9 恐怖は勝利の後で…
「え?なに?俺、雌になりきるの?」
ボーゼンとしてしまうディン。そこにキルアとシンが吹いた。
「大丈夫だって!」
「お前、めっちゃ可愛い雌になったことあるじゃないか」
「う……」
そう言われ、ヘコむディン。
「……そんなに可愛かったの?」
「ああ。なんせ雌をも魅了にする可愛さだった。な?」
「ああ」
「見たかったなぁ」
笑いながら話すシン達に対し、ディンは両膝と両手をついてヘコんでいた。
「ほら、ディン!早くコジョンドに変身してこの服着て!♪」
「ちょっと待て……雌ならお前が変身すれば……」
「私の変身は三分しかできないの。だから……ね」
「……」
シン、キルア、反転ディンにジリジリと狭まれ、渋々コジョンドに変身し、着ていた服を着る。みなみに、気絶しているコジョンドには布を被せてある。
「……どう?」
憂鬱な表情でコジョンドに変身したディンは、三匹に姿と声色を確認をしてもらう。
「いいんじゃね?」
「そうね、そっくりよ」
どうやらOKらしく、ディンはため息を一つ吐く。
「じゃあ行ってくるわよ」
ディンはオノンドがいる入り口へ向かい、反転ディンとシン、キルアは森の影から見守る。
「……戻ったわよ」
「遅かったな、やはり誰かいたのか?」
「いや、誰もいなかったわ。あたしの見間違いだったみたい」
とりあえずオノンドへの接触はできたみたいだ。
「あ、そうそう。あんたに見てほしいものがあるんだけど」
「なんだ?」
「これよ」
ディンはオノンドに近づき、顎に一発……脳を揺らす一撃を与えた。結果、オノンドは気絶してしまった。
「……悪いけどしばらく気絶しててね」
気絶したオノンドを岩影へ移動させると、反転ディン達が森から出てくる。
「次はSTEP2ね」
反転ディンは持っていたロープで自分を縛り、小屋から持ってきた大きい袋にシンとキルアに入るよう指示をする。
「こんなことせずとも一気に突入すればいいものを……」
「それだと城下町のポケモン達も巻き込んじゃうわ。とにかく、今の王を倒せばいいんだし……」
とりあえず呼吸ができるように袋に小さい穴をいくつか空けて、シンとキルア入れ、ディンはロープを掴み、袋を担ぐ。そして、なるべく堂々とした表情で城下町へ入っていく。
ディン達は城下町を通り過ぎ、門番がいる橋の前に来た。しろは堀の池に囲まれているのだ。
「問題の……前のピカチュウを捕まえたわ。王のとこに連れて行くから通してちょうだい」
そういうと門番は問題なく通した。姿がコジョンドだからだろう。平然とした表情で城内へ入ると、兵士長みたいな恰好をしたフローゼルが近づいてきた。
「前のピカチュウを捕まえたというのは本当か?」
「ええ、本当よ」
ディンは紐の先にある反転ディンを見せる。
「たしかに……じゃあ、王のとこまで連れて行け」
「わかったわ」
ディンは階段を上っていく。途中の階で反転ディンとシン、キルアを解放する。
「くっそ〜、窮屈だったぜ」
「俺はお前のトゲが痛かったがな……」
よく見ると、キルアの体はところどころ赤くなっていた。
「さて、一応真ん中まで上ったが……これ、城というより塔だよな、やっぱり」
「俺もそう思う」
みんな城と言ってるが、やはり、塔に近かった。とりあえずダッシュで階段を上っていくディン達。そして、ついに最上階までやってきた。
「……この扉の奥?」
反転ディンは頷いた。その扉は、いかにもって感じのオーラを放っていた。
ディンがゆっくりと扉を開け、中に入る。
「ふん……来たか」
その部屋はかなり広く、あたりは薄暗かった。奥にある王座から声がし、光に照らされたのは化け狐ポケモン・ゾロアークだった。
「お前達が侵入者か?」
「あ、ばれてた?」
「もち」
「ですよねーw」
王座に座りながら言うゾロアークに苦笑いするディン達。
「階段の途中にコジョンドの服が落ちてたという情報があってな…
…お前、前のピカチュウだろ?今度はそっくりさんとその仲間を連れて再戦か?」
