6 パラレルワールド
ピチューが未来に帰って一週間後……ディンは寝込んでいた。
「ゴホゴホ……」
「ディン……大丈夫?」
どうやら風邪をひいたらしく、目が虚ろだった。いつもの黄色い毛が熱で赤くなっているように見える。
「ったく……仕事に行くのにサーフィンしながら海を渡って、途中で海に落ち、びしょ濡れで吹雪の島に上陸すれば誰でも風邪ひくっつの……そもそも、サーフィンで行く意味もわかんねぇし……」
そう。ディンは依頼場所である吹雪の島までサーフィンをしながら行ったのだ。普通、簡易船や波乗りをして向かうのに……。
「俺達は仕事に行ってくるからな、お前は大人しく寝てろ」
キルアがそう言うと、ディン以外基地から消えた。ディンはため息をつき、早く治すために眠る事にした。
そして一時間の時が過ぎ、静かな寝息をして眠ってるディンの上に例の穴が二つ開いた。
「よっと」
「だっ!?」
「ぐはぁ!?」
現れたのは二匹のピカチュウと二匹のイーブイだった。一匹はレオンとサンだが、あとは初めてのポケモンだった。ピカチュウは尻尾がハートのため雌のようで、イーブイは七色のマフラーを巻いていた。そのピカチュウとイーブイはディンの上に尻餅をついた。しかも、みぞおち。
「ディン、遊びに来たぞ……って何やってんだ?知らないピカチュウとイーブイがいるし……」
「ぐ……あ……あ……」
「いちち……ん?ここは……俺達の基地?」
ディンは腹を押さえながら声を殺して苦しみ、ピカチュウとイーブイはキョロキョロしている。
「私達の基地と違うみたいだよ?ほら、知らないピカチュウ二匹とイーブイがいるし……」
雌のピカチュウとマフラーを巻いたイーブイは頭に?を浮かべていた。
「誰だ?お前達は」
「ん?俺は雪那。んで、こっちはパートナーのイヴだ」
「はじめまして♪」
二匹のピカチュウとイーブイはお互い自己紹介をする。場所はもちろんディンの上。
「お……ら……いい……降り……ろ……」
どうやらまだ苦しいらしい。下にいるディンの存在に気付いた四匹は慌ててどく。
「悪かったな」
「熱があるから寝てたのに……拷問か……」
謝るレオンにディンは睨みつけた。まぁ、気持ちは分からないまでもない。
「ところで……ここはどこだ?」
未だにわかっていない雪那はディン達に聞き出す。そして、今の現状を伝えた。
「パラレルワールド……」
「そんなのがあったんだ……」
不思議がる雪那とイヴ。当然の反応だ。
そこにレオンがディンの症状を思い出し、バッグからなにやら薬を取り出す。
「ディン風邪だったか?ほら、風邪薬持ってきたから飲むか?」
都合よく風邪薬を持っていたレオンを怪しく思えたが、ディンは頷いて薬を一気に飲み込んだ。
薬を飲んだディンはいきなり起き上がり、体操を始めた。
「っしゃあ!完全ふっかあつ!」
「早!?」
治るあまりの早さに、薬を渡したレオンと雪那達は驚いていた。薬を飲んで0.1秒で治れば誰だって驚く。
「薬ありがとな!」
「あ、ああ……」
まだ少し驚いているレオンは返事をする。その後、STARSの連中も帰り、全員自己紹介して話をし、夕方にレオン達は帰っていった。そして、次の日の朝……
「ふあぁ……あ?」
朝最初に起きたディン。起きた瞬間、体に違和感を感じた。そのため、体中触ってみる。
「な……な……なんじゃっこりゃーーー!?」
「キャアアアア!?」
「どあ!?」
いきなり叫んだため、メンバーが叫びながら起き出した。
「あ……あ……」
「ど……どうしたの?」
基地の隅っこで震えてるディン。
「お……俺……雌に……なっちまった……」
「……はい?」
フィン達は何言ってるの?みたいな顔をするが、すぐに納得した。ディンの尻尾はハート型になり、逞しい体は雌のように細くスラッとしており、顔は涙目で超可愛くなっていた。メンバー全員、それを見て顔を赤くしてしばらく見とれていた。
