ノウの電子世界論
ノウの孤独紛らわし作戦
俺 01
俺は孤独である。
しかし、その孤独を愛する、孤独愛用者の一匹だ。
孤独はいい物だ。思い立ったらすぐに行動できる。他のポケモンにながされなくていい、それはすばらしいことなのだ。現に、今俺は旅を楽しんでいる。それでいい、これでいい。俺のようなブースターには、一カ所に定住するなんて小さいことは合わないのだ。
そして、俺はその日も旅を楽しんでいた。自由をかみしめながら、ゆっくりと歩を進めていた。
そこはゴミ捨て場だった。人間達がいらなくなった物を捨てる場所。なにかの紙切れ、箱、カバン、冊子、びん、缶、四角い箱状の機械、電機器具、ペン、CD、つかえなくなったモンスターボール、キーホルダー、本・・・全てごちゃまぜになって、ここに送られる。
―俺も。
俺も、いらなくなった物。いらなくなったポケモン。俺は数年前に捨てられた、逃がされた、いらなくなったポケモンだ。捨てられた当初はそこそこ悲しかったが、今はそれほどまでこみ上げる物はない。むしろ逃がしてくれた主人(だった人)に感謝すらしている。パソコンだか知らないが、ボックスに押し込められるのはごめんだ。
まあ、そのような曲がった感謝を存分に楽しんでいると、ある一つのゴミに目がとまった。ポケモン図鑑だ。赤を基調としたところも目をひく要因だったが、なによりもその異様さだった。この果てしなく広がるゴミ山の中で、それだけが新品なのだ。傷一つついていない、少し古い型だが問題なく使えるだろう。近づいてみると、さらに目を丸くする光景が広がっていた。
電源がついている。
その画面には、カラフルな『ポケモン図鑑』の文字が躍っていた。中心からオーロラの様な綺麗な色のエフェクトが広がるのが、繰り返されていた。これは・・・どうすればいい。画面に触れれば図鑑が開かれるだろう。
ならば、開くか?
どうやら俺はこれにさわりたいと思っているらしい。これには驚いた。生まれてこの方、こんなに強い好奇心を感じたのはなかったから。
残念ながら、というべきか。うれしいことに、というべきか。俺はその強い欲望を抑えられなかった。
手を伸ばし、画面に乗せる。心臓は早鐘のように打ち、興奮で顔が熱くなる。固唾をなんで見守ること数秒。ひときわ強い光を発するエフェクトが広がり、ポケモン図鑑という文字が消えた。代わりに黒い闇が現れる。気持ちがすっと冷めるのを感じた。やっぱり、だめだったか。傷がついて無かろうと、電源がついていようと、捨てられた物には間違いないのだ。
ああ、やめた。やめた。なぜ俺はあんなに興奮していたのか。今考えると恥ずかしいほどだ。子供じゃあるまいし、と来た道を戻ろうとすると、声が聞こえた。はっとして後ろを振り返る。小さな、とても小さな声だが、確かに聞こえた。この耳に、届いた。
だっと走り出し、ポケモン図鑑の前で立ち止まる。
・・・電源はついていた。
先ほどの物とは違う色のエフェクトが激しくちり、光り、ぶつかり合う。それは見た物を圧倒させるほどだった。
やがてそれは止まる。まぶしい光になれはじめていた俺の目は、通常の日光に戻ったとき、ちかちかとして使い物にならなかった。それでも無理矢理画面を見ると、そこには・・・ツタージャがいた。

「僕は・・・あなたは・・・誰だ・・・?」

青い波が揺れた。
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ナノ ( 2014/05/16(金) 21:43 )