「ええ。この仲間達はただの仲間じゃないわ。いくつもの戦いを戦いぬいたんだから」
「ほう?そいつは楽しみだな。来てみろ!!」
ゾロアークは立ち上がり、構える。
「言われなくても……な!!」
シンはジャンプし、にどげりを放った…ってか、なぜ使えるんだ…。
しかし、ゾロアークは簡単にかわし、シンの背中に蹴りを放つ。
次にキルアが悪の波導を放つがゾロアークのきりさくを受けてしまった。
「ち……なんつう攻撃力だ……」
「ふぅん……思った以上にやるみたいだな。俺も全力でいくぜ」
「ディン、気を付けて。あいつはかなり強力な技を使うわ」
「ディン……?」
ゾロアークはディンに反応した。すると、ディンの体をジロジロと見だした。
「なるほどな、そういうことか」
「なんだよ?」
ニマニマしているゾロアークに気味が悪くなるディン。
「お前、タクトという名前に覚えはないか?」
「タクト……?」
ディンは記憶を探る。すると、何かを思い出したのか、冷や汗を流した。
「ま……まさか、親父?」
「ふん」
「はい?」
シン達は頭に"?"を浮かべている。当然の反応だ。
「お前までポケモンになってたのか」
「父親に向かってお前とはな」
「あんな事しといて……よく父親だなんて言えるな!!」
ディンは一気にタクトに向かっていく。二人は過去に何があったのだろうか。
「十万ボルト!」
ディンは十万ボルトを放ち、タクトに攻撃する。
十万ボルトをかわしたタクトは、すぐさま火炎放射を放つ。
ディンは避けられず、火炎放射をうけた。
いや、わざと受けたように見えた。タクトはニヤッと微笑むが、それはすぐに消えた。
炎から出てきたのは、ディンではなく、ブースターだったからだ。
「炎貰ったよ!いくよ……フレアドライブ!」
ディンは変身でフレアになっていた。特性のもらい火で攻撃力を上げ、フレアドライブを命中させた。驚いていたタクトはかわすことができず、フレアドライブで吹っ飛んだのだ。
「ぐ……お、お前は一体……」
ディンは一旦元に戻る。
「俺の能力の一つ、変身さ。一度見た奴に変身できて、そいつの能力値、特性などをそっくりそのままコピーして、能力値は俺の能力値に加わるのさ」
今度はディンがニヤッとした。
「おのれ……」
かなりのダメージを負ったタクト。ディンは直感した。「こいつはディルより弱い」と。
「てめぇがあのピカチュウに勝てたのが不思議だぜ。せいぜい……てめぇの愚かさを思い知るんだな!」
ディンはタクトの足を掴み、外に向かって力いっぱい投げ飛ばし、タクトを星にした。
「ざまぁみやがれ!いつも自分のことしか考えないからだ!」
「……っかしよく飛んだな……」
シンはタクトが飛ばされた窓の外を見て言う。
キルアは複雑そうな顔をしており、反転ディンは扉を気にしている。
「ん?どした?」
「……誰か来るわよ」
確かに階段をもの凄い速さで駆け上る音が聞こえる。
「コルアアア!!誰よ、あたしの服をはぎ取ったのはぁぁぁぁぁ!!」
予想以上の早さで扉を蹴り開けたのは、ディンが気絶させたコジョンドだった。
服は階段途中で脱いで置いてきたため、コジョンドは身に着けている。
「お、あの時のコジョンドか」
ディンは指を指して言う。
「あんたが犯人!?」
「いや、アイツだよ」
「は!?」
ディンの目線の先にはシンがいた。
「ぶち殺す!」
「は!?」
コジョンドは走った。それも猛ダッシュで。
しかし、シンの目の前まで来ると、コジョンドの足が止まった。
「………ま」
「え?」
「見つけた……あたしの王子様……」
「はい?」
全員耳を疑った。よく見ると、コジョンドの目は完全にハートと化していた。
「あた……私、レナっていいます。あなたのお名前は?」
「シン……」
「シン様……どうか私と結婚して幸せな家庭を築きましょう」
「…………」
話がぶっ飛びすぎて、シン達の思考回路がストップしてしまったらしく、口を少し開けてストップしてしまった。
「結婚んんんんんんんん!!?」
