細身のエージェント
医療室へ運ばれたリカルドは、救護班のゴチミルに怪我の様子を見てもらった。ゴチミルはいやしのはどうを送りながら、連れてきたニャオニクス兄に事情を聞く。
「…頭にでかいタンコブができてるわね。屋根から真っ逆さまに落ちたりしたの?」
「いやそれが…入団試験の対決で、頭から地面に叩きつけられたんだよ。それでコイツは気絶して戦闘不能ってわけ」
二人がそんなことを話していると、再び医療室のドアが開いた。そこから現れたのは、背が高くてスリムな体をした、黄色い背ビレと長い尻尾が特徴のインテレオンだった。
「ふう…僕としたことが、ほんの小さなミスを犯して、軽い火傷を負ってしまったよ」
インテレオンが入ってきたことに気づいたニャオニクス兄は、驚いた表情をして近づいていく。
「あ、インテレオンさんお疲れさまです!まだ昼過ぎですけど、依頼全部終わったんですか?」
「まぁ何とか終わらせてきたよ。血気盛んな炎ポケモン達の計画に、文字通り水を指してあげたんだ。おかげで炎のような熱い歓迎を受けちゃったけどね」
皮肉を加えた戦果を言いながら、インテレオンは握り拳を口に当ててクスクス笑う。余裕綽々とした様子だが、体のあちこちに火傷の痕が残っている。それを見てゴチミルは、慌ててインテレオンにいやしのはどうを送る。
「無理しちゃ駄目ですよインテレオンさん。アナタは世界でも唯一の、エージェントランクの探検家なんですから」
世界のどこかに存在するポケモン探検隊連盟本部。探検隊バッジやランク昇格認定書がそこで発行され、全てのポケモン探検家を常に把握しているらしい。
インテレオンはその探検隊連盟から、特殊な任務を受けられる証として、数日前にエージェントランクという称号が与えられた。
「エージェントランクねぇ…。これになってから僕の仕事が倍以上に増えて、行きつけの喫茶店でゆっくりノメルティーを飲む時間もありませんよ」
忌々しそうに探検隊バッジを見つめるインテレオン。名誉を代償として失った自由、彼はまだ生活の変化に慣れてないようだ。
「そういえば、そこで大きなタンコブを作っているリオルは何者だい?」
インテレオンの疑問にニャオニクス兄が答える。
「ギルドの入団希望者なんですけど、入団試験の対決に敗れて、俺がここまで運んで来ました。試験が終わる頃には起きるんじゃないですかね?
じゃあゴチミル、あとはよろしく頼むよ」
ニャオニクス兄はそう告げると、試験会場へ戻っていった。その後、インテレオンはリカルドの近くに置いてある手提げ袋が目に入る。その袋から、コジョンドからもらったメガストーンが、コロコロと転がり出ていた。
「これは彼の荷物かい?なかなか綺麗な石だね」
「御守のようなものでしょうか?メガストーンと呼ばれる石に似てるみたいですけど…」
ゴチミルがメガストーンと言った直後、インテレオンはハッとした表情でメガストーンを拾いあげる。しばらく石を凝視し続けた後、インテレオンはメガストーンを袋に戻して、何かを呟き始める。
「確かにあのメガストーンと同じ模様だ。ということは、彼があの英雄の…!?」
何かを考え込みながら、インテレオンはそのまま医療室を出ていく。そして数分後、ちょうど入団試験が終わった時にリカルドは目覚めた。