09 第八流星 出逢うべくして出逢う
sideシノハ
「…っ!………はあっ、はあっ、」
目を覚ますとすでに暗くなっていて、さらにサメハダ岩の中は静まり返っていた。
口の部分からは月明かりが煌々と差し込んでいて、暗いとは言っても辺りは十分に明るい。
また、記憶を見たのか。
一昨日見た奴よりもちょっとだけ綺麗に見えたかな?
…だけど、声があんまりはっきり聞こえなかったな。私の声だけがはっきりしてて、なんかこう、虚しかった…ような?
どういうわけか上がっていた呼吸を整え、のそのそとベッドから這い出す。
(夜になってる…だいぶ、眠ってたんだね)
あ、そうだ。さっき見た夢…多分、記憶の一部…を、忘れないうちにノートに書き留めておかなきゃ。
私のそばで寝ていたミイナちゃんやハナさん、リンネさんを起こさないように、忍び足でハナさんたちの本棚に置かせてもらっていたノートと鉛筆を取り出してきて、月が差し込んで明るい方でノートを開いた。
〜〜〜
また“記憶”を見た。
〈私〉は火傷で傷ついて倒れていて、そこに誰かが来て〈私〉を抱き起こしてラムの実を剥いて食べさせてくれた。
〈私〉はその人に対して、いつもより優しいな、という印象を持った。
そしてなんだか気恥ずかしかった。
姿は見えたはずなのに、彼が去って行くときには靄がかかったように見えなかったし思い出そうとしてもできない。
・前に出て来た声と同じ感じ…だけど、聞こえにくくなっていた
・「いつもより」→普段は優しくない?
・「火傷していた」→何かされた?
・またみんなに何かされたのかと思った→普段から傷付けられている?
・〈私〉が相手の名前を頭の中で呼んだ時、名前は聞こえなかった
〜〜〜
「変なの」
自分で見て自分で書いて何を言う、と思うだろうけれど、実際すごく変だと思う。だって、記憶の中で私自身はその人の名前が言えたんだよ?姿だって見えてたんだよ?
それなのに、最後の方になったら全然わからないし。今なんてカケラも思い出せないし。
ホント、変なの…思い出せても良さそうなものだけどなぁ。
「はぁ…」
月を見上げて、思わず溜息をつく。
今宵の月は真ん丸。満月かな?
少し眩しくて目を細めると、月にブラッキーの様な模様が見えた。
(ブラッキーって、イーブイが月の波動を受けて進化したって言われてるよね。月ってやっぱり、何か不思議な力を持ってるのかな)
(じゃあ、月の力って言うのは悪タイプのエネルギーなのかな?それとも、ポケモンの持つ悪タイプのエネルギーを増やすものなのかな?)
(じゃあ、こうやって照らされてたら、私の悪エネルギーも大きくなって、悪タイプの…例えば、悪の波動とか!使えるのかな?!)
…はっ、暗くて辺りが静かな時って、なんだか詩的なこと考えちゃうなぁ。あはは…。
うぅー、なんか恥ずかしい。
それに、コリンクが悪の波動なんて使える訳がないよね。
あと、私だし。
(さ、明日もあるし、そろそろ寝なきゃ)
悲しくなって自嘲気味に少し笑い、私はノートを仕舞ってまたベッドの中に潜った。
目を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。私は瞼が重くなるのに任せて目を閉じ、再び眠りの世界へ向かった。
翌朝。
ゴロゴロ!という音と、体になにかが当たった感触に驚いて目を開けると、目の前でハナさんが転んでいた。
私と目が合うと、彼女は申し訳なさげに「ごめんね…」と言った。
「ちょっと食材の買い出しに行ってたんだけど、色々買ったらバックに入りきらなくて手で持って来たら…。起こしちゃったわよね」
「いっ、いいえ!…その、夜に一回起きちゃいまして、だからあんまり深く寝てたわけじゃなかったから…」
狼狽えているハナさんを安心させようと私は首をぶんぶん振る。そんな私の様子にハナさんはクスリと小さく笑い、気持ちを切り替えるように軽く身震いした。
「ならいいのだけれど……。ふぅ…これ、運んじゃわなきゃね。シノハちゃん、また寝てもいいわよ?どうする?」
「うーん…起きちゃったし、せっかくなのでこのまま起きちゃいます」
「あらそう?…本当、さっきはごめんなさいね」
荷物を運びながら、ハナさんはまた謝る。
ハナさんって、結構こういうのを引きずっちゃうポケモンなのかな?