ようやく回復し、シンが叫ぶ。
「さ、いざ結婚式へ」
武闘着のコジョンドと素っ裸のサンダースじゃいろいろ問題がありそうな気がするが、ディンはあえて言わなかった。
シンが助けろとジリジリと近づくコジョンドから後ずさりしながら目で訴え、ディンはコクリと頷く。キルアにあるサインを送り、タイミングを計る。
コツンと天井から落ちてきた破片を合図に、三匹は西の窓に向かって走り出す。
コジョンドもすぐさま後を追い、三匹は窓から飛び降り、ディンがピジョットに変身して二匹を乗せ、大空を羽ばたいた。
「ふぅ、あんなにめんどくせぇ奴だったとは……」
「助かったぜ……」
「あとは俺達は帰るだけだな」
「あらあ……それはどうかしら?」
全員ビクッとなる。
そぉ〜っと下を覗くと、ディンの足にしがみついたレナの姿があった。
「ウフフ……ぜぇ〜ったい逃がさないんだからぁ〜」
そう言い、少しずつ上ってくるレナ。
「だぁぁぁ!上るんじゃねぇぇ!!」
「なによぅ……上んなきゃシン様のとこ行けないじゃない」
「○○○○○○○○○○○○○」
「○○○○○○○○○○」
「○○○○○○○○○」
「○○○○○○○○○○○○○」
「○○○○○○○○○○○」
「○○○○○○○○○○○○」
「○○○○○○○○○○○○○」
…完全に、コメントアウト。流石に、やばい。
上からじゃ視角になって見えないシンとキルア。
ディンがレナを落とすために体を大きく揺らすと、シンがディンの体から離れた。
「え」
「あ」
シンが落ちていく。
そして、レナはシンを追うようにディンの体から離れ、シンを追いかける。
「シン様〜」
「ち!」
ディンはすかさず追いかけ、レナを避けてシンだけを再び背中に乗せる。
「っぶねぇ……」
「しっかり掴まってねぇからだ、バーカ」
シンは胸を押さえながら荒く呼吸をし、キルアはシンに対して暴言を吐く。
ディンは落ちていくレナの姿を見ていた。
「さて、帰るか」
やがてレナも見えなくなり、一行は最初の森を目指す。
森に到着すると、ディンはシンとキルアを降ろし、元のピカチュウの体に戻る。
「待った待った待ったーーー!!」
振り向くと、土煙を巻き上げながら走ってくるレナの姿があった。
「げ!?あいつ生きてやがったのか!!」
「全員時空ホールへ走れえええええ!!」
四匹は全速力で追いかけ、追いかけられていた。
やがてディン達が時空ホールを見つける。
その穴はだんだんと小さくなっていき、三匹はギリギリで飛び込み、レナは閉じてしまった時空ホールがあった場所にたたずんでいた。
「はぁ……はぁ……」
ディン達は元の自分達の世界に戻ってきて、木に寄りかかって息を整えていた。
あのコジョンド……レナからの疲労がかなりきてるようだ。
「なんとか……逃げ切ったな……」
「ああ……」
フラフラになりながらも立ち上がり、基地に帰るためにピジョットにディンは変身してシンとキルアを乗せて飛ぶ。
多少体力の低下で飛行がふらつくが、なんとか基地に辿り着いて中に入る。
「ただ……ぐはぁ!」
「てめぇ、ディン!」
入った途端、ディンは飛び蹴りをくらった。
その張本人はQだった。
「き、Q……おま……」
「お前、別世界に戦いに行ったらしいな?なぜ俺を連れてかねぇ!」
ガクガクとディンを揺さぶるQ。疲れてる体にこれは地獄だ。
「その辺にしとけ。俺達は疲れてんだ」
「ち……」
Qはディンから手を離し、後ろを向いて数歩歩く。
「皆、お帰り」
「ああ、ただいま」
フィン達が近寄ってくるが、シンとキルアはドッと座り込む。
倒れてるディンはサンとミミに介抱されている。
そして、しばらくしてからアルカディアの出来事を話す。
「……てことだ」
「それは……大変だったね」
シンのセリフにうんうんと頷く一同。
ちなみに、フィンは体力回復のために買い物中だ。
まぁ、一件落着…でいいかな?
「いつか…シン様は…私のものに…」
寝ている途中…レナの言葉が聞こえたような気がするシン。
その夜は寝れなかったらしい…。