第1章 星が降ってきた日
06 第五流星 追憶の夢



ん………?


…ここはどこなの……?



なにか見える?

あれは……私?

もしかして、私の昔の記憶…?


『…シノハっ、大丈夫か?!』

『……んっ、あっちへ行ってよ』

『だけど…あ、おい!待てよ!!』

『いいの!放っておいてよ!…ラ…なんて嫌いだもん!』

私ともう1人…声しか聞こえてこない、あれは一体誰?


あれ、薄くなってる?
待って、待ってよ、
お願いだから、もう少し見せて…っ






鮮やかな茜色の朝日が、サメハダーの様な岩の内部に差し込む。その光が、まだ寝ていた1匹のポケモンの顔を照らした。

「んんっ…?」

そのポケモンはやがて目を覚まし、ぼんやりと辺りを見回した。
部屋の様子やそばで寝ているイーブイやエネコ、チコリータを見て、彼女……シノハは漸く自分の置かれている状況を思い出した。

「そっか、私、昨日…」

余り表には出さなかったが、シノハはかなり動揺していた。目が覚めたら記憶をほぼ失っていて、知らない場所にいたら誰だってそうなるだろう。だがシノハには、それ以上の動揺材料があった。

(さっき、何かの夢を見ていた様な……。そうだ、私と誰かが、会話している夢だったな。きっとあれが、記憶を失う前の私なんだよね。で、相手はなんて言う名前だったのかな)

もう一度夢の中の感覚を呼びさまそうと、シノハは目を閉じた。

(多分男の子で、名前の中に、“ラ”が入る。…優しい声だったなぁ。なんで私、拒絶してたんだろう。馬鹿みたいじゃない)

自嘲気味に少し笑い、また感覚を辿っていく。

(ラ……ラ?なんだろう。こう、忘れたらダメな気がするんだよね。どうしても、思い出したい)

シノハは目をぎゅっとつぶり、更に夢の中の感覚を思い出そうとする。

(………………。ダメだ、目が覚めてきちゃって分かんなくなってきたよ…)


「シノハちゃん?」

頭を抱えたところで別の声が聞こえてきて、シノハは驚いて振り返った。

「は、ハナさん…おはようございます」

「おはよう。どうしたのよ、朝から随分げんなりした顔だけど…。具合でも悪いの?」

シノハに声をかけたハナは、心配そうにシノハの額に尻尾で触れた。
シノハはなんでもない、と言うように首を振って笑顔をつくった。

「いいえ…ちょっと、変な夢を、見ましてですね…」

「夢?…もしかしてだけど、それって失う前の記憶なんじゃない?」

「私もそう思ってて。でもなんだか曖昧で全部は見えなかったから、すごくモヤモヤしているんです。自分の姿しかみえないのに、自分の他にもう1つ、懐かしい声が聞こえて」

「一部分だけでも昔の自分が見られるなんて、幸運だと思うわよ?フフフ。……あ、そうだ」

ハナは意味有り気に笑うと、何かを思いついたように部屋の隅へ行ってゴソゴソと始めた。
シノハは先程のハナの発言に首を傾げ、うーん、と考え込んだが、結局気にしないことにしてハナを見守った。


ハナはしばらく経って、何かを持って戻ってきた。

「ハイ、これをあげるわ」

「これは…?」

「ノートと鉛筆よ。これにあなたの夢を書いておいたらどう?何かの役に立つんじゃないかしら」

「あ、ありがとう…ございます」

「さ、まだ覚えているうちに書いちゃいなさいよ」

ハナはニコリと笑った。
シノハは早速、夢で見たことを覚えている限り書いていくことにした。

〜〜〜

不思議な夢を見た。
ハナさんはそれが昔の私の記憶だと言うし、私もそうだと思っている。これから、ハナさんがくれたノートに夢について書いておこうと思う。

そこにいたのは、私ともう1匹で、その子はたぶん男の子。
私はその子に心配されている。それなのに私はその子を拒否してその場を去った。

これが夢の概要。
私は1度その子の名前を呼んでいるけれど、名前の部分だけノイズが入ってしまっていて『ラ』という一文字しか聞き取れなかった…
それが名前なのか、愛称なのかはわからないけれど、なんだか忘れたらいけない名前な気がする。

今後の夢に期待しよう。

〜〜〜

「これでよし、と」

書き終えたシノハは、満足気に文章をなぞった。



「身寄りがない?!それは大変だね…」

シノハとミイナは、朝食時に身寄りがないことをハナたちに相談した。彼女らならば、なんとかしてくれるのではと思った末の行動だ。

「そうね。でも…ここはちょっと4匹住むには狭いし、かといって追い出すのも可哀想だし…どうしましょうか」

「うーん…うーーん……」

「あっあの、やっぱり自分たちで…

「あー!」

しかし2匹はあまり良い案が浮かばないようでうーんうーんと唸るばかり。
見兼ねたミイナが自分たちで探すと言おうとしたとき、リンネが何かに気付いたように大きな声をあげた。

「リンネ煩いわよ。…何か思いついたの?」

「プクリンのギルドに行ってみない?あそこならなんとかしてくれるんじゃないかな?」

「プクリンのギルド?って確かあの有名な、世界を救った探検隊を輩出した…。もしかしてお二人、探検隊なんですか?」

ミイナが首をかしげて聞くと、ハナは首肯し、リンネはニコリと笑った。

「そうよ。……チーム名は、“Frost”って言うの」

その名を聞いたミイナの瞳が、はっと見開かれる。

「なんか見たことあるような組み合わせだと思ったけど…やっぱりあの探検隊のFrostさんだったんだ…!ファンです!大ファンです!!」

ミイナは顔を輝かせてハナとリンネを交互に見ている。
シノハには、Frostの何がすごいのか、そもそも探検隊とは何なのか全くわからない。そのためしばらくは、状況が飲み込めずに、3匹の顔を順繰りに見ることしかできなかった。



(結局、なんにも聞けなかったな)
私はそんなことを考えて、小さく溜息をついた。
(私ってば、前からこんな引っ込み思案な性格だったのかなー…はは)
自分の今の性格が本当に嫌になってくる。
といっても性格はそうそう変わるものではないだろうし、記憶を失って此処に来る前もこんな性格だったのだろう。

さて、どうにも話がわからなくてまごまごしているうちに、いつのまにか一夜を過ごした家を出て歩いていた私たちは、【プクリンのギルド】という(らしい)所にやって来た。
長い長い長ーい階段を登って、辿り着いた先には…。

なんだろうこのテント。プクリンの顔が大っきくデザインされてて…なんだか趣味が悪いなぁ…なんて考えていたら隣からミイナちゃんの「趣味悪っ」という声が聞こえて来た。
ハナさんたちもそれは聞こえていたんだろうけど、こっそり苦笑いをしているところを見るに2匹も同意見らしい。

「このテントがギルドなんですか?」

「まあ、そうよ。厳密には少し違うけどね。この下…高台の地下にギルドがあるのよ。それじゃ行きましょうか」

探検隊の集まるという場所にしては小さいな、というのはミイナも思ったらしく、彼女はハナさんに怪訝な声で話しかける。
対してハナは悪戯っぽく笑って、そのテントに向かって歩き出した。リンネさんがそれに続く。私とミイナも顔を見合わせて慌てて後を追った。



■筆者メッセージ
間がかなり空いてしまった…。
実は今、クリスマス短編の構想を練ってるんですけど、そこに登場するキャラたちをクリスマスまでに本編に登場させるべく頑張っていこうと思います。
晴香 ( 2016/11/24(木) 02:09 )