「気にしないでください」
私は少し笑ってから周りに散らばっていた木の実などをいくつか拾い、ハナさんの後に続いた。
その中にはラムの実もあったが、今度は何も感じなかった。
*
sideミイナ
「おいっしーーーーい!!!」
「きゃ?!び、びっくりしたぁ…」
今日もいい天気ね!海が太陽にキラキラ輝いてるわ!
それにそれに、この豪華な朝ごはん!
うぅ〜ん、最高…おいしい!
思わず声をあげたら、横でカットフルーツに手を伸ばしていたシノハがビクッとその手を引っ込めた。…凄いごめん。
「シ、シノハごめんね!あたしったらつい…」
「いいのいいの!だって、自分が作ったものを美味しいっていってもらえて嬉しかったから!」
ん?自分で作った?
今あたしが口に入れたのは、サンドイッチ…多分中身がモモンの実のジャムの奴。
これ、シノハが作ったのかしら?
「…と、言っても、私はハナさんの指示に従ってお鍋をかき混ぜてただけなんだけどね〜、あははは…」
「このジャム、シノハが作ったの?すごい美味しいわ!」
「そうよ。ちょっと早く目を覚まさせちゃったからって私の手伝いをしてくれたの」
そういえばなんか朝方ごそごそいってたわね。それにさっきも確か、甘い匂いで起きたんだった。
あたしは一度眠るとなかなか起きないから、普段の起床時間近くになってやっと匂いに気づいたのよね。
あれ、ジャムって結構作るのにかかる筈…。
……うわぁ、ハナさんすごい。何時に起きたんだろう。
「シノハもハナも早起きね〜」
半ば目を閉じながらリンネさんが言う。
…なんかリンネさんって朝は苦手そう。でも食い意地はってそうだから一応起きては来るんだねーなんて…。
「…ミイナちゃん、その癖、ホントにどうにかした方がいいと思うよ……?」
「リンネが寝かけててよかったわね、あの子貶されるとすごく怒るのよ」
あれ?あたしなんかした?
ふと気付くと、2匹が心配そうな目でこちらを見ていた。なんだろ?
「………声に出てた」
…消えたい。今すぐ。
「ミイナちゃーん、次はこの辺りにこんな感じでお願いね。えーと、私は後ろから整えて行くわ。何かあったら呼んでね」
「はーい……“穴を掘る”っ!」
んー、この辺ヤケにかったいわね〜。
もう結構掘ったから、脚が疲れてきた…。
でももうちょっとでお昼だし!頑張っちゃうよ!!
あ、何をしてるかっていうと、サメハダ岩の増強。
朝ごはんが済んだ後、ハナさんがギルド創設許可願に色々記入して、あと何か一筆書いた手紙を添えて探検隊連盟本部に送ってきたの。
その後で、ギルドはどこにするか話し合ったんだけど、やっぱりここしかない!ってなって。で、ギルドにするからには、やっぱりもっと広くなきゃいけないでしょ?…というわけで、大急ぎで設計図を考えて、それをあたしとハナさんで実行してるってワケ。
それにしても凄いと思ったのは、まあもともと思ってるけどさ。…二、三時間の間にギルドの設計図を完璧に、ホントにカンッペキに作り上げちゃうハナさんとリンネさん。
特にリンネさんのあの暗算の速さは異常ね。エリさんもクロウ兄もすごかったけど、リンネさんはそれ以上だった。上には上がいるって、本当なのね。
…リンネさん、朝失礼なこと言ってすみませんでした。
それに、こうやって外がほとんど見えない中でも、正しい寸法・角度で作り上げちゃうハナさん。凄い空間把握能力よね。
ああ、あたしもあんな風になれたらなぁ!
