5 そろそろ卵が孵化する時間♪
「おはよー」
「あ、ディン。おはよう。」
いつものどうりの日々を迎えるSTARS。でも、今日は特別な日…のはずだが…。
「あれ、ディン、卵は?」
「え、そこに置いてある…は……ず………ファ!?」
「…ディン、食べてないよね?」
「ポケモンの卵とか…食べたことないし、食べれないだろ…」
「じゃあどこに?」
「…まさか海に…」
と言いながら、海を覗き込むディン。しかし、『時すでに遅し』なのか、卵は海に落ちてはいなかった…。
「…捜索願い出しとく?」
「一応、そうし…」
< ピンポーン >
ディンが言いかけた時、ちょうど基地のチャイムが鳴った。
「ん、どう…ぞ…ラプラスさん!?」
「お久しぶりです、ディンさん、フィンさん。寝起きの所すみません…」
「いえいえ、早朝に依頼を頼まれることがよくあるんで…もしかして、依頼ですか?」
「まぁ、一応、依頼ですね…深夜に、海に卵が落ちていて…誰の物だったのか、調べてもらおうと…」
「んじゃ、卵はしばらく…ってこの卵、今日探していたやつなじゃ!?」
「え!?」「ディンさんの卵だったんですか!?」
驚くのも無理はない、この基地のメンバーはまだ全員独身なのだから。
「いや、その…落ちてたのを拾っただけで…」
「まぁ、持ち主が見つかって安心しました。気を付けてくださいね?」
「あぁ、ありがとな〜」
「…まさか海に落ちていたとはね…」
「あぁ、まったくだぜ…ラプラスが見つけてくれてよかった…」
「そうだね…あれ、卵、光ってない…?」
「そういえば…光ってる…ってか…"ひび"が…って今孵化するのか!?」
その頃、トレジャータウンで買い物をしているフリーズとシンは…
「今日もいろいろ買っちゃったね…」
「まぁ、安かったからな…そういえば、あの店ってなんだ…?」
「そういえば…最近は忙しかったからね…入ってみる?」
「ま、まぁ、俺は♂だから買うものなんかないと思うが…」
入り口には『OPEN』の札があり、中は客でにぎわっている様子。
「いらっしゃいませー、当店へようこそー!」
「ふーん、アクセサリーとか、帽子とか、バンダナとか売ってるんだ…あ、あれ気になる!」
「おい、フリーズ!」
走るフリーズ、いつもはおとなしいが、オシャレに関しては興味があるらしい。
「へー、イヤリングまであるんだ…どこにつけるのかは知らないけど…」
「あ、STARSの方ですよね?」
「はい、そうですが…あれ、あなたは…」
「クレアです。こんなところで会うなんて…奇遇ですね」
「ここはお前たちのショップなのか?」
「ご名答…」
「え、コウだよね…?口癖変わった…?」
「あー、コウも無理矢理ここで一緒に働かせたんですが…頭いかれたみたいで…あ、これでもコウは店長なんですけどね。」
戸惑うフリーズに補足を加えるクレア…
「あれ、シ…ン…何してるの?」
「いや、この帽子、似合うかなって思って…いや、買う気では…その…」
「…」「…」「…」
センスがなさ過ぎて、固まる3人。しかも、帽子とイヤリングの見分けもつかないらしい…
んで、視点は基地に戻る…
「う……生まれる……」
「ええ!?」
「ただいま…え、卵に"ひび"が!?」
ちょうど帰ってきたフリーズとシンを含め、
卵から生まれる瞬間を見たことない全員は叫んだ。卵から出てきたのはピチューだ。
「ピチューだ……」
「やっぱりディンの……」
「しつこいな……テメェも……」
ギリギリとシンの首根っこを持ち上げるディン。
ピチューはキョロキョロし、ディンを見つけると険しい表情になった。
「この……嘘つき!」
ピチューの跳び蹴りがディンをふっ飛ばす。
「え……え?」
「どうなってんの?」
全員、?を浮かべている。当たり前だ。
誰だって、生まれたポケモンがいきなり跳び蹴りすれば混乱する。
「お前は……あん時の!?」
「そうよ!平和にしたら戻るって言ったじゃない!!」
どうやらディンの知り合いらしいが、なぜ生まれたてのポケモンと知り合いなのか。
「ディン……どういうこと?」
「……こいつは、俺がまだ未来でジュプトルとパートナーを組んでた時に出会ったピチューなんだ」
「ええ!?」
また叫んだ。一体どういうことなのか。
話は、ディンが人間のまま未来のポケモン界に来た時のあとにさかのぼる。
ディンとジュプトルはタッグを組んだ後、あちこちを旅していた。
やがて、ディンの能力の一つである、時空の叫びの謎もわかった後も時の歯車を探すために旅を続けた。そして、今はある森の中を歩いている。
「……わかった時の歯車の場所は五つ中二つ……か。先は長いな」
「そうだな。だが急ぎすぎても空回りするだけだ。急ぎすぎず行くぞ」
ジュプトルに言われ、フッと笑う人間時のディン。その時、前方から叫び声が聞こえた。
「いやああぁぁ!?」
