ある夜の訪問者
カーテンが揺れる。
・・・窓はいつ開いたのだろう。夜風が気持ちいい。
「あなたが1536号ね。IBRとかいう。」
その声は風とともにやってきた。澄んだ、綺麗な声だ。
「あたしはTAR1798号。あなたとは全然違うロボットだけど、だいたいの構図とかシステムは一緒よ。まあ、あなたの方がいくらか簡単になってるけど。」
そう言って、それは笑った。優美というにふさわしい笑い声だったが、僕は好きになれない。
僕の回路はまるで水をかけられたかのようにぼんやりとしていた。映像もピントがずれている。体は鉛のようだ。
僕はうつろになったカメラをそれに向ける。月の光が逆光になって、黒い塊にしか見えなかった。
「・・・ああ、あなたの体にウイルス送っといたから。でもあと数分で元通りよ。」
ウイルス?
「ちょっと、ね。ほら、怪盗とか生業にしてるとこういうの得意になっちゃうの。」
カイ、トウ。
博士の送ってくれたデータの中にその言葉は無かったはずだ。その情報だけがきれいに消去されている。
動きが鈍くなった回路に電気を流す僕を尻目に、そのカイトウは続ける。
「グレイン博士は―――あなたを作ったヒトは、私のこと話していなかったかしら。シャティアンがどうのって・・・」
それまで強かった声が、急に弱々しくなる。それを聞くことを恥ずかしがっているような、そんな感じ・・・。
君のことは今はじめて知ったよ。と声にならない声でささやく。それでもそれには伝わったようだ。
そ、そう。ならいいの。それは悲しそうに、それでも少しうれしそうに、先ほどの強さを取り戻す。
その直後だった。僕の体が自由になるのは。
はっとそいつを見ると、そこにはもう何もなかった。
「うーん、ウイルス切れちゃったのね。ではまた今度。お話ししましょう。次はもっと強いの作っとくからね。」
声だけが聞こえる。
待って。叫ぶが、あの笑い声が聞こえただけだった。