そしたらきっと、お父さんも…。
って、なんであたし、さっきから家族のことばっか考えてんのよ。あーあ、せっかく出てきたってのにこれじゃあ意味ないわね。
…あの人達の事なんて、知らないもんっ。
*
sideシノハ
ハナさんとミイナちゃんがギルドを作っている間、私は同じく暇していたリンネさんにここの町…トレジャータウンを案内してもらう事にした。
本当は2匹を手伝った方がいいんだろうけれど、あいにく私に出来ることは無いみたいだったから…。
「どしたの、ため息なんかついて」
「えっ?…あ、いえ、なんでもないです…」
「そーお?」
浮かない顔をしていたのを気付かれてしまったみたいで、斜め前を歩いていたリンネさんが振り返って首を傾げた。私は慌てて首を振ったんだけど、リンネさんがまだ心配そうだったから慌てて笑顔を付け足した。
「はいっ!」
「ふーん………。あ、あれがカクレオン商店だよ〜!探検に必要な道具から日用品まで、いろんなものが買えるんだ♪」
リンネさんは首からツルをシュルリと伸ばし、向こうに見えてきた緑色の建物を指した。
「なんでも揃うんですか?凄いなぁ…!」
「凄いよね〜。この街で暮らして10年弱、探検を始めて6年経つけど、この店にはハナ共々お世話になりっぱなしなの。…すいませーん!」
「はいー?」
「グミを、…あれ?ラルク君じゃない!今日もバイトなの?昨日も入ってなかった?」
リンネさんはのほほんと笑うと、店のカウンターに声をかけた。
中から出てきたのは、水色の体に白い水玉模様のついたウサギのようなポケモン…マリルリの男の子だった。私やミイナちゃんよりも、少し年上かな?
そんなマリルリの男の子に、リンネさんが驚いた様子で声をかける。
「それが、2匹とも昨日の夜から遠くの街の競りに出かけちゃって…。なんでも、グミと技マシンがメインらしいです」
「確かにそれは…。ラルク君、ご苦労様。そーだ、お姉さんがチップをあげよう!」
「そんな、悪いですよ…うぅ、ありがとうございます」
マリルリの男の子は、半ば強引に渡されたお金を苦笑いしながら袋にしまった。
チップをあげる!とか言うリンネさん、なんか大人っぽくて素敵だなぁ…朝とは大違いだ。
と、そこでマリルリの男の子がリンネさんの後ろにいた私に気付いたみたい。
「あの、リンネさん、その子は…?」
「あ、この子ね。コリンクのシノハちゃん。10歳だっけ?…ちょっと色々あって、ワタシ達のサメハダ岩に住む事になったんだよ!」
「シノハと言います、よ、よろしくお願いします」
「シノハちゃんか。可愛い名前だね!僕はラルク、14歳。この店でバイトしてるんだ。よろしくね!」
「ラルク君には妹もいるんだよ!」
「マリルでメルクって言うんだけど、たまにここで見かけるかもしれないから、その時は仲良くしてあげてね」
14歳かー…16歳くらいかと思った。なんだかとっても大人っぽいなぁ。今リンネさんが言ってたけど、やっぱりお兄さんだからかな?