「なぜ……なぜ……」
ディンは小さく呪文のように発していた。ようやく落ち着いた雌達はディンをあまり見ないように近づく。
「ディン……なんでそうなったかわかる?」
「しるか……あ」
どうやら心当たりがあるらしい。
「もしかして……レオンから貰った風邪薬……」
そう。レオンは風邪薬ではなく、隣にあった性別変換薬をディンに渡していたのだ。
「……仕方ない、今からレオンのとこ行って……」
「こんにちは」
レオンの世界に行こうとしたディン。そこにタイミング良くイーブイが入ってきた。
(なんっつぅタイミングのいい……)「誰だ?」
「あたし、チョコといいます。こことは違う地方で救助隊をしているの」
「救助隊……知ってるわ。たしか……隕石によってポケモン世界がピンチになりかけたとき、レックウザに頼んで破壊してもらった……」
「その話なら俺も知ってるぜ」
真っ赤から少し復活したシン。しかし、やはりディンを視界からそらしている。
「うん。その救助隊はあたしたちの事なの」
「へ〜……で、その一流救助隊さんがなんのよう?」
「うん……あたしたちのチームのリーダー……レンを助けてほしいの」
ディン達は耳を疑った。探検隊が探検隊に、救助隊が救助隊に助けを求めるならともかく、救助隊が探検隊に救助を求めるからだ。
…なんかわかりにくい…。
「なんで救助隊が探検隊に救助依頼を?」
「それは……あたしのリーダーはヒトカゲで、ある日突然消えたの。必死に探して、ここから北西にある光の洞窟で救助隊のバッジを付けたヒトカゲを見たというポケモンがいたんだけど……」
「光の洞窟……聞いたことないな」
ディンは首を傾げて言った。どうやら本当に知らないようだ。
「とにかく行ってみようよ」
「そうだな。メンバーは……俺とチョコと……フィンとキルアで行くか」
キルアは頷き、ディン達は支度を始める。
「んじゃ、行ってくる」
「頑張ってね〜」
ディンなら楽勝だと考えているのか、ほとんど棒読みで言うサン。そして、ディン達は光の洞窟に出発した。
光の洞窟へ向かうために、一度トレジャータウンを通るディン達。歩いていると、周りにいるポケモン全員がディンに注目する。しかも、全員顔を赤くしながら。ディンはとにかく気にしないが、フィン達は恥ずかしいらしい。そこに、一匹のザングースがやってきた。
「あの……」
ザングースはディンに話しかけ、手を握りだした。
「俺の子を産んでくれないか?」
突然の告白に、しかもいきなり産んでくれと言われたため、怒ってザングースを殴り、地面に顔を沈めた。その後、23匹に告白され、全て殴り倒した。
そして、一行は光の洞窟に向かっていく。
「……疲れた……」
トレジャータウンで23匹に告白されたディン。普段のディンならそれくらいで疲れないのだが……
「まぁ、あの後76匹に告白されれば疲れるわよね……」
そう。トレジャータウン出口から光の洞窟までで野生のポケモンを含め、76匹に告白された。トータルで99匹に告白されたのだ。普通なら歩いて一時間の距離なのに三時間はかかった。
「とりあえず、早くレン君を見つけて休もうよ……ね?」
「……そうだな」
少し息を乱したまま、ディン達は光の洞窟に入っていった。
「……中は普通だね」
「……だな」
光の洞窟というのにだなる普通の洞窟に不審さを抱きつつ、奥へと進んでいく。そして、やがて最奥に辿り着く。
「……行き止まり……」
そう、奥は行き止まりだった。レンの姿はどこにもない。
「もしかしたら隠し通路があるかもしれない。戻るぞ」
しかたなく、来た道を戻ろうとしたとき、奥の壁が光り出した。
「な……」
その光はディン達をあっという間に包み込み、ディン達の姿はその場から消えてしまった。
