02 第一流星 砂浜に降り立ったモノ
夕日…というにはまだ早い、徐々に黄金色に染まってきた光がさす交差点に、1匹のイーブイの少女が現れた。
このイーブイ、名前はミイナという。
「えーと…直進、トレジャータウン……左折、…海!やったわ、海についた!」
暫く標識を見ていた彼女だが、とある表記を発見し顔を輝かせる。
「よーし!いっくわよー!!」
そして、急いで交差点を左に曲がって坂道を下りていった。
*
海、ねぇ…。本で読んだくらいだから、実物見るの楽しみ!
…なんて考えながら森の中の坂を下って行くと、だんだんと視界が開けてきた。
さっきからごうごうって感じの音が聞こえるんだけど、これも海の音なのかな?
あ、なんか見えてきた…?
真っ青で綺麗…これが、海なのね…?!
「おお………って、わぷっ?!」
さらに数歩進んでみると、急に地面が砂になった。
もっと海の近くに行きたくて走り出そうとしていたあたしは、砂に足を取られて頭から地面に突っ込んでしまう。
「うぅ……痛くは無いんだけど…砂まみれになっちゃったよ〜」
うん、痛くは無いの。それはいい。だけど…
種族柄豊かな体毛がザラザラに。
ああもう!洗うの大変なんだからねっ!!
はぁ…気を取り直してっと。
取り敢えずもうちょっと「海」に近付いてみようかな。
「きゃっ?!あ、水??」
綺麗な青い水に惹かれて海のそばにやってきたあたしは、急に飛び出してきた海の一部に触れそうになる。
なんだか危険そうだから警戒してたけれど、ただの水っぽいし平気かな?
丁度喉が渇いててね…って、何?!変な味…やっぱり危険なのかなぁ、海って。
考え込んでいるところに、また海の一部がそばにやってきた。
水浴びは好きなんだけど、今砂まみれだからちょっと濡れるのは勘弁だよぉ……
うーん、残念ね…
でも、これと追いかけっこくらいなら…スリリングでいいんじゃない?
よーし…!
「ふぃーー…疲れたぁ」
暫くの間時間も忘れて波と追いかけっこをしていたあたしは、さすがに疲れを感じて座り込む。ホントは嫌だけど…今日はもう汚れてるからいいや。
バッグからオレンの実を取り出して齧りながら、改めてこの景色を堪能してみる。
「キレイね……」
さっきまで青っぽかった海だけど、今は夕日がうつっているのかオレンジ色に染まっている。
さっきのも良かったけど、こっちの海も好きだな、あたしは。
キラキラ輝く海。草むらにいつの間にか集まっていたクラブたちがはく泡を、陽光がぼんやり、ふんわりと下って浮き上がらせている。
本当に綺麗。
うーん…ずっと見ていたいんだけど、あいにくそろそろ今夜の宿を探さなくちゃいけないのかぁ。
家を出てから…どれくらい経ったのかな。みんなは元気にしてるのかしら。
もうっ!考えないって決めたんだもん!!
さて、さっきなんとかタウンってあったよね…誰か泊めてくれる人いるかなーっと……
あれ?
あれは、なんだろう…光る、星?いや…鳥?
不意にあたしは、雲間をぬうように飛ぶ不思議な物体を見つけた。
流れ星かとも思ったのだけれど、それなら曲がらないよね…
そして、
こっちに向かってくることもないよね。
心なしかこっちに向かってきてる気が…
「どうしよ……」
なんとなんと!その鳥?は、本当にあたしの方にどんどん近付いてきた。
そして、ついにあたしの前に降り立った。
間近で見ると、鳥というより…竜、みたいな感じがするけれど…
「あの、あなたは…あたしに何か、用事でも…?」
『───っ………』
取り敢えず問いかけるも、返答は無し。だけど頭の中に、少しの息遣いが響いた……気がした。
たったそれだけなのに、なぜだかその竜に敬意を感じたあたしは、思わず砂浜に身を伏せ、頭を下げた。
暫くそのままでいると、竜が少し浮き上がったのを感じた。
恐る恐る頭を上げてみると、竜は私の数歩分上空を、円を描くように飛んでいた。
(なにしてるんだろう?)
そう思った瞬間、竜が祈る様に両手を合わせるのが見えた。
そしてその手を開いた瞬間、
「?!」
あたしは驚いて後ずさった。だって、あたしの上に、奇妙に歪んだ穴があったんだもの…。
…まあ別に、吸い込まれるわけでもないみたいだけど。穴から知らない香りの風が吹いてきている。
急に、吹き出す風が強くなった。
飛ばされそうになったあたしは、慌てて更に身を伏せる。
イーブイにしては大きい方だけど、やっぱり軽いからなぁ…。
ふと竜が、叫び声をあげた。
それに呼応するかの様に、更に吹き出す風が強くなる。
あまりの風に、竜はあたしに悪意があるのではなどと考え始める。
…ちょっと恨みを込めて竜を睨んでみた。
否、“睨もうとした”。
正確には、“睨もうと上を見上げたらなんか異常な事態が起こっていた”!
穴が、白く光っていた。
だんだんと光を増していくそれに、今度は何故か胸の高鳴りを感じた。
なんだろう、こう……運命的な出会いが待っている気がして!!
…ま、ただの渦だけど。光ってるだけの。
「きゃあっ?!」
もう!なんなのーっ!!
本当に飛ばされるわよっ!
また風が強くなって、風圧に一瞬息ができなくなった。
み、耳が千切れるぅ………割と本気で!
なんて、考えた直後!
『───!』
風が、、
止んだ?
ビクビクしながら渦を見上げると、渦は既に消えてしまっていた。
その代わり、竜が何かを持っていた。
た、タマゴ…かしら??
「あの…」
問いかけようとすると、竜は超・至近距離まで近付いてきた。なんだろ?
『っ♪』
近付いてきた竜は、持っていたタマゴを満足そうにあたしの前に置いた。
結構大きい…
でも、なにがしたかったのかな?そう思ったあたしは、竜に話しかけようとしたんだけど…
「ねえ!これはなんなの?教え…あれ?」
竜は既に、あたしの前から消え去っていた。