出会いは突然・・・ではない
IBR1536号 データ送信中・・・
深い、深い、闇の中に、にぶく光る青い文字が浮かぶ。すぐさま受信体制をとり、合図を送る。
それとほぼ同時にデータが送られてきた。識別番号IBR1536の、僕という存在の、記憶。
それらは次のようだった。
『通称:アレン 性格的性別:♂寄り イーブイ型』
多量の言語や単語などに埋もれたなかから、それらを探すのは大変ではなかった。
自分のデータ。自分の歴史。自分の記憶。
全てが0と1で表せる物とは思っていなかったが、まさかこれほどまでに少ないとは考えてなかった。
まあはじめから記憶がある猫型ロボットとは違うのだが、僕を多少落ち込ませるぐらいには破壊力があった。
そうこうしているうちにまた新しい文字が浮かび上がる。
システム強化完了・・・ 映像送信開始
今まで準備中だった回路に電気が走る。一度真っ白になったあと、少しずつ色が差していった。
目の部分に設置されたカメラとつながったのだ。
そこではじめて、僕は色を知った。
データにはできなかった色を、僕はここで知った。
「はい、はい、はい!見えてますかー?」
音声感知センサーも問題なく動いているようだ。
高めの声を発するのは、黄色い影――バチュルだった。
「えー、私は博士の助手兼アイドルのロロでーす!よろしくね。」
こういうときは、挨拶をするのだ。さっき送られてきた言葉の中を探ると、以外とすぐに見つかった。
「は、初めまして・・・アレン、と言います。よろしく、おねがい、します。」
言葉が途切れ途切れになるのは仕方がない。なにしろ言葉を探しながらそれを口に出すのだから。
ぎこちなく『挨拶』なるものをすると、ロロは小さな首をかしげた。
「あっれれれー?なんにも知らないんじゃなかったっけ。これ失敗じゃね?」
「えー。そんなはずないけど・・・どこかでミスったかなぁ?」
ロロにこたえる声が一つ。波長からすると人間の物だ。すると、これがロロの言っていた博士なのだろうか。
‘博士’は実験室のような部屋から出てくると、僕の目線になるようにしゃがんだ。とは言っても完全に同じ高さではないのだが。
その顔は薄いあごひげがあり、色は白い。博士というのだから、ながいこと外に出ていないのだろう。
服装は地味だ。白いYシャツに茶色いズボン、その上に白衣を羽織っている。どこにでもいそうな科学者の服装だ。
「教えることでセラピーになるのに。これじゃセラピーロボットとしては売れないね。」
その声は、ロロと反対的に低く、ゆったりしていた。どんなに起こっていたり、いらだっていても、穏やかになれるような、そんな声だ。
しかしその内容はひどい物である。要するに、僕は不良品ということらしい。
「うん、おいとこう。んじゃ、ロロよろしく。」
「あぁ!?私、助手とアイドルとお世話係の兼業なんて無理ですよ!」
「・・・アイドルは自称でしょ・・・」
早口にまくし立てるロロの言っていることは理解できなかった。あんまり早いと処理が追いつかないらしい。全く、不便だ。
博士が僕の頭に手を置いた。センサーが温度を感知して、ほんわりと暖かくなった。
「お前は心配しなくていいからな。」
博士が部屋に戻っていった後も、そのぬくもりは消えなかった。