…なんて考えていたら、急に後ろから肩を強く叩かれて飛び上がってしまう。びっくりして後ろを振り向くと、そこにはイタズラっぽい笑みを浮かべたマリルの女の子がいた。
「えっへへ〜。イタズラ大成功です♪」
「こらメルク、イタズラしちゃダメだろ!ごめんねシノハちゃん、メルクはちょっとイタズラが好きで…」
「ごめんです〜♪…ん?お姉さん、誰?」
私の後ろから、小さなマリルの女の子が顔を出した。
ラルクさんがメルクって呼んでるところを見ると、この子がさっき言ってた妹さんかな?目がクリクリしててとっても可愛い。
「もうすぐ9歳なんだし、そろそろ控えてくれよ。そうそう、シノハちゃんに挨拶して」
「シノハって、このコリンクさん?…メルクって言います、8歳です!この店の手伝いをしてます!!よろしくです!」
「サメハダ岩に住むことになった、コリンクのシノハです…メルクちゃん、よろしくね」
私が自己紹介すると、彼女は何故か目を見開いて言う、
「えー?!サメハダ岩ってことは、ハナさんとリンネさんとおんなじ場所に住むのです?!いいなぁぁぁ!!!」
「え?」
「ああ、メルクは小さい頃にお尋ね者に攫われたことがあってね、その時リンネさんたちが助けに向かってくれたんだ。それからずっと、Frostが大好きなんだよ」
「攫われた……」
「それ以外にも、宝物を取り返してもらったり、悪夢から目覚めさせてもらったり…2匹には本当に世話になりっぱなし。僕ら兄妹、すっかり2匹のファンになんだ」
メルクちゃんは、何やら紙に記入しているリンネさんに「自分も一緒に暮らしたい」と駄々を捏ねている。ただ甘えているだけかと思いきや、ラルクさんの言葉でその眼差しには尊敬の気持ちが混ざっているのに気が付いた。
それにしても、攫われたり宝物を取られたり、小さい頃からだいぶすごい日々を過ごしてるんだね…。メルクちゃん達が体験したことに比べたら、私のされたことなんて……
…私、なんでこんなこと考えてるのかな?それに私のされたことってなんだろう?
うーん…これも、忘れてるのか。本当に何にも思い出せない。思い出せそうで思い出せないから、とてももどかしい。
本当に、これから私はどうしたらいいのかな……?
「ラルク君、これでお願い。後で取りに行くね。さ、シノハちゃん!次いこ♪」
「はいっ」
「えー、どっか行っちゃうのです?!あっ、そうだ!メルも連れてって欲しいですー!」
「ダメだよ、仕事があるんだから!よーし、この注文書にあるものを用意するの手伝ってくれ」
「えぇ〜…」
そっと溜息をついたところで、リンネさんにつつかれた。彼女がまた歩き始めたので、私も慌ててついて行く。
メルクちゃんがぴょこぴょこ飛び跳ねながらついて来ようとしたけれど、ラルクさんに引き止められてそれは叶わなかった。
残念だな、もっとお話ししてみたかったのに。
「次はどこに行くんですか?」
「そーだねー…川を渡った向こうの、ヨマワル銀行かな!店主さんはちょっと怖い顔してるけど、優しいポケモンだから安心してね」
うぅ、なんか不安だなぁ。
ヨマワルってことはゴーストタイプの人か。ゴーストタイプでも悪い人ばっかりじゃないことはわかってるんだけど、やっぱり少し苦手。でも、銀行をやってるってことはみんなから信用されてるってことだよね。だから大丈夫…な、筈!
「こんちは〜」
シーン……。
ヨマワルの形をした建物の前に着いて、リンネさんが声をかけるが、中は静まり返っている。だれもいないのかな?
「…ウヒヒ!こんにちは、リンネさん。今日はどうされたんで?」
「いやぁぁぁあ?!」
「あ、どうも〜。これ預けまーす」
「ってなんでリンネさん平然としてるんですか?!」
少し間が空いて、薄暗い店の中から、白い骸骨のような顔がヌッと現れた。私がびっくりして叫び声をあげてしまう。
さらに、私がこんなに驚いたのに対して、全くと言っていいほど動じていないリンネさんに思わずツッコミを入れてしまった。
私、こんなキャラだったのかな…?
