8 凸
一方、同時刻のSTARS基地では……
「インマヌショウ……カンヌアルファ……」
なにやら、フレアが基地の隅っこで怪しい言葉を言いながら木の実をすりつぶしたり、
いかにも怪しい液体をゆっくりとかき混ぜている。
「……」
少し離れたところでトレーニングをしているシンは、フレアを怪しく思えていた。
今はその二匹しかいない。そして、その怪しさゆえに、ついにシンが話しかけた。
「おい、フレア……お前は一体何を作ってんだ?」
「ん?兄貴には内緒だよ♪」
シンはゾクッとした。もしかしたら、自分が飲まされるんじゃないかと思った。
「できた♪」
ついにできたらしく、液体は薄い水色をしていた。一見はあまり怪しく見えない。
「ただいま」
そこに、ちょうどディンが帰ってきた。
Qは一度、仲間に報告するために自分がいた大陸に戻ったため、一匹で帰ってきたのだ。
「あ、ディン。ちょうど特製ジュースができたんだ!飲んでみてくれない?」
フレアはさっき作ったばかりの怪しい液体をディンに手渡す。
なにも知らないディンは、ちょうど喉乾いてたんだ!と言って一気に飲み干す。
シンは背を向け、手を合わせた。
「ディン……ご愁傷様」
すると、ディンがカップを落とし、なにやら苦しみだした。
「お……あ……ぐ……」
シンがバッと振り向くと、頭を抑えながら苦しむディンがいた。
やがて苦しみが消えたのか、カクッと頭と腕が垂れ下がり、シン……とする。
「……ディン……?」
恐る恐る近づくと、ついにディンが声を発した。
「あ、シン君!ただいまぁ☆」
それはもうキラキラした笑顔で言うディン。言葉自体も違うことに、シンはボーゼンとしてしまった。
「……あの……フレア君……これは一体……?」
「えっとね?ここって基本的に子供いないじゃない?
だから子供っぽいのが欲しいなって思って……だからディンを男の娘にした」
グッと親指を立てて言うフレア。それを見たシンは、フレアの首根っこを持ち上げる。
「治せんだろうな?」
「むしろこの状態が治った状態だと思……」
「てめぇの頭を治してやろうか」
などと、シンとフレアが反発しあっていると、おかしくなったディンが話しかける。
「あのね、僕お外で遊んできてもいいかな?」
クリッと頭を傾げて聞き出すディン。本当に幼稚である。
「いいよ」
「わーい♪」
「待てやコラ」
フレアの許しを得て喜ぶディンに対し、引き止めるシン。
「なに?なに?」
「外へ行くな」
「え〜、なんで……?」
ウルウルと涙目で見つめるディンに、良心が傷ついた感じがしたシン。
力が抜け、四つん這い状態でヘコんでしまった。
「こんなんでどうすんだよ……今後……」
へこんでるシンをよそに、ディンはシンの頭をツンツンとつついている。そこに、仕事を終えたミミが帰ってきた。
「ただいま〜」
「あ、ミミちゃん!おかえり〜♪」
ピシッとミミから音がした。
「え……ディン……よね?ど……どうしたの……?」
震える手で指差すミミ。汗をダラダラ流している。
「実は……」
シンの説明により、内容は理解したミミ。しかし……
「なんってことしてくれてるのよ!!」
「げふっ」
ミミのメガトンキックがフレアの頬に炸裂し、吹っ飛んで壁に叩きつけた。その威力で壁にクレームができた。
「こうなったらディンじゃ……」
ビシッとブレアを見ながらディンに向かって指さすと、その指をギュッとディンが握った。
「ミミちゃん、遊んで?」
キラキラさせて放ったセリフに、ミミの怒りが顔を赤くしてボンッと音を立てて散った。
「こ……このままでもいいかも……///」
赤面したままギュッとディンを抱き締めるミミ。
「こらこら……」
シンがミミからディンを引き剥がすと、今度はディンがシンを抱きしめた。
「シン君が遊んでくれるんだね♪」
子供らしい可愛い顔で言われたため、シンは赤面してディンを海へ投げた。
しかし、最強クラスのディンがこうなると、チームにとって痛手になるだろう。
その後、フレアは無理矢理シンに元に戻る薬を作らされ、ディンに飲ませて元に戻す。
被害者のディンは変えられた時の記憶はないらしく、数時間の空白に頭を傾げる。
「俺帰ってきてからなにしてたっけ……」
「気にするな……気にしたら負けだ!……俺は早く忘れたいんだからな……」
最後をボソッと呟くシン。そこに、誰かが基地に入ってきた。
「こんにちは」
入ってきたのは……ディンにそっくりな雌のピカチュウ。その姿にディンは目を見開く。
「お前……」
「久しぶりね」
フィン達は二匹の対面についていけず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「ディン……そのポケモンは?」
「あ〜……こいつは前に反転世界に行っちまった時に出会った……その……俺?」
ディンの言葉の内容と最後の疑問文によってますます混乱してしまったフィン達。
「で、なぜお前がここに?確か反転世界と共に消滅したんじゃ……」
「みんなはね。私はなぜだか知らないけど別世界……私の元の世界に戻れたのよ」
「元の世界って……じゃあお前は元々別世界のポケモンだと?」
「うん、その名もアルカディア。……お願い、そのアルカディアを救って……!」
反転ディンのいきなりのお願いに驚くディン。
そもそも、アルカディアとはいったいどのような世界なのか。
