05 第四流星 ハナとリンネ
「ただいまリンネ。ちょっと……えっ?」
「あ………は、ハナっ!!」
カフェで会ったコリンクとイーブイの少女を伴って家のドアを開けると、なにかが飛びついてきた。
一瞬驚いたけれど、パートナーの香りがしたので飛びついてきたのは彼女だとすぐにわかった。
「リンネっ?!どうしたのよ?」
「…ごめん、ちょっとね。あれ?だぁれその子たち…」
彼女…リンネはすぐに離れて照れ臭そうに笑った。そして、私の後ろにいる2匹に気付いた。
「き、急にお邪魔してごめんなさい!」
「こんばんは……」
「あら、そんなに緊張しなくても…。まあいいや、この子たちに話したいことがあって。仲良くね、リンネ」
「わかってるよー!」
リンネに状況を説明したのち、私は2匹を家に招き入れた。リンネは夕食を準備する、と台所に引っ込んで行った。
*
「そういえば、名前を言ってなかったわね。私はエネコのハナ、こっちはチコリータのリンネよ。よろしく」
「いえ!それはあたしたちも同じなので…。あたしはイーブイのミイナ、こっちのコは」
「シノハ、と言います…10歳です」
「2人とも10歳なの?私達も同い年で両方15歳なのよ」
リンネの作った料理を前に、4匹は楽しそうに談笑していた。最初は緊張して表情が固かったシノハとミイナだったが、段々慣れて来たのか徐々に笑う回数も増えて来た様子。それを見て一安心なハナとリンネであった。
「わぁ…これ美味しいですね!なんだろう…オレンの実っぽい味…」
「お、ミイナちゃん舌が肥えていらっしゃる!それね、ワタシの自信作なんだよ。」
「そうなんですか!…あの、あたしも作ってみたいので今度作り方を教えてもらえませんか?」
「いいよ、じゃあ明日にでも教えてあげようじゃないかーっ!」
「やったー!ありがとうございます、楽しみです!」
「楽しそうね、2人とも」
料理の話で盛り上がる2匹のそばで、ハナとシノハもポツポツとではあるが楽しそうに話していた。
「…2匹、ではないんですか?」
「そういえばそうね。…ねぇ、シノハさんとミイナさんは、どこから来たの?」
その質問に、シノハが軽くビクッと動きを止めた。ハナはそれには気づかないふりをして、シノハに答えを促した。
シノハは少し迷っている様子だったが、小さな声で話し始めた。
「私、さっきハナさんと会う少しまえに、記憶が消えていくみたいだ、ってミイナに話してたんです。数十分前には覚えてたはずのことを、全然思い出せないって…。ハナさんもしかして聞いてました?」
「アハハ、、実はその話が聞こえたから話しかけてみたのよ。私と同じ様な状況にいるのかもしれないって思って」
シノハが首をかしげた。
「それって、どう言う…」
ハナは微かに微笑んで言った。
「もしかして、目が覚めたら海岸に寝ていたりした?」
心底驚いた、という様に動きを止めてしまったシノハに、さらに追い討ちをかける様にハナは言葉を続ける。
「ミイナちゃんに、自分の常識が通用しないな、とか思ったりした?」
「ひ……っ」
的を射た発言に、シノハはさらに身を縮めた。
いつのまにか料理の話で盛り上がるのをやめてこちらの様子を伺っていたリンネとミイナは、不安そうに2匹を見つめた。
「ハナさん、シノハに何を言いたいんですか?」
ミイナはそっとシノハのそばに立ち、挑む様な目でハナを見た。
ハナはその目線をじっとシノハに向け、何かを探り出そうとしているようだ。
シノハを守るように立つミイナ、心配そうにパートナーとシノハ達を交互に見るリンネ、そしてハナ。その場にいるシノハ以外が彼女の答えをじっと待っている。
「…………た……」
「え?」
シノハの小さな声は、気まずい沈黙を見事に打ち破った。
余りにも小さな声で、耳の良いミイナでさえ聞き取れなかった為、ハナが聞き返す。
シノハは俯いていた顔を恐る恐る上げて、それでもハナの顔をしっかり見て言った。
「っ……思いました…。どうして、みんな知っているはずの言葉を知らないんだろう、とか」
しばしの沈黙。そして、
「…シノハちゃん、貴女は多分別の世界…並行世界とでも言うのかしら、そう言う場所から来たんじゃないかしら」
ハナが放ったその言葉に、シノハとミイナが息を飲んだ。シノハは驚きを隠せない様子でハナを見、ミイナはどこか悟っていたかのようにふい、と目をそらした。
「そんな…そんなことって」
「ありえないことではないわよ。私の知人にも、そう言う経験をした人がいるの」
シノハは、訳がわからない、という風に項垂れた。
ハナはそんなシノハに、ちょうどその時リンネが持って来たクッキーを勧め、慰めるように尻尾で頭を撫でた。
「可哀想に…心細いでしょう。でも必ず、私がどうにかしてあげるわ…!」
「ミイナちゃんもシノハちゃんも、クッキー食べてねー!」
「あの?ハナさんリンネさん、ひとつ聞いてもいいですか?」
みんながクッキーを一通り食べ終わった時、ミイナがそっと切り出した。
「何かしら?」
「なーに?」
「ええと、その….さっきハナさんは、『私と同じような状況にいるのかも』っておっしゃいませんでした?それはどういう意味なんです?」
最初こそ言い淀んでいたミイナだったが、最後の一文はきっぱりと言い放った。
それに対してハナは、リンネと顔を見合わせて、少し困ったような顔をした。
そして遠慮がちに、
「言わなきゃダメかしら…?」
と言った。
その反応にミイナは多少焦った。
(地雷踏んだ?!あれ、これ聞いちゃダメだったヤツ!!?どうしよう…!)
「あ、あの…お気を悪くされたのなら」
「ううん違う…違うのよ」
「え…?」
慌てて謝ろうとしたミイナだったが、それはハナによって遮られた。
不思議に思っていると、リンネがそっとハナに話しかけた。
「まだ、言いたくないの?」
「ええ…あまり良い印象を抱かれないことが多いのよ」
「あたし、何かいけないこと言いました…?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。気にしないで。ちょっとこの件に関してはこのコ、得意じゃないの」
2匹の様子にオロオロするばかりのミイナ。リンネはそんな彼女を安心させるように微笑みかけた。
「でもやっぱり…なんか、ごめんなさい」
「ううん、私の方こそごめんね。リンネも。嫌な思いさせちゃったよね」
「だいじょーぶ、ハナ。ワタシそんなんじゃ大して嫌な思いしないからっ!」
「あたしが悪いんですから、ハナさんは謝らないで下さい」
「そんなそんな…」
「だって…」
「いえいえ……」
「なんだか収集つかなさそうなんだけど…」
いつのまにか寝入っていたシノハを尻目に、リンネは溜息をついた。そしてなにやら台所に引っ込んだかと思うと…
「もううるさいっ!!夜遅くなって来たしシノハちゃん寝ちゃったし寝なさい!!また明日にしなさいー!!」
「わっごめんごめん勘弁してごくっ………むにゃ」
「え?…え!?わぁごくっ………すやぁ」
「うん♪やっぱり睡眠のタネはよく効きますね!ではワタシも寝るとしますか〜」
強硬手段に出たリンネは軽いあくびをしてから3匹をベットに放り投げ(無論シノハとミイナは優しくだが)、自分もベットに飛び込んだ。