「157ポケですね。確かにお預かりさせていただきます、ウヒヒ」
「んでもって2000ポケ頂戴」
「かしこまりました…おや?リンネさん、そちらの方は?」
リンネさん、探検とかしてるとびっくりすることもあるからか肝が座ってるのかな?よく驚かないよね〜…。
やがて店主さんは当然のようにやりとりを交わすリンネさんの後ろにいた私に気付いたようで、声をかけて来た。
(こ、今度は自分で自己紹介しなきゃ)
そう思って顔を上げると、こちらを向いた白い顔の奥で赤っぽい一つ目がぽうっと光っていた。
自己紹介しかけていた私はその怪しげな輝きに怖気付いて固まる。
「………」
「おやおや、随分恥ずかしがり屋な子なんですね〜。Frostの新メンバーですか?」
「この子はシノハって言って、事情があって今はうちにいるの。あ、もう1匹イーブイの子が一緒に居たんだけどね、その子は探検隊になりたい!って言ってくれてるの!…シノハちゃん、大丈夫?」
「少し、驚かせ過ぎましたかね?申し訳ございませんでした…。あ、私のことはなんとでもお呼び下さいませ。名前は明かさないことにしているもので」
「………シノハです、よろしくお願いします」
「そんなに隠れなくても…。まあ、少しずつ慣れていってくだされたば」
うーん、リンネさんに紹介してもらっちゃった…。
それにヨマワルさんに、嫌な思いさせちゃったかな。
あーあ、ビビリなのと口下手なの、本当にどうにかならないかな…………。
*
sideミイナ
「ミイナちゃん、そこが終わったらひとまずは完成だから休んでいいわよ。お疲れ様。さて…あとはとりあえず、2人のベッドにする藁を買ってこなきゃいけないわね。リンネに連絡しよう」
あーーやっと終わった!!
使い過ぎたからか、腕と脚がズキズキする〜…だけど、達成感は凄いわね!
あたしは大きく伸びをしてから、ハナさんの後について今作って居た部屋…どうも親方部屋になるらしい…を出た。
ちなみに今日作ったのは、2、3匹入れそうな弟子部屋3つに親方部屋、更にハナさん達の住む部屋。
こうやって数えてみると、あたしかなり頑張ってない?いやぁ…疲れるわけだ。
廊下を通ってサメハダ岩の口の部分まで戻ったところで、アラームがなるのが聞こえた。
あたしは何かの警告音かと思ってちょっと身構えてしまったけれど、どうやらそれはハナさんの探検隊バッジからだったようだ。
「なんの音ですか?…あっ、それ…」
「メッセージを受信したの…ああ、これは探検隊バッジ。探検隊にとっての必須アイテムよ!通信機能が付いてて、軽くメッセージが送れるの…通話もできるし、ダンジョンに行けばフロアマップや仲間の状況なんかがわかるようになってるハイテク機器なの!」
「す、凄い!!いいなー、あたしも欲しいですっ!」
「探検隊になれば貰えるわよ。…そっか、なるんだったわね!それじゃあギルド設立が認められたらすぐ、届出を書かなくちゃいけないわね」
「……あの、あたしひとつ気になってることがあって」
「何かしら?」
「シノハがこれからどうするか…」
そう。あたしはこれからどうするか決まった。ハナさん達のギルドに入って、探検家になって…
(あたし探検家になってどうするつもりなのかな?)
まあ、いいや。
あたしはちらっと顔を出した考えをすぐに頭の隅へ押しやった。
とにかく、あたしはいいの。だけど、シノハは?
一昨日「一緒に探検隊やらない?」って誘ったけれど、ちゃんとした返事は貰えていないし…。
あの子はこれからどうするんだろう?
