好きな人
次の日。学舎の授業も半分が終わり僕はお昼の木の実やらパンやらをかじっていた。
昨日のクレープの件が頭から離れない。いや、ホントはクレープじゃなくてミルクとの時間が忘れられなかったって言うのが正解なんだけど。
「…い。…コア。」
なんか声が聞こえる。でも僕の頭の中は昨日ことが脳内で再生されて続けてる。
「なあ、ココアってば!」
「えっ!あっ、うっ…ごめん。なに?」
僕の方を強く掴む人がいた。シュガーだった。声だけでなく実体に掴まれることでやっと僕の意識は戻った。
「ボーッとしてるなよ。何度も呼んでるのにさ。」
睨みながらパンをかじるシュガー。
ごめんごめん…悪気はないんだよ…。
「う…。ごめん。無視してたわけじゃなくて。」
僕はシュガーに謝る。するとシュガーは僕の方をジーッと見始めた。
ミルクに見られるのは恥ずかしいような嬉しいような…。でも同性からはちょっと…な。
「……。おまえ、好きな人でもできたのか?」
「なっ!?えっあっうっ…なにいってんのさ!そんなこと!」
ジーッと見たと思うとシュガーはまたパンをかじり始める。
あまりに突然な質問に僕は動揺する。
でも、なぜだろう。
『好きな人』
その単語が僕の中で一番しっくりきてしまっているのも事実だった。
「……。そうか。違うんなら別にいいけど。」
なにかシュガーにはお見通しにされてる感がある。シュガーってこういう系には強いからな…。
「……。ねえシュガー?シュガーは好きな人できるとどんな感じなの?」
僕は好奇心からシュガーに問う。どんな返事がくるのかな…。
「んー?そうだなぁ。まあその人ことが頭から離れなかったり、姿が見えたらそれだけでテンション上がったり、一緒に話したり遊んだりすると嬉しくなったり、ずっと一緒にいたいって思う感じかな?」
「そ、そうなんだ…。はは…。」
シュガーはサラサラと好きな人が出来たときの感情を応えてくれた。
どうしよう…。全く同じような感じだ…。じゃあ僕もしかして…。
「遂にココア君も恋愛しちゃったのかな?」
ニヤニヤしながら僕をおちょくり始めるシュガー。こういう時のシュガーはいじわるだ。
「違うし!ただ気になったから聞いただけで…。」
僕はとりあえず否定してまたパンをかじる。でも正直恥ずかしいな…。顔を見られないようにしなきゃ…。
「そうか。じゃあいいや。」
えっ!?もうこの会話終わるの?そこはシュガーのほうから色々聞いて欲しいんだけど…。
「……。シュガーはさ、恋愛したらどうしてるの?」
「……。もぐもぐ。ココア、おまえ今日はやたらグイグイ聞いてくるな。気になる?」
あー。もう。せっかく僕のほうから聞いたのに。
僕は木の実をシャクシャクとかじりながら小さく頷く。多分今すごく恥ずかしいかんじだから顔を見られたくない…。
「その前にさ、ココアが気になるって相手だれよ?」
「……。教えない。」
僕は即答した。本当に恥ずかしくて言えない。
「いやいや、そこは教えてくれよー。シロップとか?」
シロップ…。確かに可愛いけどあんまり話したことないし…。年下感が強すぎてなんていうか…。
僕は小さく首を振る。
「〜〜?〜〜?〜〜?〜〜だ!?」
シュガーは片っ端から僕と交流がある女の子の名前をあげまくる。ごめんねシュガー……。やっぱり教えられないんだよ。
僕は少し安心する。ここまで外してくれると…。
「お、ココア。ミルクがおまえに手振ってるぞ?」
「えっ!?」
僕はシュガーが見ている目線の先を見る。…誰もいない。あっ!はめられた…?
僕はソーッとシュガーのほうを見る。
「やっぱりココアってわかりやすいよなぁ。」
ニヤニヤしながら僕のほうを見るシュガー。
はあ…ばれたか。なんかもうやだ帰りたいな…。
僕はまた木の実をシャクシャクとかじる。絶対シュガーに見られたくない。
「正直そうだと思ってたよ?まあでもいいんじゃね?好きになるのって急なもんだし。おまえたち仲良いし。」
仲良い。その言葉にちょっと気分が良くなる。僕って単純だなぁ…。
「まあ…あれだ。あたりまえのことだけど、好きならやっぱり好きって伝えるべきだし、そのために準備しないと。」
「準備って?それにいきなり伝えるとか…さ?」
「そうだな、まずは一緒にいる時間を増やしてたくさん会うことかな?話したり、遊びいったり?」
なるほど…。当たり前な気もすると思うけど…。嬉しいことにその辺りはなんとかできそう…。
「ほかには?」
「そうだなぁ、他には〜。」
シュガーはモテるかどうかと言うと正直微妙なところ。だってうまくいく以上にフラれたって話よく聞くし…。
でも今の僕にとって頼れるのはシュガーだけだし…。色々教えてもらわなくちゃ…。
僕はそのままシュガーに色々なことを教えてもらった。