次に行き着いた先は、森の中だった。ディン達は辺りをキョロキョロし、突然の出来事に頭を悩ませる。
「一体ここはどこなんだ?洞窟にいたのに、なんで森の中に……」
「幻……かな?」
そう思ったフィンは木に触れてみる。それは、間違いなく木の触り心地だった。
「本物だ……」
「……そんな……でも間違いない……」
チョコがボソッと言う。
「なにが間違いないんだ?」
「ここは……あたし達、救助隊がある大陸で……レンと初めて出会った森……」
しばらくの沈黙が続いた。
「……俺達、テレポートでもしたのか……?」
「その通り」
森の奥から声がした。ゆっくりと、黒い何かが近づいてくる。
「わたしがお前達をこの場所まで運んだのだ」
「ダークライ!?」
ディンとフィンの声が見事にハモった。ダークライは、ディンが人間世界からポケモン世界に帰ってきてしばらくしたあと、この世を闇に沈めようとした張本人だ。悪夢を見せたりしていたが、ディンとフィン、クレセリアによって倒し、時空の渦に巻き込まれた……はずだった。
…え、そんな話見ていないって? …あったことにしといてください…。
いや、めんどくさいってわけではなくて、筆記するのに時間かかるんで…。
by318「わたしは蘇った……お前達を倒すためにな!!」
ダークライはディン達を指差す……が、すぐに下ろしてしまう。
「……ん?ディンはどうした?」
ディンがいないことに首を傾げるダークライ。
「……俺がディンだ」
ディンは自分を指差す。しかし……
「いや、ディンはれっきとした雄だ。お前みたいな……可愛い雌ではない……」
少し顔が赤くなってるのがわかるダークライ。赤くなってるのに気づいたディンは、ブチッと何かが切れた。
「だぁーーーーー!!うるせーーーーー!!ごちゃごちゃ言ってねぇでかかってきやがれ!!」
叫ぶディン。むりはないだろう。来る前に99匹に告白されたのだから。
「……まぁいいだろう。しかし、相手をするのはわたしではなく、こいつだ」
ダークライの後ろから何かが出てきた。それは、ディン達にとって、驚くポケモンだった。
「レン!?」
「あれが……」
出てきたのは、ヒトカゲのレンだった。しかし、様子がなにやらおかしい。
「レン!あたしだよ、チョコだよ!?」
チョコは叫ぶ。しかし、レンは反応しないどころか、目が普通じゃなかった。
「まさか……操られてるのか?」
「その通り。お前達を倒すために、こいつの潜在能力も解放してある」
ディンは怪しい笑いをするダークライを睨んだ。
「……お前達でダークライと戦え。俺はレンと戦う」
ディンの言葉に、フィンとチョコは驚いた。
「そんな……同時にダークライと戦えば……」
「ダークライと戦えばレンの邪魔が入る。かといって、全員でレンと戦えば、ダークライの邪魔が入る。だったら手分けして戦う。ダークライはレンの潜在能力を解放したと言っていたから、実力は計り知れない。だったら俺が行くしかない」
長い説明により、二匹は頷いた。ディンはレンと、フィンとチョコはダークライと戦うことになった。
「さてと……」
ディンはポキポキと手の骨を鳴らしながらレンに近づく。
「今目を覚ましてやるから……な!!」
ディンはレンの腹部にパンチを繰り出す。しかし、レンはそれを軽くかわし、ディンよりさらに強力なパンチを腹部に与えた。
「か……は……!?」
腹を押さえながらディンはヨロヨロと後退する。
「なんつ……攻撃力だ……」
あまりの攻撃力に膝をつく。レンは更なる攻撃をするためにディンに近づいていく。
「やられるか……!!」
ディンは高くジャンプし、尻尾を光らせて電撃を纏う。
「アイアンボルテール!!」
力+重力を乗せたアイアンボルテールをレンに振り下ろす……が、レンは片手で容易く掴み、地面に叩きつけた。
「ぐあ……」