「アルカディア?」
「うん、アルカディアには世界を束ねる王がいるんだけど…
…前は優しく、みんなから親しまれていたんだけど……」
「だけど?」
反転ディンは急にうつむき、段々元気が無くなっていくように感じた。
「その……私があなたと出会った世界に行っている間に王が変わってて…
…その王は邪悪っていうか……そんな気を感じるの……」
今の言葉を聞いたシンは確信した。「俺達はまたやっかい事に巻き込まれる」と。
「……つまりその王を倒して欲しいと?」
コクリと反転ディンは頷いた。
「私は一応戦ってみたんだけど全然ダメで……それであなたに助けを求めに来たの……」
「……よし、わかった!やってやるよ!」
「ほんと?ありがとう!」
パァッと明るくなる反転ディン。シンは予感的中によりため息を一つ漏らす。
「私が連れてきて行けるのは自分含めて四匹までなの。あと二匹選んで」
ディンは仲間を見る。やる気なさそうなシンとキルア、いつもと変わらない雌達、キラキラしているフレア。
「よし、シンとキルア行くぞ」
「なぜ俺達が……」
「やる気なさそうだから」
「うわ……最低」
愚痴を漏らしながら立ち上がり、歩き出す。
「気をつけてね」
雌達の言葉は見事にハモり、ディンは少し笑う。そして、四匹はアルカディアへ通じる穴へ向かった。
「これか?アルカディアへの入口の穴は」
穴は基地から歩いて数分の近くの森の中にあった。
青白い渦巻いてる穴は、なんとなくセレビィが作り出した時空ホールに似ていた。
「一気に飛び込んで!」
反転ディンは一気に穴に飛び込む。ディン達は顔を見合わせて頷き、一気に飛び込む。
穴を越え、四匹がアルカディアの世界に着いた時は……空の上だった。ディンと反転ディンはすかさずピジョットになり、ディンはシンを、反転ディンはキルアを乗せ、反転ディンの案内のもと、一軒の小屋に来た。
「ここが私の隠れ家なの」
「隠れ家?」
「言ったでしょ?王と戦ったって。あれ以来、私は王に逆らった罪で追われてるのよ」
ガチャと音を立てて扉を開くと、隠れ家というより家みたいな感じの部屋だった。
「ここに座って」
テーブルの前にある椅子に座り、反転ディンは地図を広げる。どうやら城下町の地図らしい。
「これを見て、城下町の地図よ。この場所に抜け穴があって、城の地下に続いてるのよ」
「じゃあ、その穴を使うのか」
「おそらく城の連中もそれを予想して兵を配置するだろな」
キルアの言葉に反論するシン。
「だったら兵の衣装奪って騙すとかは?」
「だったらこうやって……」
現王を倒すべく、現在侵入困難の城への潜入作戦は三時間にも及んだ。
そして、ディン達は小屋を出て隠れながら城下町へ向かう。
やがて城下町の入口が見え、ディン達は木の陰に隠れる。
チラリと見ると、見張りが二匹……見たことのないポケモンがいた。
「おい、見たことのない奴がいるぞ」
「あれはコジョンドとオノンドというポケモンよ」
「あれが……」
そう。ディン達は初めて見るが、コジョンドとオノンドというポケモンがいる。
さらに、コジョンドは武道着、オノンドは鎧を身に着けている。
「あいつら……なぜあんな動きにくそうな格好を……」
「この世界じゃ服は身に着けなきゃいけないのよ。着ないと変態扱いよ」
「服か……懐かしいな」
ディンは今は着てはいないが、昔……人間だった頃は身に着けていたため、懐かしんでいる。
「じゃあお前は……」
シンがクルリと振り返ると、いつの間にか服を身に着けていた。
「いつの間に……」
「とにかく作戦は、あの二匹のどちらかの服を奪って、俺が変身してなりすますんだよな?」
「うん。そしてもう一匹を騙し倒して、ディンがシンとキルアが入った袋と気絶したフリをしている私を連れて城に侵入。……なんかシンプルだけどね」
反転ディンが言うと、全員がうんうんと頷いた。
とりあえずディン達は聞き耳をたてて様子をみることにした。
「……暇ねぇ。この前のピカチュウ、また襲ってきてくれないかしら……」
「おいおい……それが王に聞こえてみろ……お前の首が飛ぶぞ?」
コジョンドが欠伸をしながら愚痴を漏らし、オノンドが冷や汗を垂らしながら言う。
「だぁって城内最強クラスのあたし達が門番なのよ?」
「これもあのピカチュウが来たときの手段だ。我慢しろよ……」
と、会話を盗み聞きしたディン達。シン、キルア、反転ディンは少し離れて木に隠れ、ディンは尻尾をコジョンドとオノンドに見えるように揺らす。
「あら?」
その尻尾にコジョンドが気づき、一歩前に出る。
「あの森に何かいるみたい。ちょっと見てくるわ」
「ああ。だが気をつけろよ?」
「私を誰だと思ってるのかしら?」
強気に言うコジョンド。格闘タイプであるコジョンドは拳を握りながら森に入る。
キョロキョロしながら進み、オノンドからは見えない位置までくると、ディンがコジョンドの腹に一発くらわせて気絶させる。それを見たシン達は気絶したコジョンドを囲む。
「さて……とりあえず脱がすか」
シンがスルスルと手慣れない手つきで服を脱がすと、反転ディンがあることに気が付いた。
「あら……?このコジョンド……雌みたいね」
「え?」
反転ディンにそう言われ、ジッと気絶しているコジョンドを見る。たしかに雌の体型をしていた。
「え?なに?俺、雌になりきるの?」