「そうねぇ…探検隊組まないかって誘ってはみたんだっけ?」
「一応…だけど、探検隊って何?で終わってしまって。…だけど、なんかあたし、シノハとは出逢うべくして出逢った気がするんです」
「運命、みたいな?」
「そう、ですね……なんかガラじゃないセリフですけど、ホントに、これ以外の言い方が見つからないです。最初にあの子と会ったのってあたしなんですけど、その時直感で思ったんです、シノハはあたしの運命のパートナーだって。だから、どうしてもあの子と探検隊を組みたい」
「……リンネも昔、おんなじこと言ってくれたのよ。私ね、そう言われてすっごく安心したの。自分はここにいてはいけないんじゃないかって思ってたところに、その言葉がすっごくありがたかったの」
ハナさんは一瞬寂しげな顔をした後、その名のごとく花のように綺麗な笑顔で笑った。
それだけであたしは、彼女とリンネさんは運命に導かれて出逢った2匹なんだ、という事をはっきり理解した。
…因みに運命、って、もちろん恋愛的な意味ではないわよ?
ハナさんはどこか遠くを眺めながら再び口を開く。
「シノハちゃんは今多分、だんだん記憶を無くしていっている。凄く不安な筈よ」
「記憶って、この世界に来る前の…?」
「ええ。シノハちゃんがここに来て最初に会ったのは貴方なのよね?………ああ…やっぱりミイナちゃんの直感は正しいと思うわ。まあ、それと探検隊を組むのはまた違うかもしれないけど…でも、そうすることでシノハちゃんの記憶の手がかりが得られるかもしれないわね」
「シノハはもしかしたら、何もかもを無くした上で知らない世界に放り込まれて自分の居場所がわからないで困ってるのかもしれない。だからあたしと組むことで、あの子に居場所を作ってあげる!なんて言い方は烏滸がましいかしら?だけど、うーん…もっとあの子のことを知りたいって言うのかしら…」
「そういう類のことはうまく言えないものよ。…探検隊とかこの世界の基本的なことについてはだいたい教えたから、もしかしたら考えが変わってるかもしれないわ。もう一度誘ってみたら…あら!」
入口の階段を降りて来る音が聞こえる。暇つぶしがてら買い出しに行っていたリンネさんとシノハが戻って来たのね。
まずリンネさんが元気よくぴょこぴょこ走って来る。続いてシノハがバスケットを咥えて入って来た。
「ただいま〜!睡眠のタネが安かったからいくつか買ってきたよ。あと藁だけど、今日中はムリだけど明日には新品届くって!」
「ぷはぁ!…あの、カフェで飲み物作ってもらって来ました」
「おかえり、ご苦労様。睡眠のタネは嬉しいわね!!シノハちゃんもありがとう、ちょうど甘いものが欲しかった所よ」
バスケットの中には、白いグミのドリンクとモモンの実のジュース、更にただのタネのスムージーにリンゴポタージュがはいっていた。それを見たハナさんがただのタネスムージーに飛びついた。
「わーいわーい!リンネありがとう!!……はっ」
えーと、もしかしてあれがハナさんの素?
何かこう、見てはいけないものを見てしまったように感じて、あたしとシノハはそっと2匹から目をそらしたのだった。
あ、そう言えばこれで2匹きりになった。丁度いいから、聞いちゃおうかな…?
あたしは白いグミドリンクをすすりながらシノハに問いかける。
「ねぇ、シノハ?」
「ふぁい?」
「ちゃんとお返事貰ってないからもう一回聞くね…。あたしと、探検隊になってくれない?」
「えっ?」
「あたしね、シノハと出逢うべくして出逢った気がするの………だからあなたと、もっと一緒にいたい。あなたのことを知りたい。だから、」
自分の思いをぶつけてみる。だめだったら?…そんな事は考えない。今はとりあえず素直な心でぶつかっていかなくては。
シノハは驚いたようにあたしのことを見て、それから戸惑った顔をしながらゆっくり口を開いた。
あたしは不安な気持ちで彼女を見守る。リンネさんもハナさんも、いつのまにか彼女を伺っている。
「私…私ね、」