地面にめり込むディン。レンは今度は口を開けて、炎を吐こうとする。
「火炎放射+20」
「く……」
とてつもない炎技、火炎放射がディンに命中した。炎に包まれたディンはなんとか耐え抜くが、かなりのダメージを負ってしまった。
「つか、なんだよ……+20ってのは……」
レンが最後に言った+20が気になるディン。しかし、今はそれを気にしている場合ではない。現在、ディンは完全に負けている。
そして、ダークライと戦ってるフィンとチョコは……
「はぁ……はぁ……」
「ったく……しぶとかったわよ……」
どうやら、なんとかダークライを倒したらしい。二匹共かなり息を切らしている。
「そうだ……ディンは?」
「雷神モード!!」
「え!?」
なんと、ディンは雷神モードを発動させた。これには、チョコは驚いている。
「なに?雷神モードって……」
「ディンの能力の一つだよ……雷神並みのパワーを得る事ができるの……」
「そんなことが!?」
雷神モードをしらないチョコに説明するフィン。能力を知ったチョコは驚かずにはいられなかった。
「ライジング……インファイト!」
格闘タイプの技、インファイトを雷神モードのスピード、パワーを生かして攻撃するディン。さすがのレンもこれにはどんどんダメージを負っていく。
「十万……ボルト!」
今度は十万ボルトだ。これはレンは避け、炎でディンを囲む。
「炎の渦……+17!」
炎の渦はディンを包み込んだ。炎の中からはディンの叫び声が聞こえる。
レンはこれで終わりだと思い、後ろに振り向いた。その時、後ろから爆発音がした。振り返ってみると、ブスブスという音が似合いそうに体から煙を出しながら息を切らしているディンがいた。
「はぁ……はぁ……危なかった……」
ディンは汗を大量に流している。このまま汗を流し続ければ脱水症状になりかねない状態だ。
(どうする……こいつはかなり強い……戦っても元に戻りそうにない……)
なんとかする方法を考えるディン。フィン達も祈るように手を組ながら目を閉じている。
(……ん?そういえばあの時ダークライは……。そうか、一つだけあった!)
ダークライの言葉を思い出し、ディンはニヤリと笑う。立ち上がり、雷神モードを解き、別の能力を使う。
「光化……」
呟くと、体からは光を発し、背中から真っ白で綺麗な翼を生やす。
「あなたは操られているのと同じ……なら、この技で戻ります」
目を閉じて両腕を広げ、体から白い光を体にまといだす。すると、レンの体もなにやら光り出した。
「ライト・シャイニング!」
ディンがそう言い、腕を前に出すと、レンは光の柱でまとわれた。すると、レンの体から黒い何かが出てきて、消滅していった。光の柱が消えると、レンはそのまま倒れてしまった。
「レン!」
「ディン!」
フィンとチョコがそれぞれのパートナーのとこに走った。ディンは光化を解き、地面に腰を降ろした。額に右手を置いて黄色い毛を掴むと「ふぅ……」という深い息を吐いた。
「大丈夫?」
「ああ……さすがに疲れた。レンも直に目を覚ますだろ……」
レンの方を見るとチョコはグッタリとしているレンを抱きしめていた。レンの表情も穏やかそうだった。
「さて……と」
ディンは立ち上がり、また光化になってダークライに近づく。そして、拳に光を纏わせ、ダークライを殴った。
「ど……どうしたの!?」
「こいつの記憶を消した。世界を闇に変えるという記憶だけな。これで悪さはしないだろ」
光化を解いて言うディン。フィンはムカついて殴ったんだと思い、ホッとした。
「あの……ありがとう」
「気にすんな。んじゃ、俺達は帰るな。」
「またね、チョコちゃん」
ダークライを担ぎ上げ、ディンとフィンは小さな森を後にした。
チョコはレンを一度見て、元に戻るという嬉しさで涙を流し、自分達の基地へと帰っていった。