それは係員のお兄さんがやってくれて……」
「それでね……アオコさんってプロの方が、物凄く強くって」
「見てね。テレビ。私も映ってるかもしれないし……」
テッカニンをポケモンセンターに預けたクレナは、母親にポケナビの電話機能で報告を行っていた。
レースには負けてしまったが、興奮冷めやらず。あのスピード感と興奮は、クレナにとってあまりにも新鮮なものであった。
「よっ、クレナちゃん」
「アオコさん」
電話を終えたそのとき、待っていたらしいアオコがクレナの肩を叩いた。
「格好良かったよ、テッカニン」
「あ、ありがとうございます」
「そして、ちゃんと見てくれた? プロの実力を!」
「見ました! 流石です。本当に、凄い」
「あーはっは。もっと褒めて褒めて!」
アオコはニコニコ笑いながら、クレナに尋ねた。
「クレナちゃん、将来何になりたいかとかある?」
「えぇっ」
「ポケモントレーナーは大抵、大抵ジムリーダーだとか、四天王だとか、ポケモンバトル専門プロになりたいって言うけどさ。トレーナーの進路は何もバトル方面だけじゃない。色々あるんだよ。勿論、ポケモンを使わない職業もアリさ」
「……私は」
―なりたい大人。
―なりたい職業。
―それは、何だろう……?
クレナは答えに詰まる。
そんな彼女に、アオコは恥ずかしげに告白した。
「私さ、昔はジムリーダー目指していたんだけど、トレーナー修行中に挫折しちゃってね」
「え?」
「散々迷走して、泣きわめいて、無駄足踏んだ結果……こうして、プロレーサーになったのである」
「…………」
「まぁ、私が言いたいこととしては、道は決して一つじゃないってコト。トレーナー修行中に、色々見て回るのも良いんじゃない? ……んでもって、それでも進路に悩んだときは、レーサーになりなよ!」
「れ。レーサーですか」
「君、センスある気がするよ」
「あははは。私がレーサーに」
クレナはプロレーサーとして活躍する自分をイメージし、苦笑した。
「考えておきます」
賞金を逃したクレナであったが、参加費以上の収穫はあった。
その日の夜、賞金を手にしたアオコの厚意により、クレナはちょっとしたご馳走にありつくことが出来たのである。