「今のは!?」
「行くぞ!」
ディンとジュプトルは走り出した。やがて、前のほうにヤミラミ達に襲われているピチューが見えた。
「って、またお前等か!」
「ウィ!?ディンとジュプトルだ!」
「ちょうどいい!倒すぞ!」
ヤミラミ達は標的をピチューからディンとジュプトルに変更した。そして……
「……雑魚が」
わずか三秒で倒した。その速さにピチューは呆然としてしまっている。
「……ということがあってさ」
「たった三秒って……」
「そのヤミラミ……いくらディンとはいえ、人間に瞬殺かよ……」
出会いとは関係ないところに強く耳を傾けた仲間達は、ヤミラミ達の弱さに驚いていた。
ジュプトルがいたとはいえ、人間に三秒でやられたのだから仕方がない。
「で、一体未来から何しにここに?」
「迎えに来たでち」
(でち?)「迎え……て?」
ピチューの語尾が気になりながらも、ピチューがわざわざ未来から来た理由を聞き出す。すると、ピチューは深い溜め息をついた。
「……忘れたでちか?ほら、ディンが過去に出発する前……」
「いくぞ」
「過去のポケモン世界か……楽しみだな」
全ての時の歯車の場所がわかり、セレビィの力で作った時の回廊に入ろうとしたとき、ピチューが寂しそうな目をしながら一歩前に出る。
「ディン……ジュプトル……帰って来てくれる?」
「ピチュー……ああ、絶対帰ってくる。帰ってきたら、一緒に暮らそうな?約束だ」
「……うん!」
ずっと独り身だったピチューには嬉しい言葉だった。そして、ディンとジュプトルは時の回廊に飛び込んだ。
「……あ」
「……あって……本当に忘れてたでちか?」
「アハハ……ゴメン」
なんと、約束した本人が忘れていたらしい。苦笑いしながらピチューに謝るディン。
「さ、未来に帰るでちよ」
グイッとディンの右手を両手で引っ張って言うと、サンとミミが立ち上がった。
「ちょっと待ちなさいよ!ディンを連れて帰る?冗談じゃないわよ!!」
「そうよ!ディンはこのSTARSのリーダーなのよ!」
「知ったこっちゃないでち!」
睨み合うサンとミミとピチュー。ディンはそれを見て、疲れた感じにため息をつく。
「なら勝負するでち!」
「はぁ!?」
ピチューの突然の叫びに驚く全員。サンも驚いていたが、すぐにニヤリと笑い出す。
「いいわよ。やってやるわ!」
「ま、待……て」
ディンが止める前に出ていってしまったサンとピチュー。ディンはため息をつく。今回で何回目だろうか。
「ねぇ……なんで止めようとしてたの?」
「……ピチューは小さいが体術の才能があってさ……実力は俺と同等……」
「ええ!?」
またもや全員驚いた。ディンと同等の実力と聞けば驚くだろう。
「サンが気になる……!」
ディンはサンとピチューを追いかけた。それに続いて全員も追いかけた。
場所が変わって海岸。サンは電気タイプに相性のいいリーフィアになって戦っていた。お互い息を切らしている。
「なんだ、いい勝負してるじゃねぇか」
「そうね、サンはリーフィアに進化したの?」
「いや、サンは自由に進化退化できる能力があるんだ」
なるほどと頷くリリアはジッとサンを見る。
一方、バトルは本当にいい勝負していた。
サンはピチューがここまで強いと思わなかったらしい。
ピチューも絶対勝てると思っていたらしいが、サンも強いためなかなか倒せない。
「負けないでち!」
ピチューは走った。サンは葉っぱカッターを出すが、ピチューはことごとくかわし、サンの右前足を掴み、背負い投げをする。
サンは三回転して着地し、リーフブレードを放つ。それをピチューは真剣白刃取りをする。お互い力を入れて当てようとしたり当たらぬようにしている。
そこにサンがニヤリと笑い、後ろ両足でピチューの頭を掴み、巴投げをした。ピチューは倒れ、そこにサンがリーフブレードを決めた。これにより、サンの勝利となり、サンは大いに安堵した。
「負けたでち……」
ピチューのショックは大きい。よほどディンと暮らしたかったのだろう。
「ピチュー」
そこにディンが出てきて、ピチューに近づく。ピチューは近づくディンに気がつき、ディンを見る。
「ピチュー、俺はもうこの時代のポケモンだ。だがお前は違う。お前は一人じゃない。未来にも仲間がいるだろう?」
「仲間……」
そう。ピチューはディンと別れてる間に友達が沢山できたのだ。
「……またここに来ていい……?」
「ああ、いつでもいいぞ」
ディンがそう言うと、ピチューはニッコリと笑い、その場をあとにして未来に帰っていった。
「……ふぅ。まさかあの卵がピチューだったなんて……な」
「ディン……あたし達も帰るね」
「もうか?」
「なんかバトル見てたらあたし達も強くなりたくなって……ね?」
「うん!」
そしてリリア達も帰り、ディン達も仲良く話しをしながら帰っていった。